The Hexを1周プレイした直後に書く記事 (後) | 書いたり、書かなかったり

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Inscryptionのストーリー考察記事を毎週土曜日に更新していました

まだ考察ネタ募集しております→ https://odaibako.net/u/m0ch1m0ch1Ak1ta

2022.9.29.1階と0階を勘違いしていた部分があったので修正しました
2022.10.3. 0階問題についてさらに追記、一部文言を修正しました
2022.11.5.考察お題箱を追加しました
2022.11.23.#33へのリンクを追加しました
2022.12.11.The Hex考察記事へのリンクを追加しました


どうもこんにちは、もちもちあきたです。
前回に引き続き、Daniel  Mullins氏の前作でInscryption内でも世界観の共有が示唆されているThe Hexを一周プレイした直後に書く記事ということで書いていきます。


 

 
The Hexの 致命的なネタバレ を含みます。
プレイ後に読むことを強く推奨します。
 
 
 
 



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 








 
  

プレイ時は​鼻血拭いてるんだと思ってました(!)

セキュリティ解除権限のあるモジの腕でバイオメトリクス認証突破してたんですね

 






目次

▶︎Inscryptionと、劇場としてのSix Pint Inn
▶︎世界の非対称性
▶︎二つの世界の架け橋
▶︎「ゲームキャラクター」の特殊性
▶︎おわりに:Inscryptionと比べて



 
 
後編は主に世界観について、Inscryption考察の前段階のような形で書いていこうと思います。
感想回だった前回・前々回と比べて感想要素は控えめ。


なお、The Hexの考察お題も募集しております↓


 
 
引き続き、まぎらわしいのでゲーム「The Hex」
ポータル「THE HEX」と書きます。
 


2022.11.23.追記
Inscryption考察内でサドに触れたので、サド考察としてこちらも参照のこと。

 
2022.12.11.追記
The Hexストーリー全体について仮説を立てて考察してみたので、こちらも参照のこと。

 
 

Inscryptionと、劇場としてのSix Pint Inn

 
 
シックス・パイント・インで起きる一連の出来事はレジナルドの仕組んだ「殺人のプロット」で、全てが仕組まれたものであることを暗示する仕掛けもキッチンのバックヤードで確認できます。
 
つまり、シックス・パイント・インは劇場で、仕掛けは舞台装置です。
そしてプロットに組み込まれた各キャラクターの過去も、キャラクター同士の会話も、同様に演劇性を持っている。
 
 
……とか書くとゲーム哲学的になるのですがつまるところ「だから解釈と考察が難しい」ということです。
 

 

​7つの舞台装置

 

 

どこまでがプロットで、どこからがそうでないのか。
事実と事実を繋いで理屈を作ろうとする=考察を試みるとき、この演劇性はどうしても扱いが難しいなあと感じます。
 


一方で、この特徴と独特の世界観ゆえに「そういうもん」で片づけられる部分が多く、物語でモヤモヤする部分がさほど出てこないのは面白い。

Inscryptionはあくまでルークのいる現実世界に足場があったので現実的な論理から逃れることができず、その結果考察が10万字を超え……てるんですよね、恐ろしいことに……(読者の皆さんありがとうございます)
そう考えると、The HexとInscryptionはかなり毛色の違う作品ですね。
 
 
 

 

世界の非対称性

 

これはThe Hexを語る上で欠かせないでしょう。

そして、Inscryptionとの関係を考える上で最も壁になるものでもあります。

 

 

The Hexは「ビデオゲーム世界の忘れられた片隅」のシックス・パイント・インで展開されます。

したがって、プレイヤーはゲーム世界側から物語を体験することになります。

 

しかしゲーム世界に対して存在する現実世界は、ゲーム世界とは違う見え方をしているようです。

この記事では「世界の非対称性」と呼ぶことにします。

 

 

 

The Hexにおいて、現実世界は

①レビュー

②Webサイトの記事、掲示板

③Walkにおけるライオネルのコメント

の、主に3つの形で見ることになります。

 

 

原文ではここにエイリアンMODとボスラッシュMODの名前が見えます

 

 

ゲーム世界と現実世界の非対称性が最も象徴的な形で表れているのは「レジェンダリアの秘密」だと思います。

 

「レジェンダリアの秘密」は、「誰かの手先に」なることを嫌って続編を作ることを阻止したいシャンドレルとゲームの悪役であるヴァラミールが手を組み※、

ストーリーも世界も最後には「何もかもむちゃくちゃ」になります。

 

※実績「へっへっへ」では、ヴァラミールがゲーム世界において非常に強い力を持っていることが描写されています。なぜそんなにも強大な力を持つようになったかは不明ですが、ヴァラミールをレジェンダリアに配属した人事ミスは大きいような……。

 

 

Steamにフレンドがいないのが丸わかり

 

 

それを、Walkでのライオネルは

カーラが僕の邪魔をするためにわざとバグを残したんだ

何もかもむちゃくちゃになったのだから、 そうに違いない。」と言っています。

ゲームキャラクターの自由意志は現実世界では確認できないのです。

 

 

