ミラー! (705)職場にて
春期休暇を終え、仕事仕事。春の異動でちらほら人員が入れ替わり、4月に入ってやっと落ち着いたって感じだろうか。いや、落ち着く暇なく、5月に行われる記念行事のことやら、神戸でのイベントのことやらで、バタバタしてた。なので5月いっぱいまで民間病院勤務は仕事の都合上休診にしてもらっている。
師団広報なので、事務所は出入りが激しい。そしてお客さんも多い。休む暇なく、接客したり、書き物したりする。転属してきたばかりなので、名刺片手に色々話したりすることも多い。そしていつも僕が医官であることから始まり、身内のことへ至る。父親のことよりも、やはり妻の話になるわけだ。僕の妻は有名タレント。それもお嫁さんにしたいナンバーワンの人だったし、最近娘が生まれたしね。その話で時間がつぶれる。
「室長、今日確か奥さん退院ですよね?」
と部下の3曹が声をかける。そうそう。午前中に退院した。朝出勤前に美里へ電話を入れておいた。マネージャーさんへもお願いしてあるし、忙しいお母さんと美里のお母さんが退院に付き添う。退院会見があるって聞いていたし、正午のテレビ番組に映るのかな?と思いながら、昼休みにお弁当をつつきながら、広報室にあるテレビにかじりついていた。
お昼の番組の芸能情報。お弁当もちの隊員たちはテレビの前にある応接セットに陣取って絶対あるっていいながら食べていた。
「室長に見せていただいた娘さんの写真!むちゃくちゃかわいいじゃないですか!!!やはり美男美女の両親ですからねぇ…。将来楽しみですね!末は女優かモデルか…それとも玉の輿?」
「玉の輿じゃないでしょ?室長の家は政治一家で資産家なんだから。きっと適齢期になったら室長、心配でたまらないんでしょうね…。」
といろいろテレビを見ながら話している。芸能情報のトップはやはり美里の話。さらにかじりつく部下たち。お決まりの会見シーンとうれしそうな美里にかわいらしい美希。実父からプレゼントされたリュヌブランド最新のベビー服。たぶんこのベビー服もトレンドの一つになるんだろう。僕と美里の結婚指輪もトレンドになったしね。上手いな父さん。もちろん美里が着ている退院用の服も全身リュヌ。
「キャーかわいい!室長と立花真里菜さんのいいところばかり似ているじゃないですか!!!写真よりもかわいい!」
とはしゃぐ部下の女性隊員。ほんと日に日にかわいらしくなっているよね。美紅には悪いけど、我が家で一番かわいいかもね。ああ、一緒に住みたい。毎日美希の顔を眺めたい。そう思いながら僕もテレビにかじりついていた。
ミラー! (704)妻の苦手な人
入学式を終えてすぐに、そのままの格好で美里の病院へ。美里に二人の制服姿を見せたいと思ったから。
「まあ、似合ってるじゃない、二人とも。おめでとう。ママ、行けなくてごめんね。」
と二人の頭をなでる。
「ママ、美紅ね、ちゃんと返事で来たよ。だってお祖母ちゃん来てくれたもん。」
「そっか。偉かったね。未来は?」
「僕ね、少し遅れて返事しちゃって笑われちゃった。だって僕クラスで一番だったんだもん。」
「未来、大丈夫よ。明日からがんばろうね。当分立原のおばあちゃんが送り迎えしてくださるから。ママも退院して落ち着いたら美希連れて行くわね。」
二人はよろこんでうなづく。
「ねえ、春希さん。どんな人がいた?結構有名人とかいるんでしょ?」
「うん、そうだね。未来のクラスには、女優の各務清華がいたなあ…。本名は確か斎藤さん?」
その言葉に顔を濁らせる。苦手な人なのかな?
「各務さんかぁ…やっぱり同じところへ来たのか…。それも未来と同じクラスって…。最悪…。」
え?なんで?
