不動産取引編 第3回建築費高騰と令和不動産バブルの終焉 | 「不動産リテラシーの向上で老後の安心生活を」シリーズ投稿始めます

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中小企業診断士 桑岡伸治のブログです。このたび、「老後の安心生活」実現を目的に、不動産に関する様々な情報を提供するシリーズ投稿をはじめます。
はじめにプロローグをお読み下さい。
ひとりでも多くの方が、Happyになりますように!

 昨年(2023年)末、ある方から5階建の中規模ビルの新築ビル計画についてご相談を受けた。駅から徒歩2分という好立地ながら交通量の多い道路に面することもあり、多少割高になることはやむを得ないでと覚悟はしていたが、比較的リーズナブルなことで実績のある建設会社の試算でも建築坪単価で180万円以上とのこと。

 

 この会社でこの水準なら、ハウスメーカーや中堅ゼネコンに頼んだら200万円超えは確実だ。やむを得ず、現存する建物(木造)のリノベーションに留めるか、計画そのものを断念して売却するか等、いくつかの代替案を念頭におきつつ、現在も様子をみている。

 

 小規模な分譲マンションや投資用ビルを開発してきたデベロッパーで、建築費が上がりすぎて収支が合わず、用地仕入れや着工を見合わせたりしている例が頻発している。建設会社は、下請工務店が人手不足で、いつ現場に入れるかという先の見通しが立たず、受注調整を余儀なくされているのだ。

 

 建築費高騰の理由として、オラガ総研代表取締役の牧野知弘さんは、次のように解説されていて、大変分かりやすいので引用させていただく

 

 理由は5つある。

 まず建物を建設する際の建築資材の高騰だ。オフィス建設などに必要な鉄骨、住宅用の木材などは世界的な建設需要の高まりもあってひっ迫している。最近の大規模建物に使われる外装・内装材の多くが海外品だ。外壁に使う花崗(かこう)石、アルミカーテンウォール、内装の大理石、造作家具などに至るまで多くが日本は海外からの輸入に頼っている。コロナ禍以降世界的な金融緩和と、東アジア、東南アジアの経済発展で建築資材がひっ迫している。世界的なインフレ傾向は輸入材に頼る国内の建築費の値上がりに直結している。

 2つめがウクライナなどでの国際紛争に伴うエネルギーコストの高騰だ。原油価格の高騰は輸送コストや電気代の上昇を招く。エネルギーは建築資材の製造や物流などすべての面でコストアップの要因となる。

 3つめが世界的な半導体不足だ。建設の世界でもエアコンや照明装置、給湯器や床暖房といった設備に半導体は多く使われている。建物ができあがっても設備が入らないことには稼働ができない。設備系のコストアップも全体の建築費の上昇に寄与している。

 4つめとして昨今の円安が、これら輸入資材の調達コストをさらに引き上げることに貢献している。先進国の中で日本だけが低金利状態を続けているが、内外金利差は為替安を招く結果、輸入資材価格は為替分がさらに上乗せされることになる。

 そして5つめは日本固有の要因だ。人件費の高騰である。建設業に従事する人の数は1997年の685万人をピークに下がり続け、2022年には479万人。25年間で実に30%も減少している。特に鉄筋工や型枠工といった専門技術を必要とする職種はベテラン作業員の高齢化による退職が相次いでおり、人数のみならず年齢構成や職能によるバランスが保てなくなっている。人手不足は将来的にじわじわと人件費の高騰を招くことは明らかだ。(Business Journal記事より)

 

 

 建築費の高騰にも負けず元気がよいのは「富裕層、外国人」対象の物件だけだという。超高級マンションや高級ホテルは売れている。特に外国人にとっては、円安で割安となった日本の物件は「全く高くない」、あのTVの情報番組が浅草や築地の取材で紹介している「ラーメン一杯5千円、美味しいです、全然高くありません!」の光景を同じことが、不動産においても起こっている。

 数か月前、古巣の後輩から「熱海の古い旅館」の買主がいないか相談を受けたが、最終的にはこれも外国人が取得したとのことだった。しかも、建物は解体して新築するのだとか。

 

 「高齢化と人口減少が急激に進行」「人手不足と物価高がより深刻に」ここに金利上昇まで加わってくると、多くの日本人は極力切り詰めて、つつましやかに、ささやかに暮らすしかなくなっていく。企業は生き残るために「外国人相手」のビジネスに傾注していくだろう。現に、大手ハウスメーカーの戸建事業は、海外での売上が主力になっている。

 日本人から見ると、現状の不動産価格は明らかに割高、「不動産バブル」である。国内需要だけならとっくに崩壊していたに違いない。いや、一般の日本人が顧客である不動産ビジネスは、既にその兆候が表れている。

 下のグラフは、東日本レインズが公表している中古マンションの取引状況であるが、この2年間在庫件数が増加トレンドにある。その間、「成約㎡単価」つまり価格が上昇し続けているのだが、「売れ残り」も増えているということであり、価格上昇についていけなくなっているという見方もできるのではないだろうか。

出典:レインズ東日本

 

 いずれにしても、「建築費」「人口減少」「高齢化」、それに「外国人」や「為替」「金利」等、いくつもの要因が複雑に絡み合う今の不動産マーケットは、先読みが極めて難しい。不動産業者の間ではいつも「ババを引きたくない」という話が会話に上る。中小の不動産会社には、「売り逃げできずに倒産するリスク」と背中合わせというところも少なくない。

 とにかく今は、マーケットから目が離せない時期だと思う。