不動産会社等が、アパートを一括で借り上げることを「マスターリース」それを第三者に貸し出す(転貸する)ことを「サブリース」といいます。たいていの場合、この「マスターリース」と「建物管理(BM)」と「賃貸管理(PM)」がセットになっていて、一定の条件の下、「滞納保証」や「空室保証」を行うという契約になっています。
「建物管理」は、日常の清掃、法定点検、機械設備のメンテナンス等、「建物を貸せる状態に維持する」ための管理業務です。
「賃貸管理」は、家賃や管理費の収受、水光熱費等の支払、入居・退去に伴う賃貸借契約の代行や家賃その他の清算、空室の原状回復の手配、そして、新たな入居者の募集等を指します。
「建物管理」「賃貸管理」を行う会社が、一般にいう「管理会社」ですが、従来「管理会社」を規制する法律はありませんでした。しかし、トラブルが後を絶たず、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が、令和2年6月に公布、令和3年6月15日に施行されました。
特にトラブルが多い「サブリース」に関し、法律の附帯決議に基づき「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」が示されたことは特筆に値します。少々長めではありますが、重要な点ですので、アパート建築を検討されている方に向けて、「ガイドラインの趣旨」の一部を抜粋して、お示ししたいと思います。
【「ガイドラインの趣旨」から抜粋】※原文は下線無し
サブリース事業については、サブリース業者が、建設業者や不動産販売業者等と連携して勧誘を行う際や、当該サブリース業者とのマスターリース契約の締結を促す広告を行う際に、オーナーとなろうとする者にサブリース方式での賃貸経営に係る潜在的なリスクを十分説明せず、マスターリース契約が適切に締結されないという事態が多発している。
具体的には、マスターリース契約に基づいてサブリース業者が支払うべき家賃に関するリスク(例:将来的に家賃の額が変更される可能性)、マスターリース契約の解除の条件(例:賃貸人からの解約には正当事由が必要)等を明らかにしないことで、オーナーとなろうとする者が内容の真偽や適否を判断することが難しく、契約内容等を理解せず誤認したままマスターリース契約を締結することで、家賃減額や契約解除等を巡るトラブルが発生しているという実態がある。
本ガイドラインは、(中略)サブリース事業に係るこれらの規制の実効性を確保し、サブリース業者等とオーナーとのトラブルを防止するため、賃貸住宅管理業法上求められる事項や賃貸住宅管理業法違反となり得る具体的な事例といった、業務を適正に行うために最低限求められる水準を明示しながら、これらの規定の内容を関係者に分かりやすく示すことを目的としている。
(中略)サブリース業者・勧誘者が、賃貸住宅のオーナーとなろうとする者にとってより適正な広告・勧誘等を実施し、透明性が高く質の高い営業活動とサービス提供ができるよう、業界団体において、優良事例等に関する指針を作成するなどし、これらを活用した研修・講習等の機会を通じて、引き続き、サブリース事業に携わる従業員一人一人の業務レベルの一層の向上に取り組んでいくことを期待する。
同法とガイドラインは、今後、サブリース事業の適正化に一定の効果を果たすものと期待していますが、これを無視する悪質な業者がなくなるとは限りませんし、あるいは「客観的にみてオーナーにメリットないじゃん!」という内容であっても「説明責任」を果たせば、契約自体は結べる訳ですので、引き続き注意しなければならないことに変わりはありません。
そのことを申し上げたうえで、以下をご覧ください。某社の「サブリースに関する説明書」を抜粋したものです(下線は筆者)。さすがに実物の掲載は控えます。(笑)
① 30年間、「契約時に設定した満室分の家賃の70%」を固定家賃として保証する。
② 入居者から入る賃料のうち、9%の管理料を除いた、収入の91%がオーナーの手取りとなる。
※「9%の管理料は業界最低水準」との付記あり。
③ 空室になったときは退去日の2カ月後から、滞納があった時は発生時から「空室家賃保証(91%)」の家賃を保証する。
④ 建物竣工後、4ヶ月を超えても空室の場合は、5ヶ月目から募集家賃を減額する(業者側の判断)。
⑤ 入居者退去から6ヶ月を超えても空室の場合は、7ヶ月目から募集家賃を減額する。
⑥ 物件の直近1年間の入居率が89%未満の場合は、募集家賃を減額して募集する。