「未来がいるからちょっと話せないけど…。私、各務さん苦手なの。」
美里が?珍しい。苦手な人っているんだね…。なんかいやな予感がしたけど…。まあいっか。
とりあえず二人の制服姿を見せて、可愛い美希をだっこさせてもらい、病院をでる。明後日退院なんだけど、僕は仕事で行けない。美里の実家と美里のマネージャーに任せることになっている。予定では退院会見があるみたいだよ。だって、育児雑誌の取材も受けているしね。ほんと残念。テレビから退院会見をみるか…。
ミラー! (703)入学式
朝早く、僕は子供たちを起こし、美里のお母さんが作ってくれた朝ご飯を食べさせる。優希は制服へ着替えてランドセルを背負い、登校して行った。優希は6年生。早いものだ。そして今日から未来と美紅は、1年生になる。真新しい制服に手提げかばんを持って、入学式の行われる小学校の講堂へ歩いて向かう。美紅と未来は仲良く手をつないでいる。ほんと双子のよう。双子といってもわからないだろうね。同じ生年月日だし。半分同じ血だから似ているところもある。なんか昔の僕と優奈をみているようだ。優奈は小さめで僕は大きめの1年生だった。そうだな…身長差が10㎝近くあった。美紅と未来もそれくらいの身長差がある。
僕は美里が準備してくれていたスーツを着て、未来と美紅の後を歩く。この日が来るまでに、美里とともに毎日登校する道を散歩していたから、未来と美紅は道をよく知っている。
学校へ着き、受付を済ませる。クラスは離れてしまったけれど、ちょうどとなり。
「双子ちゃんですか?」
と、同級生のご両親と思われる人から声をかけられる。僕は苦笑。どう答えたらいいんだろうね。
「いいえ。一人は僕の娘で、もう一人は妻の連れ子なんです。」
ま、間違いはない。未来は僕の子供であるけれど、美里の連れ子。間違いではない。
「遠藤!久しぶり!」
と懐かしい声。中高時代の同級生だ。ここの先生をしている。
「ほんと遠藤は変わらないよな。え?」
「実は、娘と息子が今日からお世話になるんだよ。だから。」
「あ、聞いたぞ。去年立花真里菜と再婚したんだよね?」
「うん。娘は僕の子で、息子は妻の子なんだ。」
「そうなんだ。俺、1年担当だから、よろしくな。あ、そうそう…。ここの学校、特にこの学年、有名人の御子息が多いらしいから。」
「んん…。」
というと忙しそうにその場を離れていく。そういや見たことある顔がちらほら。女優の娘、スポーツ選手の息子。政治家の娘などなど…。なんだかんだ言ってこの学校は大学までエスカレーターの有名私学だしね。ということはうちの子も有名人の御子息になるわけ?立花真里菜の息子。そして元総理大臣遠藤孝志の孫。
入学式が始まる。やはり優希のいっている学校と校風がちょっと違う。優希の小学校にも有名人の御子息がいたけどね…。でもなんか違う。なんていうのかわからないけど…。
何とか入学式には間に合ったけれど少し遅れてやってきたお母さん。式が終わった後、若手政治家につかまり、挨拶をされていた。なんだかんだいって元ファーストレディ―。さらっと挨拶をしてその場を離れる。お母さんは美紅のクラスへ、僕は未来のクラスへ向かう。そして初めてのHR。未来の担当は僕の同級生だった。まあそれはいいけど…少し緊張した表情の未来。名前を呼ばれた時、少し遅れて返事をしてしまって周りの親たちから苦笑…。美紅はというと小さな声で返事をしていたらしい。美紅は人見知りの恥ずかしがり屋。慣れると大丈夫なんだけどね。
とりあえずは無事に入学式は終了。未来のクラスに有名女優の娘がいたりしたけど…。美里は知っているかな?その女優のこと。確かシングルマザーだったよね。離婚したかなんかで。歳は確か僕と同じ。僕がタレントしていた時にアイドルだったような気がする。ちょっと目があったりしたけど、ま、関係ないか。
ミラー! (702)入学式前夜
病院から帰ってくると、リビングにたくさんのスポーツ新聞やら雑誌。もちろんその内容は、美里と僕の子供の話。僕はスポーツ新聞とか見ないから知らなかったけれど美希が生まれた次の日の新聞はTOPにでかでかと載ったらしい…。ここのところこれといった話題がなかったからかもしれない。去年の神戸での挙式の時に撮った写真が使われていたり、昨年出た中央観閲式でこの僕が敬礼している写真が使われていたり…。ちょっとした騒ぎになっていた。前々から美里の出産日を伝えてあったからね。
