水穂の小説置き場とひとりごと -3ページ目

水穂の小説置き場とひとりごと

ファンタジー小説を執筆中……のはずw

 僅かに流れる風が、彼女の短い赤茶色の髪を揺らし、頬をくすぐる。
 大きな屋敷を囲うように、広いテラス。美しく細工された白いテーブルに揃いのイス。テーブルの上には、ティーセットと彩りよい茶菓子が並んでいる。
 うららかな午後。テラスで、のんびりと紅茶を飲みながら読書。
 やさしく注ぎ込む陽の光が、明るい未来を示しているよう。
「なーんて呟けば、貴族のお嬢様っぽい?」
 いたずらっぽい笑みを浮かべて、メイコは手にしている本を閉じ、テーブルに置く。
 正面には、ブロンドと呼ぶには程遠い、茶と黄が混じったサイドテールを揺らしながら、雑にお茶菓子をボリボリ言わせている少女。
「何? まーたお淑やかにしろとか言われたの? ボクに比べたら何したって充分お嬢様だと思うけどね?」
「ネルは行儀が悪すぎるのよ」
 クスッと笑って、メイコもお茶菓子に手を伸ばす。
「ボクは貴族であって、貴族じゃないからいーの」
 ぶすくれるネル。メイコは再び笑って、
「何それ。ネルは私の従妹なんだから、立派な貴族でしょ?」
 メイコはヴェスリトン王国の王族貴族である。ネルはその従妹であったが、そんな肩書など気にせず自由奔放に暮らしている。ネルの両親はいつも手を焼いているようだった。
「表向きはそうだけどさ。なーんかめんどいじゃん、そーいうの」
 そう言って、お茶菓子を二、三枚、口に放り込む。
 メイコは対照的に、丁寧にお菓子を一枚ずつ口に運んでいる。
「まあ、分からないでもないけどね」
 そう言って、紅茶を一口。カップに添えられた左手には、シンプルな指輪が光っている。
「……メイコさ、結局、婚約OKしたの?」
 それを見て、不機嫌にネルが問う。
「ええ。言わなかったっけ?」
 ネルの様子に、ややきょとんとするメイコ。
「ふーん。本当にいいの? 勝手に決められた婚約者で」
 ネルの口はますます尖る。どうやら、メイコの婚約が気に食わないらしい。
「勝手じゃないわ。自分の意志よ」
 カップを置き、優しい口調でメイコが続ける。
「昔、話した事なかったっけ? 私には心の半分がないって話」
「あー、生まれた時から自分のかけらを探してるんだって話か。聞いたよ」
 何度も聞かされているのだろう、うんざりした表情で肘をつくネル。
「そう。彼が、そのかけらなの。会った瞬間に分かったわ」
「はあ?」
 口をあんぐりさせ、ネルは間抜けな声を出す。
「彼も、私を探していたの。最初はお見合いに反対していたらしいんだけど、この国を訪問した時、私がすごく近くにいる事が分かったんですって。実際に会ったら驚いたって」
 すごく楽しそうに、そして幸せそうに話すメイコ。ネルは開いた口が塞がらない。
「え……じゃあ、何。あの青頭も、心が半分ないとか言ってたってこと?」
「ええ、そうよ。って、カイトのことそんなふうに呼ばないでよ。失礼でしょ?」
 小さく頬膨らませるメイコ。
 ネルはため息をつき、右手で軽く頭を抱える。しかしメイコはかまわず続けた。
「私達は、身体は二つだし、別々の人間だけど、心は――精神はつながっているの。誰にも信じてもらえないけど、彼は私であり、私は彼なのよ」
「だから、婚約をOKしたってこと?」
「そうよ」
 にっこり笑って、きっぱりとメイコは返事をした。
「……」
 そんな彼女を見て、ネルは複雑な表情で目を逸らした。
「……ボクさ、正直、反対なんだよね。その婚約」
 呟くように、ネルは言った。
「え?」
「メイコには悪いんだけど……どうも、いい奴に見えなくて、あいつ」
 メイコのお見合いの時、ネルも近くにいたので、カイトとあいさつを交わしていた。実際にはそれだけだが、正直、印象は良かった。ノルクトンで評判だという事も納得できるのだが。
「どうして、そう思うの?」
「……なんていうか、よく分からないけど……嫌な予感がするんだ」
 ネル自身、なんて曖昧な理由だと嫌悪するほど、直観的な何かが働いているとしか言いようがなかった。
「大丈夫よ。心配しないで。確かに彼は違う国の、ノルクトンの人で、優秀な騎士で、遠くにいて。ネルにとっての不安要素はいっぱいかもしれないけど……」
「そ、そういうことじゃなくて……上手く、説明できないよ」
 メイコの言葉をさえぎったものの、結局顔を伏せてしまうネル。
「メイコが言ってる、その、他人と心が繋がっているとか……良く分からないけど、ボクは信じてるよ。それでも、やっぱりあいつとは結婚してほしくない……」
 まるで駄々をこねる子供のようだと、ネルは思った。理由らしい理由も述べず、自分の感情だけで話すのが、なんだか恥ずかしく感じていた。
「『他人と心が繋がっている』とは興味深い話ですねぇ」
 唐突に、聞き慣れない声がかかる。そちらを振り向けば、仕立ての良い服を纏った二人組。ダークバイオレットのロングヘアーが印象的な長身の男性と、その傍らには美しい女性。ライトピンクの長い髪がなびき、その美しさを強調している。
 ネルには見覚えのない顔だったが、
「あら、カムイ様。もういらしていたんですか?」
 すっと立ち上がり、メイコが話しかける。
「予定が一つキャンセルになりまして。少し早くなってしまいましたが、お邪魔でしたでしょうか?」
「いえいえ、全然」
 笑顔で答えるメイコに、
「メイコ、誰だこいつら?」
 ネルは怪訝に小声で、問う。
「ああ、そっか。ネルは初めてよね。紹介するわ。こちら、インタレア王国の大臣であられる、カムイ様と、奥様のルカ様よ。カムイ様、こちらは私の従妹のネルです」
「初めまして、カムイと申します。どうぞお見知りおきを」
 丁寧に、会釈をするカムイ。合わせて、ルカも無言で一礼する。
 しかし、ネルはそれを受けず、
「インタレア……だって?」
 呟き、みるみる表情が険しくなる。
 それを見たメイコはハッとした。
「ネル、だめよ。この方たちは……」
「どういうことなんだよ、メイコ! なんで、インタレアの人間がここにいる!?」
 怒りの勢いに任せ、ネルは声をあらげた。
「人殺しの国の人間を、この屋敷に入れるなんて!」
「ネル!」
 さすがにメイコも声を上げて、制止する。
「この方たちは、ヴェスリトンと友好関係を結ぶ為に来訪された、大切なお客様なのよ!」
「まあ、そう言われても仕方ないですね……戦火を広げている国ですから」
 困惑した表情で肩を落とし、カムイが言う。
「でも、私達は兵士ではありません。インタレア出身だから人殺し、とは決め付けないで頂きたい。我が国では戦争を望まない者もいます。私達もそのうちの二人です」
 おだやかな口調であるが、ネルの表情は変わらない。
「……はっ。大臣の位にいて、よく言うよ。メイコ、ボクは失礼するよ。大事なお客様には悪いけど、インタレアとは関わりたくない」
 言うなり、ネルは歩き出した。
「それは残念です。先ほどのお話を、お聞かせ願いたかったのですが」
「さっきの話?」
 立ち止まって、ネル。
 カムイはにこやかに続けた。
「ええ、心が繋がっている……とか。私達は、そういうお話が大好きでして」
「……」
 ネルは二人を睨みながら、顔をしかめた。カムイの言葉に不満と不快感が増す。
「あんた達には関係ない」
 そう言い放ち、ネルはテラスから続く部屋と入り、廊下へと出て行ってしまった。
「うーん、嫌われてしまいましたね」
 肩をすくめてカムイが言う。
「申し訳ありません……ネルは、戦争で恋人を亡くしているんです。それが、インタレアの兵士にやられたそうで……」
「そうでしたか……それでは仕方ありませんね」
 表情を曇らせ、カムイが続ける。
「我々の国は、各国から恨みを買うような事を続けていますからね。こういうことは、よくあります。どうか、お気になさらず」
「本当に、すみません。あ、今お茶を用意させますね」
 メイコはペコっと頭を下げてから、執事を呼ぶ。
「どうぞ、お構いなく。お父様もお忙しいでしょう。よければ時間まで、先ほどのお話をお聞かせ願えませんか?」
「私とカイトの事ですね。ええ、構いませんよ。応接室へ移動しますか? ここだと陽も当たってしまいますし」
 メイコの言葉に、カムイとルカは顔を見合わせる。しかし、すぐにメイコへ向き直り、
「いえ、ここで結構ですよ。開放的で、素敵な場所じゃないですか」
 笑顔でカムイが言う。
「ありがとうございます。では、どうぞ」
 お気に入りの場所を褒められて、メイコも笑顔になり、二人を白いテーブルに備えてある同じデザインのイスに座らせた。
 ちょうど、執事がお茶を載せた盆を運んでくる。
「ヴェスリトン産のお勧めの紅茶です。お茶菓子も、遠慮なく召し上がってくださいね」
 そう言うと、メイコもイスに腰掛ける。執事は一礼して去って行った。
「ありがとうございます。頂きます」
 カムイは素直に、紅茶を一口。
「……うん、これは美味しい」
 隣で、ルカも優雅に紅茶をすすっている。どうやら二人とも気に入ったらしい。
「ふふ、良かったです。あ、それで……何からお話しましょうか」
「そうですね……メイコさんは、私達が考古学の研究をしている事はご存知ですか?」
「あら、初耳ですわ」
 カップを片手に、驚きを口にするメイコ。
「そうですか。特に妻が古い歴史や文献を研究するのが好きなのです」
 カムイはルカを見て言う。ルカはにっこりとほほ笑んだ。
「その中でも、人の精神論が歴史の中では出てくることもあります。その昔、人々は心のつながりだけで会話をした、という話も文献にありまして。それで、先ほどのお話が気になったのです」
「そうだったんですか。でも、さすがにカイトと会話はできませんね。それが出来たら素晴らしいと思いますけど」
 ルカは懐から、小さな本を取り出した。そこに、メモをとり始める。
 カムイはそれを確認し、クスッと笑う。
「すみません、研究熱心な妻で。ちょっと取材する記者みたいになってしまいますが、お気になさらず。こういう話をすると、いつもこの調子で……」
 やや困り顔だが、どこか愛おしそうにカムイが言う。
「ええ、全然問題ないですよ」
 メイコもクスッと笑う。それを見て、カムイは質問を続けた。
「その、カイトさんとは、いつから心が繋がっているとお感じになったのですか?」
「……実際、カイトと会うまでは、それを実感する事はありませんでした。生まれたときから、自分には心が半分ない状態で、出来そこないだということしか感じられなくて」
「心が半分ない?」
 眉根を寄せるカムイ。
「ええ。物理的な意味ではなく、感覚の話ですけど。でも、この世界のどこかに、私の半分がいるのを感じていました。繋がりを感じるというよりは、その存在を感じていたのです。実際にカイトと会う事で、その全てを共有できたんです。足りないものが満たされていくのを、すごく感じました」
 優しく語るメイコの言葉を、ルカは無言でメモに記している。
「遠くにいながら相手の存在を感じ、心の繋がりを今は感じているわけですね」
「そうです。こんな話、信じられないでしょうけど……」
 メイコは少し寂しそうに、目を伏せる。
「そんな事ありませんよ。研究者としては大いに興味のあるお話です。先ほど、会話は出来ないとおっしゃっていましたが、どこまで相手の〝今〟を分かる事が出来ますか?」
「今、ですか?」
 きょとんと、メイコ。そして再び目を閉じる。
 その様子を、二人は黙って見つめていた。
「……うーん。元気なのか、病気してるのか、嬉しいのか、悲しいのか、ご飯を食べているのか、剣技を磨いているのか、正直良く分かりません」
 目を開けて、困惑気味に話す。
「ただ、遠くに暖かい光を感じるだけです。あ、でもハッキリ分かる事もありますよ。時々ですけどね」
「なるほど。ハッキリ分かる時とは、いったいどういう時に分かりますか?」
「どういう時なんでしょうか……何かを、強く相手に伝えたい気持ちが発生した時、とかだと思います。あまり意識したことがないので、よく分かりませんけど……」
 少し恥ずかしそうに言うと、紅茶を一口含む。
 そこで、ルカはペンを止めた。何かを思案するように、ペンの端を口元に当てる。
 カムイはそれを見て、ルカの手元のメモを覗き込む。そして二人は顔を見合わせると、カムイが小さくうなずく。
「貴重なお話を、ありがとうございました」
 カムイはメイコに向き直り、礼を言った。
「いえ、こんなお話で良かったのでしょうか」
「ええ、とても参考になるお話でしたよ。よければ今後も、お時間ある時に我々の研究に協力しては頂けませんか? インタレアの観光ついででも構いませんので」
 にこやかにカムイが言う。ルカも同じようにうなずいた。
「まあ、私なんかでお力になれるのであれば、ぜひ協力させてください」
 喜んで引き受けるメイコ。すると、後ろから執事が近づいてくる。
「お話中、失礼いたします。旦那様がお戻りになられました」
「分かりました。カムイ様、お父様が戻られたそうです」
「そうですか。では行くとしましょう」
 カムイの言葉に、ルカが小さくうなずく。メモを懐にしまうと、二人は立ち上がった。
「私も、お部屋までご一緒しますわ」
 メイコも立ち上がり、二人と一緒にテラスを後にする。
 楽しそうに話しながら応接の間へと向かう三人の姿を、ネルが遠くから見つめていた。
 憎しみが混じった複雑な表情で、三人の背中を見る。
 やがて階段へと消えて行くその姿を見送った後、ネルは誰にも声をかけることなく、その場から去って行った。



