Inscryptionのストーリーを考察したい#32 お前にあれが聞こえるか | 書いたり、書かなかったり

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Inscryptionのストーリー考察記事を毎週土曜日に更新していました

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2022.11.14.外部リンクを追加、表記ゆれについて追記・修正しました

2022.12.5.表記ゆれについてさらに追加しました


どうもこんにちは。

お休みをいただいたりPony Islandで尺埋め(!)をしたりして、なんとかInscryption考察記事に戻ることができました。

やっぱり体が一番ですね……。



そんな間にも12/1にSwitch版Inscryptionが発売されることになったようでめでたいです!

クリスマスが早く訪れたみたいです(うろ覚え)



今日は割と久しぶりにInscryption考察記事になります。

ギリギリ考えあぐね記事にならずに済みました。

 


今回はInscryptionThe HexPony Islandネタバレを含みます。

 

 

 


記事もくじ(字数制限のため考察もくじは①のみ)

 









表記について




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

目次

 

▶︎悪魔はなぜスクライブたちを争わせたか

▶︎ARG内容出典について

▶︎OLD_DATAについてまとめ

▶︎「OLD_DATA」を巡る物語

▶︎カーネフェルコードの行く先は

 

 



 

 

これは#2からずっっっっっっと宿題になってきたものです。


Act3、ホロ商人はタロット「悪魔」で以下のように語ります。
 

その呪いは…データを決して削除できないほどの力を持つ。
彼がコードを作った。
彼がディスクを、私たち全員を壊した。
彼がスクライブの対立を煽った。
 
 
と、いうことで、スクライブたちが争っているのは悪魔によるものだとされています。
原文INSPIRES ENMITYからは、対立は憎悪、つまり感情的なものであること、現在形のため今でも影響を及ぼしているらしいことが分かります。

しかし、なぜ、何のために悪魔はスクライブたちの対立を煽ったのか?
 
 
マグニフィカスの野望について考えた#26では「混沌を好むのではないか」という仮定の上に仮説を立てました。

で、いろいろ考えた結果、やはり「混沌を楽しむため」という考察上の結論に至りました。
今回はその整理になります。
 
 
 
長くなったため前後編に分け、前編では悪魔とカーネフェルコードの関わりから、
後編ではThe Hexに登場するサドとの共通点から、悪魔の志向を検討していきます。
 
 

 

ARG内容出典について



今回の記事は実質OLD_DATA・カーネフェルコード考察に近いです。

InscryptionのARGおよびその結果であるログファイル"log.txt"の内容に触れ、考察します。

 

復号手順やロシア語・ポーランド語の英訳文はJeck0_0氏がまとめたGoogleドキュメント"Inscryption ARG Recap"を参考にしています。

直接リンクを貼るのは問題があるかもしれないので控えておきますが、この場を借りて感謝申し上げます。

 

当該GoogleドキュメントはDaniel Mullins Games公式Discord内、

#inscryption-plusにピン留めされたメッセージからアクセスできます。

 

 

 

 

また、ログファイルには公式日本語訳が存在しないため、弊訳を使っております(紫色の文字)。

ポーランド語は直の邦訳ではなく、前述の有志英訳をさらに邦訳した形なのでご留意ください。

 




なお、今回log.txtは考察に必要な部分だけを引用しています。

log.txt全文日本語訳や、それを復号するための暗号をARGでどのように解明したかについてはこちらの方が詳しく記事にしています。

 


 

 

OLD_DATAについてまとめ

 

 

#0で「OLD_DATAについては触れない」と宣言したはずなのですが、悪魔とGameFuna社を考えるにあたっては避けられなかったため、改めてここに整理します。

 

 

OLD_DATA」という名称は、後述するログファイルにおけるバリー・ウィルキンソンの記述に由来するものだと思われます(詳細は#1参照)。

 

 

 

 

 

そもそも「OLD_DATA」とは何か。

 

 

 

Act2のローディング画面でCtrl+Cを押すとコマンドを入力できます(”help”と打つと使えるコマンドの一覧が表示されます)。

"ls OLD_DATA"と入力すると「OLD_DATA」フォルダー内のファイル一覧を見ることができます


中身は複数の画像ファイルとログファイル「log.txt」で、

そのうち風景写真である3枚※が「狭義のOLD_DATA」と言えるでしょう。

この狭義のOLD_DATAとは、端的に言うと「ヒトラーの遺骸がある場所が分かる日記の複写データ」(log.txt[1x]、 [1a]より)です。

 

