ドリーム・クエスト (37)初めての旦那様の仕事場
和気さんの事務所は実家の隣の市にある。
同じ条件で家賃が安いらしい。
3LDKのマンションを借りてそこを事務所にしている。
そしてその1室を二階堂さんが借りているという感じ。
私は初めて行くのよ。
とても素敵なデザイナーズマンションで、壁はコンクリートのうちっぱなし。これが賃貸だなんて・・・。
玄関はオートロックだし、4階建てなのにエレベーターがあって、そこの最上階72平米の角部屋。
駐車場1台付で13万!
さらに来客用に1台駐車場を借りている。
近くの駅から歩いて10分。
大阪空港まで車で5分ちょっと。
のどかなところだけど、事務所にするにはいい環境かもしれない。
東京に比べたら破格よね・・・。
ホントお洒落なマンション。
玄関を入ると12畳のリビング。
ここを事務所にしているの。
スタッフが二階堂さん入れて3人。
3部屋は和気さんの執務室(ほとんど使わないけど・・・。)、資料倉庫、そして二階堂さんの自室。
二階堂さんがここに住んでいるおかげで24時間体制で動けるのよ。スタッフの2人はバイト。ま、電話番や雑用をしてもらっているって感じ。政治家って儲からないのよね・・・。養う人が多すぎ。
和気さんはスタッフに挨拶をして私と一緒に執務室へ。
一応和気さん用のデスクにパソコンが置いてあって、立ち上げる。
ここの部屋にはソファーと机。そこに私は座って和気さんの仕事を見ているの。
和気さんは官邸の弐條のお義兄さんと連絡を取り合ってパソコンに向かいながら仕事をしている。普段の仕事姿ってこういう感じか・・・。スタッフの一人が私と和気さんにお茶を入れてくる。
あ、そうそう・・・私事務所の人に差し入れを・・・。
私はケーキを差し入れたの。
「すみません奥様。みんなで頂きます。」
ホント真剣な顔して仕事している旦那様の顔・・・。初めて見たかも知れない。これが官邸内での表情なんだ。
時折和気さんは私の顔を見ると微笑んで、何かパソコンに打ち込んでいるのよね・・・。
「彩子、悪い、そこの本棚の六法全書とって。」
私は立ち上がって六法全書を手渡す。法律関係の絡んだ仕事か?こういうことは弐條のお兄さんよりも詳しいから急な仕事が入ったんだね・・・。
「終わった、終わった!!!さ、これを弐條にメールして完成!!!」
和気さんは体を伸ばして机を片付けだした。
片付け終わると、和気さんは私の横に座って私の肩を抱き、キス。
「ごめんね彩子。せっかくのデートを邪魔しちゃって・・・。今夜も気を使って大変だろうけど、頼むよ。また埋め合わせするし・・・。」
今夜は和気家恒例のクリスマスパーティー政財界、医師会その他諸々100人くらい集まって和気さんの実家で行われるのよね。
私ははじめて和気家次男の嫁として出るの。
ちょっときんちょー。
ドリーム・クエスト (36)旦那様は庶民的?2
クリスマスイブの昼下がり。私たちは車に乗ってお買い物。近所でもよかったんだけど、なんとなく品揃えの面もあって、車で30分くらいのところにある大型の商業施設に行ったのね。
「今日は何買うの?」
「ん、そうやな、パソコンもそろそろ買い換えたいしな、服もほしいし・・・。今日はイブやし、彩子の欲しいもんなんでも買ったるわ。」
ホントにこういうところでいいのかな・・・。和気さんってホントに庶民的。最近私服はユニクロ。シンプルでいいんだけどね・・・。
「彩子にコーディネイトしてもらったらユニクロもええブランドに見えるから、よろしくな。」
「で、どんなの欲しいのよ。」
「上から下まで。適当に選んでよ。」
国会議員が、全身ユニクロだなんて・・・。ユニクロがだめって言うわけじゃないけどね・・・。
ま、ここだけじゃなくって、いろいろなお店で和気さんの服を買ったのよ。
28歳の和気さん。
私の付き合うようになっておしゃれになったよね・・・。
昔なんて仕事ばかりの服で、私服は少なかったのよ。ま、秘書時代、休みは一日中疲れて寝てたって言うしね・・・。
結局今日は和気さんの服とパソコンを買ったのよ。私はというと、なかなかこれという欲しいモノが見つからなかったから、保留にしてたのよ。
「ホンマにないの?じゃあね・・・時計でも買う?また仕事で使うやろ。そうや、ペアっぽいの買おうか・・・。俺らペアっぽいのって結婚指輪だけやしな・・・。いくらのでもええで、予算はいっぱいやからな・・・。」
「いくら?」
和気さんは私に向かって3本の指を見せる。
「30万?」
「0がひとつ足りんひんよ。」
300万????もともと和気さんはいつもニコニコ現金払いって人だから、それだけ持参しているのね・・・。
「ま、足りんかったらカード使うけどな・・・。」
300万も何買うのよ・・・・。
車でも買う気?
結局ブランドやさんで気に入ったのがあって、それの決めたんだけど・・・・。
「彩子、カバンとか欲しいもんあったらついでにええよ。」
「いいよこれで・・・。」
和気さんはぽんと現金で100万の封付きピン札を出してたわよ。ホント使う時は使う人だわ・・・・。
すると携帯がなるの。
仕事の話みたいね・・・。
和気さんはちょっとここで待っててといって人ごみから外れたところで真剣な顔で話している。私はというと、近くにあった椅子に腰掛けて、荷物番?すると変な男に声をかけられる。
「ねえ彼女、一人?」
「違います。」
こういうの嫌いなんだよね・・・。
「可愛いね。お茶でもどう?」
「結構です。」
「彼女、よく北野彩夏ににているって言われない?」
(本人だよ・・・。)
もう無視無視・・・。私は和気さんのほうを見つめて早く電話が終わらないか願う。
「ねえねえ。」
(うるさい・・・・。)
やっと終わったのか、和気さんがこっちい歩いてくる。
「彩子ごめんごめん。」
「和気さん遅い!」
和気さんと変な男と目が合い、和気さんはその男をにらみつけると男は急いで逃げて言ったわよ・・・。
「和気さん、私をひとりにしないでくれる?で、誰から電話?」
「弐條。ちょっとごたついた事があってさ、ちょっと今から事務所行くわあ・・・。デートはここまで。」
「ええ~~~~~。」
「しょうがないやん。まだ仕事納めやないし、今日は平日やで。今せっせと弐條が官邸につめて動いてくれてんのにさ・・・。仕事が出来たんやから仕事せな・・・。まあちょっとやと思うし、事務所にいたらええよ。」
なんて・・・。
ゆっくりデートできると思ったのにな・・・・残念。
ドリーム・クエスト (35)旦那様は庶民的?
