ドリーム・クエスト (32)新生活
4月、彩子のお父さんから、マンションを受け継いだ。お父さんは3月末までに名義変更をしてくれて、この俺の名義にしてくれたんや。もう築7年。内装だけでもリフォームしようと思って、俺と彩子はリフォームが終わるまで2人で議員宿舎に仮住まい・・・。ま、二階堂もいるわけなんだけど・・・。
工事中は近所迷惑だから俺と彩子は近所に挨拶にいた。もちろん公人である俺と彩子が挨拶に来たもんだからみんな驚いてたりしたけど・・・。5月末には完成。そして引っ越す。ここで新しい生活が始まるんだ。
もちろん完成後は、もう一度引越しのご挨拶に回り、議員宿舎のほうは返上した。ま、二階堂はビジネスホテル住まいをしてもらったんだけどね・・・。もう堂々と2人で夫婦生活が出来ると思うとうれしくてたまんないよ。
新生活が始まるということで、俺は姉貴の言ったとおり、彩子を連れて表参道近くの姉貴の病院へ行く。もちろん彩子にいっていない。姉貴は日曜日というのに俺たち夫婦のために診察室を開けてくれる。
「なに?どこに行くの?和気さん。」
「ん?ちょっとな・・・。将来のためにしておかないといけない事があるんや。」
そう・・・この俺には後継者が必要や。姉貴が言うようにもし子供が出来にくい体だったら???
姉貴の病院は結婚前にこういう検査をしましょうって言うことを推奨しているんだ。出来るだけ早めに治療していたほうがいいというし・・・。でもこれはあくまでも二人の意思を尊重した上でのことで・・・。でもうちの場合は死活問題。政治家やからね・・・。
「え、ここって・・・。」
彩子は産婦人科の前だったから驚いてたよ。というより怒ってた。
「何で?私妊娠してないし、どこも悪くないし・・・。」
「ここは姉貴の病院だよ。姉貴と約束しているんだ。」
「嫌よ。」
「いいから、俺たちには子供が必要だろ・・・。まだ先だといっても・・・。姉貴の話を聞くのもいいんじゃないかな・・・。」
なんとか彩子は姉貴に会ってくれた。姉貴はやさしくそして詳しく彩子に話してくれて、何とか納得してくれた。
「そうだよね・・・欲しい時に和気さんの子供が出来なかったら悲しいもんね・・・。わかった・・・。」
「ごめんな・・・。」
こういう検査は結構辛いって聞いたんだ。案の定彩子はつらそうな顔をして俺の顔を見た。そして俺は彩子の手を握り締めて、終わるのをまったんや。
姉貴は彩子の診察結果と、先日受けた俺の結果を見て溜め息をつく。
「姉貴、ちゃんと言ってくれよ。」
「んん・・・いい?ショックを受けないでよ・・・。」
俺と彩子は向かい合ってうなずいた。
「まず泰明、この前の検査の結果なんだけど・・・。あんたは数が少ないよ。普通の数%ってところかな・・・。まあ原因はお母さんから聞いたからわかったけどね・・・。彩子さんは卵管が癒着していて・・・。それをなんとかしないと・・・。もしかしてそれだけじゃないかもしれないけれど・・・。どうする?大変だけど、治療するの?彩子さんは何とかなるかもしれないけれど、泰明がね・・・。二人でよく相談して決めなさい。私がちゃんと協力してあげるから・・・。」
姉貴はうなだれながら、診察室を出て行く。
やっぱりこの前できなかったのはそういうことか・・・。
最悪な結果・・・。
俺たちは姉貴の病院を出て自宅に戻った。複雑・・・。
「和気さん、私まだ子供要らないから、欲しくなったら病院行くよ。まだ私たちには必要ないからきっと出来ないんだよね・・・。」
「きっと神さんが僕らに必要になったら授けてくれるんだし、まだ気楽に過ごそうか・・・。」
「うんそうだね・・・。」
ま、このときはホントに子供はまだまだだと思っていたから、治療はしないことにしたんや。
この選択が将来苦労するきっかけになるなんて思ってなかったけどな・・・。