Lost Destination 「5.新しい家族」


 それはすべてが雑音で出来ていた。
 最初は小さく、耳を澄ませても聞こえていなかったものが、次第に大きくなっていく。
 やがては耳をふさぎたくなるほどの爆音となり、脳をガンガンと揺さぶってくる。
 眩暈と共に、瞬間的に気を失いそうになる。ふらふらとよろけり、重力に逆らう間もなくそのまま椅子へと落ちる。
 ガタンッ
「――大丈夫ですか?」「お気を確かに――」
 近くに、武装した男性が数人声をかける。
「レン様?」
 一人が心配そうに顔を覗き込む。
「――もう一度、言ってくれ。今、なんて言った……?」
 目の焦点が合わない。声はすっかりかすれ切っている。しかし、レンは自分よりも年上の青年たちにもう一度問いかけた。
「なんて、言ったんだ?」
「――……」
 その様子に、青年たちは言葉を失ってしまった。自らの所属する隊長への、数秒前の報告が、声となって出てこない。
 中には耐えられず、涙を流している者もいる。
「もう一度……報告してくれ……」
 レンは、力なく命じた。
「……カイト隊長率いる第一級騎士団特別隊は……っ、……ヴェスリトン王国国境付近の前線にて、――全滅……インタレア軍は、ヴェスリトン王国を制圧したと――」
 喉を詰まらせながら、一人が再び報告をする。
 目の前が、真っ暗になった。
(カイトが――死んだ?)
 頭の奥で鳴り響く雑音はいまだガンガンと鳴り続けている。
(まさか、そんな――そんなことが――)
 机に肘をつき、手で顔を覆う。
 完全に沈黙してしまったレンを見て、青年たちはかける声を見失ってしまった。
「レン様……」
「……しばらく、そっとしておこう。カイト様とレン様がご親友であられた事は、知っているだろう」
「……そうですね」
「本国からもまだ何も通達が来ていない。レン様が落ち着かれてから、指示を仰ごう」
「分かりました」
「……レン様、わたくし達はしばらく待機しております。何かありましたら、すぐお呼び下さい。失礼いたします」
 青年達はレンに一礼をすると、部屋から出て行った。
 レンは彼らを見送ることもなく、硬直したままだった。
(――……どうして……なんで……こんな――)
 疑問と混乱で、頭のなかをぐるぐるといろんな感情が巡る。
 そのまま、レンはしばらく動けずにいた。


 第一級騎士団一番隊は、先に出立していた特別隊の援護に回るべく、ノルクトン王国を出てヴェスリトン王国へ向かっているところであった。
 その途中にある小さな村に宿をとり、待機をしていた。順調にいけばあと二日ほどで特別隊と合流出来るはずだった。
 特別隊は、領土拡大を目論むインタレア王国から攻撃を受けているヴェスリトン王国を守るべく派遣されていた。
 近年、インタレア王国は勢力を強め、次々と各国に戦争を仕掛けては領土を広げていた。友好関係を結んでいたはずのヴェスリトン国でさえ裏切り、侵攻に及んだ。
 中立国として戦争に関わらなかったノルクトン王国だが、巻き込まれるのも時間の問題だろう。ノルクトン王国と平和協定を結んでいたヴェスリトン王国が侵攻されたとなれば、動かないわけにはいかなかった。
 自衛のための軍隊とはいえ、ノルクトン王国の軍事力は各国から一目置かれている。その為、各国からの応援要請があるほどだ。インタレア王国が真っ先に攻めてこない理由も、そこにあった。
(インタレア軍は、確かに勢力を強めていた。でも、カイトが――特別隊がそう簡単にやられるか……?)
 少し落ち着きを取り戻したレンは、机に広げられた地図を眺めながら思案する。
(……もし、本当なら、メイコさんの事で何かあったとしか考えられない……)
 ヴェスリトン王国の王族であるメイコは、カイトの婚約者である。戦争が始まってから連絡が取れなくなっていた。そのせいで、一時期カイトの様子がおかしかったのも知っていた。
 しかし、ヴェスリトン王国から救援要請が来たときに、カイトはいつもの様子で、
「レン、俺は、俺の正義を貫いてくる。後は、頼んだぞ」
 笑顔でそう言って、旅立っていった。
 しかし、戦況は悪くなっているようで、すぐに一番隊にも出立命令がでたのだ。
「……」
 レンは立ち上がり、愛用の剣がベルトにかかっているのを確認し、外套を羽織る。そのまま荷物を持つと、部屋を出た。
「……! レン様」
 すくそばに控えていた兵士が、レンに声をかける。しかし、レンは振り向きもせず歩いて行く。
「お待ちください。レン様、どちらへ?」
「カイトの安否を確かめに行く。お前達はここで待機していろ」
 一方的に言い放つ。
「ちょ、ちょっと待って下さい。それはなりません! 本国からはここで待機しているよう通達が来ています」
「分かってる。だからオレ一人で行く。自分の目で確かめなきゃ、信じられないんだ」
 行ってどうにかなるものではない。レンにもそれは分かっていた。しかし、ここでじっとはしていられないのだ。
 一人の青年が、レンの前に回り込み、行く手を阻む。
「お待ちください! お気持ちは分かりますが、今隊長が不在になると、他の兵たちも不安にさせます。それに、レン様の単独行動が本国に知れたら……」
「かまわないよ。本当にカイトがいなくなったんなら、オレがここに在籍している理由もない……そこをどけ、ヴィニー」
「落ち着いてください。特別隊の消息が絶った今、頼りになるのはレン様とこの一番隊になるのです。お辛いでしょうが、今は、ただ待つしかないのです」
 レンはヴィニーを睨む。しかし彼は一歩も引かず、レンの眼光を受け止める。
 しばらく睨みあいが続いたが、一人の伝令兵によってそれが破られた。
「レン様! 大変です!」
「――? どうした」
「ほ、本国より通達です。インタレア軍が、宣戦布告と同時にノルクトン王国に砲撃したと……」
「なんだって!?」
 レンだけなく、その場にいた兵たちがざわつく。
「至急帰還せよとの事です」
「……分かった。ヴィニー、皆にすぐ出立するよう伝えろ。準備が出来次第、本国へ帰還する」
「かしこまりました」
 ヴィニーは一礼すると、すぐに行動を開始した。他の兵たちも慌ただしく動く。
 レンはすぐに部屋へと戻っていった。
 頭を軽く振り、左手で額を抑える。忘れていた雑音が再び脳内を占め始める。
(本国に砲撃? いくらヴェスリトンを落としたとはいえ、早すぎる……)
 事態の急変に、レンはさらに混乱を期した。
(いったいどうなってんだ? 何が起きてんだ?)
 ダンッ!
 未だガンガンと鳴り響く頭痛を振り払うように、机を殴った。
 ピリピリと、拳からその痛みが加わる。
 机に広げられた地図に目線を移す。どんなに急いでも、ノルクトンへは五日ほどかかるだろう。第一騎士団だけでなく、他の戦力も総出で対応しているだろうが、カイトの隊とレンの隊が不在の今、手薄である事は違いない。今この間にも、インタレア軍から攻撃をされて、どこまでもつのか。
(父様、母様、ミク姉……リン)
 ノルクトンに残してきた養親、義従姉のミク、義姉のリンを想う。カイトの事も気になるが、よそ者の自分を本当の家族として受け入れてくれた彼らも、レンにとっては大切な人たちだ。
(どうか、無事でいてくれ……)
 祈るように、心の中で呟いた。
 