12月中旬。今年は臨時国会が早く終わって、初めて年末年始を和気さんの実家ですごすことになった。もうすぐで和気さんと一緒になって2年・・・。
今年に入ってあれほど反対していた和気さんのお母さんが、私たちの仲を許してくれたの。そしてお母さんはまるで実のお母さんのようによく東京に出てきて、親身になって私達の相談に乗ったりしてくれるの。ホントに変わったの。年末年始はいらっしゃいねってこの前言ってくださって、私たちはお母さんの言葉に甘えていくことにしたの。和気さんだって、地元選挙区の挨拶回りもしないとね。ずっと二階堂さんに任せっきりなのも・・・。
私たちはクリスマスイブイブに宝塚に帰省。23日ってこと。和気家のみんなは私たちを迎えてくれて、わきあいあいと過ごしたの。
「彩子、明日のイブ、どっかいこか・・・。」
「うんそだね・・・どこ行く?」
「買い物いこか。そろそろ冬もんのスーツ新調したいしな。彩子もなんか買ったるわ。」
「和気さんが何か買ってくれるなんて珍しいね・・・。」
「失礼だな・・・俺も買ってやる時は買ってやる。」
和気さんは倹約家。あまり消耗品にはお金をかけないの。100円均一大好きだし、スーツだって弐條のお兄ちゃんのようにブランドにこだわらない。百貨店でオーダースーツを作らずにスーパー系や紳士服専門店のオーダーでも平気。外食でもそうよ。記念日以外はファミレスやファーストフード、コンビにでも平気。この前、牛丼食べに行ったのよね・・・夜中に・・・。
ホント庶民的な人。
でも出す時は惜しげなく出す。
この前南麻布に引っ越したときも家具とか家電はいいものばかり即金で買ったのよ。
普段私に何も買ってくれない。まあ私は結構ギャラがあるから。お洒落したかったら自分で買えという。働いた金があるだろって。初めは変な人って思ったけど、ケチでいってるんじゃないってことは知ってる。買ってくれる時は文句言わずにどーんと買ってくれるのよ。
夜、和気さんの部屋で、いろいろ話した。
「和気さん、みんなに気を使わせたみたいね・・・。」
「んん・・・。気がついた?」
「何?」
「みんな俺たちのことすごく丁寧に扱ってない?」
「何で?」
「たぶん、俺たち、子供が出来にくいこと知ってるからね・・・。だから急に母さんは彩子のことにやさしくなったんだと思うよ。結婚してすぐのころは、父さんだって俺に子供はまだかってしつこいくらいに聞いてきたんだけど、今はないからね・・・。聞きたくてもいえないんだと思う。そういうことに触れない様にきっと気を使ってるんだと思うよ。」
「そうだね・・・。いずれ授かるわよ。ね。」
私は和気さんにそっとキスをした。その夜、和気さんと私はベットの中で、愛し合う。やっぱりいままでいくら危険日に愛し合っても兆候すらないのよ。やっぱり出来ないんだね・・・。まあ今はいらないから、あと4年ぐらいしたら考えるかな・・・。
「あのさ、彩子。」
「なに?」
「いつまで俺のこと和気さんって言うつもり?もう結婚して2年になるし、彩子も和気なのにおかしいよ。名前で呼んでくれると嬉しいんだけどな・・・。」
そうか、そうよね・・・。そういえば私ずっと和気さんって呼んでたな・・・。
泰明さん?
泰明?
やすくん?
どう呼べっていうの?名前で呼んだことないから照れるわよ・・・。
子供がいたりなんかしたらパパでいいかもしれないけどね・・・。
ドリーム・クエスト (34)北野彩夏の引退
私の最後の仕事、秋の編成番組のドラマ。もちろん主役格を頂いてた。もちろん私の就職内定先のFTVの金9。9月から12月のオンエアで、この撮影がクランクアップしたら私、北野彩夏は引退するの。もう復帰なんかしない。1年限定の北野彩夏だったから。ただし12月末までの契約のCMは流れるんだけどね。ホントハチャメチャな恋愛ドラマだったから、面白かったのよね。
そして今日は横浜みなとみらいでロケ・・・そして私の出番最後の日・・・。昼ごろ撮影に入ってもう夕方・・・。
「はい!OK!」
「お疲れ様でした!!!」
このふた声で、スタッフみんなは私を取り囲み、花束を渡してくれる。
「おつかれ!彩夏ちゃん!!もう北野彩夏に会えないと思うと残念だな・・・。」
「でも私、春からここのアナウンサーですから、またお世話になりますね。」
私はスタッフや共演者といろいろ話しながら、後片付けを手伝う。そして今夜私の引退と、ドラマの打ち上げを兼ねて、新橋で飲み会?
