むかしむかし 第8章 密通
朝、少将は枕もとの文に気づいた。
「晃、これは何?」
「驚かれる方からの御文でございます。朝餉をお済になられてからごゆっくりご覧ください。」
少将は急いで朝餉を済まし、ゆっくり立ち上がってすがすがしい風が流れて気持ちのよい泉殿にゆったりと腰掛け、例の文を読んだ。
『右近少将様
峠を越されたということで安堵しております。先日私の網代の前で落馬され負傷された時は大変驚きました。それからというもの、心配で心配で夜も寝られず、食事ものどを通りませんでした。私の父右大臣はいつもいつも宇治の君、少将様の悪口ばかり・・・。少将様は私のことをお忘れではありませんか?私はあれ以来少将様のことをお慕い申し上げておりました。お会いしたいお会いしたいと思いつつ日々慎ましく過ごしておりました。願いがかなうなら、今からでも少将様のもとに鳥のように飛んでいって看病をして差し上げたいと思うのですが、叶う訳もなく、泣き暮らしております。もしよろしければ、従者を通じて、妹君四の姫様の女房の桜に文を渡しうちの女房の桔梗に渡れば、きっと無事に届くと思います。 綾子』
少将は少し照れながら文を胸元にしまおうとすると後ろから声が聞こえる。
「想い人からの文ですか?宮中では見たことのない表情だな・・・。」
振り返るとそこには東宮が立っていた。そして少将の文を胸元から取り上げてお読みになった。
「心配して抜け出してきた・・・・。療養していると思ったのに、このようなところで想い人からの文を読んでいるとわな・・・。なになに・・・・。」
「東宮!お戯れを!!お返しくださいその文を!」
「少将の想い人は右大臣の三の姫か。まもなくこの姫は私のところに入内になるだろうね。まもなく入内宣旨が下る。今のうちせいぜい恋人ごっこをするといいよ。いずれこの私のものとなるから。」
「恐れながら、東宮はいつも私のものを取り上げになる。小さい頃からそうでした。」
東宮はムッとした表情で言い返した。
「昔からお前は気に食わなかった!母上が実家にお帰りになった時はいつもお前をそばに寄せて私そっちのけでかわいがっておられた。少し転んだだけで、側の者にちやほやされ、私に向かって皆は体の弱い者をいじめるなとしかられた。まったく同じ顔のせいでよく比べられた!知っていたか?反対だったらよかったのにと先の帝にいわれたこともあった。もう帰る!」
といって綾姫からの文を投げつけ、たいそう怒った様子で帰られていった。晃は驚いて駆け寄った。
「若君!今争うような声が聞こえましたが、東宮様と何か!」
「黙っていろ!一人にさせてくれ!」
今まで見せた事のない形相で、晃をしかりつけた。少し考え込むと、立ち上がって近江を呼びつけると、狩衣を用意させ、晃が使っている馬に乗り、痛みをこらえつつ都の内大臣家に向かって走り出した。
内大臣家に付くと、早速部屋に籠り、家のものを退けてなにやら考え出す。突然帰ってきた少将に皆は驚き、ついには内大臣まで仕事を切り上げて内裏から帰ってきたのである。内大臣まで部屋の中に入れようとせず、籠りっきりで、考え事をしていた。
「どのようにすれば、入内を阻止することが出来ようか。」
早速後から追いかけてきた晃を呼び寄せて、四の姫の女房の桜を呼び出した。桜は初めての呼び出しに驚きつつ、少将のいる対の屋に向かった。少将は、桜が来たことを確認すると、他の者を下がらせ、部屋を閉め切りなにやら文を書き始めた。
「君が桜という女房か、これを君の桔梗という妹に託し、右大臣家の三の姫に渡すように。決してうちの者や、あちらのうちの者に見つからないように頼んだよ。」
「しかし・・・・。」
「口答えは許さん!今すぐ急いで欲しいのだ!」
桜は頭を下げると急いで、東三条邸に向かい、裏口から妹の桔梗にこの文を渡し、そして桔梗が綾姫にこの文を渡した。姫は桔梗と萩以外を追い出して部屋を閉め切ると、早速この文を読んだ。
『今日の朝、姫からの手紙を拝見し、とてもうれしく思いました。私も、あの宇治の一件より、あなたのことが忘れられないまま、現在に至っておりました。いろいろな縁談を父上より頂いたのですが、すべて断り、あなた一筋に想っておりました。しかし、今の状態では、私たちが結ばれることはなく、水面下であなたが東宮のもとに入内することが内定しているということをある人より直接耳にしました。一度お会いしたいと思っておりますが、まだ怪我が癒えていない状態で内大臣邸に戻っており、どのようにすればよいか考えている最中です。私があなたに会える様、手引きしていただけるのなら、私は怪我をおしてでもあなたに会いに行きたいと思っています。』
姫は萩にこの文を見せると、萩は耳元で姫に話した。
「姫様、さっき大臣様の女房が言っていたのですが、四日後になにやら急に宴を催されるようなのです。その時になら、この対の屋が手薄になると思うので、その日は如何でしょう。」
「姫様、桔梗にお任せください!きっと少将様をこちらまで無事にお連れしますわ。」
「そうね、萩は昨日お父様にしかられてきっと動けないだろうし、桔梗ならお父様も知らないわ。頼んでもいいかしら。今から少将様に文を書くのでお姉さんを通じて渡してもらってくれないかしら。」
桔梗は張り切った様子で返事をして、姫の書いた文を内大臣邸の桜のもとに届けた。桜は文を急いで少将のいる対の屋に届けると、早速返事を読んだ。
『少将様。私もとても会いたいと思います。そのままどこかに行ってしまいたいぐらいです。私も少将様でなければ、一緒になりたくはありません。萩が四日後に右大臣家で宴が催されるといっていましたので、その時に裏門までおいでくださいませ。桔梗が手引きいたします。必ず少将様とわからないような格好でおいでください。もし門の者に聞かれた場合は、桔梗の恋人と申してください。そうすれば通してくれると思います。私も心待ちにしております。』
