不動産投資編 第14回 新築ワンルームマンション投資 | 「不動産リテラシーの向上で老後の安心生活を」シリーズ投稿始めます

「不動産リテラシーの向上で老後の安心生活を」シリーズ投稿始めます

中小企業診断士 桑岡伸治のブログです。このたび、「老後の安心生活」実現を目的に、不動産に関する様々な情報を提供するシリーズ投稿をはじめます。
はじめにプロローグをお読み下さい。
ひとりでも多くの方が、Happyになりますように!

 

 私には、新築ワンルーム投資に関わる苦い経験があります。

 

 1990年代の初めに横浜市にある新築区分ワンルームマンションを購入し、千数百万円の損失を出しました。80年代半ばからのバブルは既に崩壊しつつあったにも関わらず、知識も情報もなく手をだして、高い授業料を払う羽目になりました。

 投資は自己責任が原則ですので、自分の不勉強を恥じるばかりですが、一方で、分譲業者側にも、利益至上主義で、「投資家保護」の観点が無かったことは確かです。当時は、社会全般が「不動産投資」ということに関して未熟であったと思います。

 

 あれから30年以上経った現在、不動産証券化が拡大し法制度が整備される中で、少なくとも証券化された不動産に対する売主側の「説明責任」や「投資家保護」については大きな発展を遂げましたが、「新築ワンルームマンション」に関しては、当時とさして変わらない手法で販売されており、いささか疑問をいだかざるを得ない思いです(私怨ではありません。笑)。買主の無知をいいことに、明らかに収益を生まないと思われる物件の強引な営業の実態も続いています。

 

 新築マンション投資は、分譲価格の中心が2000万円台〜3000万円台で、初心者にも比較的取り組みやすい価格帯です。それだけに投資家の知識向上と共に、分譲業者側の販売手法の改善が求められると感じています。

 

 東北地方のとある県庁所在地で開業する医師の方から相談を受けたことがありました。東京、横浜、大阪、神戸などの主要都市に57物件、総額にして12億円余りのワンルームマンションを保有していました。約5年間の間に、すべて新築で購入したものです。

 

 購入資金は、ほとんどが償還期間35年の融資で、かつフルローン(自己資金ゼロ)です。金利は、信用組合と地銀が1.85%(融資件数は各1件)、2%台前半がオリックス銀行、セゾン銀行、ジャックスなど、スルガ銀行は3.4%、最高金利は三井住友トラストL&Fの3.9%でした。最も融資件数が多かったのはスルガ銀行で17件でした。どの物件もほぼ4%台のNOI利回りで共通しています。私は、その中の代表的ないくつかの物件についてキャッシュ・フロー表を作成し、報告致しました。

 

 今回は、そのうちの一つについてご紹介して、新築ワンルームマンション投資のどこに問題があるのか、ご説明したいと思います。前提条件として、①賃料は増減しない、②管理費、修繕積立金は上がらない、③空室はないもとする、④原状回復費用、リフォーム費用はゼロとする、⑤売却するときは、手取り収入1,970万円で売れる、です。この前提自体に無理がありますが、それは後ほど解説いたします。

 

■物件の購入条件

 借入額

1,970万円  

 金利(年利)

3.50%

 返済期間

35年

 

■初年度の収支 

 初年度のNOI ※

85万円

 元利返済額

98万円

 元利返済後CF

-13万円

 減価償却費

42万円

 不動産所得

-26万円

 所得税節税額

12万円

※NOI Net Operating Income 減価償却費控除前の税引前純収益

 

■20年間の収益状況

 

 

NOIの水準とファイナンス

 問題点の第一は、NOI利回りが低いことです。というより、NOI利回り4.3%に対し、金利3.5%のフルローンを組んだのでは、利払いのために買ったようなものです。

 

 税引後のインカムゲインは、常にマイナスで、累計額は10年間でマイナス38万円、20年間でマイナス140万円になります。この傾向は35年間同じで、賃料の上昇が無い限り「毎年ずっと赤字」です。

 

 もちろん、不動産所得もマイナスになりますので、「若干の節税」にはなります。特にこの投資家は、年収4,000万円を超えるお医者さんということもあり、所得税率も高いので減価償却費を費用計上することによる節税効果は、1年間に19万円弱あります。その結果、この物件から入る家賃収入に対する所得税を支払うことなく、家賃収入を得ることができます。