(だって居酒屋なんだもん・・・。)
「ごめんね、彩夏ちゃん。予算の都合でこういうところで・・・・。本当ならパアッとお洒落なバーとかがいいんだろうけど・・・。」
「構いませんよ。私こういうところ好きだし・・・。私これでも結構庶民的なの。」
そう。和気さん自体余りお洒落なレストランとか苦手らしくって、ちょっと食べに行こうとかいう時は居酒屋行ったりするの。
ま、多分お付き合いでいいとこ行ってるからかもしれないけれど・・・。
スタッフさんたちとホントわいわい言いながら飲んで食べて・・・。ホント楽しかったの。
「ホントに・・・和気彩子になっちゃうんだよね~~~~~。芸名のままで女子アナになればいいのに・・・・。」
「やっぱり就職するわけですから、本名でないと・・・。」
「でも彩夏ちゃんが代議士さんの奥さんだなんてね・・・。そっちも信じられないよ・・・。政界の貴公子って言われる将来有望な政治家だしね・・・。女子アナやめても大丈夫だよね・・・。」
「うちの旦那様は貴公子って言うような顔じゃありませんよ。ごく普通ですもん。」
「じゃ、和気内閣補佐官のどこがよくて結婚したわけ?」
「さあ・・・。性格かな・・・でもそれ以上に何か惹かれるものがあって・・・。それ以上はいえませんよう・・・」
ホント和気さんの話になると照れちゃう。ホントに私のために尽くしてくれる。ホントいい旦那様。もちろん私も和気さんにできることは一生懸命するつもりでいるからね・・・。
すると、人が入ってくる。
「すみません、遅くなって・・・。あ!」
「和気さん????」
和気さんが入ってきたのよね・・・。実は私のマネージャーが和気さんを呼んだらしいのよ・・・。話があるって・・・。
もちろん和気さんが来て盛り上がっちゃって・・・。私の旦那様だし、これでも国会議員で補佐官・・・超有名人。するとマネージャーが言うの。
「和気さん先日はお世話になり、ご馳走までしてもらって・・・。」
そうこの前、うちにマネージャーが仕事の打ち合わせできたのね。そして和気さんがお得意の粉モノ料理を作ったのよ。それはお好み焼き。和気さんの一番の得意料理。関西風のお好みよ。マネージャーなんて、国会議員に料理までご馳走になって、それもすごくおいしいもんだから、恐縮してたわ。
「和気補佐官はすごくお好み焼きが上手なんすよ。驚きました。」
「和気さんはね、粉ものなら何でも得意よ。たこ焼きも、いか焼きも・・・。っていってもイカの丸焼きじゃないけど・・・。」
ホントに和気さんは庶民的というか、根っからの関西人で・・・。
関西人の和気さんが加わって、その場はとても楽しくなって、思い出深い打ち上げになった。ホントに・・・。ああこれで私は引退するんだ・・・。もう北野彩夏は居なくなる。これからは和気彩子として生きるんだ・・・。寂しいけれど、もう決めたんだもんね・・・・。
ドリーム・クエスト (33-2)宝塚記念
朝一番の飛行機に乗って伊丹空港に着く。
伊丹空港から阪神競馬場まで30分もかからない。ここ阪神競馬場は和気さんの地元宝塚市にある。結構大きくてきれいな競馬場。
今日は宝塚記念。今年の上半期の総決算のようなレースで、まあいうオールスターばかり集まるのよね・・・。
和気さんところのワキノカミカゼは初めてのGⅠレース。人気は中間くらい。でも評価は高い。早く来すぎたので初めて競馬場内の厩舎を案内してもらったの。そして最後に訪れた厩舎には前の日にここに入ってきたワキノカミカゼ。私を覚えているのか、鼻をヒンヒンならして私を見ているの。普段はちょっと気の荒い馬みたいなんだけど、私が近づくと、とても落ち着いた様子で私に撫でてとねだる。
「触ってもいいですか?義理の父の馬ですから・・・。」
「いいですが・・・大丈夫かな・・・怪我しませんか?」
私はワキノカミカゼの鼻と首筋を撫でてやると私の頬に顔を寄せてきたの。そして嬉しそうにヒンヒン鳴く。厩務員はとても驚いてたわよ。
「カミカゼ、がんばって優勝して、和気さんのお父様を喜ばせてあげてね・・・いいこだから・・・。」
ホントに私の言葉がわかるのかな・・・気合いを見せてくれる。私はワキノカミカゼにさよならを言って別れたの。
昼休み、トークショー開始。宝塚記念と開催日である上に私が来ているからか、阪神競馬場は入場制限。
人人人で酔いそう・・・。
司会者に誘導されてトークショーが始まる。時折ファンが私を呼ぶから、微笑んでその声のほうに手を振ってみる。
和気さんと正式に結婚して人気が落ちると思ったんだけど、現状維持かな・・・女性ファンが増えてるよってマネージャーが言ったの。
和気さん今日来てくれるのかな・・・。
国会の本会議も終わったし、今日は日曜。
休みのはずよ・・・。
私は和気さんがいないかなって探しながら話していたから、何を話したか覚えていない。
何とか終わって、抽選会の当選者のみ私の宝塚記念のポスターにサインをつけて、当選者とポラロイド写真を撮る。
こんなに人がいるなかで10人なんだもの。相当の倍率ね・・・。
いろいろ花束もらったり、プレゼントもらったりして、さばいていく。
あ、いたいた和気さん。
やっぱりきたんだ・・・。
今日は議員バッチつけてないけど、オーナールームに行くわけだから、スーツ着ている。
私もこれが終わったらきちんとワンピース着て帽子をかぶって和気さんのお父様のいるオーナールームに行くことになっているの。
和気さんは不機嫌そうな顔をして私を見つめている。
もしかして焼いてる?