「桜、わかったとき今日に伝えてくれないか。」
桜はお辞儀をすると、裏門に待たせていた桔梗に少将の意向を伝えた。
右大臣が宴を催される日の朝、姫の前に軽やかな足取りでやってきて、うれしそうに話し始めた。
「姫よ、今日の宴の事は知っているであろう。今日はお前の祝いの宴のようなもの。先日急に東宮様よりお前を入内させたいと直々に仰せられた。まだ正式に決まったわけではないが、ほぼ決まったのも同然!偉い方もいろいろいらっしゃるのでな、おとなしく部屋にいてくれよ。さあワシは準備で忙しいから、萩あとは頼んだぞ。」
というと忙しい忙しいといいながら寝殿のほうでの宴の準備に向かった。
「萩!どういうこと?私のための宴だなんて・・・・。」
「何もなければいいのでしょうが・・・・。」
姫はなんだか不安を感じつつ、夜が来るのを待った。
少将は狩衣を着込んで、牛車に乗り東三条邸の裏門近くに着くと、下りてそっと裏門前まで歩き出した。裏門の前では桔梗らしき女房が明かりを持って立っていた。
「お待ちしておりました。」
「うむ。」
門の者はなぜか皆酔いつぶれて寝てしまっていた。起きないようにそっと忍び込むと、姫のいる対の屋に案内した。
「こちらです、さ、お静かに・・・。」
「桔梗、ありがとう、感謝するよ」
と満面の笑みで桔梗にお礼を言うと、少将は戸を開けて、そっと中に入っていった。几帳の奥には姫らしい影が見えていた。物音に気づくと姫は几帳の奥から出てきた。姫の顔は祭の日に目にした顔よりも少しやつれていたが、満面の笑みで少将を迎えた。やはり以前の姫君よりも美しく成長していて、少将は顔を真っ赤にして、姫を抱きしめた。
「私を心配してくださっていたのですね。こんなにおやつれになって・・・・。」
「宇治の君はお怪我のほうは?」
「だいぶんよくなりましたよ。腰をちょっと打ちまして・・・・。」
と少将は照れた顔で姫を見つめた。姫も少将の照れ笑いを見て微笑んだ。
「姫様、桔梗と萩は、お外で誰か来ないか見張っていますわ。ごゆっくりお語らいなさいませ。少将様も。」
「ありがとう。女房殿・・・。感謝するよ。」
やっと二人きりになり、二人はひっそりと昔の話などを語り合い、いい感じになってきたとたん、表で何か騒がしくなってきて、萩が姫に申し上げた。
「姫さま!御簾の奥にお隠れあそばして!こちらに大臣様とお客様がいらっしゃいます。早く少将様を!!!」
姫は少将を御簾の奥のほうに案内すると、几帳で隠し、じっと静かに待った。
「大臣様!姫様はもうお休みに!!!」
「姫に大事な話がある、そしてこの御方が姫に会いたいと仰せでな!」
「大臣様!あ!」
「姫はおるのか?恐れ多くも東宮様がお前に直々に会いたいとこちらに・・・。」
すると別の声が聞こえてきた。
「ありがとう右大臣殿、姫とゆっくり話したいので二人にさせていただけないか。」
姫はその声に驚いた。まるで、少将の声にそっくりなのである。香のにおいは違うものの、御簾から見える姿かたちは少将そのものであるのに、姫は絶句した。すると東宮は何かに気がついた様子で、女房や大臣を遠ざけると、扉の鍵を閉め話し出した。
「姫らしくない気配がもう一人・・・・姫は奥に誰かを隠しておられる。それが誰かは見当がついているが・・・・。なあ、右近少将藤原常康。」
少将と姫はたいそう驚き、絶句する。
「まじめで堅物のお前がこのような振る舞いをするとは考えられなかったが、恋と言うものは人を変えてしまうのですね。今すぐ出て来い!隠れたってもう無駄だから!でてこなければ、人を呼び、ここにあるものすべて取り除かせることが私にはできる。」
すると少将は立ち上がって御簾の外から出て東宮に頭を下げる。
「申し上げます。私はこの姫でなければ嫌なのです。お許しください!この姫の入内をお諦めください!」
「うるさい!私には選ぶ権利がある!姫の父親もお前の事は許していないのだ。下がれ!」
すると東宮は少将を振り払うと、御簾の中にいる姫に向かって歩き出し、腕をつかんで姫を御簾の外に引っ張り出した。
「きゃ!」
東宮は姫のあごに手を当てると、
「これが少将の初恋の君か・・・・。想い人か。面白い。ますますこの姫が気に入った!今晩だけ恋人ごっこをしたらいいよ。姫、私と少将はまったく同じ顔。しかし、あいつよりも位はある。一生かけても越えられない身分の違いがね。」
すると姫はぽろぽろと大粒の涙を浮かべる。すると少将は姫に駆けより、姫を抱きしめる。
「おやめください。もうおやめください!」
「少将、私に歯向かうのか?お前どうなってもいいのか?わかった、帝にそのように伝えておく。私はもう帰るよ。覚えておけ!」
東宮は大きな音で扉を開けると、そのまま帰っていってしまった。網代まで見送った右大臣は驚いた様子で姫の部屋に入っていく。
「姫!東宮に何をしたのだ!お、お前は!右近少将!うちに大事な姫と何を!」
「お父様!少将様は悪くないの!私がお呼びしたのだから!」
「このままではうちの名誉に傷がつく!少将!うちの姫を傷物に!よくも!!!」
そういうと、太刀を持ち出して、少将に向ける。
「お父様!少将をお咎めになるのなら、私は自害します!私はこの方としか結婚しません!お許しにならないのなら、このまま尼になります!」
すると少将は姫に
「姫、私はあなたから身を引きます。このままでは官位を失うのも時間の問題。そうなればあなたにも害が及ぶでしょう。私はこのまま都から離れて謹慎します。場合によっては出家も考えなければなりません。」
「少将様・・・私も連れて行ってくださいませ!」
「きっと入内なされたほうが、幸せだと思います。私のことなどお忘れください。」
そういうと、うなだれた状態で、部屋をあとにする。姫は少将を引きとめようとするが、右大臣が姫を力づくで引き止めた。
《作者から一言》
