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「不動産リテラシーの向上で老後の安心生活を」シリーズ投稿始めます

中小企業診断士 桑岡伸治のブログです。このたび、「老後の安心生活」実現を目的に、不動産に関する様々な情報を提供するシリーズ投稿をはじめます。
はじめにプロローグをお読み下さい。
ひとりでも多くの方が、Happyになりますように!

 不動産投資を始めるとき、「売却のこと」考えていますか?

 

 「不動産投資編第3回「リターン」を分解してみれば…」の中でも説明しましたが、「リターンは、インカムゲイン、キャピタルゲイン」の合計です。

 

 「株」に投資した人は、その日から「上がったか下がったか」、つまり「今、売ったらいくらで売れるか」ずっと気にしています。なんなら、仕事中もスマホをチェックして上司の注意を受けたりしています。(笑)

 それはなぜか、株式投資では「リターンの多くがキャピタルゲイン」だからでしょう。「値上がり益」に比べれば、配当はわずかなことが多いので、「いくらで売れるか」に意識が集中するのです。

 

 不動産投資の場合は、「毎月入ってくる家賃がうれしくて」(笑)、ということでもないと思いますが、ついつい「売却」に対する対策がおろそかになっているということはないでしょうか?

 投資は「売却」をもって完了、「利益確定」となります。不動産投資においては、この売却のことを「出口」という言い方をします。だから、売却を想定した取り組みを「出口戦略」といいます。

 

 この出口戦略は、投資の検討段階から、投資期間中を通してずっと持ちつづけなければなりません。なぜなら、思いのほか「不動産価格の変動」は大きく、価格下落によって大きな損失につながることが珍しくないからです。

 身近に70、80代の方がいらっしゃるようでしたら、バブル期に、「その方のご自宅がいくらで売れたか」(もしくは、誰かが買いに来たか)尋ねてみられるとよいと思います。現在の相場の10だったということも珍しくないはずです。

 私がかかわった、ある地方都市の土地は、80億円の取引がまとまる直前でリーマンショックが起きて商談は白紙になり、数年後に売却したときの金額は24億円でした。

 

 「将来いくらで売れるのか」を予想することは、かなり難易度が高いことだと思われます。 そもそも売却時期は、5年後か10年後か…。当然、長期の投資ほどリスクが高い、つまり「何か」が起こる可能性が高くなります。地震かもしれないし、恐慌かもしれないし、戦争かもしれないし、未曽有の好景気かもしれません。

 いずれにしても、売却しようと思う「その時の経済状況」は、自らの努力では如何ともしがたい「外部環境要因」によって形成されます。

 

 そこで結論です。

 結局のところ、不動産オーナーが「売却時の価格をなるべく高くするためにできること」は、「二つ」しかありません

 一つ目は、「市場環境の良い時、すなわち売り手市場のマーケットの中で売却すること」、二つ目は「インカム(NOI)を落とさない、できれば増やす」ということです。

 

 前者については、売却時期を売主が選択できること、つまり「売らなければならない状況に追い込まれないこと」が大切です。

 これを実現する方法は、「余裕を持った返済計画」に尽きます。「返済期間をできるだけ長くとって月々の返済額を抑える」「万一、家賃が入らない期間があっても穴埋めできる余裕資金をもっておく」「過度なレバレッジをかけない」等が具体的な対策です。

 

 誤解しないでいただきたいのは、30年とか35年のローンであっても、常に「今、売却したらどうか」を想定しておくことです。

 不動産投資ファンドの投資期間は、通常は数年です。「売却」ついては、ある意味「常にアイドリング状態」で、運用期間の「出口」のタイミングをにらみつつ、よい売却先を探します。インカムゲインとキャピタルゲインをうまく組み合わせて、つまり、「利益確定」を何度か繰り返して、効率的な運用を目指します。

※注 売却を上手に活用する投資法のイメージは「不動産投資編 第7回 「安心老後」への道~ロードマップ」をご参照下さい

 

 結果的に20年、30年保有することになったとしても、それは、少なくとも数年ピッチでの「出口戦略」の見直しの結果であるべきだと考えます。

 

 そして、後者に関しては、物件が「賃借人からみて魅力的な状態を維持する」ことに尽きるでしょう。具体的には、「誠実で力のある管理会社を選ぶ」「原状回復のみならずバリューアップのための投資を行う」そして「良質なテナントを選ぶ」等です。

 「賃料水準」と「稼働率」を維持、向上させる努力、そして、無駄な「支出」を削減することについて、注意を払っておくことが大切です。

 

 売却価格は、年間のNOIの15倍から25倍にもなります。

 「NOI利回り5%」で売却できる物件であれば、増額したNOIの20倍が、売却金額の上乗せ分になります。たとえば、1年間のNOIが50万円増えれば1,000万円高く売れるということになります。そう思えば頑張りがいがありますね。

 

 ある地方中核都市の閑静な住宅街に80歳代の男性がお住まいになられていました。奥様はすでに他界、二人の子供さんは、離れた場所で住んでいます。ご自宅の土地は、130坪程、時価は保守的にみて1億5000万円以上です。

 この方に、あるハウスメーカーが賃貸マンション建設を持ち掛けてきました。約130坪の土地に延床面積で258坪程の5階建て建物です。投資額は2億5000万円を超えます。

 

 問題は、この賃貸マンションから得られる家賃収入です。周辺相場から算出した予想賃料に基づくNOI(Net Operating Income)は、満室時でも年間1500万円程にしかなりません。投資総額に対する利回りは6%、しかし、土地も時価相当額で投資したとみなせば、投資総額4億円、NOI利回りはわずか3.75%です。(売却のときは、「土地建物合計額に対する利回り」で価格が決まります。)

 

 この時、営業マンが使った殺し文句が「相続対策」、そして「35年の家賃保証」です。私は、このタイプの投資勧誘は詐欺も同然とみています。それではこの賃貸マンション建設(=不動産投資)は、何が問題なのか示したいと思います。

 

①投資リターンが低い

 周辺エリアの投資用1棟マンションの取引相場は、NOI利回りで5.5%~6.0%、これは当然ですが、土地建物を合わせた売買金額に対する利回りです。この投資案件では、土地代を除外した投資額に対するNOI利回りが6.0%、という水準であり、これがどういう意味を持つかということはすぐにお分かりになるでしょう。

 

 実質的には「NOI利回り3.75%の投資」を誘引すること自体、大変問題が大きいと言わざるを得ません。そして、この大きな原因は、建築コストにあります。

 

 もう一つ、思い出していただきたいのは、この場所が自宅であったことです。このオーナーは、自分の居住スペースをこの建物内に確保しなければならず、その分だけ収入は減って、実際のNOI利回りはさらに低い水準となるのです。

 

 それでも、保有している分には2億5000万円の6%、約930万円のインカムゲインがあります。ただし、そこから借入金の元利返済が差し引かれます。年利1%、35年返済で調達できたとして、1年間に847万円の返済額です。NOIとの差額83万円(これが手取り額)。ここから所得税や住民税を支払います。少しでも空室があれば、持ち出しになる水準で、とても心配になります。

