パイオニアへ捧げる
色々な情報に触れると、これは中々素晴らしいんじゃないかと思えてきたわけですね。
Longines Spirit / LONGINES
Ref:L3.810.4.53.0
ケース径:40.0mmケース厚:12.2mm
重量:-
ケース素材:ステンレス・スティール
風防:サファイア・クリスタル
裏蓋:ステンレス・スティール
ベルト素材:カーフ・レザー
バックル:ピンバックル
防水性:10気圧(100m)
価格:248,000円(税抜)
一見してヴィンテージタッチのパイロット・ウォッチの風貌を持つロンジン・スピリットですが、このモデルはアーカイブからの復刻ではなく、新規コレクションとして2020年に発表されたものです。
そのアイデアの源は、かつてロンジンを愛用した様々なパイオニア達から得ています。フロンティア精神を持って世界を押し広げた先人を支えたという自負がそうさせたのでしょう。
そう思ってこのスピリットを見返してみると、パイロットウォッチのようでもあり、アドベンチャーウォッチのようでもあり、はたまたレイルウォッチのようでもあります。
流石にダイバーズウォッチには見えませんが、クリーンなデザインでありながら様々な表現を取り込んでいる不思議なフェイスです。
ケースに目を移すと、ベゼルはポリッシュでミドルケースとラグはサテン仕上げ、そして面白いのがラグとケースサイドの角を大胆に面取りしてその切り口をポリッシュ仕上げにしている点です。
これによってポリッシュとサテンが繰り返されてメリハリのある表情がつくわけですが、古い時計ではあまりない表現技法で、モダンです。
同社のヘリテージラインとは明白に異なるニュアンスがここに現れていますね。
太くしっかりとしたラグはベルト幅21mmと広く、全体のシルエットが非常に力強くなっています。エッジもシャープであり、ケースの工作精度の高さはユルさの残るヴィンテージウォッチとの違いです。
リューズは大きく操作しやすそうです。この辺りはグローブをしながらの操作を想定したパイロットウォッチっぽい文脈ですね。
40 x 12.2mmというサイズ感は私の好みからすればやや大きいのですが、この時計のコンセプトはアウトドア寄りで、スポーツウォッチと言っても良いくらいですから、このサイズなら許容範囲でしょう。
ケース全体のシルエットとしては長めのラグがバランスよく決まっています。
このモデルではマットな黒文字盤にホワイトのアラビアン・インデックス、バケットハンズに先端を赤く塗り分けた秒針と、視認性に優れたダイアルになっています。
デイトディスクを文字盤に合わせて黒地に白文字としているは良いのですが、やや表示が小さいという点だけが不満です。
アラビアン・インデックスとのバランスを取ってもっと大きめのデイト表示だったら完璧でした。
カーフレザーのストラップはステッチ入りの焦茶色で、ワイルドな雰囲気があります。これもまたヴィンテージ感があって、ケースデザインとマッチしていますね。
<Recordで使われているL888.4>
型番:L888.4
ベース:ETA A31.L11
巻上方式:自動巻
直径:25.6mm
厚さ:3.85mm
振動:25,200vph
石数:21石
機能:センター3針デイト
精度:COSC認定 (日差 -4/+6秒)
PR:72時間
搭載するのはロンジンではお馴染みのL888.4。元を辿ればETA 2892-A2に行き着く機械ですが、振動数を落としてパワーリザーブを72時間まで延長し、シリコン製ヘアスプリングにフリースプラング・テンプを有する新世代型のムーブメントです。
ETAには似たようなセットアップで6振動/秒、80時間パワーリザーブを有するETA C07.111(パワーマティック)があります。こちらはETA 2824-2ベースで、ティソやハミルトンなどで使われています。
これに対してL888.4はより薄型で7振動/秒、72時間パワーリザーブというバランスにしている所が特徴ですね(シリコン採用前のモデルでは64時間PRだったのを、さらに延長している点は素晴らしいです!)。
更にこのロンジン・スピリットではCOSC認定を取得しており、精度へのこだわりも見せています。
ロンジンはCOSCを頻発するブランドではりませんが、この時計のコンセプトに立ち返れば、正確に時を刻むツールウォッチとしての性能にこだわるのは当然と言えるでしょうね。
文字盤6時方向にアプライドの五つ星がありますが、これはかつてロンジンがムーブメントのクオリティを示す印として使っていたもの。
五つ星は最高ランクであることを意味しています。
COSC認定の新世代ムーブメントが、現在のロンジン最高の機械という事です。
裏蓋はソリッドバックなので、ムーブメントを鑑賞できないのはいささか残念ではあります。Minority’s Choice としては別に復刻じゃないんだから裏スケにして欲しかったですね。
ロンジン・スピリットには幾つかのバリエーションが用意されており、文字盤はマットブラック、グレインシルバー、サンレイブルー、ストラップは革ベルトとSSブレスレットがあります。
また3針の他にφ42mmのクロノグラフもラインナップされており、立ち上がりから中々豊富なバリエーションを展開しています。
面白いのは価格でして、革ベルトもブレスレットも同価格(税抜24.8万円)なのです。こうなるとブレスの方が人気出そうですが、顔付きを見ると革ベルトが似合うように思うんですよね。
で、そんな人に向けたパッケージがありまして、その名もプレミアム・モデル(税抜32.9万円)です。
このパッケージはブレスレット、革ベルト、革NATOが同梱されており、ブレスは着脱が容易なインターチェンジブル・システムを備えています。
ブレスレット単体と比較すれば、革ベルト2本で+8万円という訳ですよ。いや高いやろ、て思いますけど。
プレミアム・モデルは正直あまりお得感は感じませんが、純正ベルト(というか尾錠)にこだわる方は、このパッケージもいいかも知れません。これさえあれば通年気分を変えて楽しめますからね。
通常版はアンダー30万円で、デザインも格好良いし、10気圧防水に高耐磁と実用性にも優れているので、かなり素晴らしいと思います。
φ40mmですがラグが結構長いので、試着してみることを強くお勧めしますが、サイズ感が気にならなければ相当良い買い物ではないでしょうか。
他社と比べるとかなりバリューの高い時計である事は間違いありません。
古き良きパイロットウォッチ顔の時計というのは老舗から新興までそれこそ無限にラインナップされていて、選択のパラドックスに陥りますが、ロンジンというネームは強いです。
新興ブランドがかつての(他社の)時計から着想を得るのも勿論否定はしませんが、やはりロンジンのように長い歴史を持つブランドが自らのアーカイブと新しいアイデアを融合させて作り上げた新作というのはロマンティックです。
この手のパイロットウォッチといえばIWCが素晴らしいのは周知の事実ですが、価格差がありますし、ちょっとデザインも違いますよね。
スウォッチ・グループはブランドの序列を明確化しているので、今はエントリーレンジを担うロンジンですが、かつては世界有数のビッグネームでした。
そうしたヒストリーまで含めると、今のロンジンはめちゃくちゃお買得だと思うんです。勿論いい意味で。
ヘリテージ・コレクション以外にはさほど興味がなかったMinority’s Choice ですが、このスピリットはかなり興味深いです。
皆さんも是非機会があれば手に取ってみて下さい。