久しぶりにミクシイを開けてみる。ここのところ忙しくてアクセスしていなかった。するとお祝いのメッセージが同期やいろんな人から入っている。そして美里も美里と美希が写っている写真をUPしていた。もちろん日記には無事生まれた報告と感想が書かれていて、たくさんのファンがコメント欄へ書き込んでいた。書き込まれすぎて、僕か書き込む余裕がないくらい。僕のページにもファンらしき人がたくさん足跡をつけている。返事を一人一人に書くのは億劫なので、仕方なく美里と美希そして僕の3人で写した写真とともに報告とお礼を兼ねた日記を書き記した。もちろん全体公開にして置いたけど…。
次の日は、美紅と未来の入学式。この日のために美里は入院前から準備していたようで、きちんとスーツ一式を準備してあった。そして美紅、未来の制服もかけてあった。子供たちの部屋には養父母から送られた学習机。実父からは小学校に適応した学用品一式を…。あと、ベッドルームの片隅には、美希が眠るベビーベッド。これは優希、美紅が使っていたものなんだけど、きちんときれいにして置いてあった。
美紅と未来の入学式が終われば、すぐに兵庫へ戻らないといけないんだよね。仕事あるし…。ほんと残念だ。僕がいない間、そして美里と美希が帰宅してきても当分は、美里のご両親が泊りこんで子供たちの世話をしてくれるから助かる。もちろん隣に住む養父母も世話をしてくれるよ。でも、なんだかんだいって忙しい家庭だからね。ほんと身内のお世話になってばかりで、申し訳ない気分だ。
美紅と未来は明日の準備の再確認をして眠りについた。僕も早く眠ることにした。
ミラー! (701)可愛いチビ娘
美里が出産して数日後、母子同室を希望した美里。念願の生まれたばかりの美希が部屋にやってくることに。朝から嬉しそうに美希が新生児室からやってくることを心待ちにしている。帝王切開での出産だから、もし体調がおもわしくないようだったら、新生児室で預かってもらえるのだけれども、美里はできるだけ一緒にいたいと言っている。僕もできるだけ一緒にいる。今日は美希が病室へやってくることを知っている子供たちは、僕と一緒についてきたがり、仕方なくおとなしくするようにいい聞かせ病院へ向かう。
午後からの面会時間。もう病室へ美希が来ているんだろう。個室の前に立つと、かわいらしい泣き声が聞こえてくる。そっと病室へ入ると、美里は美希へミルクを与えていた。小さな口で哺乳瓶から一生懸命飲んでいる。日に日に顔が変わってくる。生まれた時はむくんだような顔だったけれど、今はすきっとした顔をしている。やはり美里とこの僕のいいところばかり似ている。
「そうだ、優君。ママと美希とパパで写真撮って。あとでみんなで撮ろうね。」
といって、コンパクトカメラを優希へ渡す。そして美希と美里で1枚。僕が加わったもの1枚。ちょうど来た看護師さんを捕まえて家族で1枚撮った。
美紅はかわいい可愛いと眠っている美希の頭をそっとなでている。未来もその横でにこにこしながらじっと美希を見ていた。優希は相変わらず一歩引いて眺めている。
「あ、明日美紅ちゃんと未来の入学式よね?ママ行けなくてごめんね。」
と、明日に迫った美紅と未来の入学式の話。美里はそっと美希を寝かせて話をする。
「明日からきちんと学校へ行けるかしら?歩いて行けるから大丈夫よね?」
美紅と未来は「うん」といって頷く。
「ほんとパパが付いて行ってくれるからよかったわね。ちょうど休みが取れたしね。」
ほんとそう。今のところへ転属して、休みが取れやすくなったことは確か。しかしこれから予定が詰まっていて、記念行事後までまとまった休みは取れない。GW返上で休みなし。
駐屯地記念行事に神戸のお祭り。運良く神戸のお祭りが通常よりも1週ずれたので、師団からの車両展示もできる。僕が前いたところの例の衛生車両も手配済み。実はヘリコプターも数機。神戸空港近くにある広大な空き地を自衛隊展示スペースとしている。ま、テーマは災害関連。
ま、この話はいいとして、休暇終了まであと数日。美里の退院までいることができないのが残念だ。美里、そして美希といる時間を少しでも大切にしたい。もちろん優希美紅、未来もね。今日はその日にもってこい。6人家族水入らずで時間の許す限り一緒にいた。