おお始まった東宮と少将の姫の取り合い・・・。東宮はほとんど少将に対する嫌がらせ?まぁ本当は双子なんだから同じ人を好きになるって事もあるのだけど・・・。やはり少将は身を引くしかないのです^^;かわいそうに・・・。でもこれで終わらない・・・。これも序章?かも知れません^^;
むかしむかし 第7章 右大臣家の姫君
祭の日の夜、宇治の姫君こと綾姫は、宇治の君の落馬が心配でならなかった。夜もまぶたを閉じればあの時の光景が何度もよみがえり、うなされてしまい、ずっと泣き暮らしていた。三年間続けていた御妃教育そっちのけで、部屋に籠ってしまうので、事情を知らない右大臣はたいそう心配になり、朝晩姫の様子を伺いに来る。
「萩、どうして姫は祭の日から様子がおかしいのだ?たいそう嫌だといいながら続けてくれていた御妃教育も先生たちを遠ざけてしまう始末。祭の日に何かあったのであろうか。もうそろそろ主上に東宮妃としてうちの姫を候補に入れていただけないかと、申し上げようとした矢先にこのような物の怪が付いたようになっては・・・。」
萩は黙ってしまっていたので、右大臣は話を続けた。
「内大臣め、罰が当たったのだ。大事なひとり息子が祭でのあのような失態。今日内裏では噂で持ちきりだったよ。いまだ意識が戻らんと聞く。」
すると寝所の方から姫が飛び出してくる。
「宇治の・・・いえ右近少将様の容態はよろしくないのですか?父さま・・・。私は・・・。」
「うむ、明日あたりが山だと聞く。」
そういうと姫は泣き叫んだ。
「お父様は大嫌い!それだからお母様の病がよくならないのです!」
「もういい!これから出仕だ。早くよくなって貰わないと困る!」
右大臣はたいそう立腹した様子で部屋を出て行き、内裏に参内した。更に籠ってしまった上、食も進まないという姫を心配した右大臣は、早退してまた部屋にやってきて愚痴をこぼしになる。
「少将は今日意識が戻ったようだが・・・。しかし今日は昨日と一転、またあの内大臣の自慢しいが始まってなあ・・・・。困ったものだ・・・。何でも都中の高貴な姫君からお見舞いの文や贈り物が山のように届いたらしく、その中から選りすぐった姫と縁談を進めると威張っておったわ!主上も回復の兆しにお喜びになられて、使者を送られたそうだよ。すごく可愛がられているからな!そこが更に気に食わん!絶対あの少将とはだめだからな!お前はそれより東宮妃として入内してもらわないと困る!わかったな!早く元気になられよ!」
一方的にぺらぺらとしゃべったあと、右大臣は姫のために用意した唐渡の気付け薬を萩に渡して立ち去った。そして姫は萩以外の女房を退かせて話し込む。
「ねえ萩。宇治の君は私のことなどきっとお忘れになったのだわ!私はあれからずっとお慕い申し上げていたのに・・・。」
「しかし姫様。一度しかお会いしたことがないのに、姫様のこと覚えておられるのかしら。あのようなお方ですもの、きっとほかに・・・・・」
「そうかしら・・・あの時の宇治の君の顔・・・。そういえばお母様が裳着の日におっしゃっていらしたのよ・・・。私がどこの姫かとお聞きになったと・・・。お母様のことだから、お父様と宇治の君のお父様のことをよくご存知だから、詳しくいってないと思うけど・・・。ねえ萩、宇治の君がどこで養生されているのか、調べてくれないかしら・・・。どこかに右大臣家と繋がりがある人っている?」
「そういえば、新参者の女房の中にいたような・・・。そう!桔梗ですわ。姉か何かが内大臣家の側室の姫君にお仕えしていると聞きました。少将様の妹君といわれる四の姫様だったかしら・・・。一番の末の妹君の・・・。」
「ここに桔梗を呼んで、聞き出させてちょうだい!」
その日のうちに桔梗を使って宇治の君の居所を調べさせ、姫は桔梗を呼んだ。
桔梗の姉からの文を読み姫は落ち込んだ。
『お伺いの件ですが、四の姫様も、その母君様も、よくご存知ではないようで、北の方様の縁の別荘におられるとしかわかりませんでした。度々使いのものがやってきて、大臣様にご報告されるだけで、どのような怪我の状態かさえわからないご様子です。四の姫様の兄君を静かに養生させよという大臣様からのご命令のようで、これ以上はわかりません。でもどうして右大臣家に入ったばかりのあなたが、このような文をよこすのか不思議でなりません。少将様は都中の憧れの的のお人ですので、お仕えの姫様に頼まれたのでしょうけれど・・・。また私に出来ることがあれば、文をください。』
という内容であった。
「だめだと思うけれど、今から書く文を内大臣家の少将様宛てに送ってちょうだい!」
姫はすらすらと何かを書き終えると、葵を文に添えて萩に託した。萩はそれを抱えて、内大臣邸に向かう途中、見覚えある男を見かけた。
「ちょっとあなた!」
「え?何か?」
とその男が振り返る。その男は、網代の主を探している晃であった。
「あなたは以前宇治でお会いした方のお付きの人じゃ・・・」
「え?宇治・・・・?私は右近少将藤原常康様の・・・」
すると萩はその男を引っ張り、通りの端に引き寄せた。
「やはり!少将様が元服前に宇治におられた時に一緒にいた橘晃という従者でしょ!」
「そうですが・・・・。もしかして・・・綾姫様の・・・」
「これを少将様に・・・姫様からの御文です。あなたに会えてよかったですわ。姫様はたいそうご心配で、塞いでおりますの・・・。遅れましたが、私は右大臣家三の姫様にお仕えする萩と申します。直接少将様にお渡ししてくださいね!」
「わかりました!必ず若君のお渡ししますので、安心してくださいとそちらの姫君にお伝えください。助かりました。丁度若君の使いで姫君の乗った網代を探していたのです。」
そういうと萩に晃は頭を下げて走り出した。萩はうれしそうに姫の待つお邸に戻った。するとばったり右大臣と廊下で出会ってしまった。
