OUT of HARMONY (2) | 水穂の小説置き場とひとりごと

水穂の小説置き場とひとりごと

ファンタジー小説を執筆中……のはずw


 少女はゆっくりと目を覚ました。

 ――また、か――

 そんな思いが頭をめぐる。こうやって目覚めるのは何度目だろうか。次に起こる出来事が分かる。いつものことだ。一体、何度繰り返せば終わるのだろう。さすがに、飽きてきた。

「おはよう。気分はどう?」

 幻聴? こんな明るい声が聞こえてくるとは、相当……

「っ!?」

 ガバっと、少女は勢いよく身を起こした。目の前には、女性の笑顔。

「!」

 思わず身を引く。少女は目を見開いて、今の現状を必死に把握しようとしていた。

「安心して、ここは私の家よ。私以外誰もいないから、ゆっくり休んでいくといいわ」

 言われて、周りを見渡してみる。決して広いとは言えない部屋だが、木を基調としたその内装はいたってシンプルで、使いやすいように整理されている。少女はベットの上に寝かされていた。

「私は、ミートリット。ミンティって呼んでね」

 ミンティは少女のそばを離れ、テーブルにお茶を用意し始める。

「……?」

 ――おかしい。いつもと違う。

 そんな戸惑いが、少女を襲っていた。違和感が気持ち悪い。

「聞いてもいいかな?」

 カップを少女に差し出し、ミンティ。思わず受け取る。気持ち悪さを洗い流すように、お茶を一口含む。

「キミ、名前は? どこから来たの? 一人? 旅してきたように見えるけど、両親はいないの?」

 立て続けに質問をする。少女は黙って、ミンティを見つめた。

「……――」

 やがて口を開く。しかし、言葉は出てこない。それを見て、

「もしかして、話せないのかな? 言葉、分からない?」

 少女はうつむき、再びお茶を口にする。

「そっか。うーん」

 ミンティは考えるそぶりで、少女を見つめた。

 その視線に耐えきれず、少女は思わず目をそらす。お茶のおかげか、気持ち悪さが少しずつ抜けてきてる。

「よし、決めた!」

 ミンティは立ち上がり、戸棚から裁縫セットを取り出した。椅子に腰かけ、

「しばらく、キミを預かることにするね」

「!?」

 笑顔で言うミンティに、思わず身を乗り出す。ベットから落っこちそうになり、慌てて体制をもどした。

「気にしなくていいよ。何にも分からない状態で、キミを追い出すなんて、私には出来ないもの」

 布を型紙にあて、印をつけながら言う。

「もし両親がいるなら、そのうち訪ねてくるだろうし。あ、もしかして行く宛てあるのかな?」

 聞かれて、少女は複雑な表情をした。言葉は分からないが、言っている意味は何となく捉えているからだ。

「……それも、なさそうね。まあ、どっちにしても疲労が激しそうだから、すぐには発てないでしょ」

 手際良く布を裁断していく。シャキシャキと、ハサミの音が心地いい。

「キミが何者で、何の目的があって、何をしにこの村に来たのかは分からないけど、食事もできてない状態でいるより、マシだと思うわ。ここにいれば、衣食住に不自由はないしね」

 針に糸を通し、生地を縫い合わせていく。

「もちろん、タダって訳にはいかないけど……そうね、家事を手伝ってくれれば、それでいいわ。それで、少しずつ言葉を覚えてって、いつか私に説明してくれると、嬉しいかな」

「……」

 不思議だった。いつもと違うこの状況と、明るく話しかけてくるミンティという女性が。

 目が覚めると、そこに人がいたことはなかった。いても屍だったり、生きていても、恐れおののき逃げ出すものばかり。いつも自分の周りにはなにもなかった。吹きすさぶ風、荒野、乾燥した空気……。

「はい、出来た!」

 ジャンっと見せてきたのは、ワンピースだ。緑にかわいらしい白い花柄の生地。

「かわいいでしょ? 絶対に似合うよ! あ、着替える前にお風呂しなきゃね」

 嬉しそうに少女の世話を始めるミンティ。戸惑いを隠せない少女に構わず話す。

「なんか、妹ができたみたい。私、ずっと一人だったから、嬉しいなぁ。あ、そうだ名前。本名分からないから、勝手につけちゃってもいい?」

 じーっと少女を見つめるミンティ。名前…?

「せっかくだから、姉妹っぽい名前がいいよね。私がミンティだから……ベティってのはどう?」

 パチッとウィンクをして

「よろしくね、ベティ!」

 複雑な表情のまま、ベティと名付けられた少女は、小さく頷くしかなかった。

 こうして、ミンティとの生活が始まった。



――続く――



OUT of HARMONY (3)