 たどり着いたそこは、本当に我が故郷だろうか。
 そんな疑問が宿るほど、ノルクトン王国の街は変わり果てていた。
 誰もが言葉を失い、しばらく立ち尽くしていた。しかし、ぼーっとしている暇はない。レン達一行は、すぐに救助活動へ入る。
 平和と幸せに満ちていた、ノルクトンの街はどこへ行ってしまったのだろうか? あちこちに火の手が上がり、建物は崩れ、瓦礫が散乱していた。
 今のところ、攻撃の手は止んでいるようだった。レンは隊員達にそれぞれ指示をし、自らは実家へと足を運ぶ。
「――なんでだ。どうしてこんなひどい事になってんだ!」
 街の状況は、レンの想像を超える被害だった。ノルクトン屈指の軍事力があれば、多少の被害は出ても街中まで攻撃の手が入る事はないだろうと、思っていたのだ。
「……新兵器でも、開発されたのか……?」
 インタレア軍が勢力を強めたとされる理由の一つに、新兵器開発という噂にちかい情報が入っていた。いろいろ裏で何かをやっているという話は、絶えず耳に入ってはいた。しかし、どれも確証の持てる情報ではなかった。
 だがこの現状を見るに、あながちその新兵器も嘘ではないのかもしれない。
 いずれにせよ、街に残ってる人たちを助けなければ。
 やがて、レンは自分の家にたどり着く。しかし、
「……!」
 僅かに残る火と、燻ぶる独特の焼けたにおい。屋敷だった骨組みがやや残っている程度で、かつての住まいはそこに存在してはいなかった。
「――父様! 母様! リンーーー!!」
 叫ぶ。返事がない事も分かっている。
 ひょっとしたら、「レン、びっくりした? みんな逃げて無事だよ」と、いつもの笑顔でリンが後ろから現れないだろうかと、淡い期待もよぎる。
 それも一瞬で、霧散していくだけのレンの声が、現実を突き付けてくる。
 焼け落ちて積み上げられた、瓦礫を見つめる。
 みんなが生きている事を願うレンには、それを掘り起こす勇気がなかった。
 手が、足が震える。
(一体何が起きてんだ……オレはどうしたらいいんだ……)
 孤児院育ちのレンは、最初から何も持っていなかった。家族も友人も居場所も。カイトに出会い、リンと出会い、大切なモノたちが出来て、ようやく生きる意味を見つけて、歩き出せた。
 今、それがガラガラと音を立てて壊れて行く。
 孤児だったころの、心に何もなく闇しか見えない、あの孤独な感覚が蘇ってくる。
(いやだ……いやだ……いやだいやだいやだ!!!)
 震える手で、それをかき消すように、自らの頭をぐしゃぐしゃとかきむしる。
 指に絡む、金色の髪。貴族の血筋を示す、髪の色。
(オレは、貴族なんだ。もう平民の孤児じゃない……)
 手のひらの髪の毛を見て、思う。
(そうだ。こんなところで戸惑ってる場合じゃない。街のみんなを助けよう。……もしかしたら、避難したリンも見つかるかもしれない)
 レンは、グッと拳を握り、屋敷跡に背を向けた。
 その時――
「……ぅぅ……」
「!?」
 小さな呻き声が、確かに聞こえた。
 レンは慌てて戻り、瓦礫に近寄る。
「おい! 誰かいるのか?」
「……こ、ここです……」
 くぐもって、弱弱しい声が聞こえる。その方向にある瓦礫を避けるレン。
「大丈夫か? 待ってろ、今助ける!」
「……レ、レン様……?」
 姿は見えないが、声で分かったのだろう。レンの名を呼ぶ。
 レンは剣を使い、瓦礫を除けていく。
「ああ、そうだ。その声は、リュウトか?」
 聞き覚えのある声の、その名を呼ぶレン。
 リュウトは、住み込みで働いていた使用人だ。リンとレンの世話係でもあった。
 瓦礫を除けて行くうちに、その姿がようやく見えた。
「リュウト! 大丈夫か?」
「……あぁ、レン様……よかった、ご無事で……」
 微力な声と笑顔で、リュウトが言う。
「待ってろ。今、出してやるから」
「……自分は、大丈夫です……」
 リュウトの足元にある、焼け焦げた柱を持ち上げようとするレン。
「大丈夫そうに見えないぞ。足の感覚あるか?」
「……レン様、リン様をお探し下さい……」
 レンの質問には答えず、リュウトが言う。
「え? リンは無事なのか?」
 思わず手を止めて、リュウトに問う。
「――分かりません……襲撃を受けた時、ご主人様と、奥様と……一緒に裏口から避難するよう……お伝えして……」
 リュウトは一旦、大きく息を吸った。呼吸を整える。
 レンは剣を使い、引き続き瓦礫を除け始める。早く助け出さないと、怪我の具合も分からない。
「自分は……お屋敷に残りました。リン様が安全な所へ行くまで、少しでも、時間稼ぎになるなら、と……」
「分かった。もうしゃべるな。リンは必ずオレが探しだす」
「お願いします……でも、気を付けてください……」
「分かってるって。だから……」
「違うんです」
 少しずつ浅くなる呼吸で、リュウトが必死に訴える。
「……レン様……カイト様に、気を付けてください……」
「……え?」
 突如出てきた親友の名に、再びレンの手が止まった。
「特別隊は全滅との事でしたが、カイト様は……御存命でいらっしゃいます……ですが、今のカイト様は……祖国を愛された、あのお優しいカイト様ではありません……」
「……な、何を言ってるんだよ? カイトが、え?」
 完全に予測不可能な話で、しかも突然すぎてレンはまともに狼狽する。
「信じ硬いですよね……自分も未だに信じられません……ですが、このお屋敷を破壊したあの力と……あの眼を見て……今までのカイト様ではないと……」
 その時の事を思い出しているのだろう。つらそうに目を閉じる。
「ですから……カイト様と出会ってしまう前に、リン様を……お探し下さい」
 とすっと、リュウトの腹部に当てていた右手が、腕ごと脇へ落ちる。
「っ! リュウト? おい!」
 慌てて声をかけるレン。近づくと、どうやら気を失っているだけらしい。細い呼吸音が聞こえてくる。
「……はあ……」
 肩で大きく息をつく。安堵と、戸惑いが混ざった、大きなため息となる。
「……いったい、何が起こってるんだ……」
 何度目かの、同じ疑問が頭を占める。
 見上げれば、どんよりと曇った空からは、ぽつぽつと雨粒が降りてきていた。


 その後、ほかの隊員達にも手伝ってもらい、リュウトは助け出され、病院へ運ばれた。
 レンは救助活動をしながら、リンを探し、そしてカイトの情報も集めた。
 意外にも、カイトの姿を目撃した人物は多かった。口を揃えて皆、「いつものカイト様じゃない」と言う。
 なにより気になったのは『不思議な力』を使っていた、という事だ。
 剣を掲げ、何かを呟いたかと思うと、突然建物が破壊され、火の手が上がったという。
「あれはまるで……そう、魔法のようだった」
「魔法? 神の力といわれる、あれか?」
 とある若者の言葉に、レンが訝しげに問う。
 古代の人々はかつて、神々と共に暮らしていたというのは、歴史で誰もが習っている。神々は人間とは違う力、魔法を操りその権力を示していた。しかし、その力を恐れた人間達は、やがて神々と全面戦争をすることとなり、二百年近く続いた結果、神々が敗れた。
 それ以来、魔法は見なくなったという。
「そうとしか考えられないよ。手品ってレベルじゃないんだ。辺りの建物みんな一瞬にしてドーン! だぜ?」
「……それが本当だとしても、魔法は歴史上の話だし、人間には扱えない力だ。きっと、なにか仕掛けがあったんだろうな」
「仕掛けなんてする暇なかったぜ? 来ていきなりだったからな」
 話を信じてもらえない事が不服なのか、やや口を尖らせて言う。
「……そうか。情報ありがとう」
 笑顔でそう言うと、レンは手持ちの荷物から甘芋一個と金貨一枚を取り出し、若者に渡す。
「ああ、どういたしまして♪」
 それだけで機嫌が治ったようで、若者はそれを受け取ると嬉しそうに去って行った。
 それに反して、レンの表情は冴えなかった。相変わらずリンは見つからない。それどころか、リンに関してはまったく情報が入ってこない。
 加えて、カイトの情報ばかりだ。しかも理解しがたい話だらけで、正直レンは参っていた。
「実はカイトは生きていて、インタレア軍に寝返って、しかも魔法のような不思議な力でノルクトンの街を破壊していってるだって……?」
 まとめるとそんなところだろう。思わず首を振る。カイトが生きていたとしても、この国を攻撃するなど、あり得なさすぎる。とても信じられない。
 レンはふらふらと、歩き出した。
(今日はもう戻ろう。王宮へも行かなきゃ……)
 考えるのをやめ、レンは隊員達の待機場所へ足を向けた。
 ドゥゥン……!
「!?」
 それはレンの後方から、聞こえた。音だけでなく、悲鳴も混じっている。
 すぐにその方向へ走り出す。そう遠くはなかった。
 ドガガガァァンッ!
 何かが砕け散る音と共に「うあああ」「逃げろぉ!」「きゃー!」とあちこちから悲鳴が上がる。
 逃げてくる人々とは逆の方向へ走るレン。
 ひとつ角を曲がると、あちこちに火の手が上がっている。倒れ、瓦礫に押しつぶされてる人間もいた。
「……っ」
 思わずレンは顔をしかめる。
「カイト様! やめてください! ぐあぁっ!」
 近くで、男性の声が響いた。レンのいるすぐ裏手のようだ。
 急いでそちらへと回る。
 しかし、そこには倒れ伏している男性が一人。カイトの姿はない。
「大丈夫か?」
 駆けより、男性に声をかける。
「……れ、レン様……カイト様が……」
 男性は前方を指さし、そのまま力尽きた。
「おい! ……くそっ……」
 舌打ちをして、レンは立ち上がる。動かなくなった男性に、簡易的な祈りをささげると、彼が指さした方へ向かった。
「カイト!」
 どこにいるかも分からない親友の名を呼ぶ。
「本当に、カイトが……」
 ぼそっと、ひとりごちる。信じたくない気持と、カイトの生存を確かめたい気持ちとで、複雑な焦りがレンを襲う。
「カイト! いるのか!? オレだよ! レンだ!」
 破壊され、あちこちが燃え盛っている街中を駆けながら叫ぶ。
[……レン、帰ってきていたのか。思ったより早かった]
「!?」
 反響して、どこからか聞き覚えのある声が響く。レンは思わず足を止めた。
 辺りを見渡すが、その姿は見えない。
「カイト! 本当に、カイトなのか!?」
 今にも落ちてきそうな黒い空に、レンは叫んだ。
「一体、どういうことなんだよ!? 特別隊はどうしたんだ? なんで姿を見せてくれないんだ!」
[特別隊は、俺が全滅させた]
「――!?」
 間をおかず即答され、レンは目を見開く。
「――な、なん、だって……?」
[全ては、メイコの為だ]
 その声に感情はない。さらっと言ってのける。
 一方、レンは動揺を抑えられない。
「まさか、メイコさんはインタレア軍に捕らわれているのか? それで、インタレアの言いなりになってるのか?」
[……]
 レンの質問に、カイトは答えない。
「そうなら、本当の敵はインタレアじゃないか! なんで、こんなこと……」
[俺はインタレアのおかげで神の力を手に入れた。これで、全てを手に入れる事が出来る]
「神の力だって……? 何言ってんだよカイト? どうしちまったんだよ!?」
 頭の中が、ぐちゃぐちゃになりそうだった。レンには正直、カイトが何を言っているのか全く理解できないでいた。
[信用していないな? ここからでも、俺はお前を攻撃できる]
 カイトの言葉が途切れた、その時――
 ガガガァァン!!!
「――っ!!」
 レンのすぐ右の建物に、雷が落ちる!
 思わず腕で顔を覆うが、爆風に吹き飛ばされ、倒れる。
 瓦礫の破片が、レンの身体のあちこちに傷をつけた。
[すごいだろう? 今はわざと狙いを外した。もちろん、直接当てることもできる]
 脅しともとれる発言をしてきた。レンはふらふらと立ち上がる。
「……本当に、ノルクトンの、敵になったのか……?」
 グッと胸が締め付けら得るのを感じるレン。憤りよりも、悲しみが強かった。
 そんな少年の気持ちなど知らず、カイトは変わらぬ口調で答える。
[この国は、他の国にとって脅威になりうる。それは即ち、俺の脅威でもある]
「だからって……ここは、カイトの故郷だろ!? なんでこんなことできるんだよ!?」
 声が裏返り、それでもレンはその想いを響かせる。
「レン様ー!」
 カイトの返事が来る前に、レンの後方から声がかけられる。振り向けば、一番隊の隊員数人が駆けよってきていた。騒ぎを聞きつけてきたのだろう。
[――ここまでか]
 それに気づいたのか、カイトの声。
「ま、待ってくれ! まだ話は――」
[レン、次に会う時は、覚悟するんだな。それから、リン達の事は諦めろ。もうここにはいない]
「!!」
 全身から、血の気が引いていくのが分かる。レンはその場に、膝を落とした。
 その言葉を最後に、カイトの声はもう聞こえなくなっていた。