これは仕事だよ・・・。
仕事が終わって私はフリー。私は北野彩夏から和気彩子になる。
今日は上半期の最大レースだもん。
きちんとフォーマルで・・・。
髪形も変えて、メイクも変えて、清楚に・・・。
そして荷物は、関係者の駐車場にある和気さんの車に和気さんと積みにいって、和気さんとともにお父さんの待つオーナールームへ・・・。お母様もお兄様も、敏明君もきていたの。敏明くんったら私のフォーマルワンピース姿を見て顔を赤らめてたの。
「お姉さん、トークショーよかったよ。」
敏明君は私よりもふたつ年上なんだけど、お兄さんのお嫁さんってことでお姉さんと呼んでくれる。
「あのポスター欲しかったな・・・。」
「じゃ、今度送ってあげる。そんなに欲しいの?いろいろあるよ。CM関係とか・・。」
「欲しい欲しい。特にJALのが欲しいな・・・あれが一番いいよね・・・。むっちゃ楽しみ・・・。」
和気さんはゴホンと咳をして盛り上がっている私と敏明君を黙らそうとしているんだろうな・・・。
私は和気さんの腕を掴んでじっと和気さんの瞳を見つめてごめんね表情。
和気さんは顔を赤らめて、照れ笑い・・・。
これが一番効くんだよね・・・。
宝塚記念のパドックが始まる。みんなでパドックまで降りていろんなオーナーさんと話しながらパドックを見つめてた。
結構オーナー同士棘のある会話なのは笑ったけどね・・・。
あたしと和気さんはそっとみんなにわからないように手をつないでた。
相変わらず和気さんのグローブのような分厚い手・・・。
そして暖かい・・・。
このまま別に子供がいなくたって、いいんじゃないかな・・・。
2人でこうしている事が一番の幸せなんだもん・・・。
相変わらず竹下悠は私のほうを見ていた。
もちろんそっと手をつないで和気さんとラブラブモードの私を・・・。
そしてレースが始まる。宝塚記念独自のファンファーレが流れ、一頭、一頭ゲートにはいって行く。そしてゲートが開いたんだけど、いつも出遅れる事がなかった竹下悠がこの日に限って大幅に出遅れ。中盤まで一番後ろを走っている。
和気さんのお父さんは相当怒っているのよね・・・。
すると竹下悠は何もやっていないのにワキノカミカゼ自身が動き出し、ずんずん前に行くのよ。ああ、馬が急ぎすぎと思ってか、竹下悠が手綱を引っ張って速度を落とそうとするんだけど、言うことを聞かず、最終コーナーにはもう先頭を走っている。
必死に走っているのがわかるのよね・・・。
竹下悠も手綱を緩めてもうやけくそ状態って事が素人の私でもわかるよ・・・。
鞭さえ入れずに何とか2着馬と鼻差で優勝したのはいいんだけど、竹下悠はゴール後すぐ馬を降りてワキノカミカゼの歩様を確かめる。
なんだかおかしい歩様。
後ろ左足を異様に気にしている。
竹下悠はゼッケンなどをはずすと、たくさんの職員が集まってきてワキノカミカゼを取り囲み馬体検査。
ついには馬運車まで入ってきて、ワキノカミカゼを乗せてコースを出て行くの。
場内は優勝馬の故障に大騒ぎ・・・。
特にこれからという馬だったから、お父さんは相当怒って、オーナールームを出て行った。
優勝馬無しの表彰式・・・。もちろん記念撮影なんてない。
お父さんは期待していた馬の故障にうなだれ、獣医の診察結果を待つ。
ひどい場合は安楽死。
お父さんは竹下悠を呼びつけ、レース内容を問い詰める。
きっと無理して一生懸命走ったのが原因だろうな・・・。あんなに出遅れてしまったんだから・・・。
「竹下君、もうお前は使わん。今度の秋華賞は武君に頼むからもういい。もううちの馬に乗らんでくれ。特に今度は牝馬3冠がかかっているんだからな。いいか。」
「はいわかりました・・・失礼します・・・。」
竹下悠はうなだれた様子でお父さんの前から立ち去った。
次の日、ワキノカミカゼの診断結果が出た。
予後不良という安楽死は免れたものの、競走馬としての能力を失い、引退後種牡馬として引き取られていったのよね・・・。
これもしょうがないこと・・・。
スポーツ新聞の一面は宝塚記念優勝馬の故障と、引退、そして種牡馬入りの記事。
そして小さく竹下悠が騎乗をはずされた記事も書かれている。
もちろん今までの優勝経験のほとんどはお父さんの馬のおかげだったから、忘れられる存在になるんだろうか・・・。
かわいそうだといえばそうかもしれないんだけど、レースに集中しなかった彼が悪いんだから・・・。
ドリーム・クエスト (33-1)政界パーティーデビュー
「彩子、今度の土曜日の夜仕事?」
っておねえちゃんから電話があった・・・。別に予定が無かったから承知したのよね・・・。
夏のある日のことなのよ。
テレビ局から正式に内定をもらって、あとは就職を待つのみ。
パーティは何度も行ったことある。
特に和気さんのお父さんの馬が桜花賞にオークスを勝って牝馬2冠馬になった時には、私は牝馬GⅠレース のイメージキャラみたいなことをしているから、和気家の嫁としてではなく、北野彩夏としてパーティーに出席したの。
これだけじゃない。よくブランドの新作発表の時とかも呼ばれるの。たまになぜか和気さんも呼ばれたりして・・・。今年のいい夫婦の日に選ばれたりして?