 

②売却価格が低下する

 投資利回りが低いことの問題点は、売却時に一気に露呈します。売却時(もちろん「土地建物」!)の価格は、「収益還元法」で決まります。NOIが新築当時の1500万円で維持されていたとしても、NOI利回り5.5%の売却で、2億7272万円、6.0%で2億5000万円、ほぼ「建物分」にしかなりません。

 『賃貸マンションを建ててしまったために、土地の価値がほぼゼロになってしまった』ということなのです。しかも、80代の高齢者に、投資リスクを負わせているのです。

 

③相続対策になっていない

 最大の問題点は、実は、この事業自体が相続対策になっていないということです。この土地の前面路線価は1㎡あたり235千円、坪単価776千円です。仮に更地であれば、相続税評価額は約9300万円ですが、別居する子供たちは持ち家住まいではなく、特定居住用宅地として、330㎡までの部分について80%の評価減の対象です。金融資産などを含めても正味の遺産額は、基礎控除額を下回っているか、上回ったとしてもわずかである可能性が高いのです。

 つまり、相続対策としてなら賃貸マンションを建設する必要はなかったと言えるのです。

 

 このように、低収益の賃貸マンションを建設することは、相続税の節税効果が薄く、場合によっては逆効果になってしまうのみならず、売却時に大きな不利益を被る可能性が極めて高いのです。この事実を、果たしてハウスメーカーの営業マンがどこまで認識し、顧客に説明したのかはなはだ疑問です。

 

 蛇足ですが、相続対策は「節税対策」だけではありません。「納税資金の確保」や「円滑な遺産分割」も対策が必要な重要なポイントです。

 特に相続人が複数の場合、不動産があることにより円滑な遺産分割を妨げる、つまり「争族」の原因になることもあります。高齢の土地所有者は、「相続対策」という言葉に弱く、しかも、自分の本当のニーズがどこにあるのか把握していないことも珍しくありません。

 企業側の姿勢について大きな疑問を持つと同時に、所有者側にも慎重な検討を呼びかけたいと思います。

 

 下図は、「国立社会保障・人口問題研究所」が公表している2035年と2050年の総人口指数(2020年=100)である。(末尾に47都道府県版を掲載する。)

 2050年には東京都以外の道府県すべてが5%以上、37道県が20%以上の人口減少と予想されている。さらに、同研究所は、2070年の日本の総人口を8,700万人と推計しており、これは30%以上の減少である。

 

 タワマン(タワーマンション)の統一的な定義はないが、一般的には20階以上の超高層マンションを指す。これは、60mを超える高さの建物を指して「超高層建築物」という言葉が使われ、この定義をタワマンに当てはめると、「ちょうど20階で高さ60mを超えてくるから」ということらしい。

 

 超高層マンションは世界中にあるが、50階を超えるような大規模なものは、通常はニューヨークやドバイ、香港といった大都市に存在する。日本でも、40階、50階といった規模のものは、東京や大阪もしくはそれに次ぐような都市に立地するが、20階建て  規模のものは、地方都市でも建設、もしくは計画されている。

 先ごろ、東京、国立市の10階建てマンションが、「富士山をさえぎる」という理由(それだけが理由かどうかは不明)から、事業主の積水ハウスが、「完成間近になって建物を解体する」と発表、ちょっとしたニュースになったが、これ以外でも高層マンションは「景観を損ねる」として、各地で問題になっている。

 

 鉄筋コンクリート造建築物の法定耐用年数は、税務上47年、構造躯体の寿命という面では、60年とも100年とも言われており、「今」建築されたタワマンは、22世紀にも存続している可能性が高い。60年、100年といえば自分とは関係ない「遠い遠い未来」に思えるが、香港は99年の租借期間を終えてイギリスから中国に返還されたし、高度成長期に建てられた分譲マンションは、半世紀以上が過ぎ、次々と「寿命」の問題が現実になっている。

 

 ほとんどの地方(県)で、10年後には1割、25年後には2割も人口が減少する中で、そのすべてが高層マンション以外の居住者であると考えるのは現実的ではない。今は新築のマンションも、交通不便な戸建住宅ほどではないにしても、「相続人がいない」、あるいは「相続人が不明」なために空きとなる住戸が、四半世紀も経たないうちに出始めるということだ。その時、(人口が2割も減った中で)入れ替わりに入ってくる新たな居住者はいるのだろうか。移民政策に消極的な日本政府の姿勢を踏まえれば、外国人の購入者は考えづらい。

 外国人の購入者がいるとすれば、「投資目的の富裕層」なのだろうか。その時「地方」のタワマンが、東京のように投資対象になるのだろうか。日本の富裕層は、「相続税対策」でタワマンを購入しているが、相続人が住まないときに、そこを借りる人はいるのだろうか。

 

 そんなことを考えていくと、よほどの「楽観主義者」でなければ、地方のタワマンに明るい未来は描けないのだ。

 

 もう一つ、「都市計画」という点で、タワマンが「まちや地域の魅力」を削いでいることに思いを巡らせて欲しい。

 

 はじめてラスベガスに行った時のことを思い出す。空港のゲートを出たとたん、そこにはスロットマシーンが並んでいた。そして、それは「お飾り」ではなく、実際に億単位の「配当」可能性がある「本物」だった。街なかに入れば、そこは「カジノ」を楽しむための別世界。視界に入るものすべてが、「カジノ・ワールド」に徹していたのだった。

 日本でも、東京ディズニーランドやUSJは、同じ発想の「夢の国」、夢を見るからには現実に引き戻すような建物は視界には入らないように、計算し尽されている。

 それに引き換え…京都駅に降り立った時の悲しい景観は何だろう。「そこにしかないもの」を「どこにでもあるもの」でぶち壊す感覚は、どこから来るのだろう。

 

 こんなことを愚痴ったのには訳がある。これからの日本経済のけん引役は紛れもなく「観光ビジネス」、しかもいま進行しつつあるような騒々しい観光ではなく、景観と同時に人との交流を通じて育まれる「体験型、滞在型の旅行」が主流になっていくからだ。

 

 大都市は大都市の、地方のまちは「地方のまち」の良さがある。

 ヨーロッパの田舎町に行けば、中世から続く教会を中心に、広場を囲む土産物屋やレストラン、カフェがあり、住民は同じ建物の上階に住む。レストランもカフェも、観光用でもあり住民の生活のためでもある。

 観光客と住民のちょっとした触れ合いは、歴史と文化を守りながらそこに生きる人々の暮らしぶりを、感じさせる。この人たちは、絶対に自分都合で高い建物を建てようとは思わない。景観は、住民の共有財産であり、意識せずともその価値を大切に守っている。自分だけが景観を独占しようなどという発想は、そもそもあり得ないのだ。

 

 タワマン居住の価値には「景観」が占める割合も大きいという。それが証拠に、上階に行くほど価格が高い。「階層カースト」なる言葉さえあるという。タワマンから見える景観が「大きな価値」だとして、一部のタワマン住民のために他の住民の「景観」を奪う権利がどこにあるのだろうか。

