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2012年の気候

 気象庁によると、2012年の全球平均気温は1981~2010の平均気温に対し+0.15℃となる見込みであるとのことです。これは、観測史上第8位の高温となります。


気象庁HPより

 イギリス気象庁の予想―2012年は、過去最高ないし過去2位の高温を記録した2010年ほどの高温にはならないが、観測史上のトップ10には入るだろう―は正しかっと言えそうです。
 イギリス気象庁は、毎年、翌年の全球平均気温の予想を発表しています。ここ数年、この予想は非常によい精度で的中しています。毎日の天気のようなカオス的振る舞いが強く働くものの予想は未だに難しいものですが、線形性が比較的強い「全球の平均的な気候」であれば、それなりの精度で予測できるようになりつつあると言えるかもしれません。
 さて、2013年はどうなるでしょう?イギリス気象庁は、"2013年の全球平均気温は、1961-1990年の平均気温に対し+0.43℃~+0.71℃になると予想される。2013年は観測史上最も高温な年の一つとなる可能性が高い(過去最高は2010年の+0.54℃)"予想しています
 さて、どうなるでしょうか?
 


おや?

 池田信夫氏といえば、地球温暖化に懐疑的立場をとる代表的人物だったはずですが、
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20121203-00000301-agora-pol
で「(中略)原子力をゼロにすると大気汚染や気候変動などのリスクが大きくなる」と主張されてますね。
 twitterでも、「地球の平均気温が上っていることは科学的事実。その原因については諸説あるが、人為的な要因があることも事実」「エネルギーをほぼ100%化石燃料に依存して、安全保障や気候変動のリスクは大丈夫なんですか?」との書き込みが。
 確かに、池田氏はガチガチの懐疑論者(というか否定論者)という感じではなかったのですが・・・。これはちょっと意外です。私が知らないだけで前からこれに類する主張はあったのかな?

南極とグリーンランドの氷床融解

 これまで何度か、グリーンランドや南極の氷床融解に関する記事を書いてきました(例1例2例3)。
 現在の海面上昇の主因は熱による海水の膨張ですが、氷床の融解もまた海面上昇をもたらします。ただ、それがどの程度になるのか見極めるのは難しく、いくつか報告はあるものの、不確かさの大きいものでした。


熱膨張・氷河の融解・氷床の融解が海面上昇へ及ぼす影響。気象庁HPより、再掲




 先日、新たにNASAが氷床融解が海面上昇に及ぼす影響を見積もった報告が発表されました。
http://www.sciencemag.org/content/338/6111/1183.abstract
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121130-35025090-cnn-int

 この研究はNASAと欧州宇宙機構が共同で行ったものです。両者が所有する複数の人工衛星データを組み合わせることで、これまでより正確に氷床の変動をとらえることが可能となりました(どんな手法を用いても推定値はよく一致していた)。
 これによると、1992年から2011年までに失われた氷床の質量は、
グリーンランド:142±49Gt/年(=1420億トン±490億トン/年)
東南極:-14±43Gt/年
西南極:65±26Gt/年
南極半島:20±14Gt/年
合計:213±72Gt/年

であり、これは全球平均で0.59±0.2mm/年海面を上昇させる計算となります。




南極(紫)、グリーンランド(青)、両者の合計(黒)の氷床の変化。
左軸が質量の変化を、右軸が海面上昇への寄与を示す。DOI: 10.1126/science.1228102より



  2007年のIPCC第4次評価書では、「氷床融解の海面上昇への寄与は0.42±0.42mm/年」でした(1993-2003年での見積もりであり、今回の推測と同一には扱えません)。この頃に比べると、見積もりの誤差はずいぶんと縮小しました。
 上図を見ると明らかなように、特にグリーンランドでは今世紀に入った頃から融解が急加速していることが分かります。2005-2010の6年間に限定すると、南極とグリーンランドで失われた氷床の質量は344±48Gt/年に達し、これによる海面上昇は0.95±0.13mm/年となります。