 どうしてこんなことになってしまったのか。
 きっと、それを知る者はいないのだろう。
 神様くらいだろうか?
 しかし、その神の力を手に入れた者がいる。
 なら全てを知っているのだろうか?
 噂なのか真実なのかはたまた嘘なのか。
 何を信じて、何を疑えばいいのか。
 元の孤児どころか、何もかもがなくなった、真っ白な状態にリセットされたような気分だった。
 一体、自分はなんだったのだろうか?
 何かもが分からない。分かっても、何が出来るんだろうか?
 ぐるぐるとループする疑問と感情が、少年の精神を蝕んでいる。
 王宮に用意されている、第一騎士団の施設内に、レンはいた。
 レンは抜け殻のようになり、しばらく自室に籠り、寝込んだままだ。
 その間、回復したリュウトがレンの世話をしていた。
 話は、だいたいレンから聞けていた。話したくなさそうだったが、レンの様子があまりにもおかしいので、聞かずにはいられなかったのだ。
「……レン様、朝食をお持ちしました」
 優しく話しかける。しかし、レンは起きてこない。
 家族と、親友と、国の人々と。レンにとって全てと言える大切なモノたちがいっぺんに失われ、そのショックは相当なものだろう。
 リュウトには、レンに与えられる言葉などなかった。だから、せめて傍にいてお世話をすることで、精一杯の気持ちを伝えたかったのだ。
「冷めないうちに、おあがり下さい」
 小さなテーブルに、朝食が乗った盆を置く。そして、傍にあるイスに腰掛けた。
 ちらっと、ベッドを見やる。レンはこちらに背を向けて布団をかぶっている。
 普段は結ばれている長めの髪が、白い枕に投げ出されキラキラと光っていた。
 視線をテーブルに戻す。その目が僅かに揺れる。
 少しの間の後、リュウトは意を決したように口を開く。
「……レン様、昨晩、街の外を見回りしていた兵士から聞いた話なのですが……」
 そこで、一瞬口ごもる。再びレンを見るが、先ほどと変わった様子はない。
 現在は、インタレア軍からの攻撃はない。一番隊が戻ってきた事により、警戒しているのだろう。ノルクトン側も厳戒態勢を引いている。
 その為、王宮内では様々な情報が入ってきている。リュウトも、それを耳にしたのだ。
「――カイト様の姿を、スラムで見たそうです」
 レンの身体が、僅かに揺らぐ。
「この事をお伝えしようか、迷いましたが……お気を悪くされたら、申し訳ございません。自分は、カイト様を救えるのはレン様しかいないと、思っております」
 伏し目がちに、リュウトはゆっくり話す。
「ですから、カイト様の情報はレン様にお伝えした方がいいかと、思いまして……」
 テーブルに置かれた朝食は、まだ湯気が上っている。リュウトはそれを見つめながら、
「今はやや落ち着いていますが、いざという時は皆、レン様の力を頼りにされています。しっかりご飯を召し上がられて、ゆっくり御静養ください」
 そう言って、リュウトは立ち上がった。すると、
「リュウト」
 レンの声がかかる。見ると、レンは上半身だけ起こしていた。
「……ありがとう」
 その表情は冴えていないが、瞳に宿る僅かな光を、リュウトは見た気がした。
 リュウトは笑顔で会釈をし、レンの部屋を出て行った。


 数日後。
 レンはすっかり廃れてしまった街中を歩いていた。
 あの日と同じ、どんよりとした天候。微かに小雨も降っている。
 何度か、インタレアからの攻撃もあったが、勢力を整え始めたノルクトンはなんとかまともに応戦出来ていた。
 そして、そのたびにカイトの情報も入る。どうやら、スラムに潜伏しているのは間違いがなさそうだった。
 立ち止まり、腰に下がっている剣を徐に抜く。黒い雲を背景に、その白い刀身が映える。
「……」
 渦巻く感情は、さまざまな絵の具を混ぜきってしまったかのように、黒く――しかし、穏やかに澄み切った綺麗な黒になる。
(この手で、カイトを――)
 柄を握る拳に力が入る。
(裏切りの悪に染まった、親友を――)
 はたして、出来るのだろうか?
「……全ての答えは、会えば分かる――」
 ぽつりと、呟く。
 そして、見えない壁を打ち壊すかのように、その剣を振り下ろした。
 瞬間、雨が止む。
 正面を見据えるその目は、どこか虚ろで、しかし覚悟に満ちていた。かつて宿していた、漆黒の瞳をのぞかせながら。
 そして、再びゆっくりと歩き出す。
 全てが始まったスラムへ、全てを終わらせに。



Lost Destination 「4.インタレアからの使者」

 暗い闇の中に、何かの存在をずっと感じている。それは物心ついたころからで、それがいったい何なのか未だに分からない。あまり気にしないようにしていたが、最近になってそれが何かを知らなければいけない気がしてきた。
――いや、知る時が来たのかもしれない。
このまま、暗闇にまぎれて見えない存在を追いかけていって、そして――
「おいっ! 聞いてんのかよ!」
「……!」
 つんざく怒声に、意識が現実へ引き戻される。
(あれ、オレ……)
 ぼやける視界に、数人の足と土。口の中から広がってくる血と泥の香り。身体中のあちこちから鈍痛を感じる。
(ああ……そうだった)
 黒髪の少年は、地面に倒れ伏していた。それを同年代の少年達数人が取り囲んでいる。それぞれの手には木の棒が握られていた。
「死んだふりしてんじゃねぇよ。親なしのゴミがっ!」
 取り囲んでいるうちの一人が言うなり、黒髪の少年の腹を蹴りとばす。
「ぐぅっ……」
 感じる痛みはまともに呻き声になって現れる。
 この痛みは、何度経験しても慣れるものではない。日常茶飯事に行われる、孤児いじめ。大人たちは見て見ぬふりだ。
(一瞬だけ、気を失ってたのか……)
 学校が終わると、いつものように呼び出され、数人から木の棒で滅多打ちにされる。
 ――なぜ親なしと一緒の学校なんだ――
 ――ゴキブリのような頭しやがって気持ち悪ぃ――
 ――お前みたいな汚いやつは学校くるんじゃねぇよ――
 浴びせらる罵声は様々だったが、要はうっぷん晴らしである。
 ノルクトン王国にあるスラム街。栄えた王国には必ずその吐き溜まりがあるものだ。
 貴族階級や、中堅階級でない限り、一般の民は貧しい暮らしを強いられていた。そんな平民の子供達は、貴族階級を恨めしむストレスを、身寄りのない孤児という一番弱い立場の者にぶつけることで、優越感を得ているのだ。
 蹴り飛ばした少年が、黒髪の少年の胸ぐらをつかみ、その半身を起こす。
「うぅ……」
 力なく呻き、されるがままだ。
「ほんと、気持ち悪い頭だぜ……」
 その漆黒の目をまじまじと覗きこみ、悪態をつく。
 少年の黒髪と目は、この国では珍しかった。より目立つ為、いじめの標的にされていた。貴族階級には、艶のあるさまざまな髪色の者が多いが、平民はグレーの髪の者が多い。色の濃度はさまざまだが、黒髪の少年を取り囲んでいる子供たちも皆、グレー系の髪と瞳だ。
「今日も『お付き合い税』を頂くぜ、レン」
 言うなり、黒髪の少年――レンのすっかり汚れきったズボンポケットに手を入れる。
 殴る蹴るをするのも、お付き合いしてやっているという名目をつけて、毎度レンの所持金を奪っていくのだ。
「……」
「っち、10Gぽっちかよ。ま、いいか」
 言うなりレンから手を離す。レンは再び倒れた。
 レンのポケットには、コイン一枚。ジュース一本買える程度である。いつも取られる事は分かっているが、まったく持っていないと、暴力がエスカレートするので、少し持ち歩くようにしていた。
(やっと、今日は終わりか……)
 そう思った時――
「君たち、そこで何をしてるんだ!」
「!?」
 やや離れた所から、若い男性の声。少年たちは反射的にそちらへ振り向いた。
 レンも微力ながら、そちらへ顔を向ける。
 この場に似つかわしくない、仕立ての良いローブを纏った青年が一人。ロイヤルブルーの髪と瞳が、平民でないことを示している。
「んだてめぇ?」
 貴族と見るや否や、レンを蹴飛ばした少年は、その青年を鋭く睨みつける。
 他の少年たちも同様だ。
「……いじめ、か」
 倒れこむレンの姿を見て、青年はぽつりとつぶやく。
「だからなんだよ? 貴族様が平民のいざこざに首突っ込んでくんじゃねー」
「そうだそうだ! 帰れ!」
「金でも恵んでくれんのかよ!?」
 青年に対し、口々に思い思いの悪態をぶつける少年達。
 しかし、彼は構わず近づいて行った。
「話には聞いていたが……本当に、これがスラムの現状なんだな……」
 悲しみとも、怒りともつかない表情で、青年は呟く。
「来るんじゃねぇ! 来たら……」
 少年達は、木の棒を構えた。
「お前もレンと同じ目にあわせてやる!」
「へぇ。それは面白い」
 その言葉とは裏腹に、無感情で青年が応える。そして彼らの言葉を無視し、近づいて行く。その足は明らかにレンへ向けられていた。
「来るなって言ってんだろっ!」
 それが合図かのように、少年達は青年に向かって木の棒を振りかざした。
「……」
 青年はその攻撃を軽々かわす。
「うおお!」
 奇声をあげながら、少年達は次々と襲いかかる。
 それをいとも簡単にかわし続け、少年達を翻弄する。
「くっそぉ!」
 青年の真後ろから、一人が木の棒を振りかぶった。
「しねぇ!」
 バシィッ!
 素早く身体をひねり、青年は振り下ろされた棒を片手で受け止めた。
「な……」
 少年が戸惑っている間に、青年は木の棒を奪い、ひじ打ちで突き飛ばす。
「っ!」
「てめぇ!」
 一人仲間がやられ、さらにヒートアップする少年達。しかし、どの攻撃もテンポよく受け流される。
「……うーん、キリがないな。仕方ない……」
 なかなか諦めない少年達に、青年はやや困った表情で呟くと、
「うっ!」
「いてっ!」
「ぐあっ」
 肩や腕、足などに一発ずつ打ち込む。
「みんな! さがれ!」
 レンを蹴り飛ばしていた少年――どうやらリーダー格らしい彼が声をかけると、少年達は青年から離れた。
「貴族が平民にこんなことして、ただで済むと思うなよ! いつまでも貴族のいいなりじゃねぇぞ!」
 青年に捨て台詞を吐く。
「行くぞ」
 仲間たちに声をかけ、少年達はレンを置いてその場から去っていった。
 青年はそれを見送った後、自らの手に握られた木の棒を見つめる。レンのであろう赤い血しぶきが僅かについていた。青年の表情は痛々しく悲しみに染まっていた。
 倒れているレンに視線を移し、近づく。
「……大丈夫か?」
 しゃがみ込み、声をかける。
「……ぅ……」
 レンはなんとか顔上げるが、まともに返事が出来ない。
「無理はしない方がいい。すぐ医者の所へ連れて行くからな」
 青年はそう言うと、持っていた木の棒を捨て、レンの身体を抱き上げた。
「うっ……!」
 体中から、痛みがレンを襲う。
「少し痛むかもしれないが、我慢しててくれ」
 顔をゆがめるレンに、申し訳なさそうに言う青年。
「……」
 レンは青年に身をゆだね、そのまま眠るように気を失った。
 
