5月11日の投稿で中国電力の岡本直己選手のことをあらためて取り上げました。岡本選手は38歳ですが、その他にも35歳を過ぎても活躍している選手が何人かいます。

 

 

 

まずは5月7日にバンクバーマラソンで42回目のフルマラソン優勝を果たした川内優輝選手です。今年の3月で36歳になりましたが、マラソンの自己ベストは34歳直前の2021年びわ湖毎日マラソンの2時間7分27秒になります。今年の大阪マラソンでも2時間7分35秒のセカンドベストで走っています。

 

 

 

川内選手の練習方法については以前のブログでも紹介していますが、走行距離が少ないのが特徴といえます。「量」よりもレースや合同練のような「質」を高める練習がマラソンの結果に繋がるとのことです。その分レースに頻繁に出場しており、実業団のコモディイイダのポイント練習にも参加しています。

 

 

 

また、同じ1987年生まれにはSGホールディングスの佐藤悠基選手がいます。佐藤選手もたびたび記事に取り上げられていますが、トラックでの実績は十分なものの、マラソンでは実力を発揮できていません。自己記録は34歳時の2022年の東京マラソンでの2時間08分17秒になります。

 

今年の2月12日に開催された全日本実業団ハーフマラソン大会では1時間0分35秒の自己ベストを記録し、2月19日の熊日30キロロードレースでは1時間30分57秒で優勝しています。

 

この勢いのまま東京マラソンで自己ベスト更新を目指したものの、と成績は振るいませんでした。佐藤選手はすでにMGCの出場権を獲得していますので、パリオリンピックを目指すことになります。

 

「岡本さん、今井さんがあそこまで走ると年齢は言い訳にできないですし、キプチョゲを見ても年齢は関係ないんだなと思います。すでに30代後半でも記録を出せることは証明されています。日本人でも30代後半で2時間6分台、5分台、4分台を出せれば、若手にとってはいい刺激になりますし、今後の日本陸上界も変わってくる。自分が目指すべきところはそこかなと思っています」

 

先の記事での佐藤選手の発言になりますが、自身で限界をつくらないということになるのではないでしょうか。

 

佐久長聖高校出身の佐藤選手ですが、1年先輩には立教大学陸上部監督の上野裕一郎さんがいます。日本最速の監督といわれていますが、自身が指導する学生と一緒に練習をしており、現役選手顔負けの走りを見せてくれています。上野監督はマラソンの経験はありませんが、駅伝や5000mを中心にトラックでの実績は十分です。

 

 

 

5月4日に開催された『ゴールデンゲームズinのべおか』では5000mに出場し、最後までトップ争いを演じました。13分32秒26という素晴らしい記録で、トータルでも日本人6位に入っています。

 

 

 

6月に開催される日本選手権にも出場を予定しているとのことですが、37歳での出場になります。学生を指導しながら参加標準記録を突破することは、並大抵のことではないと思います。

 

この3選手は現在も日本のトップレベルで競技をしています。通常であれば記録が低下し、精神的にもきつくなる年齢で一定の力を維持することは簡単ではありません。川内選手と佐藤選手は35歳を過ぎても自己ベストを更新しています。上野監督は選手の指導をしながらですが、各大会でも先頭を引っ張る積極的な走りを見せてくれています。

 

もちろん個人差があるとは思います。もしかすると体力的なものだけでなく、35歳を過ぎても競技を継続する何らかの共通点があるのかもしれません。

集英社のスポーツ総合雑誌の公式サイト「web Sportiva」に、中国電力の岡本直己選手の記事が掲載されました。

 

 

 

岡本選手は秋に行われるMGCの権利を獲得していますが、39歳を迎えることになります。翌年のパリオリンピックでは40歳ということになります。この年齢までトップ選手として活躍できる理由は、同年代のライバルの存在が大きいと思います。ただ、精神力だけで30代後半まで高いパフォ-マンスを発揮することはできません。無理のない効率の良い走りをしていることは間違いないでしょう。

 

web Sportiva の記事の中で、マラソンで成功するきっかけとなった2018年の青梅マラソンでの優勝のことがふれられています。このレースで優勝できた理由については、「厚底シューズと練習メニューを変更したことが大きいですね」と書かれています。

 

 

 

