中見元太、部長が自分でも他に水泳部との兼部が一人いるだけの弱小部だからいい加減でいいと思ったらさにあらず、二学期早々の部長会議で来年度の予算を獲得するという重大なミッションがあること、顧問になってくれた倉敷先生から言い渡される。部員の曲伊咲と同席しての言い渡しに、中見は即座に事の重大さをわかったはず。だから天文部として何をすべきか尋ねたけど先生は「知らぬ」。しかし一人の卒業生を紹介してくれ、この回はその新キャラが中見と曲に協力する話。
全国高校生天体写真コンテストで大賞受賞の白丸結(しろまるゆい)、彼女の登場で一気に部活アニメの様相を呈した形。それは『ヤマノススメ』のように専門知識を一つずつ獲得する物語に思えるが、原作のその部分を読んだ後に改めてアニメで観て、カメラ/写真を追及する話でもないと思う。もちろん重要なアイテムだけどそれは第一話では発見を残すこと、第二話では思い出を記録すること、この第三話では人を繋ぐことに尽力した物語の装置で。
しかも一話と二話の最後の場面、両方とも夜だったそれは中見と曲の二人だけの時間だったが、この三話で白丸先輩は二人の中継役になり、穏やかな感情/情緒の三角刑になった。実際、初回で相手を見つけた嬉しさは二回目に至り、特に曲にとってはヒリヒリする感情を感じてもらいたいと思える相方にまで成長し。それは天文部を認めてもせったとはいえこれからどうなるか分からない不安であり、だからこそ倉敷先生は信頼できる大人と改めてわかり、天文部の方向性に天体写真という具体的な指針を与えてくれ桁白丸先輩に感謝したことと。
今回は中見と曲のクラスメイトは中見側の受川だけだけど、それだむけの今回のテーマが明確な見やすい回。中見と曲が見つけた隠れ家の天文台が、その維持には他人の協力や理解が必要なことを気づいていく、二人にとっては掛け替えのない体験と経験が詰まった回というもの。
曲伊咲が言い出して中見元太が乗った夜のお楽しみ会がなんやかんやあって天文部に衣替えする話。この転換が本作の面白いところで、私が大好きな『タッチ』、『ヤマノススメ』、『ぼっち・ざ・ろっく!』でもアニメ第一話で提示したテーマを一貫してる。でも作劇としての伏線は第一話で貼ってあっても「君ソム」は少年と少女の出会いの意味を私的な関係から、公的な立場にへの変換にこの第二話で成功した。
しかも最初は隠れ家の天文台を快適な空間にしたいという曲と中見の他愛ないわがまま。でも活動が大きくなれば秘密がばれるのは当然の成り行き。その危機を救ったのが倉敷先生の言質をほ取った形の中見の天文部部員宣言。その前提として中見が「人に知られず逃げ込める場所」を必要とする理由を真面目に白状したこともあるが、前回の曲が持ってたスマホで助けを呼ぶことといい、いざとなれば機転が利くのが中見元太で。多分曲もその辺に気づいてるはずだから、機械に強いことも併せて曲が中身に惚れるのも納得。
しかし倉敷先生、教頭先生、羽咋先生の言動から推察するに、陰の実力者は倉敷先生かと。私が真っ先に思いついたのは『機動警察パトレイバー』の後藤喜一。パト1などで第二小隊が思う存分活躍できるよう策を弄したように、九曜高校の保健の先生も不眠症で悩む二人の生徒のため、手練手管を尽くしたと憶測を。そして夜間の付き観測の場面に。そして初めての曲からの告白めいた台詞、多分前回知った入院してたと言う情報と合わせ、曲の真面目な眼差しに不穏を気づいたはず。でもこの第二話二度目の「てきとー言った」、そんな曲自身のはぐらかしに安堵したと思われ。
第二話も本当に青春アニメ、恋愛アニメとして(別のアニメの決め台詞だけど)極上。このヒロインの死の影、危うさをはらみつつも死別の伏線にしなければ私好みの物語。