 響く声は誰のものか。
 その透き通る歌声は温かく、そして懐かしい。
 ――懐かしい? 聞き覚えのない声が?
 だが、確かにそこに感じる。それは、自らが求めているモノ――
「……tiras~」
「……?」
 レンは、ゆっくりと目を開けた。
 ゆがむ視界は、徐々に焦点を定めていく。
 僅かなひびが入った、古ぼけた天井。それが見える頃には、身体の気だるさで意識もぼんやりと戻る。
(ここは……?)
 目線だけを動かし、辺りを見る。傍らに見知らぬ青年がいた。
(――いや、知ってる……あいつらを、追っ払った――)
 レンは青年の横顔を見つめる。彼はベットの傍にある簡易的なイスに腰掛け、窓の外を眺めながら、鼻歌を歌っていた。
 しかし、すぐにレンの視線に気づき、
「あ、気がついた?」
 微笑んで、声をかける。
「気分はどうだい? だいぶ打撲が酷いようだから、あまり良くないか……」
「……」
 気遣う青年に、黙って見つめるレン。
「あー、自己紹介がまだだったね。俺はカイト。君は、レン君だよね」
 カイトの問いに、レンは複雑な表情でうなずいた。
「この病院に来る途中、君の孤児院に勤めているハクさんに会ったんだ。それで、君の事をちょっと聞いてね」
「ハク姉……だって!?」
 表情を一変させ、レンは身体を起こす。
 ハクは、レンを一番気にかけてくれている、孤児院の先生だ。
いじめられているのはいつもの事で、ハクの前では毎回平気なふりをしてきていた。しかし、病院に来たとなると只事ではなくなる。
「こらこら、まだ安静にしてないと……」
「……ってー」
 慌てて起きたせいもあり、ギシギシと身体が痛む。だが、レンは心配するカイトの言葉を無視し、無理やり上半身を起こした。
「ハクさんは、今病院の先生と話をしている。もうじき来ると思うよ」
 困惑気味に、カイトが言う。
「……あんた、貴族だろ?」
 痛みに顔をゆがめつつ、レンは口を開いた。
「なんで……なんで……」
 頭の中が疑問と混乱でいっぱいになり、それ以上言葉が出てこない。
「んー、そうだね。順番に説明しようか」
 イスに座りなおし、カイトはレンを真正面に見る。
「俺は今、王国の命令でスラム街の視察に来ているんだ。俺だけじゃなく、他の貴族階級の若い奴らも何人か来てる。格差社会を無くす一環だそうだ。実際に現状を目の当たりにさせて、この問題の認識度を上げる為だろう」
 淡々と語るカイト。レンは静かに聞いていた。
「まあ、なんで今そんなことをするのかというと……君も知ってるだろうが、隣国では領土争いが続いている。この国も、いつその戦火に巻き込まれるか分からない。そこで各国との交友を深める為、外交に力を入れたいらしい」
 中立国であるノルクトン王国は、隣国の戦争にはノータッチだ。レンも、学校でその事は習っていたので知っていた。
しかし、僅かに火の粉が飛んでくることもある為、自衛にはしっかり力を入れている。その為、ノルクトン王国には軍事力があった。それを利用しようとする国もあり、なおさら巻き込まれやすくもあるのだ。
「だから、今のうちにこの国の弱点を減らして、少しでも有利に動けるように、という事みたいだ。……ちょっと、難しい話だったかな?」
「……つまり、貴族の人たちは、俺たちを助けようとしてるのか?」
 少し眉根を寄せるレンに、カイトはやや困った顔で、
「うーん、出来るかどうかは別として、まあその努力をしようとしているのは確かだよ」
 その言葉を聞き、レンは、
「……そっか。よかった……」
 どこか不安が残っていた表情が少し和らぎ、小さく口元も緩んだ。
「正直オレ、スラムの人間はみんな、この国から追い出されるんじゃないかって、思ってたんだ。でも……よかった」
 まだ幼いその顔に、優しさと温かさが宿る。
「……ハクさんの言うとおり、君は優しい子だね」
 レンの新しい表情を見て、カイトが微笑んで言う。
「孤児院の子達を、いじめっ子達から守る為に、わざと標的になっていたんだって?」
「え……どうして……」
 レンは驚き、カイトを見る。
「ハクさんが言ってたんだ。レンは優しいから、きっとそうだって。自分に冷たくするのも、ずっと一人でいるのも、みんなを守る為だろうって」
「――……」
 全くの図星に、レンは顔が熱くなっていくのを感じた。
「ハクさんは全部お見通しだったんだな。だからこそ、余計心配したんだろう」
 カイトは、レンの反応を楽しそうに見つめて言った。しかし、
「でもレン君。今のままじゃ、みんなを守りきれないし、俺達が動いたことろで、現状は変わっていかないよ」
 すぐに真剣な表情で言う。
「……どういうこと?」
 怪訝な様子で、レン。
「俺は国の騎士団へ入る為に、日々訓練をしている。しかし、ただ強くなるだけでは騎士にはなれない。自分の大切なものを守ってこそ、真の騎士だ。だけど、自分の身は自分で守らないとな。自分を守れず他人を守れると思うかい?」
 カイトの問いかけに、レンはゆっくり首を振った。
「そういうことだ。いつもいじめに合って、怪我をしているだけでは、何も変わらない」
「……」
 分かっていただけに、レンは暗い表情でうつむいた。
「でも……どうしようもないよ。オレには、黙って耐える事しかできない……」
「そんなことないさ。努力すればレン君だって、強くなれるよ」
 優しさの中に含まれる、どこか確信めいたその言葉に、レンは顔を上げてカイトの目を見た。
 美しいロイヤルブルーの瞳。深い海の底に誘われるような、魅力的な光が宿っている。
 頭の中に、カイトが少年達を追い払った映像が浮かぶ。
「……のが、分かるから……」
「ん?」
 思わずつぶやいた声は小さすぎたようで、カイトが聞き返してくる。
 レンは一度目をつむり、息を吐く。そして再びカイトの目を見て言う。
「……オレは、痛いのが分かるから……強くなれたとしても、人を傷つける事はできないよ……」
 自分の両手に視線を移し、続ける。
「素手だろうと、武器を使おうと、この痛みを相手に与えるなんて、オレには……」
 目を閉じて、レン。毎日繰り広げられるいじめの痛みが、その想いとともに蘇る。
「……なるほど。でも、それならなおさら強くならないといけないな」
 希望を見出したような明るさで、カイトが言う。レンは疑問の瞳で彼を見る。
「その痛みを知らない人間が、平気で人を傷つける。しかし、痛みを知っている人間は、その痛みを上手く使う事が出来る。だからこそ、レン君みたいな子は強くなって、その力を正しい方向で使うべきなんだ。もちろん、人を傷つけない事に越したことはないが、現状はそうも言っていられない。そうだろう?」
 問われ、レンは思わず目を逸らした。そして、再び先ほどの映像を思い出す。
 荒々しく襲いかかる少年たちを、踊るかのごとく華麗にかわして翻弄し、最低限の攻撃だけで追い払ったその姿は、男のレンからみてもカッコイイと思えるものだった。
「……オレも、貴族になりたい」
 呟いて、カイトを見る。
「オレも、あんたみたいな貴族になりたい。そしたら、あいつらにいじめられることもなくなるし、みんなの為に強くなることだって出来るだろうし」
 それがかなわない事くらい、レンにも分かっていた。しかし、その願いを言わずにはいられなかった。
 そんなレンを見て、カイトは何かを言おうと口を開いた時――
「レン! 大丈夫ですか?」
 カチャっと扉が開き、一人の女性が入ってきた。レンを見るなり、泣きそうな顔で声をかけてくる。
「ハク姉……」
 レンは気まずそうにハクを見る。
 平民特有のグレーの髪。しかしその艶やかさと、時折見え隠れする輝く銀髪が、平民のそれとは若干異なっていた。
