ヘリウム不足
お久しぶりです。北海道出張があったり(人生初北海道!)、某予算が採択されたりと、なかなか盛りだくさんな日々でした。
さて、唐突ですがヘリウムがありません。
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00235869.html
今年の初夏くらいから業者の方から供給が厳しいとは聞いていましたが、ついに「少なくとも年内は供給できないかも」ということになってしまいました。
ヘリウムは実験でも頻繁に使います。私のところではGCやGC/MSがメインで、状況によっては蛍光X線分析等にも用います。使用量は多くないので、在庫分でしばらく大丈夫ですが、来年になっても供給できないとなると困ります。これらの機械は停止するか、あるいはシステムの変更が必要になります(したくないけど水素で代用するか・・・)。
私たちはまだマシですが、液体ヘリウムを大量に使うNMRを扱う所は大変でしょうね。これは代わりになるものもないですし。
そして何より、医療の現場が大変でしょう。紹介した記事にあるとおり、MRIなどの医療機器は大量の液体ヘリウムを用います。医療分野に最優先で供給しないといけないのは当然なので、もし供給が再開されても、私たちはしばらくは我慢せざるをえないかもしれません。
ヘリウムという宇宙で2番目に多く存在する元素がちょっと手に入りにくくなるだけで、高価な科学・医療機器が、単なる箱になってしまうのですねえ・・・。
さて、唐突ですがヘリウムがありません。
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00235869.html
今年の初夏くらいから業者の方から供給が厳しいとは聞いていましたが、ついに「少なくとも年内は供給できないかも」ということになってしまいました。
ヘリウムは実験でも頻繁に使います。私のところではGCやGC/MSがメインで、状況によっては蛍光X線分析等にも用います。使用量は多くないので、在庫分でしばらく大丈夫ですが、来年になっても供給できないとなると困ります。これらの機械は停止するか、あるいはシステムの変更が必要になります(したくないけど水素で代用するか・・・)。
私たちはまだマシですが、液体ヘリウムを大量に使うNMRを扱う所は大変でしょうね。これは代わりになるものもないですし。
そして何より、医療の現場が大変でしょう。紹介した記事にあるとおり、MRIなどの医療機器は大量の液体ヘリウムを用います。医療分野に最優先で供給しないといけないのは当然なので、もし供給が再開されても、私たちはしばらくは我慢せざるをえないかもしれません。
ヘリウムという宇宙で2番目に多く存在する元素がちょっと手に入りにくくなるだけで、高価な科学・医療機器が、単なる箱になってしまうのですねえ・・・。
北極海の海氷面積、有史以来最小に
NSIDC HPより
今年の北極海氷面積の最小値は341万km^2となりました。これは、従来の最小値であった2007年の417万km^2を大幅に更新するものであり、1979-2000年までの平均値から比べると半減したことを意味します。
気候変動覚え書きのページでも繰り返し述べられていますが、もはや「終わりの始まり」に到達してしまったのだろうと思わざるを得ません。IPCC AR4の予測よりも早く、(早死にしなければ)私が生きているうちに北極海の海氷が夏には消失してしまうだろうこと、もはや疑いないことだと思います。
北極は地球温暖化の影響をいち早く受けることは分かっていました。が、これほどの速度であったかという驚きがあります。前にも書きましたが、地球工学的手法を考えざるを得ない時期にきてしまったように思えてなりません。
・・・地震予知に失敗したからと禁固4年が求刑されるような現状では、地球工学的手法はなかなか採用されないだろうなあ、とも思いますけどね。
気候変動覚え書きのページでも繰り返し述べられていますが、もはや「終わりの始まり」に到達してしまったのだろうと思わざるを得ません。IPCC AR4の予測よりも早く、(早死にしなければ)私が生きているうちに北極海の海氷が夏には消失してしまうだろうこと、もはや疑いないことだと思います。
北極は地球温暖化の影響をいち早く受けることは分かっていました。が、これほどの速度であったかという驚きがあります。前にも書きましたが、地球工学的手法を考えざるを得ない時期にきてしまったように思えてなりません。
・・・地震予知に失敗したからと禁固4年が求刑されるような現状では、地球工学的手法はなかなか採用されないだろうなあ、とも思いますけどね。
ウィリ・ダンスガード&ハンス・オシュガー①
左:ウィリ・ダンスガード(Willi Dansgaard)、1922-2011、デンマーク
中央:チェスター・ラングウェイ(Chester Langway)、1929-、アメリカ
右:ハンス・オシュガー(Hans Osechger)、1927-1988、スイスアイスコアによる古気候の再現、ダンスガード・オシュガーサイクルの発見
久しぶりの研究者列伝は、二人同時紹介になります。これまで、古気候を再現する方法として同位体分析を紹介してきました。貝殻化石を用いたユーリー。海底堆積物に含まれる有孔虫化石を用いたエミリアーニとシャックルトン。しかし、同位体比が保存されるのは何も生物だけではないはずです。
ダンスガードはかなり早い段階で氷床に目をつけていました。シャックルトンは、「氷床の量に応じて海水の同位体比が変化するため、海水を利用するプランクトンの同位体比が氷床の量に応じて変化する」ことを見出しました。ならば、氷床そのものに含まれる同位体比を分析すれば面白いデータが得られるのではないか?
「軽い水」と「重い水」の循環を示す図。氷床が発達するほど、海水は重い水が優越することがわかる。
ところで、氷床もの同位体比も変化しそうじゃないか?山形大学HPより(再掲)。
ところで、氷床もの同位体比も変化しそうじゃないか?山形大学HPより(再掲)。
この予想を裏付けるために、ダンスガードは世界各地で雨や雪を採取しそこに含まれる酸素の同位体比を分析することから始めました。南極点からグリーンランド北部まで、まさに世界中の水を分析したと言えます。そして1964年、その成果を"Stable isotopes in precipitation(降水中の安定同位体)"としてまとめました。結果は驚くべきものでした。同位体比は複雑な要因が絡む現象であるにも関わらず、「降水中の酸素同位体比は気温と単純な相関がある」ことが見出されたのです。