 高層建築物が林立する都市ならそれもよし、それ自体が景観を形成する一部であり「摩天楼の夜景」という新たな価値を創造しているのだから。だが、地方都市においては、駅前だけの「ポツンと一棟マンション」だ。「馬籠宿」や「白川郷」の背景に高層 建築物がそびえ立つことを想像すれば、その異様さが分かろうというものだ。

 そして、数十年後、某地のリゾートマンションや観光ホテルのように廃墟化してしまったとしたら、その取り壊しは誰がおこなうのであろうか。

 

 日本という国は、つくづく「箱モノ」が好きな国だと思う。しかし、世の中は変遷する。その時「歴史遺産」となるものもあれば、壊してしまわなければならない「負の遺産」もあるだろう。建物を建てるということは、不要になった時には「元に戻す」ということまで含めての責任があるはずだ。

 

 繰り返すが「景観」は共有財産であり、その価値を毀損する権利は誰にもない。そのうえ、22世紀を生きる人々に「尻ぬぐい」をさせるようなことは、絶対にあってはならない。行政は、そのことをもっともっと問題提起し、議論し、都市計画を決めて行かなければならないはずだ。タワマン再開発で、街が活性化するという幻想(しばらくは活性化するかもしれないが)と、土地所有者とデベロッパーが手にする、「目先の利益」のために、本来の町や村の魅力を消し去ってしまうことが無いように願うばかりだ。

 不動産を売買した時の仲介手数料(媒介報酬)の上限は、宅地建物取引業法により次のように決められています。

取引金額

仲介手数料の上限

(取引金額に対する割合)

200万円以下

5.5%

200~400万円以下

4.4%

400万円超

3.3%

・低廉な空家等(売買代金や交換などにかかる費用が400万円以下の土地・建物)については、上記の計算式で算出された金額+当該現地調査に必要な費用の金額以内(18万円の1.1倍を超えない額)。

・取引金額は「消費税等相当額」を含まない。仲介手数料上限額は、「消費税等相当額(10%)」を含む。

 

 それでは、賃貸物件の報酬はというと、次の通りとなります。

「消費税等相当額を含まない賃料」の1月分の1.1倍に相当する金額(「消費税相当額(10%)」を含む。)

・居住の用に供する建物の賃貸借の媒介に関して依頼者の一方から受けることのできる報酬の額は、依頼者の承諾を得ている場合を除き、借賃の1月分の0.55倍に相当する金額以内

 

売買において、例えば売買金額が1,000万円だとすると、「400万円超」なので、1,000万円の3.3%、33万円が手数料額かというと、そうではなくて、下記のように取引金額区分ごとに計算した金額の合計になります。

200万円×5.5%+(400万円-200万円)×4.4%+(1,000万円-400万円)×3.3%=39.6万円

 

不動産の売買取引においては、売買金額が400万円を超えることが多いので、仲介業者は簡易に「(税別)売買金額×3%+6万円+消費税等相当額」という計算式を用いて上限額を計算します。そしてこの「3%+6万円」は、彼らの意識と行動に強い影響を及ぼしています。

すなわち、次のような力学が営業マンにも組織にも働くことになります。

 

① できれば「高額物件」を扱いたい。

 1000万円の物件でも、1億円でも同じ「3%+6万円」、つまり似たような労力(実際には同じではありませんが)で報酬が約10倍も違ってきます。小額物件には露骨に力が抜ける営業マンがいたり、逆に、「こんな小さな家のお手伝いさせてごめんなさい」と、気をつかって誤るお客様がいたりします。

 

② 売主、買主両方から報酬をもらいたい。

 一つの物件で、「売主と買主両方から手数料をもらえる」、これを「両手」取引といいます。この「両手」に持ち込むために、売却情報を抱え込み、なかなかオープンにしなかったり、旧知の不動産業者に買わせようとしたりします。

 

③  同じ物件を繰り返し仲介したい。

 「ひと粒で二度おいしい」(笑)。

 これは②の進化版です。知り合いの不動産会社(転売業者等)に買い取ってもらい、彼らが「再販」するときにも、仲介に入らせてもらうようにします。

 

 これらの行為は、一概に「違法」とまでは言えませんが、悪質度が高くなれば、道義的な責任やコンプライアンス上の問題が生じてきます。たとえば、「両手」取引をしたいがために情報を抱え込むと、購入希望者とのマッチングの機会を減らすことになり、成約までに時間を要したり、割安に売却することにつながったりすることもあります。売主としては「反響が弱いのは価格が高いのでは?」と不安に思うからです。

 

 では、賃貸物件の仲介の場合はどうでしょう。例えば家賃5万円のワンルームマンション、本来であれば手数料は「家賃1か月分の5万円と消費税」ですが、多くの場合、仲介業者は、貸主から「広告料」名目で1ヶ月分、借主から仲介料として1ヶ月分、計2ヶ月分の報酬を得ています。

 「広告料」は実質的な仲介手数料であり、この行為は「グレー」というより、ほぼ「真っ黒」なんですが、なぜか業界では「問題なし」とされて、「広告料なし」が珍しいくらいです。

 

 少々話がそれますが、不動産仲介業者と買取再販業者や建売業者のリレーションシップは、実は健全な不動産市場形成のためにとても重要です。

 例えば、「権利関係等に問題を抱えた物件を、リスクを取って購入し、投資して、エンドユーザーが購入できる物件に生まれ変わらせる」「古い物件をリノベーション再生して、保証付きで市場に提供する」というような、プロならではの役割を果たしています。

 仲介業者は、買取再販業者等とのリレーションがなければ、広く所有者のニーズに応えることができませんし、再販業者側も仲介業者の情報力に期待、依存していますので、普段から信頼関係の構築に熱心です。ただ、その関係が行き過ぎて「癒着」するようになってしまうと、不正行為を行って自分たちの利益を得ようとするようなことになってしまうこともあります。

 

 さて、ここまで書いてくると、不動産屋とはなんて「お金好き」、お金のためなら法律スレスレのこともいとわない人達…という印象をより強められたのではないでしょうか。NHKドラマ「正直不動産」は、「ウソがつけなくなった不動産会社の営業マン」が主人公でしたが、逆に言えば「不動産屋はうそつき」のイメージがあるからこそ成立したドラマでもあるのでしょう。

 

 最後に、元不動産会社の営業マンとして、また「まじめに頑張る営業マン」のために、「そういう人たちばかりではない」ことを、声を大にして申し上げておきたいと思います。

 

 例えば、ビルや工場、商業施設といった大規模な不動産は、複雑で調査にも資料作りにも、多大な労力を払うことも珍しくありません。当然、専門的な知識や物件に潜む問題点を発見する能力が必要になります。少々身勝手なお客様の場合には、納得の上で取引していただくために、丁寧に説明をして商談をまとめる「折衝力」「忍耐力」も必要です。

 高齢なお客様が不安になることなく、できるだけ小さい負担で済むように、わかりやすい資料を用意し、時には、引っ越しや不用品の処分のお手伝いをするなど、誠心誠意努力している営業マンもたくさんいるのです。これらは、かなり「プロフェッショナル」な仕事です。