プレイヤーはレジェンダリアの秘密を配信者の追体験のような形でプレイすることになりますが、これはあくまでも「シャンドレルの過去」であり、実際の配信者がどのような体験をしていたかは不明です。

 

アーヴィングが視聴者に視認できないようにするために船を霧の中に突っ込ませるという手段を取るなど、

ゲームプレイ配信を題材にしたレジェンダリアの秘密はゲーム世界と現実世界の非対称性がはっきり描写されたパートとなっています。

 

 

​ここのBGM“ERR_#IRVING#_PROTOCOL”にコンバット・アリーナのBGM混ざってるの超好き

 

 

そう考えた時、ビデオゲーム「Inscryption」は非常に特殊です。

スクライブを始めとしたキャラクターたちはプレイヤーを認識し、自我を持つとはっきり感じさせる行動を取ります。

Inscryptionにおいて世界は対称に近いのです

 

 

 

さて、InscryptionとThe Hexを繋ぐ架け橋の「塔」「三角形」「青い男」と、そこにある世界の非対称性を整理することにします。

 

 

二つ世界の架け橋

 

 

ゲームワークス

 

Inscryptionのタロット「塔」と「女帝」に登場する「三角形」であり、ゲーム世界においては「」そのものでもあります。

 

 

ゲームワークスは作中ではずっと固有名詞の形で語られていますが、「Unity」に相当するゲーム製作ソフトウェアであることが示唆されています。

 

Walkで光る扉を抜けると、Walkのエンドロールを見ることができます。

その終わりは”Created with gameworks 5.6.6f”です。

それと対応するように、The Hexのエンドロールは”Created with Unity 5.6”で締められています。

 

​先にWalkのエンドロール見た後にこれを見てゾクッとしました

 

 

一方で、ゲーム世界におけるゲームワークスは「ゲームを生み出す施設そのもの」とアーヴィングが説明しています。

 

エレベーターを見る限り、地下3階・地上3階建てのようです(L=ロビーを0階と考えた場合。日本の階数の数え方とズレがあります※)

地下1階には研究開発部、地上2階にはNPC部門があり、アーティファクトは0階(ground floor)にあるとされています。


研究開発部は「レジェンダリアの秘密」のマップになっていて開発を進めているように見えますが、なぜ今頃やってるんでしょうね……?

Compress(圧縮)・Uncompress(展開)ができる装置があり、フィールドマップなどで使われる姿は圧縮時の、戦闘などで使われる姿は展開・解凍された姿であるらしいことがレジェンダリアの秘密のシャンドレルや、Walkのレベッカのセリフで確認できます。

展開されると気分がいいそう。


※ただし、シックス・パイント・インでは客室のある階を「2階(second floor)」としています。階数の数え方がまちまちなのかどうか……?

 

​地下1階の研究開発部にいたはずがB3から始まる理由はピンと来てません

 

 

 

ゲーム製作ソフトウェアを「施設」の形で描写するのは独特ですよね。

おかげで初見ではゲームワークスが現実世界ではソフトウェア、ゲーム世界では施設を指すことが整理がつきませんでした……。

 

 

 

 

 

アーヴィング
 
で、アーヴィングは現実世界では「ゲームワークスのアシスタント」の「AI」として(Walkより)
ゲーム世界ではプレイヤーキャラクター局の人物として登場します(レジェンダリアの秘密、Vicious Galaxyより)
 
このことについて、木彫り師ARG(#14.5参照)で木彫り師は”a puppet, or rather a puppet master.”(操り人形、いやむしろ人形使いだ)と述べています。
ライオネルなど開発者に使われる身のようでいて、実はキャラクターを支配する側の立場であることを指しているのでしょう。


 

​T.アーヴィングだったんだ……(気付いてなかった)

 

 
「三角形」はゲーム世界と現実世界のポータルでもあるようです。

アーティファクト奪取後、ラザロは非常口から脱出しますが、その際「三角形」を通じてライオネルと会話をするアーヴィングの姿が見えます。

 

三角形は会話をすることができる程度のポータルで、六角形はゲーム世界と現実世界を直で結ぶポータル……という対比なのでしょうか。

 

 

この際アーティファクトが盗まれたことを報告しているようですが、現実世界のライオネルがどのような説明を受けたかは不明です。

ライオネルは「僕(ライオネル)に危険が迫っているかもしれない」と言われたとのことですが、「危険?何からの?」と鼻で笑っています。

 

 

​1階の自販機の奥にあるものも一種のポータルなのか?(「三角形」に似た外見、「六角形」と同じ効果音)

 

 

これ以外にも、アーヴィングはライオネルに対して様々な説明をしていたことがWalkで語られます。

スーパーウィーゼルキッドは「データの紛失か何か」によりオリジナルが使えないとされ、

Vicious GalaxyⅡでは「ゲームワークス内で何かの破損※があり、 多くのデータを失った」ために新部隊をゼロから作り直したことになっています。

SWKはゲームワークス爆破後に出奔したことを、ゲームワークス内の破損はジェレミアたちによる襲撃のことを指すものと思われます。

 

 

※「破損」は原文でbreachで、実はゲームワークス襲撃で内部突入時のBGMの名前も「Breach」。breachは侵害の意味のほか、約束の反故や攻撃で空いた突破口なども指すので、うまいダブルミーニングだなあとサントラの曲名を見て感嘆。

 

 

 

ところで、ゲームフナ社リリースの「Super Wiesel Kid ‘09」というタイトルからして2009年にライオネルは18歳なので(Walkより)

無印スーパーウィーゼルキッド製作時は12歳(背景のレビューコメントより)とのことで2003年です。


#23.5で「なんでフロッピーディスクなんて使ってるんだ?」という話をしましたが、2003年にこんなすごいAIがある世界観なので多少テクノロジーに誤差があっても仕方が……あるか……???