だからパーティーは大丈夫だと思ってたのよね。
私はおねえちゃんと広尾のお洒落なお店へ・・・。
「いい?今日はみんな政治家の奥様たちなの。特に私達が一番若いから気をつけてね・・・。失敗したら旦那様の恥になることだから。」
え?ということは政界関係???これは初めて・・・。
そういえば私は代議士の妻だった・・・。
「あと、子供のこととかいろいろいわれると思うけど、はっきり言っちゃだめよ。まだとかいらないとか・・・。わかった?やんわりとね・・・。」
きっとおねえちゃんも結婚した20歳の時に言われたんだわ・・・。
私も和気さんと正式に結婚して半年・・・。
入籍も入れたら1年半。
言われてもいいかもしれないよね・・・和気さんも28だし・・・。
案の定、興味津々なおば様方が私に詰め寄ってくる。特に私はタレント北野彩夏。サインや写真を求められることもあった。お子様が私の年代が多いのかな・・・。
息子がとか娘がとか言って・・・。
そしてお姉ちゃんというとおり・・・。
「お子様はまだ?和気補佐官の奥様はタレントですものね・・・。」
「弐條補佐官のところみたいにお子様がいれば、和気補佐官もきっと張り合いが出ていいでしょうね・・・。」
「あ、来春アナウンサーになるんですよね・・・失礼しました・・・。まだまだということね・・・。」
やはり私が学生だし、働いていることを知っているからみんな私が言うまでに退散していくのよね・・・。
まあ安心・・・。
お姉ちゃんの言うとおり、微笑んでさえいればいいってことよくわかったわ・・・。
でしゃばらないことが一番なのよ・・・。
私が一番若い代議士の妻なんだから・・・。
帰り道、お姉ちゃんは私に言う。
「あんたはいいわよね・・・学生だし、働いているから、婦人会のお茶会に参加しなくていいんだもの・・・。来月総勢12人の奥様がうちにお茶しにくるんだから・・・今から何お茶菓子を作ろうか悩むのよ・・・。ま、あんたと違ってお子様攻撃は無いけどね・・・。今度はうちのこの幼稚園の話になるわよ・・・。もうそろそろ考えないとね・・・。お受験するならそれなりにしないと・・・もう2歳だし・・・。」
ホント溜め息ついてたの。
専業主婦だから大変よね・・・付き合い大変そう・・・。
そういえば、明日朝一番の飛行機で大阪空港に行って即阪神競馬場・・・。
宝塚記念の前に昼休みにトークショーが入っているのよね・・・。
もちろん和気さんのお父さんの馬、ワキノカミカゼも出るらしくって・・・。
ということはあの竹下悠とも会うのか・・・。
牝馬2冠馬ワキノヒメギミが優勝した時会って一緒にみんなで写真を撮ったんだ・・・。いつも私のことばかりじっと見てね、うっとうしいのよね・・・。
和気さんのお父さんが悠君を使う限り、今年いっぱいは会う回数が多いよきっと・・・。
(つづく)
ドリーム・クエスト (32)新生活
4月、彩子のお父さんから、マンションを受け継いだ。お父さんは3月末までに名義変更をしてくれて、この俺の名義にしてくれたんや。もう築7年。内装だけでもリフォームしようと思って、俺と彩子はリフォームが終わるまで2人で議員宿舎に仮住まい・・・。ま、二階堂もいるわけなんだけど・・・。
工事中は近所迷惑だから俺と彩子は近所に挨拶にいた。もちろん公人である俺と彩子が挨拶に来たもんだからみんな驚いてたりしたけど・・・。5月末には完成。そして引っ越す。ここで新しい生活が始まるんだ。
もちろん完成後は、もう一度引越しのご挨拶に回り、議員宿舎のほうは返上した。ま、二階堂はビジネスホテル住まいをしてもらったんだけどね・・・。もう堂々と2人で夫婦生活が出来ると思うとうれしくてたまんないよ。
新生活が始まるということで、俺は姉貴の言ったとおり、彩子を連れて表参道近くの姉貴の病院へ行く。もちろん彩子にいっていない。姉貴は日曜日というのに俺たち夫婦のために診察室を開けてくれる。
「なに?どこに行くの?和気さん。」
「ん?ちょっとな・・・。将来のためにしておかないといけない事があるんや。」
そう・・・この俺には後継者が必要や。姉貴が言うようにもし子供が出来にくい体だったら???
姉貴の病院は結婚前にこういう検査をしましょうって言うことを推奨しているんだ。出来るだけ早めに治療していたほうがいいというし・・・。でもこれはあくまでも二人の意思を尊重した上でのことで・・・。でもうちの場合は死活問題。政治家やからね・・・。
「え、ここって・・・。」
彩子は産婦人科の前だったから驚いてたよ。というより怒ってた。
「何で?私妊娠してないし、どこも悪くないし・・・。」
「ここは姉貴の病院だよ。姉貴と約束しているんだ。」
「嫌よ。」
「いいから、俺たちには子供が必要だろ・・・。まだ先だといっても・・・。姉貴の話を聞くのもいいんじゃないかな・・・。」
なんとか彩子は姉貴に会ってくれた。姉貴はやさしくそして詳しく彩子に話してくれて、何とか納得してくれた。
「そうだよね・・・欲しい時に和気さんの子供が出来なかったら悲しいもんね・・・。わかった・・・。」
「ごめんな・・・。」
こういう検査は結構辛いって聞いたんだ。案の定彩子はつらそうな顔をして俺の顔を見た。そして俺は彩子の手を握り締めて、終わるのをまったんや。
姉貴は彩子の診察結果と、先日受けた俺の結果を見て溜め息をつく。
「姉貴、ちゃんと言ってくれよ。」
「んん・・・いい?ショックを受けないでよ・・・。」
俺と彩子は向かい合ってうなずいた。
「まず泰明、この前の検査の結果なんだけど・・・。あんたは数が少ないよ。普通の数%ってところかな・・・。まあ原因はお母さんから聞いたからわかったけどね・・・。彩子さんは卵管が癒着していて・・・。それをなんとかしないと・・・。もしかしてそれだけじゃないかもしれないけれど・・・。どうする?大変だけど、治療するの?彩子さんは何とかなるかもしれないけれど、泰明がね・・・。二人でよく相談して決めなさい。私がちゃんと協力してあげるから・・・。」
姉貴はうなだれながら、診察室を出て行く。
やっぱりこの前できなかったのはそういうことか・・・。
最悪な結果・・・。
俺たちは姉貴の病院を出て自宅に戻った。複雑・・・。
「和気さん、私まだ子供要らないから、欲しくなったら病院行くよ。まだ私たちには必要ないからきっと出来ないんだよね・・・。」
「きっと神さんが僕らに必要になったら授けてくれるんだし、まだ気楽に過ごそうか・・・。」
「うんそうだね・・・。」
ま、このときはホントに子供はまだまだだと思っていたから、治療はしないことにしたんや。
この選択が将来苦労するきっかけになるなんて思ってなかったけどな・・・。
ドリーム・クエスト (31)自衛官清原と綾乃の関係
あたしは次の日光子さんにちびちゃんたちを頼んで四谷の清原さんのマンションへ。
『今から行きます。』
と一言メールを入れて・・・。
『了解、待っているよ。』
と即返事のメール。
あたしは電車を乗り継ぎ、指定された四谷のマンション前に立つの。あたしは深呼吸をして清原さんの部屋の前に立ち、玄関のボタンを押す。すると待ってましたというように清原さんが出てきて、あたしの手を引き抱きしめキスをする。そしてあたしの左薬指から雅和さんが留学中ニューヨークで買ってきてくれた結婚指輪をはずし、玄関の靴箱の上にそっと清原さんは置いた。そして鍵とチェーンをかける。
「よく来てくれたね。綾乃。あがりなよ。」
今まで綾乃さんって言ってた人が急に呼び捨て。あたしは今日はっきり話をつけようとここに来たのよ。
結構新しい1DKのマンション。清原さんはまずあたしにお茶を入れてくれて、ソファーに座らせる。
「変なものは入っていないからお茶くらい飲んで・・・。」
ここまでは前の清原さんと同じなんだけど・・・。
(キスとハグは別!)
