(関西弁の会話をそのまま記載していますのでご了承ください。)

 

●ちょっと怖い人  ◇40歳前半 男性◇  
 板金工への応募したいと自選した求人票をもって窓口へ。

いすに座るなり、ハローワーク中に聞こえるような大声で、

 

「おれな、最近まで覚せい剤で刑務所に入っとんたんや。

   出所して今日は(保護観察)施設から来たんや

 

 

周りの来所者が驚いたようにこちらを見る。

思わず、「もう少し小さい声で話しませんか」 と言うと

 「別にかまへん。それより、はよ、この求人の紹介状だして、すぐ面接にいってくるわ」

 「まあまあ・・・あわてないでください。 先方に応募の了解をとる必要があるので、まずそれが先ですよ」

 

 よくみると、上の前歯1本残して歯がない。

一瞬、頭が真っ白になったが、平静を装いながら急ぎ事業所と調整して面接日時を設定し紹介状を交付して、お引き取りいただいた。

 応募先の担当者は 本人が面接に来た時、さぞかし驚かれたのではないかと思われる。

 

 なお、ハローワークには、こうした方(刑余者)を支援する専門援助相談窓口がある。

次回来所したときはそちらへ誘導するつもりだったが、その後来所されることはなかった。

 私の職業相談歴6年のなかで、これ以上の人とは出会わなかった。

 

 

 

 

●夢が忘れられないアラフィフ女性 

 40代後半 女性。結婚・出産後、子育ても一段落したので、昔からあこがれていた旅行会社に応募したいと来窓。

 ただ、職歴をみると、結婚前は販売の仕事をしていて、結婚・子育てで20年近くのブランクがあるうえに、旅行業の経験もない、しかも通勤に2時間近くもかかる正社員求人である。

 

 

 年齢的に即戦力を求められる上に、実務経験もなく、通勤に2時間もかかるような50歳前の人を採用するわけがないのであるが、本人は気づいていないのか・・・。

 採用は厳しいので考え直しては?とアドバイスしても、「とにかく応募したい」の一点張りである。
 本人の意思を尊重し、一応、紹介状を発行したが、もちろん書類選考で不採用となった。

 ただ、その後は近隣の販売職のパートに応募されていた。

 

 なぜ、この人はこんな可能性のない求人に応募したのか、気になったので少し考えてみた。年齢的にも単なる世間知らずではなさそうだ

 よく、選挙で落選することがわかっていても自己顕示欲自己承認欲から立候補する人がいるのと同じ気持ちなのかとも考えたが、その後は近隣の販売職のパートに応募したことから、少し違うような気がした。

 

 おそらく、若いころの夢が忘れられず、不採用になることは充分予想できたが、一時(いっとき)でも夢を見たかったのではないだろうか。そして、その夢にはっきりとNO!」と言ってもらい、踏ん切りをつけたかったのかもしれない。

 

 職業相談員の性(さが)でつい、採用見込みのない応募者には冷たくアドバイスしがちだが、そういう人の気持ちは大切にしないといけないと自戒したところであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 事務職を希望ということで、ときどき男性の求職者が相談に来られた。

●空気が読めない高齢者

 会社を定年退職したが、長く管理部門に所属していたため、ペンより重いものは持てない、体を動かす仕事は自信がないという男性の高年齢者が相談窓口に、一般事務職の求人票を数枚、応募したいと持参してくる。

 

  仕事の内容に、「受付、電話の応対、来客のお茶だしも含む」という表現があっても、年齢:不問 と書いてあるのでひょっとしたら採用してもらえると思うようである。

  これまでの紹介経験から、応募しても採用になることはまずないことはわかっているのだが、それをいきなり本人に伝えると機嫌を損ねると困るので、一応事業所に問い合わせてみる。

 

 電話口で「応募してもらっても年齢的に採用は難しい」と正直にいってもらえれば、まだ助かる(?)のだが、たまに、年齢や性別で応募を拒否すると法律(雇用対策法)に違反するのでは?と恐れて、「応募いいですよ、とりあえず履歴書を郵送しておいてください」と、ほとんど採用する気もないのに、応募を受け付けてくれる事業所があるので困ってしまう。本人は応募可と聞いて喜び勇んで応募するのであるが、当然ながら、まず採用されることはない。

 

 通常、一般事務職に60歳以上の男性が応募しても(コネや特別の資格があれば別だが)採用されることはまずない。そのうち何度か不採用になって本人も気づくのだが、こうした高年齢者にはもっと早く「空気を読め!」とつい叫びなくなる。

 

  ハローワークでは、高年齢者向けに「生涯現役支援窓口」を設けており、そこで相談してもらい、事務職でなくても、高年齢者の経験を活かせる仕事は他にもいっぱいあることを知ってほしい。

 

