出典:https://naoyahidawatch.com/
文字盤には洋銀を使用し、ロゴやミニッツトラックはCNCによる刻印を施しています。一方でアラビック・インデックスは手彫りで、そこに紺色のカシュー(合成漆)による墨入れを行うという手の込んだ仕上げで、これで一気に文字盤にハンドクラフト感が現れるのです。
最新技術と職人技を組み合わせるというのは、最近の高級腕時計でよく見られる手法ですが、手彫りのインデックスというのは非常に珍しいですね。
余談ですが、彼らの後を追うようにしてロンジンが彫りのあるインデックス(こちらはCNC)を使った素晴らしい時計をローンチしています。
とはいえ手彫りの質感とカシューの味わいは傑出したディテールであると思います。
また文字盤の加工において“彫る”という手法で統一している点も、文字盤全体に清廉な雰囲気を持たせていますね。
出典:https://naoyahidawatch.com/
またケースの仕上げも抜かりはありません。裏蓋はクローズドのスクリューバックですが、同心円状のクラシカルなヘアライン仕上げが施されています。
またリューズはしっかりとした大きさがあります。手巻きなのでこれは重要なポイント。頭に何らか装飾があっても良いような気がしますが、まあそれは些末な事。
ミドルケースもエッジの立った造形で、高級感があります。基本的に外装はサテン仕上げですが、ベゼルをポリッシュする事で正面から見た時に煌びやかな印象を添えられています。
またスクリューバックで5気圧防水を確保している点も地味ですがオーナーには嬉しいポイント。SSケースと相俟って、勿体つけずに日常使いしたいパッケージに仕立てられています。
出典:https://naoyahidawatch.com/
型番:3020CS
しかしそれで終わらないのがNAOYA HIDA。実はこのムーブメントは専用設計のコハゼとコハゼバネが与えられ、とても気持ちのよい巻き味を実現しています。
私も触った事があるのですが、しっかりと反発力のあるカリカリとした巻き味は現行量産機ではまず味わう事ができない代物です。
シースルーバッグから覗く機械に目に見えて豪華な装飾を施す事が高級腕時計のお約束となっている時代に、クローズドバックで巻き味を追求するなんて変態的としか言いようがありません。
商業的な王道を外しつつ、それでも尚好事家の心に突き刺さるプロダクトを企画する手腕には脱帽です。
確かに非常に高価な時計ですが、それでもその価値があると信じる顧客がいる事は全く不思議とは思いません。
<NH Type 1D>
出典:https://naoyahidawatch.com/
残念ながらこのアーモリーは既に完売です。というかNAOYA HIDAは少量生産のため購入のハードルが非常に高いのが厄介なところなのです。
新作のローンチはSNSなどで告知されますが、まずは既存顧客が優先されます。その後新規顧客向けに注文を受け付けられるようですが、実際に買えるのが先着順なのか抽選なのかとかは私はよく知りません。
まあそもそも経済的に買えないので私はそこはどうでも良いのです笑
じゃあなんでこの時計を取り上げたのかというと、彼らの作る時計は、現在の量産高級腕時計に対する強烈なアンチテーゼとして非常に面白いと思うからです。
ご存知の通りコロナ禍以降、いわゆる雲上時計と言われるようなハイブランドの腕時計は空前のブームとなり、折からのインフレも手伝ってとんでもない値上がりを見せています。
しかしその一方で製品としてのクオリティは大して上がっていませんし、上でも触れたように、針の質感や、手仕上げの揺らぎのように失われたディテールもあります。
そこに焦点を当てた時計作りをやっているのがNAOYA HIDAだと思うのです。
彼らの拘るポイントはマス層に訴えかけるものではまるでなく、時計好きの中でも特にヴィンテージやドレス・ウォッチを愛するような層のみにむけた作品といえます。
きっとこの時計をしていても世間一般には全くドヤれる事はないでしょう。しかし見る人が見ればオーナーの腕時計への造詣の深さは立ち所に明らかになります。
センスのいい時計とはまさにこういう物を指すのだと思う訳です。