 ハクはレンの傍までくると、その顔を覗き込む。
「もう、本当に心配したんですよ」
「ご、ごめんなさい……」
 反射的に謝るレン。
「ちゃんと、カイトくんにお礼言いましたか?」
「……カイト、くん?」
「あ……」
 ハクが貴族に対して慣れ慣れしく〝くん〟呼びする事は珍しかった。彼女は特にそういった礼儀には厳しいからなおさらだ。
訝しげに問うレンにハクは明らかに困惑した。
「い、いいから、まずちゃんとお礼言ってください。ここまでレンを運んで下さったんだから」
「……ありがとうございます……」
 腑に落ちないながらも、言われたとおりにするレン。
「いや、いいんだよ。ハクさんも、そんな気を使わないで」
 クスッと笑い、カイトが言う。
「でも……」
「いいから。余所余所しいのは好きじゃない。知ってるだろう?」
「……」
 親しげに話すカイトの言葉に、ハクは諦めにも似た顔で、しかし納得してうなずく。
「……ハク姉、この人と知り合いなの?」
 そんな二人のやり取りを見て、レンは問いかけた。
「ああ、ハクさんとは幼馴染なんだ。学校とお稽古事が一緒でね」
 カイトが素直に答える。
 ハクが貴族出身であることは、孤児院の誰もが知っている。髪を灰色にして平民になりきっているが、元は美しいライトグリーンの髪だったのを、過去の写真を見た事があるレンは知っていた。
「なるほどね。だから〝くん〟ってか」
「こら、口が悪いですよ」
 むっとして、ハクが言う。
「あ、そうだ。ハク姉なら知ってるんじゃない?」
「何がですか?」
 ひらめき、目を輝かせてレンが聞く。
「さっき、この人と……」
「カイトさん、ね」
「……」
 話の腰を折られ、思わずハクを睨んだ。しかし、先に進める為に素直に従う。
「――カイトさんと、話して思ったんだけど。やっぱり、オレ貴族になりたい。貴族から平民になったハクさんなら、その方法が分かるだろ? 教えてくれよ」
「……――」
 息を吸って、驚きと動揺が入り混じるハク。一瞬その目が揺れ動き、そしてレンから視線が外れる。
「……」
 カイトも複雑な表情で、レンを見つめている。
「……なんだよ。また、『貴族の方が大変ですよ』ってか?」
 睨むようにハクを見つめて言う。
レンは以前にも、ハクへ貴族になりたいと言った事があった。しかし、貴族でいるのは大変で、平民でいるほうが幸せになれると言われ、取り合ってくれなかったのだ。
少年の視線を感じ、ハクは慌てて
「だってわたしは、貴族でいることが辛くて平民になったんです……。その辛さを知っているからこそ、レンにはここで幸せになってもらいたいんです」
 先ほどまでの、どこか怯えていたようなハクではなく、その想いが宿った必死さは、自然とその声を大きくさせていた。
 だがそれがきっかけになり、レンの抱えていたモノが爆発する。
「これのどこが幸せなんだよ!? 今までずっと平気なフリしてきたけど、結局ハク姉にもバレてて、毎日毎日あいつらに殴られて……オレ……なんで……」
(――なんで生きているんだ――)
 出かかった言葉を、飲み込む。
 正確には、ほほを伝う大粒の涙が、その言葉を塞いだと言った方がいいだろう。
 カッコつけて、みんなを守っているような気になって、そうやって自分が生きている意味を見出していたつもりだった。それが、今日になって、全部壊れたのだ。
「……っ!」
 悔しさと、恥ずかしさとが入り混じり、レンは力いっぱいこぶしを握りしめた。それでも涙は流れていく。
「レン……」
 ハクは何も言えなくなり、しゅんっとする。
「レン君、落ち着いて聞いてくれないか?」
 それまで黙っていたカイトが口を開く。
「……確かに、レン君がここで生きていくのは辛いかもしれない。でも、貴族になったからといって、必ず幸せになれるとも限らない」
 ゆっくりと、静かに言葉を紡ぐ。
「ここにいて努力することと、そう大差ないかもしれないんだ。いや、もしかしたら貴族になった方が辛い可能性もある。結局、自分の出身地というのは偽れない。その点では、経験者であるハクさんが一番よく知っていると思う」
 そう言って、カイトはハクを見た。ハクは相変わらずしゅんとしたままだ。
「だから、ハクさんは君が貴族になる事を反対するんだと思うよ。俺としては、ここにいるレン君と友達になって、ハクさんと共にこの国を支えていけたらと思っているんだが……どうかな?」
 レンに視線を戻し、優しく問いかけるカイト。
 いまだその目に涙を携えながら、レンはしばらく黙っていた。
 痛みの残る右腕で目をこすり、
「……オレも、カイトさんと友達になりたい……」
 やや震える声で言う。
「なら――」
「でも」
 ぱっと明るくなったカイトの言葉をさえぎり、レンが続ける。
「貴族として、だ。ハク姉が、格差社会の壁を壊して平民になるのなら、オレはその逆から壁を壊してやる。こんなところで、ずっと出口の見えない迷路にさ迷い続けるくらいなら、直進できる茨の街道を走りぬける方がましだ!」
 カイトの目をまっすぐ見据え、言い放つ。
 黒髪と黒眼のせいで、肉体的にも精神的にも苦痛にさらされてきたのだ。その一つが排除されるのであれば、レンはいくらでも受け耐える覚悟はできていた。
「カイトさんみたいになりたいんだ。その為なら、どんなことにも耐えるし、努力する。礼儀作法だって、ちゃんとする。だから、お願いだよ……」
 懇願するレン。カイトはゆっくりと目を閉じた。
「カイトだ」
「……え?」
 その唐突さに、間の抜けた声が出る。
 クスッと笑い、カイトは目を開けた。そこには柔和な笑顔があった。
「俺と友達になるんだろ? さん付けは不要だ。俺も、レンって呼んでいいかい?」
「もちろん!」
 希望に満ちた表情で、レンはうなずいた。
「じゃあ……」
「ああ、今すぐって言うわけにはいかないが、レンが貴族になれるよう、なんとかしてみるよ」
「ちょ、ちょっとカイトくん!」
 おろおろしながら、ハクが異を唱える。
「わ、わたしは反対です。レンが貴族になるなんて、無理ですよ……」
「そうかな? やってみないと分からないじゃないか。それに、貴族だから平民だからと言っているうちは、いつまでたっても格差はなくならないと思うんだ」
「~~……」
「ハク姉。お願いだよ」
 二人に言われ、ハクはしばらく困惑していたが、
「~~はあ……分かりました……」
 半ば気圧された形で、諦めのため息をついた。
「やったあ~いたたたっ」
「おいおい……」
 勢いよく両腕をあげて喜んだ瞬間、レンは激痛に襲われ布団にうずくまる。
 やれやれ、とカイトは苦笑してレンに布団をかける。
「まずは、しっかり休んで身体を治せ。ここでの生活はまだ続くんだからな」
「……分かった。オレ、頑張るよ」
 ニカっと笑って言うレン。
「ああ。じゃあ、俺はそろそろ行くよ。ハクさんとも、少し話をしなきゃな」
「そうですね」
 そう言って、カイトは立ち上がった。
「カイト!」
 扉を開けようとしたカイトの背に、レンは声をかける。
「ありがとう。本当に」
 カイトは振り向き、微笑んで、うなずいた。
 そして、ハクと共に病室を後にする。
(カイト、ありがとう。オレ、絶対に負けない)
 レンはしばらく扉を見つめ、感謝の言葉を紡ぎ続けた。
 僅かに開いた窓から、夕日の明かりと風が入ってくる。
 レンの肩まで伸びた黒髪がゆるやかに揺れる。少年の頭を優しくなでるような、そんな錯覚を感じる柔らかさだった。
 沈みゆく夕日を見つめていたレンは、やがてゆっくりと眠りについた。
 希望に満ちた少年の眠りは、痛みを忘れ、今までにないほど心地よく安らかなものだった。



