不動産取引編 第2回 先駆者だったスルガ銀行 | 「不動産リテラシーの向上で老後の安心生活を」シリーズ投稿始めます

「不動産リテラシーの向上で老後の安心生活を」シリーズ投稿始めます

中小企業診断士 桑岡伸治のブログです。このたび、「老後の安心生活」実現を目的に、不動産に関する様々な情報を提供するシリーズ投稿をはじめます。
はじめにプロローグをお読み下さい。
ひとりでも多くの方が、Happyになりますように!

 90年代のバブル崩壊の後始末は、まだ続いていた。

 レーサム・リサーチが日経新聞に掲載した「不良債権を買おう」という広告が物議をかもし、不良債権の管理回収会社を意味する「サービサー」から、物件売却の依頼を受けることも珍しくなかった2000年代の前半、新宿の仲介店舗は、スルガ銀行の行員さんが熱心に通ってこられた。

 

 地方が地盤とはいえ天下の銀行員が、「不動産屋」と揶揄されることもある仲介店舗の窓口にあしげく通ってくることにも驚いたが、その依頼内容は「そんなビジネスモデルがあるのか」と感心させられたものであった。

 

 「RC(鉄筋コンクリート)造で築15年程度までの賃貸マンション」「利回り10%以上」「必要なら買主(投資家)を紹介する」、そして、買主には「年利4%、フルローンで融資する」。

 

 RCは税務上の耐用年数が47年となっており、築15年位までなら、30年以上の返済期間での融資が可能だ。そのため、4%という高金利で融資しても、返済後のキャッシュ・フローはプラスになるという仕掛けだ。

 買主には、それほど年収が多くないサラリーマンや、時には潰れそうな会社ということさえあった。本業で収益が上がらないので、不動産からの賃貸収入でキャッシュを生み出し、事業資金として貸し付けた既存借入りれ分までも一緒に返済させるという話だった。

 

 スルガ銀行によって、不動産投資家への道が開かれたという人も少なくないと思う。サラリーマン投資家生みの親といってもよいのかもしれない。

 

 その後、不動産証券化の拡がりもありリーマンショック前夜まで、不動産価格は上昇していくのだが、それでも利回り10%の物件は、探せばまだあったし、時には、それこそ不良債権処理のための任意売却物件のような、一癖あるが割安な物件も対象になった。

 ただ、「RCで高利回り」という条件が優先されるため、立地は、郊外のバス便であったり、地方の物件であったりと、賃貸需要に不安がよぎるものが少なくなかった。事実、リーマンショックの余波を受けた派遣切りや工場閉鎖が相次ぎ、大量の契約解除が生じ、返済不能となってしまう事例を生み出してしまうのだ。

 

 不動産投資においては、ローン・レバレッジを活用することで、投資額に対するリターンを最大化することができる。だから、めいっぱい借りられるだけ借りて、低金利の恩恵を受けることも構わない。しかし、それには条件がある。「十分な預貯金があり、不測の事態にも問題なく対応できる人に限る」ということだ。別の言い方をすれば、「自身のリスク許容度に応じた借入・返済計画になっているか?」ということである。

 

 時折、「借入によって短期間の資産規模の拡大を実現すること」を礼賛するような不動産投資セミナーを見かける。主催者が売りたい物件に、割高な金利の提携ローンをセットにした「投資商品」に、融資を受けられるからというだけの理由で乗っかることが、その後にどのような影響を与えるか、冷静になって考えてもらいたい。

 

 さて、リーマンショックを底に、不動産価格は上昇へ転じる。アベノミクスが始まると、異次元の金融緩和で、スルガ銀行の融資金利も2%台へと低下したが、収益用不動産の利回りはそれ以上に大きく低下する。そして、スルガ銀行は、新築物件への融資に軸足を移し、かぼちゃの馬車事件へとつながっていくのである。