年代ごとの氷床融解量。東南極以外では融解が明らかに加速している。DOI: 10.1126/science.1228102より。
GrIS:グリーンランド APIS:南極半島 EAIS:東グリーンランド WAIS:西グリーンランド 
AIS:全南極 GrIS+AIS:グリーンランド+南極


 氷床の融解は特にグリーンランドで予想を上回る速度で進んでいることが今回の報告でも裏付けられたと言えるでしょう。

温暖化と昆虫の関係

 地球温暖化に伴い、多くの昆虫(その中のいくつかは害虫)の分布が拡大していることはよく知られたことでしょう。
http://eco.nikkeibp.co.jp/em/column/torii/41/index.shtml
http://www.asahi.com/special/NorthPole/TKY200608070333.html
 その一方で、昆虫の増加がさらなる温暖化をもたらす、という報告がありました(この場合の温暖化は、地球全体の温暖化というよりその地域の温暖化と捉える方がより適当でしょう)。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121127-00000016-jij_afp-int
http://www.nature.com/ngeo/journal/vaop/ncurrent/full/ngeo1642.html
 温暖化でキクイムシが北上→その一帯の木材が枯死→蒸散作用の喪失→温暖化という流れです。温度上昇幅は1℃にも達するというのは驚きです。本当に、地球と生物の関係というのは、相互的なものなのだなあと実感させられます。
 なお、キクイムシの増加はカナダだけではありません。先に紹介したアラスカもそうですし、日本でも増加しているのです。
http://column.odokon.org/2007/0327_180100.php

 そういえば温暖化に伴いいくつかのシロアリ(日本では特にイエシロアリ)の分布が拡大しているのも有名な話ですが、シロアリはセルロースを腸内細菌で発酵する際に、強力な温室効果ガスであるメタンガスを発生します(全球で放出されるメタンの数%程度がシロアリ起源とも)。
 では、温暖化に伴うシロアリの増加は温暖化にどの程度寄与するのだろうか、などとふと思ったのでした。まあキクイムシとは温暖化のメカニズムが違いますが。

 なお、「昆虫の分布拡大の原因は、温暖化ではなく都市化や流通の拡大のため」という反論がよくあります。実際、これはある種の昆虫にとってはその通りで、地球温暖化とは無関係に拡大している種もあるでしょう。しかし、地球温暖化をその要因とする場合も数多くあるのです。
 総括すると、「地球温暖化や都市化の進展や流通の拡大などが組み合わさって、ある種の昆虫の分布域は拡大している」ということになると思います。

海洋酸性化の足音②

 以前にも海洋酸性化の問題を紹介しましたが、このところ酸性化に関するニュースがいくつか続けて流れています。
・浮遊性巻貝の殻が溶解
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121126-00000026-jij_afp-int
・北大西洋で急速なpHの低下が観測されている
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=00020121121003&expand#title
・日本近海でも同様
http://mainichi.jp/feature/news/20121121ddm012040054000c.html


日本近海(東経137°線上)のpHの変動。この30年でpHにして0.05ほど低下したことになる。気象庁HPより。

 この要因は大気中の二酸化炭素濃度の増加にあることは疑問の余地がありません。二酸化炭素濃度(世界平均)は今年も観測史上最高を更新し、390ppmに達しました。(そういえば、「大気中の二酸化炭素濃度が増えているのは海洋から二酸化炭素が放出されているからだ」と主張する例がありますが、海洋酸性化という現実とどう折り合いをつけるのか、聞いてみたい気がします。)

 海洋酸性化は、生態系への深刻なダメージのほか、海洋が吸収する二酸化炭素が減少するため大気中の二酸化炭素濃度上昇に拍車がかかるという側面も持っています。個人的には、海洋酸性化は化石燃料の燃焼により生じるさまざまな影響の中でも、最も深刻なものになりうる可能性があるのではないかなどと思っています。