ミラー!(700)出産報告
妻、美里の帝王切開手術も無事終わり、可愛い娘も元気に新生児室へお世話になっている。手術の後、看護師さんが僕の家族たちに生まれたばかりの美希を見せたら、ほんと美紅は喜んじゃって、「妹、妹」とうるさかったらしい。未来も怖々生まれたばかりの美希のほほを触って喜んでいたみたい。もちろん、美里の事務所関係者も来ていた。
手術後落ち着いたころ、美里の部屋へ女性マネージャーがやってきた。もちろん今回のことに関してマスコミへ知らせる承諾を貰いに来たわけ。手書きのFAXにしようってことになって、まだ横になったままの美里は書けないから、この僕が代筆。最後のサインだけ美里に描いて貰うことになった。
「本日4月2日午前。私、立花真里菜の第2子となる待望の赤ちゃんが生まれました。体重は2850gの元気な女の子です。名前は主人と私の本名から1字ずつ取って「美希」と名づけました。これからも宜しくお願いいたします。 立花真里菜」
と、簡単な報告文を書き、マネージャーへ手渡す。何とその日のスポーツ紙に小さいながらも載る。そして次の日の朝の情報番組の芸能ニュースにも、FAXが紹介された。その途端、芸能関係者から病院へ。そしてファンから事務所へお祝いの品が届けられた。ものすごいお花やプレゼントに囲まれた美里。とてもうれしそうに眺めていた。
次の日には、もう歩く準備。廊下へ出て歩けない美里はゆっくり部屋の中を歩く。僕は彼女に寄り添い、介助。
「早く美希ちゃん来ないかしら?」
と、美里はそればかり。帝王切開をしたからもうちょっと同室は遅れる。ゆっくり体を治す事から始めないとね。美里が横になって休んでいる時に僕は新生児室をおじゃまして、美希をだっこさせてもらっている。もちろんミルクもやった。思ったよりも小さくて華奢な女の子。手足が長いのはほんと美里似だね。まだはっきり分からないけれど、もしかしたら目の色は僕に近いかも。少しグレーがかった黒。ほんと目鼻立ちがしっかりした色白の女の子。小児科中の看護師さんが、将来美人間違いなしと太鼓判を押すくらい。ミルクを飲ませた後も、離したくないのでじっと座ってだっこしていると、新生児室担当の看護師さんに取り上げられる。
「遠藤先生。いくらかわいいからってずっとだっこはいけませんよ。」
「別にいいじゃない?休暇終わったらまた単身赴任で、なかなか美希に会えないし…今のうち今のうち。」
その言葉に苦笑している看護師たち。ほんとかわいくてかわいくて仕方がない。子供好きは子供好きだけど、自分の子供だから格別。それも美里との子供だし。美里を嫌っていた昔がうそのよう。幸せで幸せで、仕事に戻りたくないくらいだった。
ミラー! (699)4人のパパ
朝、早めに子供たちを起こして、朝食を食べさせる。そして僕だけ病院へ。子供たちは実父の車で手術予定時刻に来ることになっている。
「パパ。美紅ねえ。」
と、まるで僕を足止めするようにいろいろ話しかけてくる。9時に約束していたのに間にあいそうにない…。すると早めに来てくれた実父。子供たちのことをバトンタッチして家を出た。できるだけ急いで着いた病院。約束時間20分過ぎていた。ちょっと機嫌が悪そうな美里だけど、看護師さんのいない時をねらって美里へキスをしたら、いつもの笑顔。しかし手術前だから、不安な表情。大丈夫だからと美里のほほをなでた。
「あと2時間したら美希ちゃんが出てくるんだから。ね?美里。」
「そうよね?美希ちゃんに会えるんだもん。春希さんは傍にいてくれるし…。」
「きっと元気でいい子だよ。何かあったとしても傍に僕がいるし。先生もいい人つけてくれるって。だから安心して。ね?」
「うん。そうだね。未来の時は、こういう時間に未来のお父さんはいなかったけれど、美希は違うもんね。」
すると僕は美里の耳元でこうつぶやく。
「あのさ、そういえば、僕、未来の時、手術に立ち会ってたよね。」
「え?」
美里は気付かなかったみたいだ。未来が生まれる時、未来は心臓に持病があるとわかっていたから、小児科医として側にいて、未来が出てくるのを待ち構えていた。だから立ち会ったことになるのかな?