過去の投稿で岡本選手のランニングフォームについて確認をしました。具体的には2019年の北海道マラソンと、2020年のMGCのものになります。この2つのレースでは明らかに違いがあるように見えますが、現在では厚底シューズに合った走りを習得したのではないかと思います。

 

フォームが変わった理由と直接関係ないかもしれませんが、練習メニューの変更により疲労をためない状態を保ち続けることができるようになった可能性があります。2017年に福岡国際マラソンで優勝したソンドレノールスタッド・モーエン(ノルウェー)選手のメニューが雑誌に掲載され、この内容を参考にしたということです。

 

 

 

モーエン選手はノルウェー国籍です。非アフリカ系のランナーです。以前紹介したレナート・カノーバコーチに指導を受けていました。(現在は不明)

 

 

この雑誌を確認しましたが、カノーバコーチの言葉が紹介されていました。

 

アフリカ選手の優位性は遺伝ではなく、練習の雰囲気やトレーニング条件の考えている(高地、大きなトレーニンググループ、精神的な限界を作らないこと、身体の感覚を重視すること)

 

実際のモーエン選手のトレーニングの概要はこのようになります。

 

①ボリュームの多いロングインターバル

②走行距離が19キロ前後の60分ファルトレク(変化走)

③速いペースでの距離走

 

この3つはいわゆるポイント練習ということになります。非常に強度の高い練習内容になりますが、週2回程度と実施頻度は高くありません。福岡で優勝する前には200日以上にわたりケニアに滞在していますが、2000mを超える高地でこれらの練習をおこなっています。そのほかの日はロングリカバリーということで、10~20キロの距離を2回に分け、キロ3分40秒から55秒ぐらいのペースで走っています。

 

高地ということを考えるとかなりハードな練習といえます。当時モーエン選手は20台半ばということで体力的にも一番無理のできる年齢だったともいえます。

 

岡本選手がどの内容を参考にしたかは定かではありませんが、ポイント練習の内容や頻度やリカバリーの取り方ではないかと想像しています。緩急をつけた練習内容が、自身が取り組んでみたかったものとうまく合致したのではないでしょうか。

 

パリオリンピックの代表選考を兼ねたマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)は今年の10月15日に開催されます。岡本選手は同い年のトヨタ自動車九州の今井正人選手とともに出場することになると思われます。

 

結果はともかく、両選手のベストの走りを期待したいと思います。

 

 

 

以前の投稿で400mハードルの世界陸上銅メダリストである為末大さんのYouTubeのチャンネルを紹介しました。更新頻度も高く、様々な角度からいろいろな分析をされており、自身も非常に参考になると感じています。

 

※2分55秒過ぎ

 

『蹴らない走り方』ということで、1か月ほど前にこの動画がアップされています。現在ではこの考え方は短距離、長距離を問わず、陸上競技の常識となっているといっていいと思います。

 

数十年前には地面を蹴って前に進むことは半ば常識であったといえますが、正反対の考え方に変わったのは不思議な気がします。なぜ蹴ってはいけないのか?この動画の中で為末さんが説明されています。簡単にいえば地面を蹴っても前に進む力にはならないということになります。

 

この動きを習得するドリルが紹介されています。具体的には体が倒れる前に、倒れた体を自分の足が拾っていくということになりますが、2つのドリルが紹介されています。

 

 

 

私自身は上体が倒れ込むと自然に脚が前に出るという考え方には疑問を持っています。為末大学の前半で紹介されているドリルについては、以前指導していた陸上少年団の練習でも取り入れていたものに非常に近いです。この動画は後半の踏込み部分だけを意識したものです。(実際は為末さん同様に片脚立ちから踏み込んで行っていました)

 

一方、為末さんは動画の中で、『振り子なので、片方の足が止まると、もう片方がブンと前に走ります。実はこの仕組みが、着地した時に、逆の足をポンと前に出すエネルギーとなって、それを繰り返すのが「走り」という行為になります。』という説明がされていますが、振り子の動きに例えられています。

 

現象としては一緒ですが、私の考えでは踏み込みと同時に脱力することで、反対脚が意識せずとも自然に前に出ることを意図していました。振り子の動きではなく反射動作ということになります。意識の問題になるということになりますが、動きとしては同じだと思っています。

 

ただ、『地面を蹴らない走り方』については全く同感です。市民ランナーの方でもかなりの割合で、地面を蹴る動きをされているのを確認することができます。

 

 

 

