今月からリンク先に加えたこの Biopact (Bioenergy pact between Europe and Africa) というウェブサイト、なかなか探索しがいがあって面白いです。
Biopact 10月13日記事 "Columbia: a biofuels superpower in the making"
http://biopact.com/2006/10/colombia-biofuels-superpower-in-making.html
南米コロンビアは小規模な産油国ですが、ここも減退に悩まされているそうです。この記事の本題はキャッサバからエタノールを製造する話なのですが、まず油田の減退の話をしましょう。
記事に載っている、同国最大の油田の産油量推移です。明確には書いてませんが、おそらく1日あたりの産油量です。
2006年1月: 13万2000バレル
2006年6月: 11万6000バレル (5ヶ月で12%減!)
コロンビアは弱小産油国なので、CRB Commodity Yearbook の "Petroleum" の欄には載っていません。代わりに、世界国勢図会2006/07(194ページ)を参照すると、
2000年: 3989万キロリットル/年
2004年: 3062万キロリットル/年
2005年: 3018万キロリットル/年(推定値)
だそうです。
1バレル=159リットル
1年=365日 で換算してみます。
1キロリットル=6.2893バレル (∵ 1000リットル÷159リットル=6.2893)
2000年平均: 68万7000バレル/日
2004年平均: 52万8000バレル/日
2005年平均: 52万バレル/日
2000年から2004年の減産率が大きいですね。どこかでガクッときたのでしょう。
13万2000バレルは国全体の生産量のざっと4分の1です。それが半年足らずで8分の1減産。これは痛いですね。
#123で「ジャトロファ」という植物について書いたばかりですが、世の中進んでいるらしく、もっと優れた植物が見つかっているようです。
メスキート(mesquite)という低木がメキシコ北部・アメリカ合衆国南西部に自生しています。
Biopact 10月12日記事 "Turning pest into profit: drought-tolerant mesquite shrub as a biofuel feedstock"
http://biopact.com/2006/10/turning-pest-into-profit-drought.html
記事によると、この植物は、地中の浅いところ深いところを問わず水脈に達することができるようです。
「収穫」して地上の部分を切り取ってしまっても、また生えてくるそうです。
おまけに自分で窒素を固定するらしい。
本当に記事の通りならすごい話です。乾燥地帯の植物での話ですからね。
で、これでエタノールを作ろうとしているテキサス人がいるというわけです。
エネルギー省はセルロース系エタノール以外にも、色々と研究しています。これもその一つです。
Biopact 10月11日記事 "U.S. DOE to sequence the DNA of six photosynthetic bacteria to make biofuels"
http://biopact.com/2006/10/us-doe-to-sequence-dna-of-six.html
"Cyanothece bacteria" と呼ばれる微生物の仲間6種類についての研究です。田んぼに住んでいるものと深海に住んでいる仲間と、それぞれ遺伝子を解析したとのことです。
同一の細胞が、昼間は光合成を夜間は窒素固定を行う、と書いてあります。にわかには信じがたいですが、本当なんでしょうか。そういう微生物の存在を聞いたのは初めてです。
エネルギー省はこの微生物にエタノールを合成させようとしているようです。しかし光合成も窒素合成もどちらも行う能力が本当にあるのだとしたら、エタノールと炭水化物と蛋白質を、すなわち燃料と食料・飼料の両方を少ないエネルギー投入量で比較的短い時間内に同時に製造するために将来使える微生物なのかもしれません。