Lost of Destination 「3.崩れゆく者たち」

 弾むように軽やかに。その足取りは迷いなく目的地へと少年を導いていた。過ぎ去る風は心地のいい温度。それに揺らめく金色の髪は、やや強い日差しを浴びて輝いていた。駆けていく少年のリズムに合わせ、短く束ねた髪が小さく揺れる。規則正しく整えられている後ろ髪に反するかのように、長めに伸びた前髪はラフに散り分けられ、そこからはペールターコイズの瞳を宿した幼さ残る眼がのぞく。光に映え、明るい未来を見出しているかのように輝きを灯して。
 走り抜ける街並みは幼いころから変わらず、賑やかだ。石造りやレンガ造りの建物が美しく並ぶ姿は、少年のお気に入りだった。すっかりなじみのある通りだが、気持ちの高揚も相まって、一層華やかに見える。
 身体が勝手に覚えてしまう程、何度も往復したルート。百回? 二百回? いやひょっとしたら千回は超えているかもしれない。
 少年はそんなことを考えながら、坂道へと進んでいく。やや小高い丘になっている先に、ひと際大きな屋敷があった。そう、ここが目的地だ。
 屋敷の正面は、豪華な装飾が施された大きな門が、一般人を拒絶するかのごとくそびえ立っている。門の両端には護衛が一人ずつ。いずれも強面である。
 しかし少年は正面からではなく、裏へと回る。
「こんにちはー!」
 元気よく挨拶をし、裏口扉を躊躇なく開けて入っていく。
「おお、君か。今日も元気だね。坊っちゃんなら、お庭にいるよ」
 柔和な笑顔で、裏口に立っていた初老に出迎えられる。これも、いつもの事だった。
「ありがとう!」
 笑顔で返し、急ぎ庭へ向かう。裏口からはそう遠くはない。
 この屋敷の広さも、最初こそ迷いまくっていたが、今となってはすっかり我が家のように熟知してしまった。
 まもなくして渡り廊下にたどり着き、そこから庭へと出る。そしてすぐにその姿が見えた。
「カイトー!」
 叫びながら駆けよる。その声に、彼――カイトは少年の存在に気づき、顔を向け笑顔を見せた。
「レン! 久しぶりだね!」
 にこやかに少年を迎えた彼は、王国貴族の長男である。屋敷に違わずその身なりも、シックだが細部まで丁寧に仕上げられた品質高い衣服を纏い、地位の高さをうかがわせている。
 少しつり気味の眼には丸いロイヤルブルーの瞳。同色の髪は、輪郭に沿って綺麗に整えられていた。その端正な身ぶりは高貴さを漂わせつつも、どこか人懐っこい雰囲気を感じる。
 少年――レンは、カイトに近寄ると、
「――カイト、さんっ。お久しぶりです……」
 唐突に畏まり、萎縮する。原因は、レンの視線の先――。
 カイトのそばに、鋭い目つきをした女性が二人。彼のお世話係である。
 レンも貴族階級に値する一族だが、カイトは王族の親戚にあたり、そもそもの立場が違いすぎていた。貴族間では、上下関係はとてもシビアだ。
 カイトを慣れ慣れしく呼び捨てした事により、明らかに不快の目で睨みつける二人に気づき、慌てて慣れない敬語で話しかけたのだ。
 レンとカイトの仲は、両家とも認め合っており、交流に何も支障はないのだが、世間体を保たなければそれを嫉む者もおり、やっかいなのだ。
「……悪い、外してくれないか。久しぶりに会えた友人と、ゆっくり話がしたい」
 カイトは、二人の世話係にそう言い、レンに近付いて行く。
 二人の女性は、何か言いたげな表情であったが、カイトに逆らうことはできず、一礼をして去っていった。
「すまない……せっかく会えたのに」
 レンのそばで立ち止まり、一転悲しげな表情で謝るカイト。
「カイトは悪くないよ。油断してたオレのせい」
 カラカラと笑って見せる。
「それに、ちょっと慌ててたし」
「ああ、どうしたんだ?」
 その様子を感じ取っていたカイトは、素直に話を促す。
 待ってましたと言わんばかりに、右手に持っていた紙を広げて、
「じゃーん! 見てよ! 第一級騎士団の合格通知!」
 とびきりの笑顔で見せつけるレン。
 特別な装飾で縁取られたその紙には、『ノルクトン王国 第一級騎士団入団許可証・合格通知』と書かれ、下には国王のサインが入っていた。
「……!」
 それを手に取り、しばらくそれに見入っていたカイトは、驚きの表情から徐に明るい笑顔に変わっていく。
「すごいじゃないか! やったな!」
「うん! これでオレもカイトと同じ騎士団の仲間入りだ!」
「そして、正式に俺の部下ってことになるのか……」
 再び表情を陰らせる。カイトは第一級騎士団特別隊の隊長でもあった。
「嬉しいけど、ちょっと複雑だな……」
 苦笑交じりに、カイトは呟く。
 彼は、堅苦しい貴族世間をあまり好んでいなかった。身分なんて、時の運。人が人である事になんの変りもないと、そう思っていた。
「でも、強くなれって言ったのはカイトじゃん」
「ああ。今の時代、いつ襲撃を受けるかわからないからな」
 そう言って、カイトは空を見上げた。
 二人が住むノルクトン王国は栄え、財力も軍事力もある。しかし、近隣の国々では領土争いの戦乱が絶え間なく起こっていた。
 もちろん、この国も何度か防衛のために兵を出している。
「自分の身は、自分で守らないとな」
 再びレンの目を見据えて、カイトが言う。
 その言葉は、カイトとレンが初めて会ったときにも聞いた言葉だった。
 レンの髪がまだ黒かった――孤児時代だった頃だ。
「そして男なら、自分の大切なものを守ってこそ、真の騎士である。でしょ?」
「その通りだ。リンちゃんや、ミクくんを守れるのは、レンしかいないだろう」
 少し含みのある笑顔で、カイト。
 リンは、レンの姉に当たる存在だ。養子として迎えられたレンを本当の弟のように世話をしてくれた。何も知らない平民だったレンが、堅苦しい貴族階級の世界に馴染めたのも、彼女のおかげだった。ちなみに、ミクはリンの従姉である。
 大切なもの――自分の故郷という意味で言ったつもりが、突然リンとミクの名を出され、
「カ、カイトだって、大切な大切なメイコさんを守らなきゃだろ!」
 顔をやや赤らめて、どもりつつも言い返す。
「大切……確かにそうだな。メイコは俺の半身だ。彼女を守れなくては、自分を守れないのも一緒だ」
 レンとは違い、動揺ひとつせず、目を細めて呟く。
 メイコは隣国のヴェスリトン王国に住む王族の娘だ。カイトは産まれる前からメイコとの婚約が決まっていた。国家差別を好まないカイトの一族と、同じ志を共有するメイコの一族が、両家の友好の証として決めたものだ。最初はその婚約に反発していた二人だったが、実際に会った瞬間、お互いその婚約を承諾したという。
「メイコは俺の存在意義そのもの。産まれる前からの伴侶だからな」
臆面もなく真剣に語るカイトに、レンは半ばあきれ顔で、
「……ほんと、ミク姉が不憫だ」
 カイトから視線をそらし、小さく呻いた。
「ん? 何か言ったか?」
「なんでもない」
 間髪いれず、レンは言葉をかぶせてごまかす。
 従姉のミクは、カイトに憧れと恋心を抱いていた。そんなミクの気持ちを知っていた為、ちょっと複雑なのだ。
 ミクだけではない。カイトは貴族平民問わず人気だった。その容姿もさることながら、誰にでも優しく接するその志と剣術の腕が評価され、男女ともにファンが多い。おかげで、親友として仲のいいレンの知名度も上がったほどだ。
 カイトはレンの様子を見て訝しげに小首をかしげるが、まあいいかと表情を緩め、改めて合格通知を見やる。
「しかし、強くなれとは言ったが、同じ騎士団に入れとは言ってないぞ?」
 レンに合格通知を返しながら、困惑の表情でカイトが言う。
 レンはそれを受け取り、大事に懐へしまった。
「うん……でもいざという時、カイトと一緒に戦いたいって思ったんだ」
 戦争が本格的に始まれば、第一級騎士団は当然出兵することになる。レンは、一人この国に残されるのは嫌だった。
 真剣なまなざしで、カイトを見つめて続ける。
「カイトに剣を教えてもらって、実際どれだけ自分が強くなったのかなんて分からなかったから、第一級騎士団の試験で実力を試したかったんだ。それに、入団できればもっと稽古を積めるしね。でもそれよりも、オレはカイトと一緒に戦って、この国を守りたいって思ったんだ。だから、入団試験を受けたんだ」
 レンの言葉に、カイトはやさしく微笑んで
「……ありがとう、レン。嬉しいよ、すごく。でも俺としては、上下関係よりも、レンとは親友でいたかったから、なんとも複雑な気分だ」
 これから会って話す機会は増えるだろうが、今以上に外面を固めなければならなくなる事に、カイトは戸惑っていた。
「うーん。まあ、こうやってまた遊びに来るし。ちょっと我慢するだけだよ」
カラカラと笑ってみせ、軽い口調で言う。
 平民から貴族になったことで、レンはそういう切り替えに慣れっこになってしまっていた。素の自分でいられる時間が少しでもあれば、レンはいくらでも我慢できた。
「……そうだな。じゃあ、レンがどれだけ強くなったのか、手合わせ願おうかな」
 そう言って、カイトは腰に携えていた剣に手をかける。
「ホントに! やったあ! お願いします!」
 ぱっと目を輝かせ、レンも腰の剣に手を伸ばした。カイトの剣よりやや短めだ。
「急に敬語になるなよ」
 苦笑しながら、剣を抜くカイト。
「第一級騎士団特別隊の隊長様に手合わせしてもらうんだから当然だろ? 騎士道ってやつ?」
 からかいつつも、レンは剣を構える。
「ふざけていると、怪我するぞ?」
 カイトもそれに合わせて、構え、レンを見据える。
 瞬間、微動だにしなくなり、二人の目の色が落ちる。そのまま、時が止まったかのようだ。ただ、僅かな二人の呼吸音だけが時を刻む。静まり返った中に、ゆるく風が流れた。
 お互いの瞳に、お互いの色が映り込む。張り詰めた空間は風船と変わらない。小さなきっかけさえあれば、あっという間に崩れてしまう。
 風に乗って、木の葉一枚――
 キィィンッ!!!
 高い鍔競音は、広い庭全体に響き渡った。
 動いたのはほぼ同時だったが、僅かにレンが先のようだった。勢いを殺さぬよう、立て続けにレンは切り返して行く。
 一方、受け身のカイト。その顔に色はなく、無感情にレンの攻撃を受け流している。
「……」
「はあっ!」
 気合い一発。レンは全力でカイトに切りかかっていく。しかし、カイトは身軽に避け、あるいは剣で受け流すのみ。
 そんなやりとりが何度か続いた後――
「っ! ちょっとは反撃しろよ!」
 一歩引いて、仕掛けてこないカイトにレンが叫ぶ。
「……そんなに続けて来られちゃ、反撃の隙なんかないさ」
 ふっと表情を緩め、カイトが言う。
「ふーん? その割には余裕そうだけど?」
「余裕ではないな。でも……」
 再び表情をなくし、構えるカイト。
 レンは慌てて、剣を持ち直すが――
「遅い」
「!!」
 一瞬だった。カイトはすでにレンの真横に回り込んでいた。そして、その頭上には彼の長い剣。
「チェックメイト」
 空いてる手で、レンの頭をポンっと叩く。
「いてっ」
「集中力が持続しないな、相変わらず」
 剣を鞘へしまいながら、微笑んでカイトが言う。
「むうー」
 不満げに口を尖らせるレン。少しはカイトを圧す事ができるんじゃないかと思っていただけに、悔しかった。
「やっぱカイトは強いなー。くっそー」
「レンも、充分強くなったよ。技術は申し分ない。第一級騎士団の試験に通っただけはある。そこは自信もって大丈夫さ」
 親友の成長に、素直に喜びを露わにして言う。しかし、レンの表情は晴れない。
「目的は、俺を倒すことじゃなくて、俺と一緒にこの国を守ることだろう?」
「そーだけど……カイトに『さすがレンだな』とか言わせてみたいんだよなー」
「なんだそれ」
 剣をしまいつつ言うレンに、苦笑交じりにカイトがツッコミを入れる。
「なんていうか……つまりオレの目標は、カイトと同等に渡り合えるくらい強くなるってことだよ!」
 何かをひらめいたかのように、力強く語る。その目の輝きは、まだ無邪気な子供のようであった。
「同等か……それには、ちょっと時間がかかるかもな」
 腕を組み、思案するカイト。
「どういう意味だよ?」
「物理的な意味さ。俺とレンじゃ、背丈が違う。という事は、持っている筋力も違う。これは剣を交えたときにかかるパワーに関係してくる」
「……? 筋トレいっぱいしろってこと?」
「そうじゃない」
 訝しげなレンに、カイトは吹き出しながら否定する。
「切りかかってくる時のレンの力は、油断したら俺だって圧されてしまう程だ。でも、逆に攻撃を受ける時、背丈の差があると力だけじゃなく、体重も上乗せされてくる。そうなると、身体が小さいレンには不利だってことさ」
 コンプレックスを指摘され、レンは少し頬を膨らませる。
 カイトとは年齢差がある故、身長の差はあって当然だが、同年代の男の子に比べればレンは小柄な方だった。
「……大人になれば、もっと大きくなるさ」
「ああ、だから時間がかかるって言ったんだよ。レンは結構力づくで押し切ろうする癖があるから、もう少し相手の力を受け流す練習もした方がいいな」
 そう言って、カイトはレンの頭をぽんぽんっと叩いた。
「受け流すか……意識してはいるんだけどなぁ」
 眉根を寄せて、自分の両掌を見つめる。
「それはなんとなく分かったよ。でも、もう少しその力関係をコントロールできると、格段に攻撃力も上がるはずだ」
「マジで? ちょっとがんばろっ」
 カイトの言葉を素直に受け、レンの目が再び輝く。
 そんな彼を見て、カイトはクスッと笑った。
「さて、今日は時間もあるし、久々に釣りに行かないか?」
「うん! 行く行く!」
 とびきりの笑顔で、レン。カイトも笑顔で返す。
「そうだ。レンの第一級騎士団の入団祝いに、今夜は家で食事しないか? よかったら、リンちゃんやミクくんも呼んで」
「いいの? オレ達はもちろん大丈夫だけど」
 むしろ、ミクに至っては喜び勇んでくるだろう。そんなことを思いつつ、嬉しい誘いにレンは喜びを隠せない。
「なら、決まりだな。じゃあ、給仕に連絡してくる」
「うん。オレもリン達に伝えてくるよ」
「よし。それじゃあ、三十分後にいつもの場所で待ち合わせよう」
 カイトの言葉に、レンはうなずく。
「分かった! じゃあ後で!」
 走り出しながら、レンはそう残し、カイトの家を後にした。
 レンの姿が見えなくなるまで、カイトは彼を見送った。初めて会った時に比べ、確実に大きくなっていく彼の背中。これからもっと成長していくのかと思うと頼もしく、そして楽しみであった。
 大切なものを守りたい――レンはその第一歩を踏み出し、二人は同じ方向へと、共に歩み始める。その先に、明るい未来を見据えて。



Lost Destination 「2.黒髪の少年」

祝!DIVAf発売!!


