Inscryptionと、劇場としてのSix Pint Inn
世界の非対称性
これはThe Hexを語る上で欠かせないでしょう。
そして、Inscryptionとの関係を考える上で最も壁になるものでもあります。
The Hexは「ビデオゲーム世界の忘れられた片隅」のシックス・パイント・インで展開されます。
したがって、プレイヤーはゲーム世界側から物語を体験することになります。
しかし、ゲーム世界に対して存在する現実世界は、ゲーム世界とは違う見え方をしているようです。
この記事では「世界の非対称性」と呼ぶことにします。
The Hexにおいて、現実世界は
①レビュー
②Webサイトの記事、掲示板
③Walkにおけるライオネルのコメント
の、主に3つの形で見ることになります。
ゲーム世界と現実世界の非対称性が最も象徴的な形で表れているのは「レジェンダリアの秘密」だと思います。
「レジェンダリアの秘密」は、「誰かの手先に」なることを嫌って続編を作ることを阻止したいシャンドレルとゲームの悪役であるヴァラミールが手を組み※、
ストーリーも世界も最後には「何もかもむちゃくちゃ」になります。
※実績「へっへっへ」では、ヴァラミールがゲーム世界において非常に強い力を持っていることが描写されています。なぜそんなにも強大な力を持つようになったかは不明ですが、ヴァラミールをレジェンダリアに配属した人事ミスは大きいような……。
それを、Walkでのライオネルは
「カーラが僕の邪魔をするためにわざとバグを残したんだ」
「何もかもむちゃくちゃになったのだから、 そうに違いない。」と言っています。
ゲームキャラクターの自由意志は現実世界では確認できないのです。
プレイヤーはレジェンダリアの秘密を配信者の追体験のような形でプレイすることになりますが、これはあくまでも「シャンドレルの過去」であり、実際の配信者がどのような体験をしていたかは不明です。
アーヴィングが視聴者に視認できないようにするために船を霧の中に突っ込ませるという手段を取るなど、
ゲームプレイ配信を題材にしたレジェンダリアの秘密はゲーム世界と現実世界の非対称性がはっきり描写されたパートとなっています。
そう考えた時、ビデオゲーム「Inscryption」は非常に特殊です。
スクライブを始めとしたキャラクターたちはプレイヤーを認識し、自我を持つとはっきり感じさせる行動を取ります。
Inscryptionにおいて世界は対称に近いのです。
さて、InscryptionとThe Hexを繋ぐ架け橋の「塔」「三角形」「青い男」と、そこにある世界の非対称性を整理することにします。
二つ世界の架け橋
ゲームワークス
Inscryptionのタロット「塔」と「女帝」に登場する「三角形」であり、ゲーム世界においては「塔」そのものでもあります。
ゲームワークスは作中ではずっと固有名詞の形で語られていますが、「Unity」に相当するゲーム製作ソフトウェアであることが示唆されています。
Walkで光る扉を抜けると、Walkのエンドロールを見ることができます。
その終わりは”Created with gameworks 5.6.6f”です。
それと対応するように、The Hexのエンドロールは”Created with Unity 5.6”で締められています。
一方で、ゲーム世界におけるゲームワークスは「ゲームを生み出す施設そのもの」とアーヴィングが説明しています。
エレベーターを見る限り、地下3階・地上3階建てのようです(L=ロビーを0階と考えた場合。日本の階数の数え方とズレがあります※)。
地下1階には研究開発部、地上2階にはNPC部門があり、アーティファクトは0階(ground floor)にあるとされています。
研究開発部は「レジェンダリアの秘密」のマップになっていて開発を進めているように見えますが、なぜ今頃やってるんでしょうね……?
Compress(圧縮)・Uncompress(展開)ができる装置があり、フィールドマップなどで使われる姿は圧縮時の、戦闘などで使われる姿は展開・解凍された姿であるらしいことがレジェンダリアの秘密のシャンドレルや、Walkのレベッカのセリフで確認できます。
展開されると気分がいいそう。
※ただし、シックス・パイント・インでは客室のある階を「2階(second floor)」としています。階数の数え方がまちまちなのかどうか……?
ゲーム製作ソフトウェアを「施設」の形で描写するのは独特ですよね。
おかげで初見ではゲームワークスが現実世界ではソフトウェア、ゲーム世界では施設を指すことが整理がつきませんでした……。
アーヴィング
アーティファクト奪取後、ラザロは非常口から脱出しますが、その際「三角形」を通じてライオネルと会話をするアーヴィングの姿が見えます。
三角形は会話をすることができる程度のポータルで、六角形はゲーム世界と現実世界を直で結ぶポータル……という対比なのでしょうか。
この際アーティファクトが盗まれたことを報告しているようですが、現実世界のライオネルがどのような説明を受けたかは不明です。
ライオネルは「僕(ライオネル)に危険が迫っているかもしれない」と言われたとのことですが、「危険?何からの?」と鼻で笑っています。
これ以外にも、アーヴィングはライオネルに対して様々な説明をしていたことがWalkで語られます。
スーパーウィーゼルキッドは「データの紛失か何か」によりオリジナルが使えないとされ、
Vicious GalaxyⅡでは「ゲームワークス内で何かの破損※があり、 多くのデータを失った」ために新部隊をゼロから作り直したことになっています。
SWKはゲームワークス爆破後に出奔したことを、ゲームワークス内の破損はジェレミアたちによる襲撃のことを指すものと思われます。
※「破損」は原文でbreachで、実はゲームワークス襲撃で内部突入時のBGMの名前も「Breach」。breachは侵害の意味のほか、約束の反故や攻撃で空いた突破口なども指すので、うまいダブルミーニングだなあとサントラの曲名を見て感嘆。
ところで、ゲームフナ社リリースの「Super Wiesel Kid ‘09」というタイトルからして2009年にライオネルは18歳なので(Walkより)、
無印スーパーウィーゼルキッド製作時は12歳(背景のレビューコメントより)とのことで2003年です。
#23.5で「なんでフロッピーディスクなんて使ってるんだ?」という話をしましたが、2003年にこんなすごいAIがある世界観なので多少テクノロジーに誤差があっても仕方が……あるか……???
2003年なんて「お前を消す方法」の時代だと思うのですが……。