私が見ている限り、Financial Times はハバートのピーク/石油の減退についてこれまで不明確な態度をとってきています。ちょうど今の日経のような態度だったと思います。記事にその言葉を書いてこなかったのです。
ですから、Financial Times の記事はここではこれまで取り上げてきていません。(バイオ燃料記事を他の情報源に依存したことも大きな理由ですが)
個別の記事を一つ一つつなげて、この Terminal Decline 連載でインドネシアについてやったような作業をやれば、Financial Times の記事を引用することもこのブログ上でできたかもしれませんが、そこまではしませんでした。
しかし、今週ようやく、ハバートのピークについて取り上げている記事を見つけました。
FT.com 10月23日記事 "An unsustainable outlook"
http://www.ft.com/cms/s/aca55fda-6059-11db-a716-0000779e2340.html
特に注目すべきは、このくだりでしょう。
(Quote) This year, Saudi Arabia, which says it holds 260bn barrels of oil and the potential of another 200bn, will have 90 operating drilling rigs. That is twice as many as in 2004 and three times as many as in the previous decade. (Unquote)
#58で、アラムコが4月に「既存の油井は年率8%で減産中。新規に掘削する油井による増産と合わせた合成値は、年率2%の減産」と発表したと書きました。
同じ油層に対して新規に油井を掘削して増産し、既存油井の減産の影響を緩和することそれ自体は、普通に行われていることです。
問題は、生産量が増えるわけでもないのに油井を掘削する箇所の数が急激に増える、ということです。これは油田が減退しつつある兆候です。(Financial Times の Hoyos記者が、このことを知らないはずはない、と私は思います)
増産どころか、先週のOPEC緊急会合で減産をきめてしまいましたし。日本の石油会社にも、供給量削減を通知してきていますし。減産を決めたのは定例の会合ではなく「緊急の会合」ですし。
参照:
・日経朝刊 9月13日(水) p11
・日経産業 9月21日(木) p16
・日経朝刊 10月17日(火) p13
面白い食い違いがあるんですよね。
環境省と農林水産省は、エタノールをガソリンに混合しようと考えています。
経済産業省と石油業界は、エタノールをETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)という物質に加工し、そのETBEをガソリンに混合することを薦めています。
バイオマスからのエタノールの生産は、国内ではおそらく十分な量にはなかなか達しません。ガソリンに当面は3%、長期的には10%混ぜるのが目標になっていますが、かなりの量、おそらく当面は大部分をブラジルなどから輸入するはずです。
輸入したエタノールをガソリンに混合するにあたって、経済産業省と石油業界は一旦加工しろ、と言うわけです。その理由として、「現行のガソリン用自動車に積載して腐食を引き起こす可能性がエタノールにはある」ということや、「エタノールに混合した水が車内で凍りつく可能性があること」などが挙げられています。
環境省などは「10%程度までは大丈夫」と言っています。
エタノールが腐食性の物質であることや、水とエタノールが一旦混ざると分離しにくいことそれ自体は本当です。
しかし現実には、日本国外ではエタノールを5~15%程度混ぜたガソリンを給油したガソリン車がたくさん走っているようです。
これは個人的な意見ですが、日本の石油会社(精製業・元売り)は売上数量の減少を恐れていると私は見ています。