 

 大切なことは、そんな「よい営業マン」「よい会社」と出会うこと、「悪い営業マン」や「悪い業者」を見抜くことです。これはどんな業界でも同じですね。

 

 私には、新築ワンルーム投資に関わる苦い経験があります。

 

 1990年代の初めに横浜市にある新築区分ワンルームマンションを購入し、千数百万円の損失を出しました。80年代半ばからのバブルは既に崩壊しつつあったにも関わらず、知識も情報もなく手をだして、高い授業料を払う羽目になりました。

 投資は自己責任が原則ですので、自分の不勉強を恥じるばかりですが、一方で、分譲業者側にも、利益至上主義で、「投資家保護」の観点が無かったことは確かです。当時は、社会全般が「不動産投資」ということに関して未熟であったと思います。

 

 あれから30年以上経った現在、不動産証券化が拡大し法制度が整備される中で、少なくとも証券化された不動産に対する売主側の「説明責任」や「投資家保護」については大きな発展を遂げましたが、「新築ワンルームマンション」に関しては、当時とさして変わらない手法で販売されており、いささか疑問をいだかざるを得ない思いです(私怨ではありません。笑)。買主の無知をいいことに、明らかに収益を生まないと思われる物件の強引な営業の実態も続いています。

 

 新築マンション投資は、分譲価格の中心が2000万円台〜3000万円台で、初心者にも比較的取り組みやすい価格帯です。それだけに投資家の知識向上と共に、分譲業者側の販売手法の改善が求められると感じています。

 

 東北地方のとある県庁所在地で開業する医師の方から相談を受けたことがありました。東京、横浜、大阪、神戸などの主要都市に57物件、総額にして12億円余りのワンルームマンションを保有していました。約5年間の間に、すべて新築で購入したものです。

 

 購入資金は、ほとんどが償還期間35年の融資で、かつフルローン(自己資金ゼロ)です。金利は、信用組合と地銀が1.85%(融資件数は各1件)、2%台前半がオリックス銀行、セゾン銀行、ジャックスなど、スルガ銀行は3.4%、最高金利は三井住友トラストL&Fの3.9%でした。最も融資件数が多かったのはスルガ銀行で17件でした。どの物件もほぼ4%台のNOI利回りで共通しています。私は、その中の代表的ないくつかの物件についてキャッシュ・フロー表を作成し、報告致しました。

 

 今回は、そのうちの一つについてご紹介して、新築ワンルームマンション投資のどこに問題があるのか、ご説明したいと思います。前提条件として、①賃料は増減しない、②管理費、修繕積立金は上がらない、③空室はないもとする、④原状回復費用、リフォーム費用はゼロとする、⑤売却するときは、手取り収入1,970万円で売れる、です。この前提自体に無理がありますが、それは後ほど解説いたします。

 

■物件の購入条件

 借入額

1,970万円  

 金利(年利)

3.50%

 返済期間

35年

 

■初年度の収支 

 初年度のNOI ※

85万円

 元利返済額

98万円

 元利返済後CF

-13万円

 減価償却費

42万円

 不動産所得

-26万円

 所得税節税額

12万円

※NOI Net Operating Income 減価償却費控除前の税引前純収益

 

■20年間の収益状況

 

 

NOIの水準とファイナンス

 問題点の第一は、NOI利回りが低いことです。というより、NOI利回り4.3%に対し、金利3.5%のフルローンを組んだのでは、利払いのために買ったようなものです。

 

 税引後のインカムゲインは、常にマイナスで、累計額は10年間でマイナス38万円、20年間でマイナス140万円になります。この傾向は35年間同じで、賃料の上昇が無い限り「毎年ずっと赤字」です。

 

 もちろん、不動産所得もマイナスになりますので、「若干の節税」にはなります。特にこの投資家は、年収4,000万円を超えるお医者さんということもあり、所得税率も高いので減価償却費を費用計上することによる節税効果は、1年間に19万円弱あります。その結果、この物件から入る家賃収入に対する所得税を支払うことなく、家賃収入を得ることができます。

 営業マンのセールストークはおそらくこうです。

「マンション購入により所得税の節税になります。ローン返済期間中は若干のマイナスですが、35年後には返済が終わり、家賃が丸々手元に残ります。この投資は、自己資金ゼロで明日から始められます。」

 

 NOI利回り4.3%は、現状の不動産マーケットにおいてはやむを得ないと思いますが、相応のリターンを得るためには、投資額の半分以上を自己資金で用意するか、1%を切るような低利で資金調達をする必要があります。

 全額自己資金で投資した場合、下図のように5年で327万円、10年で654万円のインカムがあり、また、売却によりそれぞれ2,234万円、2,499万円のリターン(インカム、キャピタル合計)があります。ただし、この場合も年平均の利回りは3%にも届かず不動産投資のリスクを考えれば、投資適格とは言い難いと思います。

 

■20年間の収益状況(借入無し)

 この場合のセールストークは「毎年85万円の収入があります。老後の年金代わりになります。」といったところでしょう。

 

売却時の価格下落の問題

 「新築プレミアム」という言葉があるように、賃料が最も高いのは新築時です。逆に言えば、入居者が入れ替わった(つまり中古になった)段階で、賃料が周辺相場並みになることを覚悟しなければなりません。

 家賃が下がれば、売却価格も下がります。前提条件として「投資額と同じ1,970万円で売却できる」としましたが、実は、それは現実的ではありません。実際、多くの物件が値下がりしています。

 

 百歩譲って、購入時の賃料が維持できたとして、5年後、10年後、そして35年後に日本の人口がどうなっているか想像してみて下さい。2024年時点で、全国の空き家は既に900万戸、さらにこの先大量の空き家が増えて行きます。それらは売却されるか賃貸に出されるか…。

 競合物件が益々増えているのに、人口は減少し続けます。賃料も下がるし、売却価格も下がると考える方が、誰が考えたって合理的です。

 

「長期」はハイリスクという問題

 私は、このブログの中で、たびたび訴えていますが、35年の事業収支なんて机上の空論もいいところです。 「35年間で、ローンを返し終わったらその後はプラスになります。」といわれたって、その時あなたはこの世にいないかもしれません。マンションの管理会社が倒産し、メンテナンス費用がかさみ、街が衰退し、不人気極まりないマンションになっているかもしれません。特に投資用の区分マンションのオーナーは、日本中に散らばっており、管理に対する意識も希薄です。

 

 実際、私が投資したマンションは、売主が倒産し、系列の管理会社が撤退して管理状態が劣悪になって、資産価値が大幅に下落しました。購入してからたった数年後のことでした。

 その他にも、「相続人のいないオーナーが死亡し、管理費や修繕積立金の未納が増える」「災害で建物が大きなダメージを負う」「居住者による事故物件化」等、保有期間が長くなればなるほど、予測不能なことに直面する可能性が高くなります。