平均気温(横軸)と降水中の酸素同位体比(縦軸)の相関。Stable isotopes in precipitation(1964)より。
降水に含まれる酸素同位体比は気温と相関があるのならば、グリーンランド氷床に含まれる酸素同位体比を分析すれば、その氷ができた時代の気温が再現できるに違いない!ダンスガードは確信を深めました。とはいえ、極寒のグリーンランドに氷床掘削用のボーリング機材を持っていくことは容易いことではありませんし、硬い氷床を掘り進むのも簡単なことではありません。そもそも多大な予算が必要です。
ところが思わぬ幸運がありました。当時は米ソ冷戦の只中で、グリーンランドには氷床内部をくりぬいて作った米軍基地があったのです。そしてその基地で実験的に氷をボーリングしたことがあり、長さ1km以上におよぶアイスコアが保管されていたのです。ダンスガードはアイスコアの提供を申請し、その申請は受け入れられました(申請を受け入れたのが、最初の写真で真ん中に写っているラングウェイ)。
そして1969年、グリーンランドのキャンプ・センチュリーという地点で採取したアイスコアに基づいた過去10万年分の酸素同位体比の再現に成功したのです。

過去10万年分の酸素同位体比の変化(a)。b~dは他の指標との比較。
DOI:10.1126/science.166.3903.377 より。

過去10万年分の酸素同位体比の変化(a)。b~dは他の指標との比較。
DOI:10.1126/science.166.3903.377 より。
この頃はアイスコアの年代決定法も未発展で、アイスコアの採取場所も最適とは言えませんでした。そのため破線で示されている部分もあったりします。それでも明らかに分かることがあります。
・約7万年前~約1万年前にかけての最終氷期には、酸素同位体比は今より確実に低下しており、アイスコアの酸素同位体比はやはり古気温の再現に役立つらしい。他の指標とも齟齬はない。
・最近の1万年は極めて安定した気候が続いているが、最終氷期には気温が激しく上下する不安定な気候であったらしい。
詳しいグリーンランド氷床の酸素同位体比変化(図下、上は南極氷床)。wikipediaより。
・約7万年前~約1万年前にかけての最終氷期には、酸素同位体比は今より確実に低下しており、アイスコアの酸素同位体比はやはり古気温の再現に役立つらしい。他の指標とも齟齬はない。
・最近の1万年は極めて安定した気候が続いているが、最終氷期には気温が激しく上下する不安定な気候であったらしい。
これらの推測は多くの研究により裏付けられ、現在では広く受け入れられています。当時まだはっきり分かっていなかったアイスコアの年代決定法も洗練され、今ではさらに詳しい酸素同位体比のグラフも得られています。

それにしても、氷期における猛烈なまでの酸素同位体比の変動は一体何を意味しているのでしょう。単なるノイズなのか、本当に過去の気温変化を示しているのか?そして、さらに重要な問題があります。アイスコアのデータはグリーンランドの古気候を表しているのは間違いないようだが、これは局地的なものにすぎないのか、それとも全地球に当てはまることなのか?
これを確かめるには、別の場所から別の指標を手に入れ比較するしかありません。アイスコアの掘削は各地で行われ研究が進みました。その過程で、アイスコアは酸素同位体比以外の新たな指標を私たちに与えることにもなりました。
次回に続きます。
参考文献
これを確かめるには、別の場所から別の指標を手に入れ比較するしかありません。アイスコアの掘削は各地で行われ研究が進みました。その過程で、アイスコアは酸素同位体比以外の新たな指標を私たちに与えることにもなりました。
次回に続きます。
参考文献
温暖化の<発見>とは何か
http://www.msz.co.jp/book/detail/07134.html
チェンジング・ブルー
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/00/1/0062440.html
氷に刻まれた地球11万年の記憶
http://www.junkudo.co.jp/detail.jsp?ISBN=478972283X
地球化学講座7 環境の地球化学
http://goo.gl/NGJVd
THE HISTORY OF EARLY POLAR ICE CORES
http://www.crrel.usace.army.mil/library/technicalreports/ERDC-CRREL-TR-08-1.pdf
「ゼロリスク」社会の罠
私、この本の著者の佐藤さんのHPには、もう10年近くお世話になっています。その佐藤さんの最新刊が、この『「ゼロリスク社会」の罠』。
リスクとは何か。リスクをゼロにするというのがどれほど非現実的なものなのか。分かりやすく説明した本です。非常に平易な文章で書かれており、放射能や農薬汚染などに神経を尖らせている人にこそぜひ読んで欲しい本です。超おすすめです。
さて、地球温暖化という巨大なリスクを、「ゼロリスク社会」の中でどのように位置づけるべきなのか・・・。