どうもこんにちは。
今回でこのブログも一区切りになります。感慨深いような、そうでもないような。
今回はInscryptionのネタバレを含みます。
また、The Hexのネタバレを含みます。致命的なほどではありませんが、ご注意ください。
考察お題箱・お題箱回答まとめ
考察記事もくじ
考えあぐねもくじ
表記・考察用語について
目次
▶︎Inscryptionにおける自我問題
▶︎The Hexとの対比
▶︎「そうだろ、ルーク?」
Inscryptionにおける自我問題
「『Inscryption』のキャラクターたちはいつから自我を持つのか」というのが、#2からずっっっっと宿題になっていました。
その後、「Inscryptionのキャラクターたちが自我を持つのはゲームワークスによって創られたからだ」というRedditの投稿を#8.5で紹介し、
The Hexをプレイして整理するまで保留にしてきた……というのがこれまでの経緯です。
『Inscryptionのストーリーを考察したい#2 #1関連の謎』2022.4.17.まとめリンク追加2022.5.2. Daniel Mullins過去作のThe Hexに関して追記(ネタバレ注意)2022.5.5.全体的…
ameblo.jp![](https://stat.ameba.jp/user_images/20220427/08/mochimochi-akita/41/78/j/o0797079715108905008.jpg?caw=800)
で、私自身の結論としては
「本来ゲームキャラクターは自我を持つものだが、それがプレイヤーに分かる形で表出したのはOLD_DATAの力によるものである」
という形に落ち着いたので、それを整理して9ヶ月に亘ったInscryption考察に区切りをつけようと思います。
The Hexとの対比
The HexとInscryptionの話はThe Hex感想回後編で一通り整理しました。
The Hex未プレイの方にも説明すると、Act3のタロットで語られる「三角形」「塔」はゲーム製作ソフト「ゲームワークス」を指します。
そして「三角形の力を用い、ケイシーがINSCRYPTIONの創造を手伝った」というホロ商人のセリフから(タロット「女帝」)、
ゲーム「Inscryption」はゲームワークスにより制作されたことが示唆されています。
で、タロット「塔」における「青い男」はThe Hexに登場するアーヴィングのことだと思われ、
The HexとInscryptionは共通の世界であることが暗示されています。
したがって、The Hexの世界設定をInscryptionにも敷衍して考えることにします。
すなわち、
- ゲームキャラクターは自我を持っている
- 一部のゲームキャラクターはメタ認識を持つ(自分がゲームキャラクターだと自覚している)
- ゲームキャラクターの自由意志はふつう現実世界では確認できない(弊考察では「非対称である」と表現しています)
という点です。
ホロ商人はゲームワークスについて"know of"という表現を使っており、直接的には知らないらしいことが伺えます。
サブキャラクターである商人は自分がゲームキャラクターであることも、ゲームワークスの存在も知らなかったようです
#8.5で紹介したRedditの投稿では「ゲームワークス製なので」キャラクターが自我を持つと考察していましたが、
The Hexのブライスの扱いから、筆者は「ゲームワークス製でなくてもゲームキャラクターは自我を持つもの」と考えています。
ブライスをコンバット・アリーナに招くのにライオネルたちはかなり苦労したようです。
ここはThe Hex感想回前編で詳しく書いています。
感想回前編の情報に付け加えると、シックス・パイント・インで働いていることについて「ゲームワークスで働くよりマシだ。」と語りますが(ラザロ操作時、キッチンで聞けるセリフ)、
ここでいう「ゲームワークス」に出身作である「グラニー・クッキング」が入っているとは考えにくい。
したがってブライスは「ゲームワークスに命を吹き込まれ」た存在ではなく、別の形で誕生したキャラクターだと思われます。
こうしたThe Hexの世界観に則れば、ビデオゲーム「Inscryption」のキャラクターは全員が自我を持つはずです。
そして、主要登場人物であるスクライブや、