 90年代にあれだけ人気があったリゾートマンションのことを思い浮かべて下さい。35年というのは、誰も予測しえない未来です。

 35年返済のローンを活用することはあっても投資期間は5年、どんなに長くても10年で「利益確定」するつもりで投資可否を判断すべきです。もっとも安全な資産といわれる国債でさえ、個人向けは10年ものが最長です。

 

 さて、今一度「前提条件」に戻ります。①賃料は増減しない、②管理費、修繕積立金は上がらない、③空室はないもとする、④原状回復費用、リフォーム費用はゼロとする、⑤売却するときは、手取り収入1,970万円で売れる。どれひとつとして、アテにならないものばかりです。

 

 このお医者さんからのご相談は、2018年頃だと記憶しています。その時の私の助言は、「調達金利が高い物件はなるべく早めに売却しましょう」というものでした。売却しない限り利益が出ない物件は、値下がりしないうちに売却して、損失を回避することを選択した方がよいという考え方です。

 

 中古ワンルームマンション相場は、2018年時点ですでに「高値圏」にありましたが、その後も下落することなく、横ばいもしくは上昇が続きました。紛れもなく空前の低金利が後押ししたものです。

 2024年に入り、金利は少しずつではありますが上昇に転じています。東京都でさえ、2030年以降は人口が減少、それを負うように2035年からは世帯数も減少に転じます。余裕のある投資家は、既に利益確定して「キャッシュポジション」を高めています。不動産バブル崩壊をにらんだ、「ババ抜き」はすでに始まっているとみるべきでしょう。

 インカムゲインが小さい、つまりキャピタルゲインでしか稼げない不動産のオーナーは、否が応でもババ抜きのメンバーになっているのです。

 不動産の価格は、リーマンショックの直後が最も安かったと思われている方が多いかもしれませんが、その当時、営業の最前線で取引していた感覚では、実際にはリーマンショックが起きる前、「サブプライムローン問題」がマスコミを賑わしていたころが底値だった思います。金融機関が不動産担保融資に対し極めて消極的で、既存の融資についても何かと理由をつけて返済を迫っていました。

 あのから間もなく20年。リーマンショック、アベノミクス、異次元の金融緩和と、不動産は金融に翻弄されてきたと感じるのは、私だけではないでしょう。今回は、思い出話を…。

リーマンショック前まで

 2001年頃から本格化した不動産証券化の広がりで、2000年代半ばには、投資適格とみなされた不動産は急激に値上がりし、2006年頃には東京都心の収益不動産は、2%を切るようなNOI利回りでの取引も珍しくなくなっていました。「NOI利回り2%」というのは、減価償却前、税引前の収益で、業務にかかわる人の人件費をはじめとする販管費を考慮すれば、完全に赤字です。

 

 それでも「カネ余り」を背景に、多くの不動産投資ファンド、不動産会社は、物件を仕入れなければならず、アクイジション(=物件購入)担当者が鉛筆舐め舐め、「さも、将来の収益が期待できるかのようなレポートを作成して」、高値の物件を取得していました。「そろそろ危ない!」といいながら。

 

 ここのロジックは、一般的な感覚ではピンとこないと思いますが、

  • 「投資家のお金が既に用意されている状態で投資先を探してくるのを待っている」
  • 「運用を任された投資運用会社は、どうしても投資物件を確保する必要がある(それが仕事)」
  • 「その結果、何とかして購入したいという意思が働いている」

 そのような状況と考えていただければよろしいかと思います。全速力で走る電車は、急には止まれない、投資の世界もそういう慣性の法則が働くのでしょう。(笑)

 物件の取得担当者は、「取得できるかどうか」で実績評価されますし、「買え‼」が社命なのだから、サラリーマンならそれに従います。だから、現実性に乏しいレポートを作ってでも、投資のクライテリア(投資基準)を満たし(満たしているように見せかけて)、投資決定されるように努力するのは当然といえます。

 たとえば、「賃貸管理会社に高めに賃料査定を求める」、「鑑定評価額が高くなるように不動産鑑定士に依頼する」等。かくして、実際の収益力以上に高評価となった物件を取得することになる訳です。

 

 2006年の後半には、不動産業者の間で「(不動産価格が)高すぎる」「そろそろ危ないのでは」といった会話がささやかれるようになっていましたし、サブプライムローン問題が世間をにぎわせていた2007年には、不動産の買い控えも始まっていました。

 余談ですが、不動産の転売益を収益のメインとしている「不動産転売業者」は、安く買って高く売ることが商売の基本ですから、当然ながら、市場動向にはきわめて敏感です。そういう意味で彼らの会話は「先行指標」だと私は考えています。

 

 サブプライムローンは、「低格付けの住宅ローン債権を証券化して投資家に販売したもの」ですが、この債権はいろいろな金融商品の運用対象に組み込まれていたため、「その認識がないまま、サブプライムローンの投資リスクを間接的に負っている」ような金融商品がありました。実態がつかめないため、投資家の不安は増大していきました。

 不動産であろうと金融商品であろうと、投資判断の大前提は、「正確な情報」ですが、それは売り手において「きちんとリスクを測定し、開示している」という性善説に基づいていました。ところが、実際にはこれと正反対のことが行われていて、そのことが投資家の不信を招き、資金の引き上げに繋がってゆくのです。

 

 慌てたのが、ノンリコースローン(不動産担保だけに責任範囲を限定したローン)で資金を出している金融機関です。また、「メザニンローン(返済順位が他のローンより劣後するローン)」という、「よりハイリスク」なポジションのローンもあって、ここには政府系金融機関や不動産会社から、さらにはファンズ・オブ・ファンズの再投資先として、多額の資金が入っていました。

 そして、ついに、投資家の信用不安は不動産価格の下落を招き、金融機関は一斉に売却による資金回収に走りだします。私の肌感覚では、収益不動産の取引価格は、瞬間的にざっくり3割以上も下落したと思います。

 

 リーマンショックは、バブル崩壊の引き金になったというよりは、既に進んでいた崩壊への流れを「白日の下にさらす」役割を果たしたということではないかと思います。

 

 さて、その後…。

 

 振り返ってみれば短期間ではありましたが、不動産の買い手が消えてしまいました。今でも印象に残っているのは、「賃料が入らない不動産」、つまり「賃借人がいない更地」や「空き店舗」のような物件の売却が難しかったことです。賃料収入が入っていれば「利回り」という物差しで価格が割安な水準かどうか判断しやすかったのに対し、賃料収入がない不動産は、物差し不在で「底値」の判断ができなかったのです。

 その頃、仙台駅西口から徒歩約5分、幹線道路沿いにある土地が、坪当り150万円でなかなか買い手がつかなかったことを記憶しています。今なら、「坪500万円でも安い」と言われるでしょう。

底入れ、震災、アベノミクス

 2010年に入ると、「割安感のある不動産に対する需要」が、少しずつではありますが増えてきます。モラトリアム法(中小企業金融円滑化法)が施行され、債権者もデフォルトした債務者(不動産所有者)に、強く売却を迫ることはできなくなりました。徐々にではありますが、利用価値の高い不動産を中心に、不動産価格は上昇し始めます。

 