原作を買って改めて視聴。出版社が同じ小学館なこともあって、『タッチ』の最新版ともいえる本作、やっぱり私好み。個々の人物が象徴するものの解釈は後日にして、曲伊咲(まがりいさき)は浅倉南であり中見丸太は上杉達也と見えるところから。しかし元気な女の子が相手の男の子を引っ張るという関係は似てても、中見くんのキャラは上杉達也よりむしろ上杉和也に近い。髪型からも上杉達也に似てるのは受川くんの方だし。『ヤマノススメ』の雪村あおいも連載当初は陰キャだったし、『ぼっち・ざ・ろっく!』のぼっちちゃんは言わずもがな、今年三期が放送された『彼女、お借りします。』の木ノ下和也、今夜最終回の『星屑テレパス』の小ノ星海果もみんな陰キャ。私のマイブーム、陰キャが主人公の話らしく。
作風も風景と間、表情を大切にするあだちマンガを踏襲している「インソムニア」、一人の時の独白はあるが他人がいる時はモノローグが一切ない曲伊咲視点で論考を。天文台での(曲にとっては)ガール・ミーツ・ボーイの直後のその場で、中見を「こわくて嫌なやつだとずっとおもってた」と白状した。ここが曲を南ちゃんと私が考えるところで、予選大会が終われば鬼監督に対しても感謝の気持ちからも優しい態度に。多分曲も人は見かけによらないと改めて気づかされたはずで、この時点ではちょっとした秘密を共有できる仲間が出来たと思っただけのはず。
でも眠くなったはずみで身体を持たれかけてくれたままにしてくれたことで信頼し、鍵の番号を教え。しかし中見がなかなか天文台に来ないことにしびれを切らして話を向けたのが原作第二話の始まり。「ねむれないの治ったの?」と訊いてるけど曲自身、不眠症が簡単に治るものでないとわかってる。だから(多分)恋に発展する可能性を知りながら、もう一度天文台に来てくれるように中見を誘ったと。
そして天文台を開けて言ったのが「おもしろくしよう! 楽しくてもツラくっても、同じ朝がくるんだからね」。多分曲は中見くんのことを不眠症と戦う同志としてももちろんだけど、恋をしたいと思ったのでは。多分理由は先に挙げた得難いスキンシップ。でももう少し、少しずつでもいいから人当たりが良くなって欲しいと、仲良くしてる蟹川マコトちゃんが陰口してるのをしってるから、外を知ってもらおうと提案したのが夜のお散歩。
しかしその夜のお楽しみ会、信頼する中見くんに身の上話は最初からするつもりだったはずで、アニメでの演技っぽい話しぶりが効果的。どういう気持ちで話してるのかあからさま。でも警察官の自転車でのパトロールに見つからないようにかばってくれた時、動悸は意志でどうにもならないから、改めて恋人になる可能性を想像したと思うのですね。そして「じゃあまた今日!」という別れの挨拶。まったくもって羨ましい青春。しかしそれは不眠症を共に戦う同志への熱い信頼の証しであり、悲痛な叫びでもあるはずで。だからますますそんな同志のない私から見て、「この関係を大事にしねえと許さねえぞ」。
昨日の続きです。
伝統ある古典部の再生(承前)
伝統ある古典部の再生 ④で千反田えるが自分の必殺技に気づいたところで終わり、再開の⑤からは千反田えるが(わざと)折木奉太郎に詰め寄る場面から。しかし今千反田が書いてると、つまり「小説『タッチ』」と同様に過去を振り返って書いてるとして、小説内に「17日振り」という地の文を書きました。
やるべきことなら手短に
テレビシリーズでは第一話のBパートになっている音楽室の謎のピアノの話、そして秘密倶楽部の話です。私がこの章で試したのは千反田がどこまで折木の目論見、発想に着いて行くことが出来るかでした。折木が自分を騙そうとしていると気づいた千反田は、敢えて乗ってみせることで折木と対決しようとします。原作を飛ばして読んだせいで矛盾が出そうになりましたが、何とか取り繕いました。小説は勢いが命と思い、敢えて修正しません。
名誉ある古典部の活動
文集探しから一転、初登場の伊原摩耶花の謎かけの解決、そして千反田と折木が図書室に来た本来の目的の結末。最終話の最後の段落、司書の先生はわたし達を騙していたという千反田の述懐は、私が考えていた持ちネタの一つです。でもそれで話を締めくくったため、原作ともテレビシリーズとも違う後味の悪さを残すことになりました。私自身はそれもいいかなと。
事情ある古典部の末裔
