ミラー! (698)入院
妻と息子の入院当日の朝。今朝は僕が朝食の準備をしてみんな揃って朝食。単身赴任でずいぶん料理がうまくなったと美里に言われる。あ、いっておくけど、料理は好きな方だ。オムライスが得意中の得意。亡くなった母さんが作っていた思い出のふわふわ卵のオムライス。幼い記憶を思い出して練習したオムライス。これは誰が食べてもおいしいと言ってくれる。
朝食の片付けをして、今度は出かける準備。優希に美紅の面倒を頼んで、美里の車に美里と未来の荷物を詰め、二人を乗せてお世話になる大学病院へ。病院へ着くと二人の入院手続きを済ませ、未来は小児科病棟の看護師さんが、美里は産婦人科病棟の看護師さんが迎えに来て病室へ。僕は小さな未来にまず付き添う。検査入院だから、大部屋の未来。人見知りが気になったけれど、春休みで帰宅している子供が多く、ガランとしていて助かった。この病棟は僕が専修医時代にウロウロしていたからよく知っているし、看護師さんや医師、スタッフは僕のことを知っている人もいる。担当医は外来なので、補助する医師が入院の説明をする。検査内容、日にち等書かれた説明書片手にいろいろ話す。専修医なんだろうなこの医師は。ちょっと専門的なことを突っ込むとおどおどしていたりする。時折僕は意地悪なのか、説明を指摘する。その反応が面白い。
「ねえ、近藤先生。」
と未来が若い先生に声をかける。
「僕のパパは、僕のお胸の病気の先生なんだよ。ここの先生と仲良しなんだよ。ね?パパ。」
「あ、そうだね、未来。ということです。近藤先生。僕はこの子の主治医である丹波先生の弟子ですから。専修医時代はこちらで1年いましたし。すみませんいろいろ意地悪して。」
というと専修医は苦笑する。血液検査用の道具を持ってきた看護師。
「あ、遠藤先生じゃないですか?お久しぶりです。え?未来君って先生のお子さんですか?」
「んん。未来のこと頼むね。結構さみしがりやで人見知りだから。好き嫌い多いし…。」
「あ、パパ、僕そんな子じゃないもん!」
といって膨れる未来にみんな爆笑。
「さあ、未来君、血液検査するから採血させてね。」
と、未来の左手を消毒して採血をしようとするんだけど、なかなかうまく入らなかった。未来は痛い痛いと泣く。もう我慢できなくて…
「ちょっと貸して。僕がするから。」
と、僕が代りに針をさすとスッと採血で来た。
「苦手でしょ?採血。子供の血管は細いんだから…あとささっとしないと子供が怖がるよ。トラウマになったらどうするの?」
と注意する。
「あ、すみません…。」
と謝る。
「遠藤先生。遠藤先生は、NICUにいる赤ちゃんの採血も点滴もささっとされてましたよね。みんな感心していたんですよ。」
「慣れだよ慣れ。」
などと話している間に時間が来る。今度は美里のところへ行かないとね。
小児科を出て今度は産婦人科。美里の場合は相変わらず個室。それもなぜか特別室。さすがカリスマタレント。
「遅かったね、春希さん。」
「うんちょっと小児科で盛り上がってた。もともとお世話になっていた病棟だしね。」
なるほどねといって微笑む美里。すると担当医がやってくる。もちろん何度か顔を合わせたことがあるし、未来が生まれる時と同じ先生。今回の妊娠で診察に行った時驚かれたっけ。
「そうそう、遠藤さん。帝王切開立ち会いますか?」
普通は入れない手術室で立ち会う?もちろんそれが可能であれば立ち会いたい。
「遠藤さんは、丹波先生お勧めの小児科医ですしね。いろいろ事情は知っていますので、特別にいいですよ。」
もちろん立会いを頼みこむ。帝王切開で立会って滅多にできない。というか入れないだろうね。特別に…といって先生は手術の承諾書を受け取って立ち去った。
朝一番の手術なので、夕食を食べた後に絶飲絶食。美里はため息をつきながら、予定表を眺めていた。
「美里、立ち合いができるんだから、いいじゃん?ね?じゃ、帰るよ。優希たちが待っているし…。じゃあ、明日9時に来るね。」
「うん…。」
といってお互い手を振り別れる。