エタノールを外国から輸入してガソリンに混ぜるにあたって、別に製油所で混ぜる必要はありません。現状の流れですと、エタノールを輸入する企業はおそらく三井物産などの商社です。そうしますと、商社が石油元売りをすっ飛ばして卸売り業者・小売業者と直接取引し、エタノールをガソリンに混ぜてしまう可能性があります。商社自身がエタノールをガソリンに混合する設備を自前で建設するかもしれません。
そうすると、石油元売りとしては、「ガソリンの出荷量が減り、その減少分の販売過程には与れない。おまけに製油所の稼働率が下がる」という状況が生まれます。
日本国内ではガソリンの販売量(販売金額ではなく、量)は横這いです。緩やかな人口減少が予想されていますから、これは危機的だと石油業界(元売り)が思っても不思議ではありません。
エタノールをETBEに加工するのなら、製油所にエタノールを一旦運び込み、そこで加工することになります。元売りが関与する余地が生まれるわけです。
10月17日(火)の日経朝刊17面の記事は、こういった事情をにじませています。
北海道の農協グループが、バイオエタノール工場とガソリンにエタノールを混合する工場と、2種類の工場を自前で建てようとしている、という内容の記事です。しかも、その生産物「E3」(ガソリン97%、エタノール3%の混合燃料)を農協系のガソリンスタンドで販売することを目指している、と書いてあります。
#130で述べましたように、農林水産省は農協系のガソリンスタンドでのバイオエタノール販売を検討しています。早くも具体化へ向けて進んでいるわけですね。
2月8日の「ガイアの夜明け」で取り上げられてましたからね。
その番組中でも言っていたことですが、アサヒビールは「バイオエタノールの製造原価を1リットルあたり30円」とすることを目標としているようです。これは遠い将来の目標ではなく、近い将来の具体的な事業化を目指した目標のようです。
そのことは、9月8日の日経産業新聞5ページでも再度取り上げられてました。
街では1リットル140円くらいで今ガソリンが販売されていますね。その4割は税金です。
揮発油税 48円60銭/liter
地方道路税 5円20銭/liter 合計 53円80銭/liter
小売価格が消費税抜きでリッター130円と仮定しますと、税金を除いた部分が76円20銭ということになります。
もちろん、何がしかの利益を石油会社・ガソリンスタンドなどが上げなければなりません。仮に、流通費用や企業の管理費と利益を含めたそのマージン率が製造原価に対して合計10%といま仮定しましょう。そうすると、税金を除いた76円20銭の11分の10が製造原価ということになります。
76円20銭/liter × 10/11 = 69円27銭/liter
この 69円27銭/liter に対して、エタノール 30円/liter が競争力あるかどうか、が事業化する上で問題となります。
結論から言うと、これなら競争力は間違いなくあります。
エタノールのエネルギー密度はガソリンの3分の2だそうです。
69円27銭/liter × 2/3 = 46円18銭/liter
ということは、上記のマージン率の仮定がどれくらい正確かという問題と、ガソリンの販売価格が今後下がるかどうかという問題はありますが、大雑把に言って、リッター40円以下でエタノールを製造できれば、税制上の扱いが仮に同じだとしても現状ではガソリンと勝負できそうだということになります。30円なら十分行けますよ。もっと石油が高騰すれば、余裕です。
概算要求とは、来年度の予算策定を財務省が行うための基礎資料として各省庁が財務省に対して提出する「来年度計画」のことです。
日経産業新聞(9月4日 p5)が結構詳しく書いてくれていました。
農林水産省が「バイオ燃料の実用化推進」に100億円要求しています。
・農協系ガソリンスタンドのある場所でモデル事業地区を選定
・実証試験と供給設備の設置に85億円
・技術開発に15億円
・専用の資源作物からのエタノール生産を長期的には目指す
・糖や澱粉を効率よく生産する作物の開発に着手
・エタノール発酵効率向上のため遺伝子組み換え微生物研究を進める
なんだか、アメリカのエネルギー省と農務省がやることをそっくり真似ているようです。
国内のどこでエネルギー作物を栽培すると想定しているのか、訊いてみたいものです。あるいは国外で?