●若い男性の場合は

 (参考までに・・・)若い男性が事務職を希望する動機は、ほとんどが体力に自信がないとか、外回りの仕事はいやだとか、消極的な理由が多い。

   そもそも、簿記の資格や社労士、行政書士の資格でもあれば別だが

なんの資格もなく、パソコンが少しできるぐらいでは、事務職に採用されることはかなり厳しい。

 雇う側の気持ちになっても、事務職のほとんどは女性を採用するつもりで求人をだしているはずである。(もちろん、たまにマネジャークラスの求人も出るが、賃金が大概30万円以上なのですぐわかる。そのときは実務経験豊富であれば応募してもよいが・・・)

 ただ、そのことを説明すると、高齢者と違い、素直に受け入れ、すぐに別の職種を検討する人が多かった。「頭が柔らかい」のは若い人の特権かもしれない。

 

 

 

 

コロナ禍中の緊急事態宣言が発出されていた時の話です。

文中≪≫は面談中の私の「心」の声です。

 

●見た目で判断してはいけない ◇30代 男性◇

 コロナ禍ではハローワークもいろいろ対応に追われた。マスク、アルコールスプレー、アクリルボードは当然だが、冬でも常時窓を開けての換気や求人端末の随時消毒など不特定多数の来所者がいる中、感染予防にはできる限りの対策をしており、幸いクラスターは発生しなかった。

 

 そんな中、マスクにフェイスガード、両手に使い捨てのビニール手袋をしたまま、椅子には持参したビニールシートを敷いて相談を受ける男性がいた。

 聞くと「感染が怖いので、用心のために」と言うのである。

 少し過敏すぎるのでは?とは感じたが、ひょっとすると、基礎疾患をお持ちの方かもしれないし、アレルギーでワクチンを打てなかったのでは?と気をつかいながら相談をうけていたのだが、どういうわけか、応募したいと持参した求人票が 飲食店のホールの仕事 だった。

 

 思わず、「いやいや、こういう仕事は不特定多数のお客様がくるので感染のリスクは高い仕事ですよ」とアドバイスすると、「それは別にかまわない」とのあっさりした返事。

≪なんやそれ! その格好で「接客業」は無いやろ≫

 

 職歴をみてもホールの経験があるわけではない。普通なら、クリーンルームでの電子部品の製造や、衛生管理の行き届いた食品製造のあたりの仕事を勧めるところだが・・・。

 

 神経質なのか、潔癖症なのか、それとも大胆なのか、大雑把なのか性格がイマイチわかりにくい相談者であった。

 一応、紹介状は発行したが、面接の時にどんな格好で、どんな志望動機を話すのか気になるところであった。

 

 ハローワークには時々、こうした見た目と行動が一致しない人が相談にこられていた。
    人は見た目で判断してはいけない。 

よく言われてきたが、ハローワークで働くようになってから、改めてこのことを体感した次第である。

 

 

 

 

(関西弁の会話をそのまま記載していますのでご了承ください。)

 

●ぜいたくは言わないおじさん ◇68歳 男性◇

 相談窓口で、座るなり

おじさん「仕事さがしてくれへんか? わしは、ぜいたくは言わへんで。パートでええんや。」

私   「そしたら、具体的な条件を言ってもらえますか?」

おじさん「条件か・・・、そやな・・・

◇土日休みで、

◇週3~4日で働けて、

◇早朝や夜勤の仕事はつらいので

◇10:00~16:00くらいで働けて

◇車で30分以内で通えて、

◇月10万円くらいの仕事でかまへん。

◇社会保険もいらんで。

 ただ、

◇警備みたいな立ちっぱなしの仕事はしんどいし、

◇外回りは、夏場がきついので室内のクーラーがきいた部屋の仕事がええな 

 

 こんな条件で働ける仕事はないか? 何でもするで、なんかないか?」

 

 

一応パソコンで検索して

「すみません。検索しましたけど、今のところそんな条件の仕事はありませんわ。この条件にこだわるのであれば、また出直してくれませんか」と言うと、さびしそうに「わかった」と言って帰ってくれました。

 この場合、「今のところ」ではなく「永遠に」ありませんと言うべきだったかなと反省しているところである。

 

 

 

 

 

●ネットカフェで暮らすDV被害女性 

 50歳代前半 女性。大きなカバンを2つさげて、住み込みで働けるところを探してほしいと来窓。化粧もしておらず疲れ切った表情。事情を聴くとDVで家から逃げてここ3ケ月ネットカフェを転々としながら暮らしている。携帯電話もない、所持金も底をつき、これからどうしたらいいかと涙ながらに相談を受けた。