「萩ではないか・・・。姫があのような状態でどこに行っておった!ずっと付いておるように言ったであろう!」
「申し訳ありません・・・。姫様の使いで・・・。」
「使い?何の使いだ!」
「御文を・・・・」
「誰に渡してきたというのだ!あれほど私の許可なしに!誰のもとに送ったというのだ!男か!」
「いえません!」
「やはり男だな!どこのどいつだ!」
そういうと、右大臣は萩を引っ張って姫の部屋に向かった。
「どういうことなのか姫!誰に文を出したというのだ!」
「姫様申し訳ありません!」
「いいのよ萩、ちゃんと言うから。お父様、私右近少将様にお見舞いの文を出しただけよ!あの祭の日、うちの網代の前で右近少将様が落馬されたから・・・・。」
「お前は東宮妃候補の一人だぞ!勘違いされて変な噂が立ったらどうするのだ!萩、これからは一切の文などの取次ぎは禁止する!いいな!」
「お父様!」
右大臣は立腹し、寝殿のほうに戻って行った。姫は萩の胸元にしがみついて泣き叫んだ。
「姫様、このようなときに言っていいものかと思いますが、あの文は宇治で出会ったときそばにいた従者の方に直接お渡しするように託しましたので、ご安心ください。」
「そう・・・でも・・・」
「これからは桔梗を通じて文のやり取りが出来ると思いますわ。」
「うまくいくかしら。」
「任せてくださいませ!きっとうまくいくようにしますから姫様は元気になられて大臣様に気づかれないようにされないといけませんわ。」
「そうね・・・。」
晃に託された姫君の文は夜遅く少将の枕元に置かれた。
《作者の一言》
どうしてここまで内大臣と右大臣がいがみ合うのかはよくわかりません^^;後々にも出てきませんけれど・・・。やはり同じ摂関家の流れをくむというだけでいろいろあるのでしょうね・・・。あの宇治でのおてんば姫が、三年の月日が経ち一応姫らしくなりました^^;やっと少将と姫はつながりが出来ました。あとはどのように会うかです^^;それはこの次ということで・・・・。もちろんまた東宮の邪魔が入るのですが・・・・。
むかしむかし 第6章 祭の後
あれから三日三晩眠り続けた少将は、嵯峨野の別邸にいた。
「う~ん、ここはどこ??いた!」
「こちらは北の方様が亡き関白様から引き継がれた別邸と聞いております。」
「そう・・・おじい様の・・・・。僕はどれくらい眠っていたのだろう・・・。」
すると、乳母の娘で女房仕えをしている近江が部屋に入ってきた。
「まぁ!若君様!お目覚めになられましたか。この近江は心配で心配で・・・・。三日三晩ずっと付いておりましたのよ。丁度あの時北の方様が若君の晴れ姿を一目見ようと網代で見物されていたのがよかったのです。そのままこちらへ・・・。あら、北の方様がこちらに・・・。」
すると北の方が女房達を引き連れてやってきた。
「気が付いたのですね。母は安心しました・・・。このまま意識がないままでしたら・・・。母は申し訳なく・・・。」
「母上、あのような失態をしてしまって・・・。たいそう父上も恥さらしと立腹されたことでしょう。」
「いえ、そんなことは・・・。あれは事故なのですもの。それどころか・・・近江、例のものをここに。」
近江は大きめの塗りの箱を運んできた。そして少将の前に置いた。
「これは?」
北の方は微笑んで
「開けて御覧なさい。」
箱を開けると、たくさんの贈り物や手紙が入っていた。
「これは都中の姫君からのお見舞いのお手紙や贈り物ですわ。大臣はこれを見てたいそう喜ばれてね。ほらこれは権大納言様の姫様、これは中務卿宮家の姫君で・・・。まぁ皆様のお手の綺麗な事。どの姫がよろしいのかしら・・・」
「母上!私には・・・。いたたた。」
「まぁ、いけないわ!早く横に。近江!薬湯を!ゆっくりお休みなさいませ。あと姫君たちにお返事を忘れずに・・・・おほほほ。」
そういうと北の方は部屋を出て行った。少将は横になるとひとつずつ手紙を読み始めた。どれも同じような内容のお見舞いの言葉ばかり記されていた。浮かれているのは近江だけ。ため息ひとつ付いて、晃を呼びつけると、どこかへ使いにやらせた。その後、また寝込んでしまった。心配になった近江は、兄である晃をどこに使わせたのかしつこく問いかけた。
「今まで近江には言っていなかったのだけれども、晃の妹だから言うんだよいいね・・・。」
少将は近江に宇治の姫君のこと、賀茂祭での事を話した。
「今晃に賀茂祭の日に見かけた網代を探させている。あれは間違いなく宇治の姫君だ。つい見つめてしまって馬から落ちてしてしまった・・・。普通ならあれくらいの暴れ方では落馬なんてしないよ。」
「そうですわ!若君は宮中一馬術が得意でいらっしゃいますもの!おかしいと思いましたわ!その姫は初恋の君ってことなのですね。近江は感動いたしましたわ・・・。さすが私がお仕えする若君様ですわ・・・。一途な思い・・・とても素敵です。しかしどこの姫様かしら。この中にそのような文面の手紙はなかったように・・・・。」
「多分取り次がないように父上がしていると思うのだけれど・・・。」
「まぁ!さぞかしその姫君も心配なされていると思いますわ!兄様がちゃんと見つけてくれるといいのですけど。網代に乗っているってことは良いきっとお家の姫様なのでしょう。」
「そうだね・・・とても恥ずかしいところを姫に見せてしまったよ・・・。」
と少しはにかみながら、眠りに付いた。
夜遅くに晃が帰ってきたようだが、気持ちよさそうに眠っている少将を起こさなかった。
《作者から一言》
さてさて、ここから宇治の姫君探しが始まります^^;といってもすぐにわかることなのでしょうけど・・・。近江は少将の乳母子です。もちろん同じ歳。兄である橘晃は五歳程上です。きちんと官位を持っているのですが、内大臣家の家司、特にこの少将の側近をしています。一応この橘晃が先々出てきます^^;