また、先月半ばから、インドネシアの石油と天然ガスの減退(減耗 = depletion)について連載してきました。
ひとまずこの2つの話題が一段落しましたので、これからしばらくは日々の報道内容を書いていこうと思います。空白期間が出来てしまいましたので、8月のニュースに戻って書いていきます。
また、forever2xxxさんのブログに書き込んだのですが、石油と天然ガスが減退し始めた世界で、エネルギー不足にどう対処するかについての、社会の将来像について私見を書いていこうと思っています。バイオ燃料という枠をはるかに超えた内容になってしまいそうですが。
プロパンガスさんのご質問は、おそらくこういう意図のものだと私は思います。
「社会全体としてどちらを選択するかはとりあえず横に置いておいて、太陽電池と緑化によるバイオマス生産と、どちらが沙漠で行うに技術的な実現可能性が高いか? また、どちらが経済的効率が高いか?=どちらがより金になりそうか?」
これについては、私にはよくわかりません。現時点ではまったくデータも試算も見たことがありません。
将来どちらが実現する可能性が高いかと言われると、私はどちらかというと緑化する方が可能性が少し高いのではないだろうかとぼんやり考えています。しかし、何ともはっきりしたことは言えません。ほとんど直感/山勘の類です。
多少、思考の材料となりそうな事実はあります。
太陽電池はたしかにすばらしい道具だと私は思います。しかし、「昼間しか発電できない」という重大な欠点があります。太陽電池を広範に利用して社会全体における電気エネルギー源として重要な存在にするためには、電気エネルギーを貯蔵する優れた技術の開発が絶対に必要だと思います。これがまだまだ決定的に遅れています。(太陽電池ほど深刻ではありませんが、この問題は風力発電も抱えています)
世界の沙漠に太陽電池パネルを敷き詰め、大陸間を超電導ケーブルで繋いで電気エネルギーを融通すべきだ、という意見を言う人もいます。地上の沙漠のどこかが常に昼間なので、世界中で融通できれば停電しないというわけです。
この場合、超電導ケーブルの性能が問題となります。まだ大規模な送電はようやくアメリカで実験が始まろうとしている段階です。また、超電導材料は窒素の沸点(零下193℃)より低い温度に冷やす必要があるため、その製造と設置(建設工事)と維持に投入するエネルギーが問題となります。大陸間ケーブルなら海底を這わなければなりませんが、海底ケーブルを零下200℃近辺まで冷やすことが現実的だとは今のところ私には思えません。
沙漠の緑化は困難だと思います。しかし、植物の耐塩性・耐乾性を改善する品種改良は進んできています。現在、そういった品種改良は主に穀物などの農作物 - 食料生産用で元来は耐塩性・耐乾性をあまり考慮されてこなかった植物 - において進行中ですが、もしも「木の皮を食える」ようになれば、それこそ灌木みたいな元々から耐塩性・耐乾性の強い植物をさらに改良し、それを育てれば工場で加工して食品 - 炭水化物 - を製造できるようになり、また燃料も製造できる、ということがだんだん現実味を帯びてくると私は空想(夢想?)しているわけです。
そうそう、サボテンでも良いんですよ。
ま、いずれにせよ、現時点ではあまり正確なことは言えません。目を開いて事態の推移をよく観察しようと思います。
プロパンガスさん、これで回答になりましたでしょうか?
この選択は、結局「炭化水素の供給量が減少したら、その後どうしたらよいだろうか? 炭化水素が果たしていたどういう機能を別の何かで代替しなければならないのだろうか?」という問いに答えることです。
炭化水素 - 石油・天然ガス・石炭は、
・人工物 - 機械や道具 - の動力源
・人工物を構成する素材としての化成品の原料
・人工物ではなく、人間そのものにとっての間接的な動力源 ・・・ 肥料のことです
の3つの源泉を兼ねています。
ということは、炭化水素供給が不足したら、その代替にあたっては、上記3つを全部考えなければならない、ということだと私は考えます。
そう考えますと、沙漠を利用するかどうかは別にして、まずはバイオマス利用とその生産について優先して研究すべき、ということになると考えます。
電気エネルギーは重要です。ただ、残念ながら食えません。着たり手に持って使ったりすることもできませんし、それに座ったり乗ったりすることもできません。薬として服用することもできません。
ですから、社会全体としてどちらをより優先すべきか、と問われたら、どちらかというとバイオマスの方が電気エネルギー源より優先度が高いのではないかと私は考えています。
もっとも、私の想像(空想)をはるかに超えて、比較的狭い面積で革命的にバイオマス生産を増やすことが将来できるようになるのかもしれません。もしそうなったら、沙漠に限らず広い土地を太陽エネルギー利用に充てることも選択肢となり得るのかもしれません。