2003年なんて「お前を消す方法」の時代だと思うのですが……。

 


 
 

「ゲームキャラクター」の特殊性

 
ゲーム世界のこちら側にいる「ゲームキャラクター」もまた特徴的な描かれ方をしています。
 
 
特筆すべきはゲームキャラクターに死や老いといった概念があることです。
レジェンダリアの秘密でモジはシャンドレルにより殺され、その時子供だったモジジュニアはVicious Galaxyで大人の姿で登場し「父は弱かった」と語ります。
また、とある実績では「寿命」で死ぬという概念があることが分かります。
 
一方、古株のはずのウィーゼルキッドはブライスに未成年飲酒を咎められており(ブライス操作時の会話より)、物理的時間がそのままキャラクターに反映されるわけではないようです。
 

 

​サルサパリラなどのルートビアはノンアルコール飲料だそうなので、シックス・パイント・インでバーを始めてからアルコールを扱うようになった……?

 

 
Inscryptionとの架け橋で言うと重要なのは自我ゲームキャラクターとしての自覚です。
 
この点を一番象徴するのはゲームワークスの研究開発部にいるモジでしょう。
ボクたちに自由意志ってあると思う?」と問う彼は、自分がゲームのキャラクターである自覚はないようです。
自分のバイクがいつも同じ2か所で故障していたことを不思議がり、レジェンダリアの秘密にいた頃は「時々、自分の行動がまるで台本を演じてるみたいに感じることがあったんだ。」と振り返る。
 
The Hexのゲーム世界のNPCは、自我は持つものの自由意志がない=設定通りの行動をするようになっているようです。
 

 

​ボクは「ボク」だから幸せ

 

 
また、ほとんどのプレイヤーキャラクターは自分がゲームのキャラクターだと自覚しているとジェレミアは述べています。
 
プレイヤーキャラクター以外でも、バグアンクの存在を知っていて、のちには女王が恋愛ゲームに配属されたことを嘆くジャックや、
私をVicious Galaxyとやらに参加させてくれないか?」と頼むジェイなどは、自分がゲームのキャラクターであることを認識した上でこれらの発言していることになります。
 
この、ゲームキャラクターとしての自覚の有無がどこに由来するものなのか、なぜ自覚があるキャラクターとないキャラクターがいるのかは不明です。
が、メタ的な認識をするキャラクターの存在は、Inscryptionを考える上で一つヒントになりそうです。
 
 

 

​ジェレミアもですが、用務員(jenitor)の仕事はあまり楽しくないという世界観なんでしょうか

トラウマになるような任務に就いて、反逆した末に臆病者として味方に殺される結末からすると悲しい発言です

 

 

こちらの方が「一言で言えばPony Islandの進化版で、Inscryptionからカードゲーム要素を全部抜いたゲーム。Inscryptionは面白かった人もDaniel Mullinsゲーが好きでないならやめとけ。」と形容されていましたが言い得て妙。
Inscryptionが好きな人は必ずしもDaniel Mullins Gamesのあのメタ構造が好きとは限らない、というかルーク=プレイヤーで没入できるのでそもそも意識に上らない。
 


Inscryptionのジャンルは「カードゲーム」だけど、The Hexのジャンルは「Daniel Mullins Games」……という説明が、自分の中ではしっくりきますね。
Inscryptionが好きな全ての人にThe Hexを薦めることはできないですが、真の終わりがARGであることを受け入れられた人には比較的The Hexはオススメしやすいかな、

……と、既プレイの方向けの記事に書いても仕方がないのですが、InscryptionプレイヤーにThe Hexをおススメするかどうかの判断基準の参考になればと思います。

 
 
 ◇
 
 
 
全く個人的な話をすると私は幾原邦彦監督作品が好きなので、「そういうもん」という演劇性が通じている部分があってThe Hexがとても好きです。
「それが何だかわからないけど『アーティファクト』を手に入れなければならない」という下りは輪るピングドラムを想起してワクワクしました。
 
 


ところで、Pony Islandをプレイ動画で復習して、謎解き解説動画を視聴したところ、またいろいろ考えるところが増えました。




"his father pure evil"(彼の父親 真の邪悪)という文言、それを含む謎解きを見ていると、Pony Islandで何を信じていいのか分からなくなってきます。
Waste Worldの感覚に近い。
 
またアクションで心が折れそうですが、Pony Islandもプレイできたらいいな。