不動産取引編 第4回 「3%+6万円」の呪縛 | 「不動産リテラシーの向上で老後の安心生活を」シリーズ投稿始めます

「不動産リテラシーの向上で老後の安心生活を」シリーズ投稿始めます

中小企業診断士 桑岡伸治のブログです。このたび、「老後の安心生活」実現を目的に、不動産に関する様々な情報を提供するシリーズ投稿をはじめます。
はじめにプロローグをお読み下さい。
ひとりでも多くの方が、Happyになりますように!

 不動産を売買した時の仲介手数料(媒介報酬)の上限は、宅地建物取引業法により次のように決められています。

取引金額

仲介手数料の上限

(取引金額に対する割合)

200万円以下

5.5%

200~400万円以下

4.4%

400万円超

3.3%

・低廉な空家等(売買代金や交換などにかかる費用が400万円以下の土地・建物)については、上記の計算式で算出された金額+当該現地調査に必要な費用の金額以内(18万円の1.1倍を超えない額)。

・取引金額は「消費税等相当額」を含まない。仲介手数料上限額は、「消費税等相当額(10%)」を含む。

 

 それでは、賃貸物件の報酬はというと、次の通りとなります。

「消費税等相当額を含まない賃料」の1月分の1.1倍に相当する金額(「消費税相当額(10%)」を含む。)

・居住の用に供する建物の賃貸借の媒介に関して依頼者の一方から受けることのできる報酬の額は、依頼者の承諾を得ている場合を除き、借賃の1月分の0.55倍に相当する金額以内

 

売買において、例えば売買金額が1,000万円だとすると、「400万円超」なので、1,000万円の3.3%、33万円が手数料額かというと、そうではなくて、下記のように取引金額区分ごとに計算した金額の合計になります。

200万円×5.5%+(400万円-200万円)×4.4%+(1,000万円-400万円)×3.3%=39.6万円

 

不動産の売買取引においては、売買金額が400万円を超えることが多いので、仲介業者は簡易に「(税別)売買金額×3%+6万円+消費税等相当額」という計算式を用いて上限額を計算します。そしてこの「3%+6万円」は、彼らの意識と行動に強い影響を及ぼしています。

すなわち、次のような力学が営業マンにも組織にも働くことになります。

 

① できれば「高額物件」を扱いたい。

 1000万円の物件でも、1億円でも同じ「3%+6万円」、つまり似たような労力(実際には同じではありませんが)で報酬が約10倍も違ってきます。小額物件には露骨に力が抜ける営業マンがいたり、逆に、「こんな小さな家のお手伝いさせてごめんなさい」と、気をつかって誤るお客様がいたりします。

 

② 売主、買主両方から報酬をもらいたい。

 一つの物件で、「売主と買主両方から手数料をもらえる」、これを「両手」取引といいます。この「両手」に持ち込むために、売却情報を抱え込み、なかなかオープンにしなかったり、旧知の不動産業者に買わせようとしたりします。

 

③  同じ物件を繰り返し仲介したい。

 「ひと粒で二度おいしい」(笑)。

 これは②の進化版です。知り合いの不動産会社(転売業者等)に買い取ってもらい、彼らが「再販」するときにも、仲介に入らせてもらうようにします。

 

 これらの行為は、一概に「違法」とまでは言えませんが、悪質度が高くなれば、道義的な責任やコンプライアンス上の問題が生じてきます。たとえば、「両手」取引をしたいがために情報を抱え込むと、購入希望者とのマッチングの機会を減らすことになり、成約までに時間を要したり、割安に売却することにつながったりすることもあります。売主としては「反響が弱いのは価格が高いのでは?」と不安に思うからです。

 

 では、賃貸物件の仲介の場合はどうでしょう。例えば家賃5万円のワンルームマンション、本来であれば手数料は「家賃1か月分の5万円と消費税」ですが、多くの場合、仲介業者は、貸主から「広告料」名目で1ヶ月分、借主から仲介料として1ヶ月分、計2ヶ月分の報酬を得ています。

 「広告料」は実質的な仲介手数料であり、この行為は「グレー」というより、ほぼ「真っ黒」なんですが、なぜか業界では「問題なし」とされて、「広告料なし」が珍しいくらいです。

 

 少々話がそれますが、不動産仲介業者と買取再販業者や建売業者のリレーションシップは、実は健全な不動産市場形成のためにとても重要です。

 例えば、「権利関係等に問題を抱えた物件を、リスクを取って購入し、投資して、エンドユーザーが購入できる物件に生まれ変わらせる」「古い物件をリノベーション再生して、保証付きで市場に提供する」というような、プロならではの役割を果たしています。

 仲介業者は、買取再販業者等とのリレーションがなければ、広く所有者のニーズに応えることができませんし、再販業者側も仲介業者の情報力に期待、依存していますので、普段から信頼関係の構築に熱心です。ただ、その関係が行き過ぎて「癒着」するようになってしまうと、不正行為を行って自分たちの利益を得ようとするようなことになってしまうこともあります。

 

 さて、ここまで書いてくると、不動産屋とはなんて「お金好き」、お金のためなら法律スレスレのこともいとわない人達…という印象をより強められたのではないでしょうか。NHKドラマ「正直不動産」は、「ウソがつけなくなった不動産会社の営業マン」が主人公でしたが、逆に言えば「不動産屋はうそつき」のイメージがあるからこそ成立したドラマでもあるのでしょう。

 

 最後に、元不動産会社の営業マンとして、また「まじめに頑張る営業マン」のために、「そういう人たちばかりではない」ことを、声を大にして申し上げておきたいと思います。

 

 例えば、ビルや工場、商業施設といった大規模な不動産は、複雑で調査にも資料作りにも、多大な労力を払うことも珍しくありません。当然、専門的な知識や物件に潜む問題点を発見する能力が必要になります。少々身勝手なお客様の場合には、納得の上で取引していただくために、丁寧に説明をして商談をまとめる「折衝力」「忍耐力」も必要です。

 高齢なお客様が不安になることなく、できるだけ小さい負担で済むように、わかりやすい資料を用意し、時には、引っ越しや不用品の処分のお手伝いをするなど、誠心誠意努力している営業マンもたくさんいるのです。これらは、かなり「プロフェッショナル」な仕事です。

 

 大切なことは、そんな「よい営業マン」「よい会社」と出会うこと、「悪い営業マン」や「悪い業者」を見抜くことです。これはどんな業界でも同じですね。