ホントに都中に姫君たちはここぞとばかりに自分を売り込んできますけれど、実際は姫から面識のない殿方に文を贈るって事はないのでしょうね^^;たぶん姫から出したのではなく、身内(特に父親)が出させたのかもしれませんが・・・・。まぁフィクションですので無視してください。
むかしむかし 第5章 賀茂祭にて
あれから三年の年月が経ち、少将は十八歳になった。帝の信頼も厚く、利発で、器量よし、まじめで浮いた話ひとつない公達として立派な成長を遂げた。帝や東宮に御仕えする女房たちの憧れの的。そして都中の姫君の憧れの君である。この上ない家柄であったので、縁談もちらほらあったが、宇治の姫君を忘れられない少将は断り続け、父上の内大臣を困らせた。内裏に出仕して、宇治の姫君の家を探そうとしたが、あまりにも父君の犬猿の仲といわれる方が多すぎ、見当がつけられないままでいた。
毎年恒例の賀茂祭が行われ、少将はもちろん斎王代のお供として騎馬に乗り大行列に参加した。毎年のことながら、少将目当ての姫君たちが牛車や網代に乗り込んで祭り見物をしている。その中にかの宇治の姫君も今年初めて見物に訪れている。少将が姫君たちの牛車の前を通るといたるところから悲鳴のような声が聞こえる。
「綾姫様!ほらあそこに!!内大臣家の右近少将様が!!宇治の若君様ですわよ!立派になられましたね。」
綾姫は立派な公達に成長した少将を見て言葉を失った。夢にも出てくる宇治の君がそこにいるのですから。その時、急につむじ風が吹き、綾姫の乗った網代の御簾がめくれ上がった。
「きゃあ姫様扇を!!!」
その声に少将は振り向き、必死に姫を隠そうとしている網代のほうを見つめた。
(あれは!!!宇治の・・・・)
キョトンとした姫君の顔をじっと驚いた様子で見つめていたが、乗っていた騎馬の目に砂埃が入ったのか驚いて馬が立ち上がり、少将は落馬して地面にたたきつけられた。そばにいた同僚やら、付き添っていた晃がやってきて少将の様子を伺う。
「右近少将様!お怪我は!!!」
「いててて・・・これぐらいなんとも・・・・いた!」
「どこかをいためられたようですね!丁度そこに内大臣家縁の網代がございましたので、お乗りに・・・。」
「そうするよ・・・済まないこのような祭の日に・・・このような失態を・・・。」
「早く帰られて薬師に・・・」
少将はじっと宇治の姫君が乗っている網代を見つめている。
「若君!早く!」
「ありがとう晃・・・。」
そういうと痛みからか気を失ってしまった。
《作者から一言》
宇治で出会った二人の再会。賀茂祭は今で言う葵祭りのことです。少将は18歳、綾姫は16歳。どちらもお年頃・・・。もちろん少将は3年間綾姫の事を思い続け縁談を断りまくり、そのためいろいろな姫君が「私にもチャンスが!」とか、「もしかして私の事」と言う勘違いな姫君がいたかもしれません。普通ならこのような重要な祭で、落馬するなど、一生の笑いもの^^;でしょうね・・・。今と違って当時のお馬さんは小さいので落馬してもあまり怪我はないでしょうね^^;実はあとから出てきますが、この少将、当代一の乗馬の名手なのです^^;
ああ、服の色が・・・。ほんとは緋色(あか?朱色) 使いまわしバレバレ・・・。
むかしむかし 第4章 元服
「今日は大変めでたい!!」
と、うれしそうな顔をしながら、内大臣は常康のいる部屋にやってきた。そしてこの日のために用意した衣装や、改めて用意したお付きの者たちを見て自己満足をする。
「父上、私のためにここまでしていただきましたこと、大変感謝しております。」
「何を言う!摂関家の流をくむ内大臣家の唯一の若君にここまでしないと恥になる。そうだ、帝、皇后様より、お祝いの品をいただいたよ。もうこれでお前の出世は間違いない!あとは宮家の姫君でも降嫁して頂いたなら、申し分ないのだが・・・。」
すると女房が入ってきて、内大臣と常康に申し上げる。
「あの・・・お客様が見えております。」
「もう来られたか?どなたかね?」
「それが・・・・常仁と申されて・・・・」
「常仁・・・・もしや!早く寝殿にお連れを!!」
「いえ、もうこちらに・・・・・」
女房の後ろに直衣を着た公達が立っていた。まさしく東宮である。元服され、東宮になられて初めての再会となる。やはり東宮になられてから以前と比べて大人びておられるが、やはり常康とよく似ており、以前と同様に活発でおられる。右大臣は頭を下げ申し上げた。
「どうしてこの様な所・・・。」
「ちょっと今日のことを母君から聞いたので抜け出してきたのだよ。どうしても常康と会いたくなってね・・・。父上には内緒にして欲しい。相変わらず叔母君もお元気なようで、安心しました。そうだ父上が常康に官位をいただけるようだよ。確か少将だったような・・・体が弱いお前が少将になれるのか?」
常康はいつものように言われる「体が弱い」という一言にムッとした様子でうつむいて式が始まるのを待った。いつの間にか東宮は帰られたようで部屋の中は静まりかえっていた。本当に相変わらす東宮は常康に対して見下した言い方やお振る舞いになられる。なんと言うかまじめな常康と正反対というか・・・・。顔や背丈はよく似ていても性格は正反対なお二人なのです。
何とか無事に元服の式が終了し、帝の使者から官位を受け、右近衛少将に任じられた。一方宇治の姫君も無事裳着の儀式が終了し、右大臣の正式な姫として披露された。
《作者解説》
東宮との再会です・・・。本来元服や裳着は夜中に行われます。内大臣家と右大臣家、同時の成人式は招待客にとってどちらに行こうか迷うところだと思います。どちらに行くかによって派閥が出来るのでしょうか?東宮って嫌味な性格?どうでしょう・・・嫉妬かも?常康は右近少将に任じられますが、普通はもう少し下の位からのスタートではないかと思います。官位をいただくときの方法がわかりませんのでホントにあやふやにさせていただきました^^;絶対突っ込まれそう^^;