 女性だが警備業務に就く覚悟はあるか?と尋ねると、なんでもするつもりと言ってくれたので、こうした訳ありの人を住み込みで雇ってくれる警備会社の社長に連絡すると、即面接してくれるとのこととなった。さらに会社へいく交通費もないと相談すると、社長自ら車でハローワークに迎えにきてくれるとのこと。履歴書もあとで用意すればいいといってもらい、その時の本人の感謝でうれしそうな顔が今でも忘れられない。その後面接をし、その日に採用となった。

 

 こうした「ワケアリ人」を採用していただける企業には、感謝状を贈りたい気持ちになった。

国や地方自治体も、こうした影で社会貢献している企業に目をむけ、表彰や叙勲の対象にしてほしいところである。

 

 

 

 

 

 

(関西弁の会話をそのまま記載していますのでご了承ください。なお、文中≪≫は面談中の私の「心」の声です。)

 

●ホストになりたい元ヤン ◇29歳 男性

 耳にピアスの跡があり、一見短髪の海老蔵風のイケメン男性。ただ、席に座るなり私の顔をガン見、あごを突き出しほとんど瞬きせずに話し始める。

 

 「おっちゃんな(私のこと)、俺、いろいろ応募しているんやけどなかなか採用されへんのや、なんで採用されへんのかわからへん。はよ、お金稼ぎたいんで困ってるんや。ホストで稼ごうとも考えてるけど、ハローワークでどうやってさがすかわからへんし・・・」との相談

 

 ホストの仕事はハローワークでの求人募集はない。応募したければ新地か心斎橋あたりのホストクラブをネットで探して自分で応募するしかないことを説明

≪そんなこと、ここで相談するな≫

 採用されないことについては、面接の時、どんな態度で面接官と話しをしているのかと尋ねると、ほぼ今の面談状態と同じとのこと。それでは採用されないと説明。

   言葉遣い・姿勢・視線・表情・服装など面接時の注意点などを丁寧に説明。「やってみるわ」といって離窓したが、一度染み付いた立ち居振る舞いは、すぐに改めるのは難しいはず。彼は今ごろどうしているのか・・・。

 

 

 

 

 

 

●ハロワはキャバクラ?  ◇50歳代 男性◇

 ハローワークの職業相談は、総合受付で番号札を発券してもらい、番号札順に番号で各相談窓口から呼ばれる。勤務していたハローワークの窓口は15席くらいあったので、誰に呼ばれるかはわからない。相談窓口には、30歳代の女性から、60歳を超えた男性までの相談員が応対している。通常は番号を呼ばれたら、その相談窓口に行って職業相談や紹介状の発行を受けるのである。

 

  ところが、たまに、特定の相談窓口の女性と単に話をしたいだけに来所するおじさんがいる。
男性相談員や年配の(失礼)女性相談員から自分の番号が呼ばれると無視し、もう一度番号札をとりなおして、つぎのチャンス(?)を待つという具合である。

 

 

  当然、仕事を探す気などサラサラない。タダで1時間ほど、女性に相手をしてもらえるのはうれしいようだが、本当に仕事をさがしに来所している人たちにとってはいい迷惑である。こういう人は出禁(出入禁止)にしたいが、公的機関のため法的に対応できないのが歯がゆいところである。

 

 その後、統括責任者の指示で、この人が来たら、総合窓口で受付番号を控えてもらい、相談窓口には番号指定で呼び出す機能があったので、その機能を利用して男性相談員が応対するように変えたところ来なくなった。めでたし、めでたし。

 

 

 

 

はじめまして

  元ハローワークの職業相談員として、窓口に来られた「くせの強い」人たちへの思い出を、前職で人事部に勤務していた頃の思い出も交えて、ブログにまとめていきます。

 そこには涙あり、笑いあり、怒りあり、喜びありの様々な人生があります。

(詳しい、いきさつは「プロフィール」をごらんください。)

 

それでは 第一話のスタートです。

(なお 文中《 》は面談中の私の「心」の声です。)

 

●ハロワ任侠伝 就活番外地 ◇70歳代 男性 

 相談席にすわるなり昔話を始める。高年齢者のいつもの特徴なので、しばらく傾聴することにしたが、話の内容がちょっと普通の相談者とちがっていた。

 

「再婚した子連れの女房には苦労をかけた」

「若い衆にはいろいろ教えてやった。知ってると思うけど○○組の連中には苦労させられた」《知りません!》

「もう若いころみたいなやんちゃなことをしたらあかんことはよくわかってる」 ・・・などなど

 よくみると、左手の小指と薬指の先がない。そのあと自分が何をしゃべったかよく覚えていない。

 もし、なにか仕事を紹介してくれと言われたらどうしようと心配していたが、もともと仕事をさがす意思もなく、話をしたいだけから来所したみたいなので話を聞くだけで面談は終了。

 ただ、面談が終わるときは通常、「がんばってください」とか「失礼します」とか軽く挨拶するのだが、この時は、直立不動で

「ご苦労様でした!」 

と大き目の声で言ってしまった。