 

※私自身ではこの写真は確認しておらず、上述のARGドキュメントで閲覧したのみです。実際に画像を見たい場合、Unityファイルの中身を吸い出すことになるのではないかと思います。

 

 

 

 

で、ヒトラーはAct3の商人の語る「死神」です。

そのジャケットのポケットにはカードデッキが入っており、その特殊な並び順からカーネフェルコードが得られるようです(バリーのログ[1a]”the precisely ordered deck of cards in his jacket pocket (The Karnoffel Code). I cracked the encryption last night.バリーは解読に成功していますが、カミンスキは失敗しているようなことがログに書かれています)


このカーネフェルコード、ケイシーの開発ログによれば「ヨーロッパの半分を吹き飛ば」す「終末装置」のためのコードであるらしく、

これを知られるとソ連(ロシア)に負けてやべーことになるぞ……ということがlog.txtに書かれています※。


なお、バリーの記述からするとカーネフェルコードは解読前の暗号を指すようにも読めますが、

「カーネフェルコード=終末装置の起動コード」として話を進めます。

 

 

 

※バリーのログ[1a]” Better to lose this old data than allow the Soviets an opportunity to use it.”(ソビエトにこれを使う機会を与えるくらいなら、この古いデータ(=OLD_DATA)を失う方がマシだ。)

 

カミンスキのログ[2b]” Teraz musimy całować buty tych jebanych Rosjan lub zaryzykować<GNN!NG|MA> najgorszy pieprzony los.”(今や、我々はクソロシア人どもの靴にキスするか、さもなくばこの最悪のクソ運命に賭けるかしなくてはならない。) 

zaryzykować najgorszy pieprzony los.“(英訳では”risk the fucking fate”)はzaryzykować(危機に晒す、覚悟の上でやる)の解釈に困るのですが、直前でOLD_DATAについて「世界の運命」(Los ŚWIATA)と呼んでいることから「ロシアに敗北したくなければ、OLD_DATAや自身の命を賭してでも計画(後述)を実行しなければならない」というような意味かな、と思います。

 

ところでカミンスキは相当怒っており、英訳でfuckingにあたる言葉が短いログの中に5回も出てきます。

 

 

 

#23.5から変わらず年代が特定できないのですが、ケイシーたちがInscryption開発に着手していた時にはもうソビエトではないのではないかと思われます。

カミンスキはlog.txt内で「ロシア人」(Rosjan)という書き方をしており、ソビエト解体後なのかどうかは不透明なままです。

が、いずれにせよアメリカvsロシアという構図の上で終末装置の起動コードがロシアに渡るのは避けたかったのでしょう。

 

 

 

ARGは暗号化されたlog.txtを復号(デコード)するための鍵を解明するものでした。

 


"cd OLD_DATA"でOLD_DATAフォルダーを開き、"decode log.txt"を入力した際に要求された暗号(cipher)に適切な鍵を入力して一部を復号しては、

"save log.txt"で復号済みのログファイルを保存して、次の複合作業をする……という形で少しずつlog.txtのデコードを進めていきます。

 

 

log.txtは4名のログから成ります。

 

  • [a]バリー・ウィルキンソン(英語)
  • [b]カミンスキ(ポーランド語)
  • [c]ケイシー・ホブス(英語)
  • [x]ヒトラーの遺骸の場所を特定した人物(ロシア語)

 

​コマンドすっかり忘れてて上部が見苦しい

 

 

「Inscryption」はただのカードゲームではなく、実はOLD_DATAの入ったディスクを巡る物語です。

悪魔について考える前に、このフロッピーディスクを巡ってどんな陰謀が巡らされていたのかを整理してみます。

 

 

 

「OLD_DATA」を巡る物語

 

 

地獄耳(Act3タロット「愚者」、log.txt[1c])という通称からしてバリーは諜報活動を行っていたようで、「ソビエトロシアでの立場は微妙(My situation here in the USSR is delicate)と書かれています。

今回の考察は「バリーはアメリカの諜報機関の人間である」という立場で書いていきます。

 

 

彼は狭義のOLD_DATAを入手し、同じようなフロッピーの山に紛れさせてモスクワから西ベルリン経由でボストンに輸送するよう手配しました。

 