 東北エリアの担当だった私は、2011年3月11日も仙台に出張していました。その日は、打ち合わせが早めに終わったため、いったん会社に戻ろうと「仙台駅14:26発の新幹線はやて」に乗り込みました。そして、福島のトンネルの中でその時を迎えます。

 

 東日本大震災は、自然災害が不動産市況に大きく影響を及ぼすことを知らしめました。沿岸部の家を失った人たちが、内陸部の賃貸マンション・アパートを賃借し、また、県が「応急仮設住宅」として、一般の賃貸住宅を借り上げて被災者の住まいとして提供しました。

 それまで、7〜8割の稼働率だったアパート・マンションは軒並み100%稼働、ホテルや旅館も、続々と被災地入りする人々で満室になり、宿泊料は倍近い値上がりです。当然不動産価格は値上がりし、不謹慎な言い方ですが、被災地の不動産オーナー(だけに限りませんが)は、いわゆる特需の恩恵に預かったのです。

 この時期、もう一つ特徴的だったのが建築コストの激しい高騰です。鉄骨などの建築資材だけに止まらず、民主党政権下で、公共工事が減少したことや高齢化により、職人の廃業が増えていたこともあり、人件費が大幅に上昇、それまで坪当り60万円程度で建築できていた建物が120万円でも請け負う建設会社がないという異常事態になります。

 

 2012年末、第二次安倍内閣において、「アベノミクス」がスタートします。日銀は異次元の金融緩和を宣言し、不動産担保ローンは1%時代を迎えます。

 借り入れ当事者の与信によってばらつきはあるものの、住宅ローンもアパートローンと呼ばれる収益不動産購入者向け融資も、年利1%以下ということが珍しくなりました。また、大企業中心に企業の収益力が向上、インバウンド観光需要の高まりに東京オリンピックの開催決定も重なって、都心のオフィス・ホテル需要増加と再開発の伸張へとつながっていきます。

 

 収益用不動産価格も、都心マンション価格と同様に値上がりを続けますが、低水準での融資金利が下支えとなって、収益用不動産の需要が衰えることはありませんでした。そして、2016年には、ほぼリーマンショック前の利回りの水準となります。

 

 東京の都心部では、2〜3億円の築浅賃貸マンションのNOI利回りが、3%台まで下がったのですから、純然たる投資の対象としては旨味がありません。取引の多くが「相続税の節税目的の購入」と、それを出口(=転売先)としてアテにした「不動産業者の仕入れ購入」になっていきます。

 

 再び、いや三度、不動産業者どうしの会話に「(価格が)上がりすぎ」「そろそろやばいのでは」というやりとりが増えてきた2018年、スルガ銀行の不正融資事件が発覚します。

 

 この問題の詳細は、マス・メディアで報道されていますので、割愛しますが、これ以降スルガ銀行が得意としていた小規模(2―3億円程度)な収益用不動産への融資は、ほぼ止まってしまいます。スルガ銀行は、多くの地銀などが、1%程度(もしくはそれ以下)という低金利融資競争に走る中、「耐用年数の長いRC(鉄筋コンクリート)造の賃貸マンションに3%台半ばから4%という年利で長期の融資を貸し付ける」ビジネスモデルで高収益モデルを築いてきました。

 購入時の諸費用を含めた「フルローン」でも、「相対的な高金利」でも、返済期間を長くすることで、毎月の返済額は収入を下回るというところがミソです。

 

 この借り入れパターンは、元本の減り方が少なく、稼働率低下による収入減や多額の修繕費支出があったときには、「持ち出し」になってしまう可能性も高いことから、私はあまりお勧めしませんが、それでも、スルガ銀行以外から融資を受けられない投資家が、投資機会を得られそして大家さんとして成功している事例もあることから、一定の需要がありました。

 

 この不正融資事件がきっかけとなって、金融庁が融資審査の厳格化に踏み込んだことで、収益不動産に対する融資が、厳しくなってしまいます。もちろん「融資ルールを守り適正に審査すること」は当然のことなのですが、今度は、形式的な基準に極端に傾倒して、十分に借り入れ可能と思われる投資家でさえ、融資が受けられない状況にまでになってしまいました。

 

 その融資姿勢が大きく変わってきたのは、2019年からです。地方銀行中心に、不動産担保融資に対する回帰が始まりました。地銀の顧客の多くは中小企業ですが、運転資金の融資はせいぜい数千万円です。それに引き換え、不動産の購入資金は「億単位」になりますので、地銀にとって貸出額を手っ取り早く伸ばすには、アパートローンはとても使い勝手が良いのです。

コロナ禍とその先

 政府の旗振りもあって、インバウンド観光客は順調に増加します。2019年の訪日外国人観光客数は3188万人、目標の4600万人到達も目の前となります。土地取引においては、ホテルデベロッパーの入札額に、マンションデベロッパーがついていけない状況になっていました。

 

 そして、2020年の「パンデミック」です。

 

 都心のオフィスから人が消え、オフィスワーカーを顧客にしていた飲食店が消えました。いや、正確に言えば「コロナ融資」で何とか食いつないでいましたが、3年間の据え置き期間が経過後、返済困難となった店舗から撤退していきました。ロシアのウクライナ侵攻後は、電気料金、ガス料金が高騰し、物流コストも増大し、人手不足に人件費高騰と、テナントの経営環境は、厳しくなる一方です。

 

 既に「不動産バブルは崩壊した」という人も、「静かに崩壊が進行中」という表現を使う人もいます。日本全体では、急激な少子化が進み、後期高齢者となった団塊の世代が寿命を迎える「多死社会」も目の前まで来ています。

 日本人だけでは、全体的な不動産需要は縮小の一途。都心回帰の人口移動が、タワーマンションが象徴する都心駅前物件の価格を押し上げてきましたが、今後は、「実需も投資も外国人頼み」という可能性が益々高まります。

 

 正直なところ、マクロトレンド的には、不動産の明るい未来を描くことが難しいでしょう。住宅を買うにも収益用不動産に投資するにも、地域、街、物件をよくみて、時期も選んで慎重に対処すべきタイミングにあることは間違いなさそうです。

 「不動産投資編」でマイホームの話?