プレイヤーキャラクターである挑戦者は、自分がゲームキャラクターであることも認識していたものと推測されます。
そして、もともと現実世界とInscryptionのビデオゲーム世界は非対称であったらしいことが開発ログ#1から伺えます。
「レシーには、会話ファイルで見つからない内容のセリフがいくつか追加されていた。」と書いています。
一連の出来事を「寝落ちして後で夢だったと自分に言い聞かせないよう」書き残しているのは、夢としか思えない出来事だったからでしょう。
つまり、それまでは現実世界のケイシーからは、レシーは自由意志を持たない「ゲームキャラクター」としてしか見えていなかったことになります。
そしてこの、本来非対称である世界を対称に近づけたのがOLD_DATAではないか。
#9で書いたマグニフィカスにとっての創造主(maker)は開発者ケイシーのことで、ケイシーが故人であるために自分が死ぬことをああ表現した……とも考えられます
ゲームキャラクターの自我が表出したのがOLD_DATAの意図か、それともOLD_DATAの力の影響で勝手に起きたことなのか、
判断が難しいですが後者の方が自然かなと思います。
たびたび引用するタロット「悪魔」の「彼がスクライブの対立を煽った」について、
「悪魔」は自我を持つビデオゲーム世界のスクライブたちに、OLD_DATAの力を手に入れれば「世界を掌握」して自分の思うままにすることができると唆したのだと考えられます。
しかし、釣り人が「何かを川から釣りあげ」るまでは開発者ケイシーは「Inscryption」で異常なものを見てはいなかったようです。
さらには、ルークがプレイしている最中に菌学者や商人が自我を表出するようになったように見えます(#29参照)。
これは、釣り人が最初にOLD_DATA釣り上げた際、または初めてレシーの3D世界に遷移した際(#29参照)にOLD_DATAの力の影響を受け、
スクライブをはじめとしたキャラクターたちの自我が現実世界からも確認できるようになったのではないか。
それとは別に、#29で書いたように、次元遷移の際にOLD_DATAに接触したことで、
木彫り師や菌学者、商人が自我を表出させるようになったのではないか、と考えます。
「そうだろ、ルーク?」
自我の表出に関してはこんなところですが、キャラクターたちのふるまいについては他にも気になるところがあります。
まず、スクライブたちは自由意思を持って行動している姿をプレイヤーに見せてはいますが、
プレイヤーを認識していることはプレイヤー(ルーク)に見せないようにしている印象を受けます。
The Hexの世界設定として「ほとんどのプレイヤー キャラクターはそれ(自分がゲームキャラクターで、開発者とゲームワークスにより命を吹き込まれたこと)を知っている」というものがありますが(Waste World内、2回目のジェレミアとの会話でのセリフ)、
NPCでもジャック、ジェイなどは自分がゲームキャラクターである自覚を持つ発言をしているキャラクターがいます(The Hex感想回後編を参照)。
ただ、ゲームキャラクターだと自覚しているからといって、プレイヤーを認識しているのかは少し議論の余地があります。
プレイヤーへの語りかけは物語終盤で重要な意味を伴って行われますが、それ以外ではプレイヤーに干渉したり、対話したりするシーンはありません。
ただ、キャラクターたちは開発者であるライオネルのことは認識していますし、
ヴァラミールなんかは「フランチャイズが続編を出せないようにしてやるよ」(うろおぼえ)と開発サイドの発言までしているので、
開発のことまで認識しているということは、自分がゲームキャラクターだと分かっているキャラクターは、プレイヤーのことも認識できているのではないかと類推します。
スクライブたちは重要NPCということもあり、The Hexのことを考えると、元々自我と一緒にメタ認識を持っていたものと思われます。
MODでは「ケイシー…お前か?」とプレイヤーであるケイシー本人に語りかけるようなセリフもあり(「多産」ナーフ発動時のセリフ)、
MODが本編より前の時系列だとすると、この時点でスクライブたちはプレイヤーを認識していたと考えられます。
また、P03の「大いなる超越」は「バカで、アホで、間抜けの、典型的なゲーマー」を利用してのものなので、
少なくともAct3以降※、P03もプレイヤーを認識していたことが分かります。