ケイシーのログ[1c]によれば、ディスクにログを書き込んだ数時間後に拘束されたものの、最終的にアメリカ合衆国(the states)に戻ってこられたそうですが、

タロット「愚者」が正しければその後「銃弾に倒れた」ようです。

HE DID NOT OUTLIVE HIS PLOT.”は日本語版では「計画を最後まで果たせなかった。」と訳されていますが、「(危険な)計画で命を落とした←計画を生き残れなかった」程度の意味かと思います。

 

 

バリーが諜報機関の人間だとしたら、バリーにとっての計画のゴールは「諜報機関本部にOLD_DATA、ひいてはカーネフェルコードを引き渡すこと」でしょう。

以下、「計画」「OLD_DATAを諜報機関本部に引き渡すための計画」を指します。

 

 

このDISCOVEREDはバリーにかかる分詞構文で、身元が割れてしまったためにバリーは暗殺されたのではないか……と思っています​

 


 

バリーがボストンに輸送したフロッピーディスクはカミンスキの元に届いたようです。

 

ARG上の話ですが、KAMINSKI Data Storage Mfg.(開発ログ#11日本語版では「カミンスキ・データストレージ製作所」)から注文することで実際にフロッピーディスクを受け取って最後の暗号を入手していること、

開発ログ#12では「サンプルディスクをすべて、『今すぐ』工場に返してほしい」と発言していることから、

カミンスキはフロッピーディスクなどを扱う業者だったものと推測されます。

 

 

 

カミンスキがもともと諜報機関の人間だったかどうかは定かではありません。

 

 

本来ディスクなどを扱う業者だったとすると、バリーが記録媒体としてフロッピーディスクを選んだ時から計画に関与していたのかもしれませんし、

OLD_DATA入りディスクを大量のディスクに紛れ込ませて輸送するという手段を選んだ際、怪しまれないディスク業者ということで白羽の矢が立った可能性もあります。

 

いずれにしても、OLD_DATAフォルダ内にログを書き残していること、カーネフェルコードやInscryption開発の真相を知っていることから、

カミンスキもまた「計画」の一端を担う人物だったものと思われます。

 

 

 

​ケイシーが「火に関連する事象」で死んだ「施設」は開発ログ#12のカミンスキの工場なのでしょうが、カミンスキ氏はその後どうなったのか……

 

 

 

カミンスキはlog.txtに、

この最高機密のディスクを何度も読み返すよりマシなことがあるのは分かっている。しかし、ダメだ、GameFunaの馬鹿どもがゲームを完成させないといけない。クソみたいな隠れみのをだぞ、貴様ら!

と書いており※、GameFuna社がOLD_DATAの隠れみのとしての「Inscryption」を開発するのを待つ間もどかしい思いをしていたようです。

 

 

 

この「完成させないといけない」という書き方からすると、カミンスキがフロッピーディスクを受け取った後、

GameFuna社が「隠れみの」を作るのも「計画」の一部だったようです

 

 

 

※ポーランド語原文:Z pewnością mam lepsze rzeczy do roboty niż czytanie i ponowne czytanie tego ściśle tajnego dysku. Ale <NATEE##|B1>nie, pieprzeni idioci z GameFuna muszą dokończyć swoją grę. TO KURWA <RCHK1N$>OKŁADKA, LUDZIE!

有志による英訳:I surely have better things to do than reading and reading again this top secret disk. But <NATEE##|B1> no, fucking idiots from GameFuna have to finish their game. IT’S A FUCKING <RCHK1N$> COVER, GUYS.

 

 

 

 

で、GameFuna社が「Inscryption」を開発しても、

誰もそのゲームをプレイすることはないだろう(Nikt tego nie zagra.)と書いています。

つまり、Inscryptionはリリースされないだろうとカミンスキは考えています

 

 

 

リリースしないなら既存のゲームでもいいだろう、早くこのヤバいディスクをどうにかさせてくれ、ということなのか直後には「『スーパー・ウィーゼル・キッド』のコピーを寄越せ」(Po prostu daj mi klona Super Weasel Kid)と書いています

 

 

 

GameFuna社のゴールはゲームのガワを被せたOLD_DATA入りのディスクを諜報機関本部に渡すこと。

あくまでただのフロントである……と、考えたいのですが、そうは問屋が卸さない。

 

なぜならDaniel Mullins世界には悪魔が存在しているからです。

 

 
 
 

 

 

Act3で商人がOLD_DATAから得たとして教えてくれる知識によれば、「悪魔」が「(カーネフェル)コードを作った」ようです。

この「悪魔」、Daniel Mullins世界が一続きであると考えるとPony Islandに登場したルシファーのことであり、

彼がカーネフェルコードを作ったと考えるのが自然な流れになります。

 