⑦ 物件の直近1年間の入居率が89%未満の場合は、フリーレントの実施、礼金の取りやめ、仲介業者への紹介料の増額付与等の対策を実施する。
この書面には、図解付きで非常に細かく説明されていますので、営業マンが意図的に隠さない限り、法的にも、そして上記の「ガイドライン」に照らし合わせても、問題になる点は生じないと思われます。
ただ「説明された中身」がどうかというと、気になるのは④~⑦です。
「契約時に設定した満室分の家賃の70%」の家賃保証はあるものの、要するに「入居者が決まらなければ家賃は下がり、フリーレントも実施して収入が減る」ということです。さすがに、「入居状況により固定家賃を見直す」との記載はありませんが、70%と言えば、5万円の賃料なら3万5千円。この水準で保証されて、はたして「ありがたい」と言えるのかどうか…。
もっと言えば、はじめから3万5千円が相場賃料のエリアで、5万円の賃料を前提にした「実際よりも収益性がよく見える事業計画」を提示しているのではないかと、疑えばキリがありません。
さすがにそこまでの悪意はないと信じるとして、肝心の収支を確認してみましょう。
この物件は、専有面積27.62㎡の1Kが4戸です。賃料、管理費を合わせた収入が、月額224,000円、他に駐車場が3台ありますが、住戸が満室にもかかわらず利用中は1台分だけで、駐車場収入は月額3,000円、よって合計で収入総額は月額227,000円です。
余談ですが、この物件の所在地は地方都市。1住戸に最低1台の駐車場は常識だそうですが、この物件は1Kタイプということで、3台のうち1台しか借り手がいないという珍しいパターン(地元業者の話)でした。
さて、問題は、この227,000円、年間にすると2,724,000円という収入です。実は、このオーナーさん、建築後に売却する必要が生じてしまったのですが、地方都市の木造アパート、いくら築浅物件といっても、いや逆に、入居者の入れ替わりに伴い家賃が下がる可能性が高いこの物件は、どう頑張っても、表面利回り10%以上を求められます。
となると、売却価格は3千万円にも届きません。仮に表面利回り8%での買い手があったとしても、3,400万円です。
えっ?何が問題かって?
それは「このアパート建築には、諸費用含め5千万円以上かかっている」ということです。
30年返済のローンは、現在は低金利ですので、かろうじてキャッシュアウトせずに済んでいますが、10年の固定金利特約期間が過ぎた後に、金利が上昇していたら完全に持ち出しです。しかもその頃には賃料が下がっている可能性が高い。さらに売却しようと思ってもローンを完済するためには、追加で1500万円程もの資金を準備しなければなりません。
どんなに丁寧にサブリースの仕組みを説明していたとしても、こんな投資をさせることに、私は怒りを覚えます。アパートなど建てずに土地で売却すれば、税金を払った後でも、確実に1500万円は手元に残ったのですから。
サブリース業者は、説明をしているので違法ではありません。しかし、結果において大損をさせています。そして、その結果はプロなら簡単に予測できるものです。それを「70%は家賃保証がある」「満室であれば家賃の91%が入る」「ローンを完済した後は、家賃がまるまる手元に残る」そんなセールストークで、大損させているのです。
アパート経営をするならば、オーナー(投資家)自身が、家賃の下落、空室・滞納リスクなどを負うべきです。そうやっていつも緊張感をもって経営するからこそ、真剣に市場ニーズを調べ、プランや家賃や建築費の妥当性を検証し、市場変化に迅速に対応して、損失の最小化、利益の最大化に近づくことができるのです。家賃保証しないことで得られる利益をプールして、不測の事態に備えればよいだけのことです。
「家賃保証」というふわっとした言葉に「なんとなく安心な気がした」だけで、実態はリスクに対し気休め程度でしかありません。保証は、「たった70%」そんなもののどこが安心できるのでしょうか。計画の7割しか家賃が入らないとしたら、それはそもそも計画自体に問題があるということでしょう。
サブリース事業は、ボランティアではありません。事業として成り立つだけの利益をとっていることを思い出すべきです。
最後に、「70%の家賃保証」もサブリース事業者の経営が健全である限りという条件付きであることを思い起こしましょう。事実、経営悪化に伴い、保証賃料の引き下げ要請が行われることは、他社の事例が証明しています。そして、事業者が経営破綻すれば、そんな契約はブッ飛んでしまうのです。