これからあたしに何をしろというの?清原さんはあたしの顔をじっと見て言う。
「ホント、きれいになったよね・・・。あの頃は可愛い感じだったのに・・・女になったって感じで。もう24だもんな・・・・。そういや俺は10年前から知っているんだもの。」
そう、清原さんとはあたしが14の時、パパがイギリス駐在中に知り合ったんだ。
「今日だけにしてくれる?お願いだから・・・。これっておかしいと思うの。」
「何がおかしいの?俺は夫婦ごっこがしたいだけなのに・・・。」
「夫婦ごっこ???」
そういうと清原さんはあたしを抱き上げてベッドの上に横にする。そしてあたしを押さえつける。
「今日の綾乃は俺の妻だよ。旦那が妻を愛するのは当然じゃないか・・・。」
そういうとあたしにキスをし、耳元で言う。
「弐條に言うよ。それとも弐條のHPにコメント書き込んだほうがいい?奥さんの初妊娠の相手は弐條じゃないって・・・。そのほうが効果的かな・・・。」
そんなの困る。はじめの妊娠は雅和さんの子だって雅和さんに言ったの・・・。
あたしは言われるがまま、清原さんに愛される。
ああ私の悪いくせ・・・。
雅和さんのことを出されると・・・。
あたしは清原さんに愛された後、うなだれながらシャワーを浴び、着替えて帰路につく。
このような二重生活が2ヶ月続いた。
月に2回・・・。
今日はこれで4回目・・・。
もう精神的に辛くなってきた。
月に2回昼に清原さんに愛され、夜はいつもの雅和さんとの夫婦生活。
何がなんだかわからなくなった。
もちろん清原さんの一方的な愛・・・。
清原さんに愛されている途中、玄関のベルがなる。
はじめ、清原さんは無視してあたしを抱いているんだけど、しつこいから清原さんは途中でやめて服を軽く着て、玄関を開ける。
今日はチェーンをかけ忘れたのかな・・・。バ~~~~ンって扉が開く。
「源!突然なんだ!」
「清原先輩!綾乃がここにいるんだろ!入らせてもらいます!」
お、お兄ちゃん!!!!
あたしは布団を被り、こっちに向かってくる足跡におびえるの。清原さんとお兄ちゃんはいろいろ言い合いながらあたしのいるベッドへ・・・。
「あ、綾乃・・・・。き、清原~~~~~!!!!」
お兄ちゃんは清原さんに掴みかかって一発殴った。二人はホント喧嘩になって、警察沙汰になる寸前!
「待って!!!やめて!!!お兄ちゃん!!!」
特別国家公務員の2人と代議士の妻のあたしが警察沙汰になったらもうみんな身の破滅だよ。
特にあたしなんか不倫だよ・・・。
マスコミに知れたら雅和さんはいい笑いもの・・・。今の補佐官を辞任しないといけないんだもの・・・。
お兄ちゃんはあたしの服をかき集めて渡して優しくこう言ってくれた。
「綾乃お前は悪くない。悪いのは清原だ。おととい美月から聞いたんだ。職場から綾乃の家に電話してもいないし、携帯も出ない。市ヶ谷駐屯地に問い合わせたら清原は非番だと・・・。だから俺は綾乃のために朝霞を抜け出して急いでここに来たんだよ。今は俺のほうが上官だ。俺のほうが階級が高いんだ。先輩後輩なんて関係ない!!!清原、俺はお前のこといい先輩だと思っていたが、違った。もう絶交だ。もちろん、また綾乃に手を出すようだったら防衛部長に報告する。元陸上幕僚長の娘を脅したって言えば、きっとただではすまないだろうね。さ、綾乃行くぞ。」
着替え終わったあたしをお兄ちゃんは連れて帰ってくれた。そして車の中でお兄ちゃんは言ったの・・・。
「安心しろ。弐條君には言わないから。お前も辛かったんだもんな・・・。もう忘れよう。また何かあれば兄ちゃんが何とかしてやるからな。親父にも清原と付き合わないように言っておくよ。もちろん理由はいわないけど。いいな綾乃。」
「うん・・・ありがとうお兄ちゃん。感謝するね・・・。」
お兄ちゃん,清原さんに殴られたあざをなでながら微笑んでくれたの。
美月さんがお兄ちゃんに言ってくれて、お兄ちゃんが助けてくれなかったら、あたしいつまでも二重生活をしなくちゃいけなかったんだよね・・・。
ホントありがとう・・・。
妹想いのお兄ちゃんでよかったよ・・・。
あの後清原さんは自ら志願して実家のある西部方面隊に異動したって聞いた。もちろん出世なんて関係ない部署に配属されたらしいのね。もうこれで会わなくていいんだよってお兄ちゃんは言ってくれた。また雅和さんにはいえない秘密が出来てしまったんだけど、今度はお兄ちゃんがあたしを守ってくれるんだと思うと、なんだかホッとしたの。
ドリーム・クエスト (30)綾乃の意を決した告白
雅和さんは南麻布の家にパパと彩子を送り届けて、広尾の自宅に戻ったの。なんだか少し機嫌が悪いのかな・・・。帰ってくるとすぐに夜行くお店に電話して人数の追加の確認をしている。官邸の人たちでよく昼食会に使うお店だから融通が聞くらしいの。予約時間は18時。紀尾井町だから、ここから車だとそんなにかからない。
さっきまで雅と彬は光子さんが見ていてくれた。雅と彬はあとひと月で2歳だからよく言いつけを聞いておとなしく美津子さんと待ってくれるから助かるわ。お食事会はこの2人を連れて行かないと・・・。お行儀はいいから安心。彬は口数が少ないんだけど、雅は2歳になっていないのによくしゃべる。
「ママァ~~~あきが・・・・。」
「どうしたの?雅。」
「パシンしたのよ。」
彬は口数が少ない分たまにだけど、雅に反抗する時に叩いたりするのよね・・・。
「ねえねきあいら。(ねえね嫌いだ)」