 

 マイホームは、自らの生活拠点となるため、考えるまでもなく賃料収入はゼロである。価格が上昇し、キャピタルゲイン(値上がり益)を得られる可能性はあるが、売却するまでは「含み益」にすぎず、しかも保有期間中は、固定資産税や管理費等のコストがかかることから「資産ではなく負債である」という人もいるくらいだ。

 

 2024年時点で、空き家は約900万戸(総務省「住宅・土地統計調査」)となる中で、地域にもよろうが、マイホームの資産価値が下落することは容易に想像できる。

 

 しかし私は、あえて「転勤族のサラリーマン」が、マイホームを持つ意味は大きいと、声を小さくして言いたい。(笑)

 

 「せっかく取得したマイホーム、買ったばかりなのに転勤命令が…。」こういう話は珍しくない。がっかりするのも仕方ないことだが、その時は、マイホームの賃貸を検討されるとよいと考える。

 

 住宅ローンは、「自ら住むこと」が融資の条件であり、住まなくなった時は、金融機関から残債の一括返済を求められる。しかし、「転勤」という特殊事情に対しては、融資を継続したまま賃貸することを認める金融機関は少なくないのだ。

 

 ご存じのように、住宅ローン金利は史上最低水準にある。しかも、いくつもの優遇措置があり、融資金利が0.5%を下回っていることも珍しくない。賃貸用物件に対するアパートローンより、はるかに低金利だ。意図せずして、マイホームが収益物件に転じた上に、通常の不動産投資ではありえない、「優遇金利」で投資できることになったと言える。

 

 住宅ローンの不正利用は、犯罪である。あくまでも、転勤によるやむを得ない賃貸であることには注意していただきたい。

 マイホーム購入は、ライフイベントの中でも格別のインパクトがあります。

 

 「生まれた子供のために環境のいいところに住みたい」とか「通勤に便利な場所に移りたい」とか、生活していく上での様々なニーズが、「住宅購入・売却」の動機となりますが、この時にポイントとなるのが「住宅ローンとのつきあい方」です。

返済比率

 マイホームは、多くの場合、住宅ローンを借りて購入することになりますが、購入時に絶対に考慮しなければならないことは、「返済計画」です。「借りられるかどうか」ではなく「返済できるかどうか」、この視点を外してはいけません。

 

 「年収に対する年間返済額の割合」は、「返済比率」「返済負担率」等と呼ばれ、融資審査においてはこの返済比率による借入限度額が決められています。

 

 返済比率は、年収400万円以上なら通常35%が限度ですが、金融機関によっては40%まで可能としているところもあります。

 例えば、三菱UFJ銀行のホームページには、「年収500万円であれば月々の返済額14,6000円(年額175万円)、借入額にして4,910万円が借入可能額の目安(令和6年4月現在)」との記載があり、「返済比率35%以下」が基準であることが分かります。また、月々の返済額146,000円は、返済期間が35年であれば1.3%の金利で借り入れたときの返済額に相当します。

 

 この「35%」という水準ですが、私はかなり無理があると考えています。特に年収が低くなるほど、年収に占める「生活していく上で必須の支出」の割合が高くなり、節約の余地は限られますので、より慎重に判断する必要があります。

 年収500万円の場合、手取り額は400万円をはさんでプラスマイナス20万円といった水準で、そこから住宅ローンを返済すると、毎月20万円弱で生活費の一切、子供の教育費その他すべてを賄わなければならなりません。毎月20万円なら「ギリギリ、やっていけなくはない」と感じる人もいるかもしれませんが、想定外の支出が必要になった時に対応できず、返済に支障をきたす恐れが残ります。

 

 無理のない水準は、年収500万円で20%借入額にして約3,000万円)、年収1000万円で25%借入額にして約7,000万円)です。ということは、年収500万円の人が無理なく購入できる物件の価格は、「3,000万円+頭金」が目安ということになります。

 

 不動産経済研究所公表の「首都圏新築分譲マンション市場動向 2024年4月」によれば、東京23区の新築マンション平均価格は、9,674万円です。都心タワーマンションの買い手が、パワーカップルと呼ばれる夫婦共働き世帯が中心になっているのもうなずけますね。(その他の主な買主は、相続対策目的の富裕層と投資目的の外国人です。)

 最新設備を備えた「新築マンション、新築住宅」は、魅力的でついつい無理をしてでも購入しようと頑張ってしまいがちです。「家族の幸せのために頑張るぞ!」と、その気持ちは大切ですが、無理な物件に手を伸ばして、返済不能になってしまうと、家族の幸せどころではありません。

 それに、「新築物件」は、購入後値下がりすることの方が多いと思われます。値下がりしてしまっては、「売却しても住宅ローンを完済できない」という状況に追い込まれてしまいます。

 

 建築費の高騰もあって、新築マンションの価格は大幅に上昇しました。リノベーションされた中古物件を対象に含める等、丁寧に情報収集をして、住宅ローンを「借りられる額」ではなく「返せる額」に納めるように努めましょう。

 

担保掛目

 住宅ローンの融資を受ける際には、金融機関に購入物件を担保として差し入れることになります。登記情報を取得すると「乙区」欄に、抵当権者となる保証会社の記載等と並んで、当初の借入額が「債権額」として記載されています。

 

 金融機関は、担保権実行時の処分額を想定するため、「保証機関が評価した価格」または取得価格に一定比率を掛けて「担保としての査定価格」を算出しており、この比率のことを「担保掛目」といいます。担保掛目は、ローン種類や保証機関利用の有無によっても異なりますが、概ね70%程度とされています。

 担保掛目は、融資審査におけるひとつの目安ですが、住宅ローンのように担保掛目を超えて、売買価格の80%~100%の融資を行うこともあります。

 

 ところで、上記の通り、担保掛目は「借主が返済不能になった時でも、物件を処分すればこれだけは回収できるだろう」という、金融機関目線での想定ですが、この考え方は、借主も大いに参考にすべきと、私は考えます。

 

 「担保掛目」による想定処分価格は、金融機関等が算出した「最低売却価格」と捉えることもでき、「住宅ローンの借入額をできるだけその範囲に納める」、もしくは、すぐには無理でも、「なるべく早い段階で、その水準まで債務を減らしておく」ことにより、いざというときの自衛策にもなると考えるからです。

 

 長い人生の中ではいろいろなことが起きます。病気や怪我による休職、あるいは会社の経営不振による退職で、収入が大きく減少することがあるかもしれません。これらは、住宅ローン返済中であってもお構いなしに起こり得ます。

 

 もし、住宅ローンの返済継続が困難な状況になることが予測できたなら、最善策は、「できるだけ早く、少しでも良い条件(つまりできるだけ高い金額)で、売却すること」になります。マイホームを失うことに抵抗感もあるかもしれませんが、決断が遅れればそれだけ傷口を広げることになるからです。

 そして、債務額を売却価格が上回っていれば、その差額が手元に残り、これは、再出発のための貴重な軍資金になります。損失は出したが、致命的なダメージは避けることができ、いち早く再起に向けて動き出すことができるのです。

 

 ところが、債務額の方が売却額を上回る場合には、弁済のための資金を別に用意し、不足分を補填しなければなりません。当然、売却の決断も遅れ、返済遅延につながって行きます。

 

 住宅ローンを滞納してしまったらいろいろな不利益が降りかかってきます。真っ先に被る不利益は「優遇金利の適応とりやめ」で、返済額が大きく増えることになります。さらに滞納を重ねると、保証会社の代位弁済を経て、競売申し立てに進んでいくことになってしまいます。

 

 競売による売却は、債権者による強制的な売却と資金回収ですから、「時間をかけてより高く買ってくれる買主を待つ」ことはできません。割安な価格でやむなく譲渡せざるを得ないことになり、マイホームを失った上に、返しきれなかった債務の返済義務も残ります。

 

 競売は、「最悪のケース」ではありますが、それを回避するために、「ローン残高を担保掛目の範囲に納める」、別の言い方をすれば、「ある程度の頭金を用意する」ことが有効です。