結果として連続投稿の最終章となった折木奉太郎への千反田えるの打ち明け話です。原作やテレビシリーズのような突然の呼び出しではなく、相手に失礼にならない、自分も無理しないような手筈をとったとしました。怒って帰ろうとした奉太郎を引き留めた件、怒らせたのも理由があったとしました。
個々の解題は以上で終わり。ファン歴は短いですが大きく原作やテレビシリーズから外れることなく、しかも公式とはまた違う千反田えるを書くことが出来、自惚れているところです。千反田えるは勘が鈍いわけでも推論が出来ない訳でもなく、発想の飛躍が苦手というのが私の見立てです。しかし閃きに関してはウェーバーや米澤穂信さんと違う見方を持ってて。しかし詳述すると解題から離れるので、今日はこの辺で。
先月の10月5日から上げ続けてきた私の古典部シリーズSS、千反田えるが折木奉太郎と約束を取り付けた「事情ある古典部の末裔」まで書き終え、さすがに私も一服したくなりました。実際、「ぼっち・ざ・ろっく」のタイトルを回収した回、「次はどこへ行こう どこまで行こう 思えばきっとどこだって行けるよ」で終わった原作第4巻、アニメ第二期の『ヤマノススメ セカンドシリーズ』に似た状況と思ったから。私自身も『タッチ』のSSを再開したいと思うようになり、これからは気分次第、不定期の投稿にしたいと思います。
ですので今日は解題です。
遠まわりする雛の裏側
私が古典部シリーズ/氷菓で初めて書いたSSです。「お付き合いって不思議です」が正に降りてきました。しかし短編「遠まわりする雛」は千反田えるの台詞、「いいえ、もう春です」の後は「好きです、折木さん」が続くと原作を読む前に観たテレビシリーズ最終話で思っていて、今回のSSの第一話で成就した形。それは「小説『タッチ』」でもやってるように、「SSは捏造と補完」という私の決意表明で。それに最初に大枠や方針、帰結を示せば私のSSの性格がわかるし。私は純然たる恋愛ドラマにしたいと表明したつもり。
伝統ある古典部の再生、以前
原作でもテレビシリーズでも明示はされていなかったと思いますが、千反田えると折木奉太郎の姉折木供恵、昔から知り合いとした方が合理的はと思って書いた回。奉太郎の神山高校合格を姉の供恵が「つまらない」と手紙に書いたのも、「自分の思い通りになった、なり過ぎた」と捉えられると思いました。
伝統ある古典部の再生
だから地学準備室(古典部部室はアニメ版に倣いました)での千反田えると折木奉太郎との出会い、原作やテレビシリーズでの解釈とは違うものになりました。いくら折木でも情報がなければ他人の意図などわからない、そこに原作でもテレビシリーズでも心の声が謎にされている、千反田える版を書く意義があると思ったのです。なので折木供恵の助言により、初めて折木奉太郎と言葉を交わす千反田えるを、「演技する人間」としました。
遠まわりする雛、半年後
しかし「遠まわりする雛」の最後を「いいえ、もう春です。好きです、折木さん」と捏造したので私のSSでは折木と千反田は恋人になった。ならば若い二人は当然性愛に発展するだろうと。でも省エネ主義の折木は奥手と思い、千反田が襲う形にしました。
遠まわりする雛、だいたい三か月後
半年後を予め示した後、少し遡って三か月から。ここで初めてオリキャラを出しました。千反田えると折木奉太郎の間に入る女性として、実は千反田家に出入したことがあるえるも旧知の女性、だからこそ千反田家の跡取りを目指す奉太郎に必要な人間と設定しました。
遠まわりする雛、だいたい四か月後
そしてやっと性愛が続く章です。初めは千反田えるの一人遊び。しばらく全年齢の話が続いてえると奉太郎のいちゃつき。若い二人、しかも互いに相手からの好意をわかっているので、えるは奉太郎の想いを全て受け止めたいと思ってるはず。でも奉太郎にとって千反田を継ぐことは相当に重いことと今さらながら気づき、少しずつでもいいから襲ってと告白した格好。私の千反田える像は折木奉太郎が書き手の原作ほど勘が鈍くないとしてます。ただ猪突猛進になると周囲の状況がわかっているのに止まらなくなると。そしてこの章で千反田えると折木奉太郎の関係を示せたと思い、オリキャラの決着をしてないですが一旦中断。
今日の改題はここまで。