シューズの減り方については、以前の投稿でも考察しています。シューズのつま先部分が大きく減っている方は、このドリルを試してみるとよいと思います。

 

 

 

足を踏み込むことで、地面を後方へ蹴る動きがかなり抑えられると思います。脚を後ろに引くのではなく、前に押し込む動きになります。以前の投稿でも触れた『前スライド走法』にもつながる動きです。

 

地面を蹴っても前に進む力にはなりません。いわゆる空振りをしているようなものです。効率よく走るために、シューズのつま先ができるだけ減らない走りを目指したいものです。

4月23日に開催されたロンドンマラソンで、ケニアのケルビン・キプタム選手が世界歴代2位の2時間1分25秒で優勝しています。

 

 

 

元々はハーフマラソンを中心に走っており、ベストタイムは2020年にバレンシアマラソンでの58分42秒になります。日本でも2020年の丸亀ハーフマラソンを走っており、1時間57秒で8位に入っています。

 

 

 

 

初マラソンで2時間1分53秒を記録しています。キフチョゲ選手、ケネニサ・ベケレ選手に次ぐ記録ですが、2度目のマラソンでの快挙です。

 

キプタム選手はまだ23歳です。一気に世界の舞台に駆け上がった感じですが、詳細についての情報はほとんど確認することができません。現在はコーチもつけず、自身でトレーニングをおこなっているようです。

 

6代メジャーマラソンの制覇を目指す世界記録保持者のキプチョゲ選手は、4月17日に開催されたボストンマラソンでは8位という結果に終わっています。

 

2時間1分台で2度走ったのはキプチョゲ選手とキプタム選手だけですが、同じレースで走ったことはありません。直接対決が実現する可能性は低いと思いますが、キプタム選手がキプチョゲ選手を脅かす存在であることは間違いありません。

 

キプタム選手は秋のレースで世界最高記録更新を目指すことになるのではないかと予想していますが、次回のレースを注目したいと思います。

 

 

 

過去の投稿で繰り返し腕振りの仕方について考察しました。肘を引くのではなく、振り出す意識で腕を振るのが正しいと結論付けています。

 

 

 

この内容についてあらためて考えてみたいと思います。すでに説明をしていますが、アフリカ人ランナーの場合は肘を引いたときと前方への振り出しの際に角度が小さくなります。日本人ランナーの場合は角度が大きくは変わりません。詳しくは説明しませんが、力の入れる(抜く)タイミングが違っていると推測しています。また、角度自体も日本人の方が全般的に大きくなっています。

 

忘れてはいけないのは左右の腕振りは連動しているということです。腕振りについて、様々な方が自身の考えを述べられています。下半身の連動や左右差については様々な意見を確認することができますが、この視点は完全に抜け落ちているように思います。

 

※冒頭から1分30秒過ぎ

 

この動画はキプチョゲ選手が非公式ながらマラソンで2時間を切った時のものです。ウォーミングアップの走りを確認することができますが、腕振りの動きがよくわかると思います。

 

スピードが速くないせいかどの選手もコンパクトに腕が振られています。動きをよく観察してみると、拳が一番引かれた時に一瞬止まり、切り返すように前に振り出され、拳で太鼓をたたくように振り落とされているように見えます。

 

アフリカ人ランナーに共通する動きだと思いますが、肘を引いているようには見えません。重力に逆らわずに腕を落としているだけのような気がします。ただ、左右の腕は連動するはずなので、腕を振り出せば反対の腕は振り落とす動きは少なからず入る可能性はあります。

 

力を入れるタイミングが拳の一番引かれた時と仮定すると、反対の腕は拳が一番上がった時になります。力が入るのはほんの一瞬で、他のタイミングではほぼ力は入っていないと思われます。特に、先の動画キプチョゲ選手を含めたランナーの肘は引かれたときには完全に脱力しているように見えます。

 

ランニング指導者の中にも肘を引くことが、正しいフォームのポイントといわれている方が相当数います。肘を引くということは力を入れることになりますので、アフリカ人ランナーとは正反対の動きといえます。確かに日本人の実業団ランナーにもそのような走りをしているケースがあるのは事実です。

 

ただ、アフリカ人ランナーでは肘を引くような腕の振り方をしているのは皆無といっていいと思います。最終的にはどちらが効率よく走れるかになりますが、結論ははっきりしているのではないでしょうか・・・