※マグニフィカスがグリモラ宛ての手紙に「この「大いなる超越」は、大混乱を巻き起こし、どんな結果を生むかわからないだろう。」と書いているので、Act2時点ですでにプレイヤーありきの「大いなる超越」のプロットを完成させていただろうと思われます。
ところが、本編内でスクライブたちがプレイヤー=ルークに対して第4の壁を超えて語り掛けてくるのは最終盤です。
Act3、製錬場の地下で3スクライブと対面した際にレシーの言う「挑戦者であるあなた」(“YOU, CHALLENGER”)は、
プレイヤーキャラクターである「挑戦者」ではなく、挑戦者を通してプレイしている「ルーク」のことを指すものでしょう。
「大いなる超越」の説明をしはじめたP03は「そうだろ、ルーク?」とルークの名前を出し、ルークがしてしまったことを解説しはじめます。
それこそ演出のためではあるのですが、ここをなんとか理由づけられないか……と思ったものの少し難しかったので、これはこのまま謎として置いておきます。
最終回なんですけども……。
ひとつ言うとすると、P03がルークの名前を出し、(恐らくインカメラを使って)ルーク本人の映像を映し出したのは、P03の見栄なのではないかということです。
Act4で、グリモラは「名前は…"ルーク"よね?」と名前を確認しています。グリモラはルークの名前に馴染みがなかったことが伺えます。
だとすると、ルークの名前がバレたのはP03が「大いなる超越」の準備を進める中でのことだったと思われます。
アクセス権を許可したり、インターネットに接続したりしたから、お前の名前も知っているし、インカメラだって使える。
そんなことにも気づかなったバカアホマヌケプレイヤーに「大いなる超越」の成功を見せつけるP03なりの演出がこれだったのではないか、というのがロア上の考察です。
もう一つ気になることがあります。
「挑戦者」です。
ビデオゲーム「Inscryption」のプレイヤーキャラクターである「挑戦者」は、自我を持ち、自由意思を持ち、メタ認識を持つキャラクターのはずです。
しゃべることのできない、FPP(一人称視点)のプレイヤーキャラクターはThe Hexにも登場しており、
特にAct1,3の挑戦者はそれに似た存在だといえるでしょう。
しかし、挑戦者の自由意思はあまり確認できません。
プレイヤーが指示していない行動は、フィルムロールをカメラに入れるくらいしかしないのです。
スクライブのようにプレイヤーに語りかけたり、自ら行動したりと言う様子はありません。
挑戦者はあくまでもプレイヤーの駒なのです。
これについて、挑戦者については世界が非対称である=ビデオゲーム世界側から見ると挑戦者は意図を持って行動していると考えるのが順当ではあります。
しかし、
それでは挑戦者はプレイヤー(ルーク)をどこに連れて行こうとしていたのか?
挑戦者は「大いなる超越」が何なのか見抜いた上でルークに従っていたのか?
ビデオゲーム「Inscryption」の削除を止めようとは思わなかったのか?
こういった部分は謎のままです。
これは「Inscryption」という物語の深みとして、スクライブ側とも、プレイヤー側とも違う次元を考えるヒントにもなるかと思います。
これ以上は考察材料が足りないため控えますが、いろいろ解釈して楽しんでもらえたらと思います。
◇
2022年4月3日からずっと続けてきたInscryption考察ブログも、この記事をもって一段落です。
9か月の間にPS版が出たりSwitch版が出たり、「Inscryption」の感動がよりたくさんの人に届くようになってうれしかったです。
1記事3,500字として、だいたい45記事くらい書いているので16万文字は書いてきた計算になります。
長い記事を書くたびに「こんなに長いと読む人が大変だろうに……」と思い、「ま、飛ばし読みしたい人は太字だけ読むだろうからいいだろう」と自分を励まして投稿を重ねてきました。
一度でもアクセスしてくださった方々に感謝です。
一応、考察お題箱ではまだまだネタを募集しております。
回答はTwitterになりますが、もし気になることがあればお気軽にどうぞ。
ここまでの考察に耐えてきた「Inscryption」と、それを包むDaniel Mullins世界に改めて敬意を表し、筆を擱きます。
また追加で考察したいことが出てきたり、あとはDaniel Mullins Games新作が出たりしたら復活するかもしれません。
ではまた。