住宅編 第11回 リノベーション物件購入の注意点 | 「不動産リテラシーの向上で老後の安心生活を」シリーズ投稿始めます

「不動産リテラシーの向上で老後の安心生活を」シリーズ投稿始めます

中小企業診断士 桑岡伸治のブログです。このたび、「老後の安心生活」実現を目的に、不動産に関する様々な情報を提供するシリーズ投稿をはじめます。
はじめにプロローグをお読み下さい。
ひとりでも多くの方が、Happyになりますように!

 リノベーション・ビジネスが盛んだ。マンションでも戸建でもまるで新築、最新の設備とおしゃれな内装で蘇った物件が新築よりかなり安く手に入る。リノベーション物件を購入するときに、注意すべきことはどのような点であろうか。

 

 情報バラエティ番組の中で「古いマンションや戸建を買って自分でリノベーションした」という方の紹介をしばしば目にする。DIY好きなパパが、格安で100円ショップ等も駆使して、それまでの古臭い部屋を、使いやすくおしゃれな部屋に蘇らせると家族は大感激だ。奥さんは喜びのあまり涙を流している。「すごいなあ」と感心する一方で、「これを自分でやるのは大変だぞ」としり込みする自分もいる。

 

 そこで登場するのが「不動産会社が買い取って、リノベーションをして再販する」ビジネス。そのメリットはというと、①完成したものを見て買うことができるので安心。②リノベーションのノウハウ不要。③価格が明確なので判断しやすい。といったところであろうか。

 

 元々の所有者も、一般の買主(エンドユーザーと言ったりする)に売却する場合は、「雨漏りを修理してから」とか「壊れたトイレを交換してから」とか、なにかと気をつかうが、不動産会社に売る場合は、「そのまんまでいいですよ」「何なら、要らないものも、ごみも全部そのままで」とか言ってくれて、あとくされがないので売りやすい。

 もちろん、不動産会社は商売だから、買取価格は「利益分」安くなるが、内見のたびに掃除したり子供を外に連れ出したり、それが何度か重なってくると、「本当に売れるのだろうか」という不安も重なって「不動産屋さんに買い取ってもらおう」という気持ちにもなるのも無理からぬことだ。

 

 そんなこともあって「リノベ再販ビジネス」は、日本が、それまでの新築主義から欧米のような「中古住宅流通」中心に転換していくために、きわめて重要な役割を果たすとみられている。

 言いかえれば、「リノベ再販ビジネス」は、発展途上であり、それだけに購入する側としては、眼力が試されることにもなる。何しろ「リノベーション」に基準がある訳ではなく、その内容の一切は不動産会社の胸三寸なのだ。いや、厳密にいえば「住宅性能表示制度」というのがあり、第三者機関が検査を実施して「現況検査・評価書」の交付を受けることが可能である。

 しかしながら、この制度を活用し、あるいは制度の趣旨をくみ取って、住み心地がよく健康に暮らせる住まいと言える水準まで性能を引き上げるリノベーションを行っている事例はあまり見かけない。それは、ひとえに「売りやすい価格帯に抑える」ためと言ってよい。

 

 ある物件の販売用チラシに記載されている「リノベーション内容」を見てみる。外壁・屋根塗装、フローリング張り(天然木突板)、クロス貼替、システムキッチン交換(食洗器付)、ガラストップコンロ交換、ユニットバズ交換(暖房乾燥機付)、給湯器交換、洗面台交換、トイレ交換、モニターフォン設置、ハウスクリーニング。

 要するに、仕上げや設備を交換して「見栄え」をよくすることが中心となっている。これは「リノベーション」というより単なる「リフォーム」に近い。実際、「リノベーション」という表示に負い目を感じるのか「リフォーム」しているチラシも多くみられる。そもそもリフォームとリノベーション自体の境目もあいまいで、改修範囲や規模が大がかりになったものをリノベーションと呼んでいるともいえる。

 

 このように一口に「リノベーション物件」といっても、その中身はうんと幅がある。不動産業者が「目立つところ中心に」リノベーションするのは、あたりまえともいえる。彼らは、売りやすい価格で再販できるよう、コストを抑えつつ、いかに買主の印象をよくするかに力点を置いている。

 

 地震や台風といった災害が多発、地球温暖化は目に見える形で進行している。住宅にも構造的な耐力が求められることはもちろん、脱炭素に向けた取り組みはもはや「待ったなし」だ。空き家問題に象徴されるように、住宅が、量的には余剰へと転じる中で、人命を守り、省エネルギーで、安全、安心、健康な暮らしを実現してはじめて、資産価値がある家といえるのであり、これからは、そのような住宅こそが、流通市場の中で、何代にもわたり受け継がれることになるであろう。

 

 繰り返しになるが、現在行われているリノベーションの主流は、デザインや設備であり、本来住宅の重要な機能である断熱・気密、換気といったものまで考えられているものは少ない。耐震、耐火性能についても十分な検証を行っていることはまれだ。

 無断熱や低気密の家は、夏暑く冬寒い。しかし、科学的な道理に合わない断熱や気密を行うと、結露を発生させカビやダニの原因となる。その結果アレルギーを誘発する不健康な住まいをつくりだしてしまう。

 

 安全、安心で健康的な住まいについては、長い失敗の歴史を経て理論的には確立している。できることならリノベーションをきっかけに、旧来の性能から大きく「質」を向上させた住まいに引き上げるべきであろう。

 

 しかし、そのことに対し、供給側の不動産会社も、買主となる消費者もまだまだ意識が低いと言わざるを得ない、消費者の意識が変わり、「性能の質による選別」が行われるようになれば、つまり「質が良くない家は売れない」となれば、業者側が本気で「質にこだわったリノベーション」に取り組むようになるはずだ。

 そのような流通市場の実現が今すぐは無理だとしても、いずれは必ずその方向に進む。なぜなら、地球環境への配慮は、全人類のミッションとなりつつあるからだ。

 

 これからリノベーション物件を買おうとする消費者は、10年後に、資産価値のない低性能の家を保有して後悔のすることが無いように充分に情報法収集してもらいたいと思う。