また雅が彬のおもちゃを取ったんでしょうね・・・。それくらいしか怒らないもん彬は・・・。雅よりひとまわり小さな彬。よく風邪引くし、熱を出すのよ。小さく生まれたんだもん仕方ないか・・・。しょっちゅう病院通い。いつまでも光子さんにお世話になりっぱなしはだめなんだけど、ついね・・・。
「綾乃、用意できたか?」
「ちょっと待ってよ・・・。」
あたしは雅と彬にお出かけ用の服を着せて、マザーバックに必要なものを詰め込む。
「パパ、あっこ(だっこ)!」
「雅は甘えたさんだな・・・。」
雅和さんは雅と彬に靴を履かせると、雅を抱き上げて家を出る。その後あたしは彬の手を引いてついていくの。
「光子さん。留守番お願いします。」
「はい、若奥様。」
あたしは地下にある駐車場に向かう。雅和さんがプリウスの後部座席のチャイルドシートに雅と彬を乗せてくれるの。ホントにうちのちびちゃんたちは大きくなったよね・・・。ひと月半早く生まれた二卵生の双子ちゃん。雅はあたしの小さい頃、彬は雅和さんの小さい頃にそっくりらしいわ。
「さ、出発進行!」
雅和さんがそう声をかけると、彬が喜んで同じように言うの。
「チュッパチュシンコ~~~」
彬はとても電車好き、大きくなったら電車の運転手になるんだって。お気に入りの電車のおもちゃを握り締めて雅和さんと電車の話で盛り上がっている。
彬のおかげかな・・・。雅和さんは最近電車が怖いと思わなくなったのは・・・。雅和さんはいつも彬のためにいろいろ電車の名前とか一生懸命覚えているのよ。
パパ好きの雅はそれが気に入らないみたいで、よく彬のおもちゃを取り上げている。それでよく喧嘩になるのよね・・・。
ホテルのロビーには、もうお兄ちゃん家族が着いていた。お兄ちゃん、美月さん、うちのこと同じ生年月日の静ちゃん。そして年末に生まれた孝博君。雅と彬はいとこの静ちゃんを見つけると走っていく。
「しずた~~~ん」
「み~~~た~~~~ん!あ~~~た~~~~ん!」
キャッキャッと騒ぎ走り回る3人を見て躾に厳しいお兄ちゃんはすごく怒っていた。それを見てあたしと雅和さんは笑ってたんだけど・・・。すると、パパと彩子が合流。
「あれ?彩子、和気さんは?」
「赤坂議員宿舎から歩いてくるんだって。すぐそこだもん。」
すぐそこって言っても歩いて20分くらいはかかるんじゃないかな・・・。ここは紀尾井町。赤坂議員宿舎は赤坂の南だし、端から端まで歩かないといけないのよ。
「だって、和気さんは油断すると太るって言うから、毎日国会まで歩いて行ってるんだよ。紀尾井町までなんてちょろいもんよ。」
「まあそうかもしれないけれど・・・。」
パパは4人の孫を一人一人抱き上げると、微笑んで言うの。
「清原は少し遅れるそうだよ。先にどうぞって・・・。雅、お前は一番重いぞ。」
「じいじだいちゅきよ。」
そういうと雅はパパの頬にキスするちょっとおませさん。パパも一番雅が可愛くってしょうがないみたい。
遅れて和気さんが入ってくる。ホント以前に比べてスリムになったのよね・・・。はじめて会った時は結構ガシッとして太目の上に彩子と結婚して10キロ近く太ったって言ってたもんだから・・・・。一月前の挙式までに彩子のために20キロダイエットした努力はすごいと思うわよ。聞いた話によると、毎日議員会館までジョギングして、和気さんの事務室で着替えてから官邸や議事堂に行ってたらしいし、赤坂の議員宿舎にはジムも完備されているから、暇さえあれば汗を流していたらしい。もちろん食事にも気を使って・・・・。いまだに続けているって言うのもすごいよね・・・。雅和さんも体力づくりしないとね・・・。でも太りにくい体質の雅和さんだもん・・・いいわよねえ・・・。
清原さん以外みんな揃ったし、時間になったから、お店に入ったの。ここのお店は結納があったとき以来。雅和さんは何度か来ているようだけど・・・。ちょっとしたら清原さんが謝りながら入ってきて、パパの退官祝いのお食事会が始まった。
みんなで乾杯して始まる。あたしはバックから雅と彬のエプロンを取り出して、特別に作ってもらったこの子達のお子様ランチを手助けしながら食べさせる。落ち着きのある彬は大体一人で食べるんだけど。雅はペラペラしゃべりながら食べるので大変よ・・・。
「ママ、おいちいね・・・。」
「そうね、彬。」
彬がゆっくり食べるのに対して雅は早いのよ・・・。もう好きなもの一通り食べちゃって、彬が大好物でおいてあるイチゴを狙っている。手を伸ばしてくる雅に対して彬は怒る。
「ねえねだめ!!!あきのいち!」
みんな微笑ましい光景としてみているんだけど、こっちは冷や冷やもの・・・。大騒ぎにはならないんだけど、もうちょっとしつけないと、ホテルで会食はちょっと・・・。まあこの年の子達に比べるとじっと座っているし、ちゃんと食べてくれるからお行儀はいいほうなんだろうけどね・・・・。
ああなんか視線を感じるんだよね・・・。やっぱり清原さんがこっち見ているのよ・・・。じっとあたしのほうを・・・。
うちのちびちゃんたちは食べるだけ食べると、おねむになる。そういえば光子さんが今日お昼寝していなかったって言ってたし・・・。あたしと雅和さんは一人ずつ抱いて、エプロンを脱がせると、横抱きして寝かしつけるの。彬も雅も指を吸って、すぐに寝てしまう・・・。これでゆっくり食べる事が出来る。座布団を借りそこにタオルを引いて寝かせると持参した毛布をかける。ああ静かになったわ・・・。ま、これが当たり前のあたし達の生活なのよ・・・。
お食事会も終盤に近づくと、雅和さんの携帯がなる。雅和さんは席を立ち、外で話をするの。一瞬ちびちゃんたちが起きそうだったんだけど、なんとか寝たままでホッとしたの。