 

一方、GameFuna(ゲームフナ)社のCEOもルシファーであることが暗示されています(これに関しては#26で触れています)

The Hex内、ゲーム「Walk」のスタッフロールではプロデューサーとしてLou Natasが名を連ねているため、CEOの立場ながらゲーム制作にも携わっているようです。


 

 

だとすると、コードを作った人物も、GameFuna社で「Inscryption」制作の指示をしたのもルシファーということになります。

 

つまり、終末装置を起動コードごとヒトラーに与えたのも、そのコードをアメリカの諜報機関に流す計画に加担しているのもルシファーです。

(ともすると、ヒトラーの遺骸の場所を特定した人物もルシファーである可能性まで出てきますが、今回はそこまでは考えません)

 

 

混沌志向を見出すのは「兵器とコードを与えるだけ与えて、実際の使用は人間に委ねている点」です。

 

 

 

 

本来、悪魔であるルシファーは魂を地獄に落としては屈服させる存在であるようです。

 

Pony Islandにて、主人公がどうやってここに来たのかという問いに、

お前の魂は地獄に落とされたのだ("YOUR SOUL IS DAMNED")

地獄に落とされた全ての魂はここに来る 次なる段階に移る前にな」("ALL DAMNED SOULS COME HERE BEFORE MOVING ON,")

とBaphometが答えています。

 


また、作中作「Devil Island」のクレジットには「皆勝手なことを言う。私がプレイヤーたちに対して高い魂コンバージョン率を上げられていないからだ。PEOPLE TALK SHIT CAUSE I DON'T HAVE A HIGH CONVERSION RATE OF PLAYERS TO SOUL SACRIFICES.と書かれており、

悪魔としては魂のコンバージョン率が重要視されているようです。

 

そのためか、最初のPony Islandのクレジットにはヨシフ・スターリン、ポル・ポトなどの大量虐殺者が名を連ねています

ルシファーにとっては人間が大量に死ぬのは歓迎なことなのでしょう。

 

 

​このラインナップの中でアル・カポネだけ浮いてますが、マフィアでビジネスがうまいってことか?

なお、ナチスの人間としてはヨーゼフ・ゲッベルスやハインリヒ・ヒムラーなどの名前が出ています。メンゲレもいるよ(考えあぐね④参照)

 

 

が、それなら終末兵器を直で使わせればいいはずなのに、あくまで終末兵器とコードを与えただけ。

それはルシファー自身が、国家間のパワーゲームを楽しむためではないか——というのが今回の考察です。

 

 

争いを生み出すことが悪魔にとっての愉悦で、結果として地獄に落とせる人間がたくさん出れば万々歳。

それが、国家存亡と関係のないところでカーネフェルコードが漏出してしまうのはまずく、不都合なのでケイシーを処分し、ルークを始末したのではないか。

 

 

 

と、いうのがOLD_DATAとカーネフェルコードから見た「悪魔混沌志向論」です。

しかし、これだけでは裏打ちが足りない。

 

次回はThe Hexより、サドを引き合いに出してこの件をもう少し考えてみます。

ウィークポイントも次回に入れるか、または悪魔関連で特定しきれないことと併せて考えあぐねに入れる予定です。

 

 


 

 


陰謀に触れた個人の人生が狂っていく、というのがInscryptionの大筋なので、実のところコードが秘密になっている部分なんかはこじつけ考えるのに苦労しました。

 


次回はそういうわけでサドの話。

考察記事を読んでくださる人は「Inscryptionプレイしたけどスッキリしないぞ!」という方であってThe HexやPony Islandを未履修の人の割合はかなり高いはずで、

そんな中で前作の話をバリバリ出すのは気が引けますが、でもやっぱり一続きの世界である以上は触れねばならぬ……という強い気持ちでいます。


記事を読んでThe HexやPony Islandに興味を持ってプレイしてハマってくれる人が一人でも増えてくれたらうれしいですね。

 


2022.11.14.追記

ずっっっっとブログ記事内で「ゲームフナ」表記を取っていたんですが、大変今更Inscryption作中では「GameFuna」表記であることに気付きました……。

The Hex日本語版では「ゲームフナ」ですが、(2022.12.5.追記:そんなことはありませんでした。なんでこんな勘違いを……)Inscryption考察なので「GameFuna」に寄せておこうと思います。