 営業マンのセールストークはおそらくこうです。

「マンション購入により所得税の節税になります。ローン返済期間中は若干のマイナスですが、35年後には返済が終わり、家賃が丸々手元に残ります。この投資は、自己資金ゼロで明日から始められます。」

 

 NOI利回り4.3%は、現状の不動産マーケットにおいてはやむを得ないと思いますが、相応のリターンを得るためには、投資額の半分以上を自己資金で用意するか、1%を切るような低利で資金調達をする必要があります。

 全額自己資金で投資した場合、下図のように5年で327万円、10年で654万円のインカムがあり、また、売却によりそれぞれ2,234万円、2,499万円のリターン(インカム、キャピタル合計)があります。ただし、この場合も年平均の利回りは3%にも届かず不動産投資のリスクを考えれば、投資適格とは言い難いと思います。

 

■20年間の収益状況(借入無し)

 この場合のセールストークは「毎年85万円の収入があります。老後の年金代わりになります。」といったところでしょう。

 

売却時の価格下落の問題

 「新築プレミアム」という言葉があるように、賃料が最も高いのは新築時です。逆に言えば、入居者が入れ替わった(つまり中古になった)段階で、賃料が周辺相場並みになることを覚悟しなければなりません。

 家賃が下がれば、売却価格も下がります。前提条件として「投資額と同じ1,970万円で売却できる」としましたが、実は、それは現実的ではありません。実際、多くの物件が値下がりしています。

 

 百歩譲って、購入時の賃料が維持できたとして、5年後、10年後、そして35年後に日本の人口がどうなっているか想像してみて下さい。2024年時点で、全国の空き家は既に900万戸、さらにこの先大量の空き家が増えて行きます。それらは売却されるか賃貸に出されるか…。

 競合物件が益々増えているのに、人口は減少し続けます。賃料も下がるし、売却価格も下がると考える方が、誰が考えたって合理的です。

 

「長期」はハイリスクという問題

 私は、このブログの中で、たびたび訴えていますが、35年の事業収支なんて机上の空論もいいところです。 「35年間で、ローンを返し終わったらその後はプラスになります。」といわれたって、その時あなたはこの世にいないかもしれません。マンションの管理会社が倒産し、メンテナンス費用がかさみ、街が衰退し、不人気極まりないマンションになっているかもしれません。特に投資用の区分マンションのオーナーは、日本中に散らばっており、管理に対する意識も希薄です。

 

 実際、私が投資したマンションは、売主が倒産し、系列の管理会社が撤退して管理状態が劣悪になって、資産価値が大幅に下落しました。購入してからたった数年後のことでした。

 その他にも、「相続人のいないオーナーが死亡し、管理費や修繕積立金の未納が増える」「災害で建物が大きなダメージを負う」「居住者による事故物件化」等、保有期間が長くなればなるほど、予測不能なことに直面する可能性が高くなります。

 90年代にあれだけ人気があったリゾートマンションのことを思い浮かべて下さい。35年というのは、誰も予測しえない未来です。

 35年返済のローンを活用することはあっても投資期間は5年、どんなに長くても10年で「利益確定」するつもりで投資可否を判断すべきです。もっとも安全な資産といわれる国債でさえ、個人向けは10年ものが最長です。

 

 さて、今一度「前提条件」に戻ります。①賃料は増減しない、②管理費、修繕積立金は上がらない、③空室はないもとする、④原状回復費用、リフォーム費用はゼロとする、⑤売却するときは、手取り収入1,970万円で売れる。どれひとつとして、アテにならないものばかりです。

 

 このお医者さんからのご相談は、2018年頃だと記憶しています。その時の私の助言は、「調達金利が高い物件はなるべく早めに売却しましょう」というものでした。売却しない限り利益が出ない物件は、値下がりしないうちに売却して、損失を回避することを選択した方がよいという考え方です。

 

 中古ワンルームマンション相場は、2018年時点ですでに「高値圏」にありましたが、その後も下落することなく、横ばいもしくは上昇が続きました。紛れもなく空前の低金利が後押ししたものです。

 2024年に入り、金利は少しずつではありますが上昇に転じています。東京都でさえ、2030年以降は人口が減少、それを負うように2035年からは世帯数も減少に転じます。余裕のある投資家は、既に利益確定して「キャッシュポジション」を高めています。不動産バブル崩壊をにらんだ、「ババ抜き」はすでに始まっているとみるべきでしょう。

 インカムゲインが小さい、つまりキャピタルゲインでしか稼げない不動産のオーナーは、否が応でもババ抜きのメンバーになっているのです。