むかしむかし 第3章 宇治の姫君
綾姫は京にある実家の東三条邸に戻ってきた。すると慌てて父である右大臣が姫の元に飛び込んできた。
「綾姫や!何かあったのか!今までいくら使いを出してもいっこうに戻ってこなかったのに!」
「お父様、別に何もないもん。ただ、都に帰りたくなっただけだから・・・。」
(ホントはそうじゃないのだけど・・・)
「お父様!内大臣様の御宅ってどこにあるの???」
「はあ???あの自慢しいの内大臣か???」
「????」
すると右大臣は腹立たしい顔をしながら姫に言った。
「今日もあの右大臣に自慢されたのだ!何が光源氏の再来かと間違うような若君がおるだとそなたのまだ裳着も済ませてない姫はまだ北の方と一緒に田舎にこもりっきりでいい婿はとれんだと?あの不細工な顔した狸じじいのくせに。北の方は当代一の美人と歌われたのだが、北の方の若君以外は、みな側室が生んだ不細工な姫ばかり・・・若君もずっと北の方のご実家で育ったらしいが・・・きっとあの内大臣に似た可愛げのない者だろうて・・・。東宮様と同じ歳でいとこ同士であられ、ずっと一緒にお育ちになったから、将来出世は約束されたようだがなあ、あの内大臣の息子じゃ、たかが知れてるワイ!そういえば、あと十日後に元服だと聞いたぞ!そうだ!姫も裳着をする!早く用意だ!一番早い好い日を探せ!あの内大臣に負けないようにいくら費用をかけてもよい!姫にふさわしい公達に招待状を出すようによいな!」
「お父様!綾は!!!」
「よいな、裳着が済むまでうちの姫らしくおとなしく過ごすのだぞ!変なうわさが立ってはならぬ!いいな!!!」
そういうと右大臣はどしどし音を立てながら、立ち去っていった。
(私、裳着なんかしたくない!したら宇治の君、藤原常康様と会えなくなってしまうわ!)
「どうしたらよいの???萩。これなら宇治にいればよかった・・・」
「そうですわね・・・まだ裳着は少し早いと思っていましたのに・・・。でも殿のおっしゃっておられるような若君に見えませんでしたが・・・。誠実そうで、とても品のよい若君様のように・・・。」
遠くから大きな音を立てて右大臣かやってくる。
「今占わせたらうちも10日後だ!今日から準備に取り掛かるぞ!いいな!やはりうちの家柄からいって・・・東宮に入内かな・・・年も2つしかかわらんことだし!そのように根回しを・・・・。」
「お父様それはいや!いや!内裏には御姉様がいるじゃない!帝の女御として!」
「東宮に入内するのだから問題ない。精進せよ。裳着が終わると即御妃教育だ。いいな。お前の母は先代帝の妹宮でこの右大臣の姫だから入内もおかしくない!どうして今まで気が付かんかったのか・・・・。」
右大臣は綾姫の意見を聞き入れずに大笑いしながら立ち去っていった。
一方宇治にいる常康は宇治の姫君を忘れることが出来ずにいた。
(あの姫はどちらの姫なのか・・・・身なりから行って結構な家柄と思うけど)
「晃!明日戻ると父上に伝えてくれないか。」
「若君!まだこちらに来て日が浅いのですけれど・・・・。」
「いい!それと今から先日の御邸に狩衣をお返しにいってくる。用意を!」
「はい!」
(なんとしてでも・・・聞き出さないと)
常康は先日の宇治の姫君がいたお邸についた。
「まぁ、若君様!わざわざ直にお返しにならなくとも・・・。うちのものに取りに行かせますのに・・・。」
「いえ先日は大変お世話になり、なんと言うか・・・そう!姫、綾姫はどうして急に!」
「私もわかりませんの・・・。急に帰るといって・・・・。姫にとっていいお友達に出会えたと思ったのですけれど・・・・。私も明後日に都に戻らないといけないようになってしまいましたの・・・。私の殿が姫の裳着を急にすると先ほど知らせが来まして・・・あと5日後なのですが・・・」
「え!私の元服と同じ日にですか!!」
「そうなのです?これでもうあなたともお会いすることが出来ないのですね。とても残念です。明後日までこちらにいますので、また遊びにいらしてね。私、姫が都に戻ってから、とても寂しくって・・・。あなたのような若君が生まれていれば、このようなところに篭る事はないのですけれど。多分もうあなたと姫は会うことは出来ないでしょう。うちの殿がお許しにならないと思います。」
「どうして??」
「あなたのお父様とうちの殿は犬猿の仲ですので、きっと・・・・文のやり取りさえさせてはもらえないと思うのです。」
「そうですか・・・・では姫のお父上はどなたですか?」
「いえません。元服され,出仕されるようになるとわかると思いますけれど・・・。私の口からは申し上げられません。ただ姫が突然帰るといった前の日に同じようなことを姫についいってしまったのです。」
というと宇治の姫君の母はほろほろとお泣きになったのです。
《作者の解説》
やはり二人には大きな壁が・・・。よくあるパターンですね^^;ロミオとジュリエットみたいな^^;どうして綾姫の母宮が名前を明かさなかったのか?私にさえ疑問?やはりおうちにとって恥ずかしいことなのでしょうか?どうしてここにいるのかは後ほど・・・。
むかしむかし 第2章 元服と初恋
さらに年月が経ち、お二人は元服によい歳となられた。あのひ弱であった若君は、活発な一の宮と共に過ごしたのが良かったのか、まったく病気をすることもなく、利発でまじめで落ち着きのある若君へと成長した。
丁度この頃、御世が変わり、東宮は帝、東宮妃は皇后となり、そして一の宮は東宮になった。今まで住んでいた一条邸を離れ東宮御所へ御移りになられ元服、常康は父である内大臣(前の右近衛大将)宅へ・・・。
内大臣と北の方である母(実の母ではないが)は、若君の成長ぶりに感嘆し、元服の用意を家のものにさせた。