はい、ごめんなさい。←

なんだろーね。このへんなテンションw


もーさ、小説についてってテーマで書いてるんだから、DIVA関連の出だしやめようね、自分w


そんなわけで。

1作品しか書きあげていないのに、目次ページとか作っちゃいましたよ。

だいぶ過去の作品だし、ブログもいろいろごちゃまぜに書きまくってるから、

順を追って読みづらいな~ってことに今更ながら気づいたわけで。


まあ、ちょっとブログのスキンをいろいろいじってたらなんか、いろいろ変わってて大変になってたついでなんですけどw


さらについでに、話の続きへのリンクも追加したりしてね。

ちょっとは読み進めやすくなったんじゃないかな?


まあこんな準備しているのも、今書いてる同人小説のめどが立ちそうだからなのです。

さすがに、今月中には上げられるでしょう。

DIVAのエディットと関連を持たせてるので、ぜひ合わせてみていただきたいと思います。


近いうちに、元動画様の紹介と共に、小説だけ先にうpろうかと思っておりますんで。

どうぞよろしくですよん♪



KAITO LOVE!



はいごめんなさーい。←



お久しぶりで開幕これはイラっとするねwww

自分で書いておいてなんだけどwww



えー、オリジナル小説ほったらしてウン年水穂です←

ミクロフィラとか・・・だいぶ温めまくってますw

妄想が違う方向に行ってしまいました。


ええ、ご存知ですよね。ボカロですよ。うん。


きっかけはエディットPVの作成だったのです。

そこからどんどん妄想が広がって・・・うん。書こう。ってなりましたw

で、エディットは出来たんですけど、今現在小説を執筆中です。

短編形式で、何話かに分けて書いております。

結構ざざざーっと書いてるんで、だいぶいい加減な文章多いです。

さすが水穂クオリティ。文才のなさに定評があるわけでございまして。


まあ、エディットも小説も自己満足世界なんで、ゆるしてくだしあ←



そんなわけでですね。

小説が書き終わらないとエディットPVもうpれないってことになってしまいまして。

エディットはもう完成していますよ。まだキャプってませんけどw

でもまあ、あたしなんかの妄想小説が気になるという嬉しいお言葉をいろんな方から頂いているので・・・・・・

ちょろっと、プロット的な・・・キャラ設定的なあれをここに掲載しようかなー、なんて思っております。


タイトルはPVを作成させていただきました楽曲名から

「Lost Destination」 http://www.nicovideo.jp/watch/sm17436670

元はレン君オンリーの曲でしたが、KAITOのアペンドβを使用したデュエット曲になっています。

素晴らしいのでぜひ聞いて下さい。


ちなみに、ボカロのキャラを当ててるだけであって、内容はファンタジー小説です。

多分w

なので、個々のボカロイメージを大きく崩す可能性大です。

それでもよろしければ、ごらんくださいませ。


以下小説のキャラ設定。



レン


 ノルクトン王国出身。元平民の孤児。本人の強い希望で、貴族であるリンの家族の養子になる。

 親友のKAITOから剣術を教わり、その才能の豊かさを評価され、第一騎士団一番隊の隊長を任されるまでになる。

 同い年のリンにわずかながら恋心を抱いている様子。



カイト


 ノルクトン王国出身。王族の親戚に位置する貴族。

 第一騎士団特別隊の隊長を務める。その腕は王国一と言われるほど。

 スラム街でレンと知り合い、親友になる。その時、レンが貴族になる手助けをする。

 ヴィスリトン王国のメイコと婚約をしている。



リン


 ノルクトン王国出身。中堅貴族の家系に生まれる。レンの義姉。ハクとカイトの紹介でレンと知り合う。

 明るい性格で、すぐにレンとも仲良くなる。



ミク


 ノルクトン王国出身。中堅貴族。リンの従姉であり、ハクの妹である。

 カイトへ尊敬と恋心を抱いている。

 そのため、カイトと接する機会の多いレンとリンの家にしょっちゅう遊びに来ている。



ハク

 

 ノルクトン王国出身。元貴族。ミクの姉。

 スラムの孤児院でお世話係として働いている。

 貴族の肩書を捨て、平民として生きていたが、孤児院にいたレンの強い希望を受け入れ、従妹家族の養子として紹介することになる。

 カイトとは貴族時代からの幼馴染。



メイコ


 ヴェスリトン王国出身。王族の長女である。

 カイトの婚約者である。



ネル


 ヴェスリトン王国出身。メイコの従妹。

 メイコがカイトと婚約したことを快く思っていない。

 メイコが大事。メイコLOVE。




えー・・・

他にもですね、ルカさんとかー、がくぽさんとかー。

出てくるはずです。多分w

インタレア王国の人たちとして関わってくる予定。

まだ設定の段階で、書いてなくてw

キャラ変わる可能性もあるんで、とりあえず伏せておきますw

とりあえず、こんなもんかなー。

キャラ設定だけで、あらすじとかはのっけませんですw

なので、なんじゃこりゃ?だと思いますが。


まあ、いつとは言えませんが、絶対にうpはしますんで。

気長にお待ちくださいませ~



以上。小説執筆してるアピールでしたっ!←



スミレ兄さああああああああああああああん!!!

はい、お久しぶりの水穂です!
そーいや、宣伝すっかりわすれてた!w

先日、PSPのDIVAextendで作成したエディットPVが完成いたしました!
約2週間ちょいで仕上げた、過去最高スピードですw
あ、でも、手は抜いてないよ!あたしなりだけどw

新城P様の「ORIGIN」という、とても素敵カッコいい曲を使用させていただきましたー!
いやー、原曲が素晴らしいと、PVもそれっぽく見えるフィルターかかるね!!←

えー。
ニコニコプレミアム入ってないので、
うp動画の制限があり、ちょっと画質がアレなんですが(´Д`)
よければ見てやってくださいー。

今回、再生数はいつも通りの増え方なんですが、
コメントが……ないw
あれかな、良くもなく、悪くもなく、無難な感じなんでしょかね?w
コメントするほどでもない的なwww
まー、確かに珍しい動きやカメラワークを使ってるわけでもないし……
曲に合わせた感じの、常套手段的なアレなんで。。。

それにしても。
KAITOマスターで有名な新城Pのこの曲にまだ誰もエディットしてないとか、本当に信じられません。
あー、あたしの精度が低いPVをつけてしまってよかったのか。


KAITOと曲への愛情だけはいつも惜しみなく注いでおります。
それを察して見て頂ければ幸いです。

どうぞよろしくお願いしますー
(o*。_。)oペコッ

どうもお久しぶりさんです。

小説の執筆がストップしてからというもの。
こっちのブログを更新することも止まってしまいました。


と、いいますか。


あたしが開設しているブログ、ほとんどが手付かずになってしまっています。。。
それもこれも。
あたしの面倒くさがり屋さんがいけないのです。
すみません。


言い訳として。
ツイッター厨なのですよね。ま、ひどいときはツイッターですらあまり呟かない時もあったりw
なので。
ツイッターで満足しちゃっている部分は多くあります。

ネタがないわけじゃないのです。


とりあえず。
すっごい前・・・でもない?先月うpったエディットの報告など。


・・・やっぱりDIVA関係なのね。小説じゃないのねw
サーセン。


めんでぇP様の「Sweet's Beast」をエディット作成させていただきました!


曲に合わせ、バレンタインに間に合わせるべく、必死こきましたw

ならはよう宣伝せいって?本当に申し訳ない。。。

素敵な曲に、水穂なんかの精度が低いPVを合わせてしまって良かったのかどうか。。。

でも、あたしになりに満足できるPVに仕上がったので!

自己満足乙!ってことで許して!!!www




さて。次w

先日、DIVAACの大会がアルカスで行われました。

前回の記事も、そんな内容でしたねwww

今回も、アルカスの大会に行ってきましたよ~!


内容がちょっと、あたしが参加できるようなやさしい課題ではなかったので。。。

コスプレして観戦だけしてきました!w


何をコスってきたかといいますと。

雪ミク2012!(どーん)


・・・。だってーw

雪ミク2012は、めちゃくちゃかわいいんだもん!

あたしにはちょっと難しいとは思ったけどー。

やっちゃいました♪テヘペロ!


そんなわけで、またまた水穂ちゃん晒し。

コスプレとか苦手な方は今すぐ逃げて!!早く逃げて!!

苦手じゃなくい方も、見たらすぐ眼薬注すなり、洗うなりしてケアしてくださいね!!!

まじひどいんですから!!!


(´・ω・`)


OK、という方は、続きをどうぞ。。。




続きを読む

ちょーーーーーーーーーーーー久しぶりに更新っ!

水穂です!


更新するからにはもちろんネタが出来たわけですが、

いやいや、残念ながら小説ではございませんっ!(きっぱり)

小説は完全にストップですが、理由として、中の人が仕事関係でのラジオドラマの脚本なんか書いちゃったりしてるもんで、執筆はもっぱらそっちに持ってかれているわけでございます。

まー、あとはDIVAに夢中←てか九割それじゃね?w


そんなわけで。

先日、府中アルカスというゲームセンターで行われたDIVAの大会に行ってきました!

まー、もとからそんなに上手じゃないし精度も低いので、大会なんて参加予定は全くなかったのですが。

なんとなーく、何かの機会で披露できたらいいなー的なミクさんのナチュラルモジュールの衣装を、

「完成しました~」

なんつってツイートしたらフォロワーさんから、

「大会で女性限定コスOKなのでぜひ!」

と言われ。

なんやかんやでやることに←


でも、大会がメインだったし、カメコる人もそんなにいたわけでもないのでw

そんなたくさん写真があるわけじゃないです。

2枚だけ、晒してみようかなーなんて思って記事にしたわけでございます。


まー、見ない方がいいと思います(ぇ

間違って見ちゃって、なんか頭痛したらすぐ目薬差してお医者さんへ!←

それでもいいって方は、続きを・・・・・・どうぞ。






続きを読む