 もし、不測の事態が発生しても、「現状を客観的かつ冷静に理解し、早期に決断すすること」「担保掛目以下にローン残高を抑えること」この二つのリスク・マネジメントにより、「余裕をもって」負けることが可能になります。

 

 人生において、勝負の機会は何度も訪れます。たかだか住宅ローンの返済に躓いた位で、余計な苦労を背負い込むことはありません。

 もちろん自己破産したって、いくらでもやり直せますし、その方が、いち早く立ち直ることができる場合もあります。でも、やっぱりそれは苦労が伴いますので、普段から、「そうならないための備え」をしておくことをお薦めします。

 家づくりを思い立った時、とりあえず住宅展示場を訪れるという人は多い。

 家づくりのパートナー候補には、設計事務所もあれば地域の工務店もあるのだが、知り合いがいたり、身近な人から紹介を受けるといったことでもない限り、とりあえず住宅展示場に行ってみる。

 

 そこで出会うのは、様々なタイプの営業マンだ。経験豊富なベテランならいいかというと必ずしもそうでもなさそうである。なんだか、うまいこといって丸め込まれている気がする。彼らの仕事は、「とりあえず契約まで」。自分の報酬のためだけに働いているのかとすら思える人もいる。何しろ自分が言いたいことだけ言って、こちら(客)の希望なんて、聞こうともしない。

 

 「若い子」は、熱心でかわいいが知識も経験も乏しい。それはそうだ、20代、30代、家を建てた経験も買った経験もないどころか、下手すると「去年まで大学生でした」なんて人もいる。

 だからハウスメーカーは、しくみで売ろうとする。

 商品カタログを拡げ、マニュアル通りしゃべれば説明は完了する。鉄骨系の会社の彼は「木造(の家)は火災に弱い」といい「木質系の会社の彼は「鉄骨(の家)は寒い」と言ったりする。

 「30年以上も続く住宅ローンの覚悟を決めて、家族のために理想の住まいを実現したい。」「ここに来れば何か手掛かりが見つかるに違いない。」そんな顧客の思いなどそっちのけで、とにかく彼は、他社の差別化に夢中だ。

 

 地域の設計事務所や工務店は、大手ハウスメーカーに比べれば、現場に精通し、経験豊富で安心感がある。営業というより紹介とか口コミで商売しているから、信用の大切さを身に染みて知っている…はず。しかし、中には自分の考えを頑なに押し付けてくる自分大好きの社長もいる。

 

 モデルハウスを何か所も回ったけど、誠実で親身な「この人なら絶対大丈夫」と確信できる人になかなか出会えないときはどうすればよいのだろう。こういうものかと妥協して、依頼すればいいのだろうか。

 

 私は、絶対に妥協してはならないと思う。パートナー選びは家づくりの核心であると考えるからだ。大変ではあるが、最良のパートナーと確信できるまで、探し続けることだ。

 よい営業マン、よい設計士、よい工務店、その条件はなんだろうか。私の考えでは、「顧客の利益を最優先」にする人である。誠実で正直で知識豊富で話をよく聴く人である。

 

 「冷蔵庫を買おう」と思い立ち入った家電量販店でこんな経験はないだろうか。

 店員の人に要望を伝えたところ、それぞれの長所短所を丁寧に説明してくれて、シャープの商品を勧めてくれた。ところがよく見るとその人は東芝から派遣された社員だった。

 

 顧客の要望を無視して、自社の売込みばかりを熱心に行う行為は、営業ではなく押し売りという。たとえそれが住宅という高額の商品であっても、いや、高額の商品だからこそ「他社の方がお客様の希望にあっていますよ。」と言える人、それが本当の営業マンだ。

 

 プロフェッショナルは、自社製品のみならず他社の研究にも熱心だ。顧客の役に立ちたいと考えれば自ずと勉強するしかないのだ。そういう人は必ずいる。そんなパートナーが見つかるまで、あきらめずに動いてほしい。

 住宅ローンとの付き合い方は、ひとことで言えば「変化対応」だ。

 多くの人が35年返済を選択する。35歳で家を買ったとして完済年齢は70歳。近年はさらに長期の住宅ローンも登場している。

 

 私がはじめてローンを組んだのは1990年代のバブル末期だった(投資用のワンルームマンションなので正確にはアパートローンになる)。不動産価格上昇を続けるなか、「なんでもいいから買わないと一生、家を持てなくなる」と焦って手を出したのだ。

 

 しかし、バブルは崩壊し、虎の子のマンションはどんどん価格を下げ、そして、賃借人もなかなか決まらなくなった。

 結局、10年程ちょっと保有して売却した。賃貸用不動産を売却したときの譲渡損を給与所得から差し引ける「損益通算が翌年から認められなくなる」ということも、売却の決断を後押しした。家賃収入と相殺しても千数百万円の損失という高い授業料を払う羽目になったが、お荷物を整理して気持ちの面でもいったんリセットすることができた。

 

 反省だらけの投資であったが、早々に変動金利に切り替えたことで金利低下の恩恵を受けることはできた。繰り上げ返済も何度か行っていたため、売却して負債はなくなった。

 この経験から学んだことは、「世の中何が起こるかわからない」ということと、それゆえ「お金に関する仕組み」について、もっともっと勉強をしなければいけない、ということだった。

 

 その後、私は、マイホームを持つことになるが、デフレ経済が続く中、変動金利で組んだローンは、日を追うごとに金利が下がり、「お得」になってゆく。

 はじめのうちこそ、「繰り上げ返済をして、なるべく早く返そう」と頑張っていたが、ある時から、「こんなに低金利なら、無理に返す必要はない」と、余裕資金は繰り上げ返済ではなく、投資用不動産購入のための頭金等に回すようにした。

 

 元利均等方式の返済では、返済期間の後半になると、金利は同じでも「返済額に占める元本の割合」がずっと大きくなる。元本返済は、いうなれば「前借りしたお金の返済」、利息は「前借りさせてもらった御礼」のようなものだ。ならば、前借りしたお金を有効活用させてもらい、きちんと御礼をする方が、自分のためにも銀行のためにも有益と考えたのだ。

 

 住宅ローンは、30年以上にわたる長期返済となることが多い。その間、子供は成長し家を出て行き、自分は老いて行く。夫婦で家を買ったのに離婚することもある。不幸にして失職してしまうこともあるかもしれない。

 真面目な人ほど、借りたときの条件で、愚直にコツコツ、おとなしく返済を続けているのではないかと思う。「終の棲家」という言葉があるが、マイホームを長期ローンで購入すると、なぜか、落ち着いてしまい、固定された状態で返し続ける人が少なくない。

 マイホーム取得は、手段であって目的ではない。目的は、豊かな生活や家族の幸福の実現だ。だから、世の中の変化、家族関係や自分の置かれた状況の変化、その変化に合わせて、臨機応変に対応していくべきだと思う。具体的には、繰り上げ返済、ローン借り換え、売却や買い替え等だ。

 そのために、世の中の変化に対し、常に高いアンテナを立てておく必要もある。目的実現のために、手段もどんどんアップデートしていくべきだ。