「そっか…。未来も…。」
といって美里は瞳を潤ませる。ま、あの時、僕は君だと気がつかなかったわけなんだけど…。
準備の時間がやってきて、麻酔用の注射や点滴がつけられる。美里は手術着に着替えて、準備。その時間に看護師さんにあとのことを頼んで、僕は手術室の方へ。立ち会うんだから、きちんとした格好と消毒をしないといけない。手術室の前で、美里の主治医である執刀医と担当の看護師にあいさつ。着替えて念入りに消毒をする。
「あ、遠藤君。」
「はい。」
「君は赤ちゃんのへその緒を切ってあげなさい。」
「は、はい!」
もちろん僕は見ているだけと思った。へその緒を切ってだっこしてもいいよとも言われた。生まれたばかりのわが子を抱けるんだね。とても楽しみだ。
手術が始まる。下半身麻酔をかけられ、執刀。2回目の帝王切開なので、癒着とかが心配されたけれど、あまり心配はなくすんなりと進んだ。そしておなかから赤ちゃんが取り出され、僕はへその緒を切ってそしてその後の処置。そしてタオルにくるまれた美希をだっこして美里に見せた。
「ほら、美里。可愛い娘だよ。美里に似てるよね。とても…。」
「うん。ありがとう…春希さん。」
僕は美希を看護師に預け、美里のそばに寄り添う。ほんと元気な女の子らしい産声。これで僕は4人のお父さんになった。これから頑張らないといけない。そう感じた日だった。
ミラー! (698)入院
妻と息子の入院当日の朝。今朝は僕が朝食の準備をしてみんな揃って朝食。単身赴任でずいぶん料理がうまくなったと美里に言われる。あ、いっておくけど、料理は好きな方だ。オムライスが得意中の得意。亡くなった母さんが作っていた思い出のふわふわ卵のオムライス。幼い記憶を思い出して練習したオムライス。これは誰が食べてもおいしいと言ってくれる。
朝食の片付けをして、今度は出かける準備。優希に美紅の面倒を頼んで、美里の車に美里と未来の荷物を詰め、二人を乗せてお世話になる大学病院へ。病院へ着くと二人の入院手続きを済ませ、未来は小児科病棟の看護師さんが、美里は産婦人科病棟の看護師さんが迎えに来て病室へ。僕は小さな未来にまず付き添う。検査入院だから、大部屋の未来。人見知りが気になったけれど、春休みで帰宅している子供が多く、ガランとしていて助かった。この病棟は僕が専修医時代にウロウロしていたからよく知っているし、看護師さんや医師、スタッフは僕のことを知っている人もいる。担当医は外来なので、補助する医師が入院の説明をする。検査内容、日にち等書かれた説明書片手にいろいろ話す。専修医なんだろうなこの医師は。ちょっと専門的なことを突っ込むとおどおどしていたりする。時折僕は意地悪なのか、説明を指摘する。その反応が面白い。
「ねえ、近藤先生。」
と未来が若い先生に声をかける。
「僕のパパは、僕のお胸の病気の先生なんだよ。ここの先生と仲良しなんだよ。ね?パパ。」
「あ、そうだね、未来。ということです。近藤先生。僕はこの子の主治医である丹波先生の弟子ですから。専修医時代はこちらで1年いましたし。すみませんいろいろ意地悪して。」
というと専修医は苦笑する。血液検査用の道具を持ってきた看護師。
「あ、遠藤先生じゃないですか?お久しぶりです。え?未来君って先生のお子さんですか?」
「んん。未来のこと頼むね。結構さみしがりやで人見知りだから。好き嫌い多いし…。」
「あ、パパ、僕そんな子じゃないもん!」
といって膨れる未来にみんな爆笑。
「さあ、未来君、血液検査するから採血させてね。」
と、未来の左手を消毒して採血をしようとするんだけど、なかなかうまく入らなかった。未来は痛い痛いと泣く。もう我慢できなくて…
「ちょっと貸して。僕がするから。」
と、僕が代りに針をさすとスッと採血で来た。
「苦手でしょ?採血。子供の血管は細いんだから…あとささっとしないと子供が怖がるよ。トラウマになったらどうするの?」
と注意する。
「あ、すみません…。」
と謝る。