「和気さんちょっと・・・。」
雅和さんは和気さんを呼んで何か話している。あの顔は仕事関係の電話なんだ・・・・。
「すみません、こういうときで申し訳ないのですが、緊急招集がかかりましたので、官邸のほうに行かないと・・・。」
「和気君もかね?」
「はい。内閣府関係者全員ですから・・・。北海道で地震がありまして、災害対策本部が出来ましたから。」
雅和さんはお兄ちゃんに今日の代金が入った袋を渡すと、和気さんと共に急いで店を出る。こういうことがあるかもしれないから、こうして紀尾井町のホテルの中のお店で会食なのよ。
私は雅和さんの忘れ物に気がついて、届けに行ったの。何とかロビーで渡せたから良かったんだけどね・・・・。あたしは元のお店に戻る途中、目の前に清原さんが立っている。
「清原さん・・・。」
「ちょっと時間いい?」
「戻らないと・・・。」
「ちょっとだけでいい・・・話がしたいんだ・・・。」
あたしは清原さんに引っ張られてここのホテルで有名な日本庭園へ・・・。もう夜だもん薄暗くって・・・・。ちょっとした明かりのみ・・・。
「なんですか?清原さん。」
「綾乃さん、立派にお母さんしているんだね・・・。」
「ええ、何?そうそうなんで鈴華ちゃんと別れたの?結婚するんだって言ってたでしょ。鈴華ちゃん相当ショックだったのよ。」
「鈴華ちゃんからあることを聞いてしまったから・・・。」
「あること?」
「高校三年の11月、綾乃さんは流産したんだってね・・・。もしかして・・・?」
そういえば、ちびちゃんたちが生まれたころ、チラッと鈴華ちゃんに話した事があった・・・。
「もしかして俺の子じゃなかったの?弐條はきちんとしているから・・・・。その子は俺の子だろ!」
あたしは黙ったまま清原さんに背を向けてたの。すると清原さんはあたしを後ろから抱きしめるの。
「否定しないところを見るとホントなんだろ。どうしてあの時言わなかったんだ。言ってくれてたらそれなりの責任を・・・・。」
「だってあの時もう雅和さんと婚約していたし・・・。あのままだとしても堕胎させていたわ。」
すると清原さんは無理やりあたしにキスを!
「な、何を・・・!」
「弐條にばらされなかったら、この俺と付き合え。」
「脅迫するつもり?!」
「脅迫じゃない。契約だ。」
「脅迫じゃない!どこが契約なのよ!」
「俺は7年前の償いをする。綾乃さんの家庭を崩壊させない程度にね。俺は7年分の綾乃さんへの愛情を注ぎたい。、毎日会おうとかそういうものじゃない。時折あって、夫婦のように過ごしたい。あのとき、綾乃さんと弐條が婚約していなかったら俺は綾乃さんの妊娠を知って無理にでも結婚してたよ。」
「いやよ!」
「弐條は驚くだろうね。初めての妊娠は俺の子なんだから・・・。」
清原さんはあたしのポケットに何かを入れて立ち去っていく。
なんてひん曲がった考え方?鈴華ちゃん別れて正解だったよね。
あたしはもといたお店に戻ろうとしたの。振り返るとそこには美月さん・・・。あたしと美月さんは目があったの・・・。見られた?聞かれた?
「あ、綾乃さん・・・。彬君が起きて・・・・。」
美月さんは青ざめながら彬が起きたことを知らせてくれた・・・。
「美月さん・・・ありがとう・・・。」
あたしは今あったことを隠して二人でお店に戻った・・・。
「綾乃さん、さっき・・・。」
「な、何?」
「ううん・・・いい・・・。」
やっぱり美月さんにあたしと清原さんの関係を見られたみたいね・・・。清原さんは用事があるとか言って先に帰ったってパパが言ったの。彬は起きていてあたしに飛びついてくる。雅も丁度起きたようで、パパの膝の上に座ってパパのイチゴを食べていたの。
「綾乃、遅かったね・・・。雅ったらお前のイチゴまで食べたよ。」
「ちょっとね・・・。」
パパは子供や孫に囲まれてホントに幸せそうだったの。きっとあたしが一番信頼している部下にあんなこと言われているってきっと知らないんだろうな・・・。
家に戻るとちびちゃんたちと一緒にお風呂に入って寝かしつけた。ちびちゃんたちはよほど楽しかったのか、眠りながら笑っている。あたしは溜め息をついて子供部屋から出る。そして今日着た服をクリーニングに出そうと、ポケットを漁るの。
そしたら・・・そういえば清原さんは別れ際にあたしのポケットに何か入れてたんだわ・・・。
あたしは寝室に入って、それをみた。そこには合鍵と、住所、携帯番号と携帯アドレスと、シフト表。
非番の時に来いってことかな・・・。
官舎を出て今、四谷に住んでるんだ・・・。
どうしよう・・・雅和さんにばれたらきっと・・・。だからって従うのは・・・。
傷ついているのはあたしよ。さらに傷を深めるなんて・・・。
一番早い非番の日は明日。行くべきか行かざるべきか・・・。
雅和さんは夜遅く帰ってきた。思ったよりも被害が少なくって本部は一応解散。宿直の職員に任せて帰ってきたらしい。
雅和さんは寝ているちびちゃんたちの寝顔を見て微笑むと、スーツを脱いでお風呂に入り寝る。あたしは雅和さんと同じ布団の中で眠ろうとしている雅和さんに言ったの。
「雅和さん・・・明日急に友人と会うことになったの・・・。出かけていいかな・・・。」
「んん・・・行っておいでよ。遅くなるようだったらちゃんと電話を入れるんだよ。僕は明日本会議があるからもう寝るよ・・・。光子さんにちゃんとベビーシッターを頼みなよ。」
「うん。」
あたしは従うって言うか、明日きちんとケリをつけようと思ったの。
つける事が出来たらいいけれど・・・。