「あんなに長くは生きられんといわれたそなたが、立派に成長された。これはやはり神のおかげか・・・・。母によく似たところがなお良い。きっと良い公達として成長し、この家を継いでくれることであろうな。今まで関白殿(前の右大臣)の御邸でお育ちになり、こちらの生活になれるかどうか心配だが、きっとそなたの器量のよさで何とかなるだろう。元服までまだ時間があるからゆっくり過ごしなさい。」
「はい父上。」
「そうですわ、若君。宇治の別邸に行ってらっしゃい。元服までここはいろいろ忙しくなると思うので、空気の良い宇治でお過ごしなさい。」
「それはいい。ゆっくり遊んでおいで、かえって来る頃には内大臣家の長男にふさわしい元服の式を整えておくから。」
常康は数人の家来を連れて宇治の別邸にやってきた。そして乳兄弟の橘晃と共に散策に出かけた。
「いいところだ、晃。ここに幼馴染の東宮をお連れしたらさぞかしお喜びになられるだろうね」
「そうですね若君。」
「でももうあちらはそのようなことが出来るご身分じゃないからね。」
「お寂しいのですか?」
「まあね。生まれてからずっと一緒にいたのだから・・・東宮御所に移られたときは一晩泣いて暮らしたよ。お前は知らないかもしれないけど、よく入れ替わって女房たちを驚かせたものだよ。そういえば里帰りされていた伯母様にも会ったしね。ほんとに伯母様は母上にそっくりでびっくりしたよ。」
「若君なんて恐れ多い・・・・。今は皇后様におなりです。」
「うんわかっているよ。でも伯母様はいつも僕を自分の子供のようにかわいがってくださるのだよ。そして時々涙ぐまれる時がある。よくここまでお育ちになられましたねって・・・・。」
「そうですね、まぁ若君は甥子様ですからそういわれたのでしょう。」
その時、後ろの草むらから何かが飛びだした!そして常康の水干の袖に噛み付いたのだ。
「きゃあ!!!申し訳ありません!!!!」
と、どこかの女房風情の女が走ってきた。すると晃がその女に
「無礼者!この若君は・・・」
「晃!いいよ。見てみなよホンの子犬じゃないか・・・・。ちょっと袖を破られただけだし、怪我してないからいいよ・・・」
「しかし!若君!ひとつ間違えれば元服前のお体に!」
常康はそっと子犬を抱き上ると子犬は申し訳なさそうに常康の頬をなめた。
「ホラ、いい子じゃないか・・・。これ返すよ」
と、常康が女に渡そうとすると横から手が伸びた。
「これは綾の子犬なのよ!!!」
「ひ、姫様!」
そこには常康よりも一つか二つ年下のような女の子がたっていた。
「姫様あれほど御邸から出られてはいけないと・・・・。」
「いいの!ここにはうるさいお父様もいらっしゃらないの。いつも手習いやら歌やら・・・・。」
「しかし・・・この若君様の袖が・・・」
綾姫という姫は、常康の水干の袖を見て叫んだ。
「まあ!なんてこと!萩!今すぐお屋敷にお連れして!着替えを用意するのよ!確かお兄様の狩衣があったでしょ。」
「は、はい!」
姫は常康の手を強く引っ張ると、近くにある品のよい御邸に連れて行かれた。
「ここで待っていて!萩!藤!はやくできない?」
初めて姫に手を握られた常康の顔は真っ赤になった。
「若君熱でも???」
「いやなんでもない(なんだろこの感覚は)」
見た感じはそんなにかわいい姫とは感じない、というより姫があんなに薄汚れていていいのだろうか・・・。姫付の女房の用意した狩衣に着替えると女房が、
「ここの主が本日のことをお詫びしたいと申しておりましてこちらに・・・。」
「いいのですよ。怪我してないし、ちょっと破れただけだから・・・。」
「いえ!ああそこまでいらっしゃっています。」
御簾の中に人の気配を感じると、女性の声が聞こえた。
「本日はうちの姫の犬がひどい事を・・・なんとお詫びしたらよいか・・・」
「いえ、怪我はしていないので・・・・。」
「でもそれでは私の気が晴れませんので・・・ぁ、姫!御簾からでては!!!」
御簾から出てきた姫は先ほどの姫と違い、何もかもきれいに整えられ、おてんばそうなところを除けば、かわいらしい姫であった。
「いいの!私まだ裳着が済んでないのだから!あなたどこの若君かしら。身なりからして・・・」
「これ!姫。」
「いいのですよ。私は内大臣家の嫡男藤原常康と申します。」
「まぁ!そのような方が・・・・。私たちは訳あって身は明かせないのですが、私が少し病になりこの地で静養しておりますの・・・。本当でしたらこの姫は都の中で姫らしくお育ちになるのがいいのでしょうけれど、このような田舎での生活が長いものですので、おてんばな姫に・・・・。」
「まぁお母様!お父様のがみがみのおかげで体を壊されたのに・・・・。」
「綾姫、まもなく裳着なのですから、そろそろお父様のいる都に戻って、姫らしく・・・」
「嫌よ!帰ってもお姉さまのことばかり。いつも父様ったら、ねえ様がいいところに嫁いだからって私にまでうるさくいうもん。」
「姫!お客様の前ではしたない・・・・。」
常康は呆然と話を聞いていたが、ふと我に返り、
「あのそろそろ・・・うちの者が心配をするので・・・。」
「せっかくのお客様・・・それではしょうがありませんね・・・また遊びにいらしてね。」
「はい!!」
そういうと常康はその御邸を離れ、別邸に戻った。
「若君、あの姫はきっと成長されると、お綺麗になられるでしょうね。しかしあの性格は・・・」
「ん?」
「ですから・・・若君!!」
「ごめん話聞いていなかった。何?」
「もういいです!そう!都の大臣からお手紙が来まして、元服の日取りが決まったと・・・若君!」
とても上の空の常康は晃の話など耳に入らなかった。
(これが世に言う初恋というものなのかな。またあの姫に会えるといいな。)
その二日後、慌てて晃が入ってくる。
「例の姫君!急に都に戻られたようです!」
「え!どうして?」
「そこまではわからなかったのですが・・・・」
(どこの姫だったのだろう・・・・・無理にでも聞いておくべきだった!)