「遠藤先生。遠藤先生は、NICUにいる赤ちゃんの採血も点滴もささっとされてましたよね。みんな感心していたんですよ。」
「慣れだよ慣れ。」
などと話している間に時間が来る。今度は美里のところへ行かないとね。
小児科を出て今度は産婦人科。美里の場合は相変わらず個室。それもなぜか特別室。さすがカリスマタレント。
「遅かったね、春希さん。」
「うんちょっと小児科で盛り上がってた。もともとお世話になっていた病棟だしね。」
なるほどねといって微笑む美里。すると担当医がやってくる。もちろん何度か顔を合わせたことがあるし、未来が生まれる時と同じ先生。今回の妊娠で診察に行った時驚かれたっけ。
「そうそう、遠藤さん。帝王切開立ち会いますか?」
普通は入れない手術室で立ち会う?もちろんそれが可能であれば立ち会いたい。
「遠藤さんは、丹波先生お勧めの小児科医ですしね。いろいろ事情は知っていますので、特別にいいですよ。」
もちろん立会いを頼みこむ。帝王切開で立会って滅多にできない。というか入れないだろうね。特別に…といって先生は手術の承諾書を受け取って立ち去った。
朝一番の手術なので、夕食を食べた後に絶飲絶食。美里はため息をつきながら、予定表を眺めていた。
「美里、立ち合いができるんだから、いいじゃん?ね?じゃ、帰るよ。優希たちが待っているし…。じゃあ、明日9時に来るね。」
「うん…。」
といってお互い手を振り別れる。
ミラー! (697)帰省
転属後のひと月が過ぎ、やっと春季休暇による帰省。転属前なら1週間も休暇なんてもらえなかったし、帰省もできづらかった。やっと帰ることができる。
最終の飛行機に乗って、東京へ。タクシーで急いで自宅へ戻る。今日は3月31日。明日、美里は手術のために入院する。そして未来も、同じ日に検査入院。急いで帰ってきた理由もそこにある。朝1番に大学病院入り。どうしても付き添いたかった。未来の検査入院も、美里が入院中に予約を入れたしね。
入院準備万端の美里。後片付けとかが大変だからと今日はお隣の遠藤家でお世話になる。その美里のために、今日は実父や妹夫婦とその家族がやってきてプチパーティー。春斗は6月に行われる選挙のために忙しい。パーティー中、嬉しそうに二日後に生まれてくる娘のいるおなかをさすっている。そして同じように美紅がうれしそうにさする。
「早く会いたいな…美紅の妹。美希ちゃんに早く会いたいな…。ね?ママ。」
「そうね。あと2回寝たら会えるわよ。ほんと楽しみよね。」
未来は、大好きなママを盗られた気分で最近ご機嫌斜めらしい。その未来を僕が相手をする。優希はこの春から6年生のお兄ちゃんだから平然とご飯を食べていた。
「なぁ、春希。2日は国会があるから行けないぞ。」
とお父さん。もちろんそれは承知している。無理に来てほしいとは言わない。初めの子じゃないし、もう4人目。陽菜のところを入れて孫6人。といっても僕は養子だけど…。
「きっと美里さんと春希の子供だから、可愛いんでしょうね。とても楽しみよ。」
とお母さん。身内で一番楽しみにしているのかもしれない。あれこれ生まれてくる美希のために買いそろえていると美里から聞いた。
「春希。生まれた子を、うちのブランドのモデルにしないか?」
って、ほんと爺馬鹿な父さん。まだ生まれてもいない孫をモデルって…。まあ、ベビーブランドがあるのも確かだけど…。みんな好き勝手に産まれてくる娘について話している。
「春希さん。私この子が女優になりたいって言ったら、応援したいの。私、中途半端に女優をしていたから、この子には私の分まで頑張ってほしいの…。例えば…宝塚へ入れるとか…。」
「宝塚?歌劇団?」
「そう…ずっと小さいころから憧れてたのよね。宝塚。モデルスカウトされていなかったら受けてたと思う。だから私はこの子に夢を託したいの。」
と微笑む。夢を持つことはいいことだけど、まだ早いと思うよ。
楽しい時間を終え、自宅へ戻る。久しぶりに楽しかった。ああ、帰りたくないよね。マジで。