今まであまり表情を顔に出さなかった常康の表情に晃は驚きを覚えた。
さてこの初恋は、成就するのでしょうか?神のみぞ知る。
《作者の解説》
いつも育てられていた関白家では従兄弟の一の宮との漢学や乗術、弓矢、遊び三昧で女の子との交流は女童ぐらいのもの・・・。関白家に年相応の姫君がいなかったのでホント男同士の遊びしかなかったのでしょう^^;本当の初恋かはさておき、真面目~な若君には相当姫君に手を握られたことが印象に残ったのかも?どうして一流の姫君が宇治という都から離れた別荘地にいるのかは後々わかります。こんな出会い方がこの時代適性はどうかは無視してください。あくまでもフィクションなのですから^^;
むかしむかし 第1章 二人の若宮
いつの帝の御世のことであったか、摂関家の或る大納言家に双子の姫君が生まれた。二人の姫は、瓜二つどころか、色白で品がよく家柄もこの上ない姫君たちであったので、成人後、父が右大臣となると、姉君は東宮妃として、妹君は分家筋の摂関家右近衛大将の北の方として嫁いだ。
双子という人生のいたずらか、同じ頃に懐妊し、お二人とも同じ頃にご実家である一条邸に里帰りした。お二人は仲良くご実家で過ごされていたが、妹君が産み月に入り、産気づかれたと同時にまだ半月御予定が早いのにもかかわらず、姉君も産気づかれ、同じ日にご出産された。残念ながら妹君は難産の為、若君を死産した。一方姉君は、なんと双子の皇子を産んだ。なんと言うことか。
しかし、双子の皇子のうち、弟宮は生まれて直ぐに泣きもせず、乳母の乳を含んでも直ぐに吐き出してしまう始末。姉君付の古参の女房たちも、「残念ながらこの皇子は長くは生きられません」とみな揃って姉君に申し上げた。しかも、ひ弱な上に双子の皇子ということからか、この弟宮は生まれていなかったことにせよと、右大臣の命令が下った。
それであればということで、死産をして嘆き悲しんでいた妹君はこの弟皇子を自分の子としていただけないかと、右大臣と姉君に申し上げた。
「このようなひ弱な弟皇子・・・あなたはそれでもいいのでしょうか・・・。しかしながらあなたならきっと安心してお預けできるわ。」
「お姉さま、この皇子を私の亡くした若君として大事にお育ていたしますわ。ご安心なさって。」
「あなた方がそのようにされようとするのなら、この父も協力しますぞ・・・。このことは右大臣家内での秘密にしないと・・・。皆の者もこのことは内密に・・・よいな。」
この日の夜、或る者は内裏へ、或る者は右近衛大将家へ、皇子、若君誕生を知らせに走った。
時が経ち、兄宮である一の宮と、右近衛大将の長男として育てられた弟宮はこの一条邸でいとことして仲良く一緒に育った。
活発で利発な一の宮常仁親王に対し病気がちであるが何事もなくお育ちになった右近衛大将の若君常康君は、両方の母君が双子であったのだからそっくりであっても不思議ではないと、自分たちが兄弟であるなど疑わず仲良く過ごした。もちろん周りの者たちも本当の関係に気が付くはずがない・・・・。
《作者の一言》
これがこれから起こることの序章です。現代でこそ、双子の妊娠出産は安全となってきましたが、この時代では無事に生まれてくることさえなかったはずです。特に二代続けてなど・・・。一応この四人(大納言の姫君たちと若君、若宮たち)は一卵生双生児のつもりで書いていますのでもっと危険がともないます。うちの双子は二卵生なので比較的安全でした。高校時代に双子をモチーフに書いていた私ってすごいかも^^;双子が自分に授かるなど思ってもいなかったし・・・。一卵生であっても育つ環境や育てる人によってはたぶん性格は変わると思いますよ^^;多分・・・。第二章からは一気に時代が飛びますよ^^;もちろん主人公は右大将の若君常康君ですけれど・・・。どうして双子をそのまま親王として育てなかったかに関しては後ほど真相が明らかに
とりあえずはじめての作品解説^^;
第1作目は双子の親王とある姫の話、そしてその子供達以降の話です。
この作品は私が高校時代漫研で発表していた漫画の小説リメイク版です。
あの頃は古文とか勉強していたので、文中にある手紙の和歌とかきちんと自分で作って書いていたのですが、今はそのような技術はありませんので、要約して書いています。
また資料も結構少なく、官位とか時代設定、衣装名称などあやふやなところも多いですが、フィクションですのでご了承ください。
実は原本が紛失してしまったので、覚えている範囲での構想となっています。実は名前も違うし人物設定も変わってきていますが、流れは同じです。また原作は途中で終了しています。もともと漫画が原本なので、言葉表現が多いのも難点です。見ていただく方が想像の上、読んでいただけるとうれしいのです^^;色々なご指摘が出てくると思いますが、私が勝手に考えた設定なので、受け付けません。ホントに恥ずかしい内容なので、本館ブログに書かずにこちらで発表させていただいております^^;また暇を見つけて絵をつけようと思っています。もう何年も書いていないので心配だ^^;
50章くらいまでは親世代なのですが、その後はお子様達の話です。エンドレスのような気がしてきました^^;絵を描いてみたのですが、書けない^^;10年以上のブランクは相当なものです^^;お~~~い私の同級生の方々、原作残ってないかい?文芸部のほうでもいいのだけれど・・・。www
あと高校の文章制作の授業で書いた平安ものの短編小説もあったのですけど^^;これは身分の低いお姫様のシンデレラストーリーでしたね。先生の評価はありふれているわね~~~~でした^^;そりゃ枚数限られているので大作は無理でしょう^^;
あと先日書きかけが出て来たのですが、時代ファンタジーものでしたけど、中途半端な内容なので途中でやめたのかも??
感想をいただけるとうれしいです^^あと題名がないので誰かつけて~~~~~~~~。
そういや1作目の主人公が大好きだったYさん、今何してんだろうな・・・。
今現在70章近くまで行っています^^;あんまりドロドロはなくダラダラって感じ?