重油の値上がりで漁船が漁に出るのも思うに任せなくなりつつあります。
農林水産省は漁船でバイオ燃料を使うことを考えているそうです。
10月8日付日経朝刊3面に、「漁船向けにバイオ燃料 農水省が研究」という記事が出ていました。漁船での使用に関する研究を来年度から始めるそうです。
何を使うんでしょうね。エタノールなんでしょうか。それともバイオディーゼル?
10月25日の日刊工業新聞29面には、「植物の鉄分取り込み吸収促す遺伝子発見 東大」という記事が載っています。
[概略]
(1) 土壌中の鉄分は通常水に溶けにくい「三価鉄」となっている。
(2) 植物はこれを溶けやすい化合物にして吸収している。
(3) この「溶けやすい化合物にする」酵素の生成に関与している遺伝子を発見した。
(4) 土壌がアルカリ性だと鉄はほとんど溶けていないため、植物は鉄が欠乏する。
(5) 鉄が欠乏すると光合成能力が低下する。
#142の内容と考え合わせると、植物は自力で三価鉄を二価鉄に転換した上で吸収している、ということだと私は推論しています。一応確認が必要ですね。
さて、この遺伝子を利用する方法が見つかれば、二価鉄イオンの少ないアルカリ性土壌で育つ品種を開発できる可能性が出てくるわけです。
とうとう出ました。
主流派の新聞に「ピークオイル」という言葉が掲載されました。それも大きな扱いで。
11月4日(土)の日本経済新聞9面です。「キーワード」の一つとして「ピークオイル論」と出ています。
記事本文は石油について調べれば必ずいつか出てくる人物ダニエル・ヤーギン氏のインタビューですが、その記事中にも出てきます。
もちろん、ヤーギン氏は「ピークオイル論」をあっさり否定しています。彼は「ピーク否定派」の先鋒ですからね。
しかし、よくよくこの記事を読んでみると、ヤーギン氏は「在来型石油(註)産出のピーク到来が近い」ことを否定しているとは言えません。技術革新が将来の油(あぶら)の需給緩和に役立つだろう、という方向性で話していますし、特に「クリーン石炭の利用」について強調していますが、それだけだと「在来型石油産出量のピークが来るかどうか」という設問に対しては答えていないことになります。
私の思うに、彼は問題をすり替えていますね。
この記事の編集者は、「クリーン石炭の利用」を「石炭火力発電」に限定して説明していますが、ヤーギン氏の発言を読むと、彼は「クリーン石炭の利用」が「石炭火力発電」に関するものなのか、それとも「石炭液化」なのか、あるいはその両方なのか、といったことについて何も語っていません。
これは私の推測に過ぎませんが、ヤーギン氏はインタビューに応じた際 "oil" という表現を使ったのだと思います。彼の言う "oil" が「石炭を液化して製造した燃料」を含んでいる可能性があります。記事を読む限り、そういう解釈が可能です。
これだと、いわゆる「ピークオイル論」に対する反論にはなっていないことになります。
ヤーギン氏は知っていてわざとそうインタビューに答えたのでしょうか?
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註: 「在来型石油」は英語の "conventional oil" の訳です。普通の油田から普通に産出する、特に採掘のために多量のエネルギー投入を必要とせずにどんどん自噴してくる(或いは水を注入するだけで出てくる)、そういう原油のことです。
深海底油田産の原油や、二酸化炭素や樹脂を地中に注入して初めて採掘できる原油、カナダのオイルサンドなどは、ただ地中から回収して製油所に精製に回せるようにするだけで、膨大なエネルギーを投入する必要があります。こういった原油は「非在来型(unconventional)」と呼ばれています。
石炭を液化して製造する油は、私の知る限り「非在来型石油」にすら含められていません。
ヤーギン氏は、「非在来型石油」と「石炭液化油」とをあわせた液体炭化水素全体の産出が技術革新によって大幅に増える、とインタビュー中で示唆しています。
これに対し、いわゆる「ピークオイル論者」は「在来型石油」の産出量減少を問題にしており、問題にするのは主にそれだけで十分だとしています。
なぜ在来型だけを問題にするので十分なのかというと、
1. 非在来型石油の産出量増加が在来型石油産出量減少を埋め合わせることはあり得えない。(最初に減産を経験したアメリカを含め過去に一度も例が無い)
2. 在来型石油は発見しやすくかつ採掘しやすい。しかも、一つの油層の規模が大きい傾向がある。つまり、人間は見つけやすく掘り易い効率の良い資源から先に使ってしまう。逆に言うと、後に残された資源 - 非在来型石油 - は、先に使った資源より見つけにくく採掘しにくい。つまり、効率が色々な意味で悪い。だから、(例えそこに石油が埋蔵されているとわかっていても)後になればなるほど採掘量が少なくなる傾向がでる。
3. 上記2.の論点としてもっとも重要な点として、「非在来型石油と石炭液化は在来型石油に比べて大幅にエネルギー収支が悪化し、手元にネットで残るエネルギー量は大幅に減少する傾向がでる」ことがある。
という諸点が挙げられます。
#123で「沙漠を緑化することは、ネットでバイオマス量を増やすこと」ということを書きました。
沙漠を緑化するということは、「沙漠で光合成量を増やす」ということでもあります。
沙漠は光合成を阻む2つの要素を持っています。
1つ目は水の不足です。これはすぐ思い当たりますね。
2つ目は土壌に塩分が多くアルカリ性だということです。アルカリ性だと、光合成に必要な鉄イオンの吸収が難しくなるらしいんです。
で、最近2つの記事を目にしました。なかなか面白い。
9月29日付日経産業新聞14面: 植物光合成 アルカリ土壌に強く 愛知製鋼、活性剤の新製品
[概略]
(1) 愛知製鋼が新製品「鉄力あぐり」を開発。10月から発売。
(2) 植物の光合成に必要な二価の鉄イオンを供給する酸化第一鉄(FeO)を含む。
(3) 植物の成長が速くなったり、果実の糖度や花卉の発色が良くなる効果がある。
(4) 製造過程で有機酸を加え、強アルカリ土壌で効果が大きくなるようにした。
(5) 従来の植物活性剤の2割以下の量で済む。
英国のヴァージン・グループのリチャード・ブランソン会長は、バイオ燃料への投資にご執心ということで、サンマイクロシステムズ創業者にして現在はベンチャーキャピタリストのヴィノド・コスラ氏と並ぶ有名人だと思います。
9月23日付日経朝刊9面に、ヴァージン・グループがバイオ燃料の開発に投資する、とブランソン会長が発言した旨書かれていました。
こういう記事もあります。
Biopact 10月4日 "Interview with Sir Richard Branson on biobutanol and the future of the planet"
http://biopact.com/2006/10/interview-with-sir-richard-branson-on.html
ブタノールとエタノールの開発に投資する旨書いてあります。ヴァージン・アトランティック航空でブタノールを使うつもりなんでしょうか。
エタノールはジェット燃料の6割程度のエネルギー密度です。ということは、エタノールで代替しようとすると、航続距離6割で我慢するか、或いは燃料タンクを1.7倍にするか、どちらかを選ぶことになります。
自動車の場合は、ガソリンスタンドへ行く頻度を上げればいいので、それほど深刻な問題とはならなさそうですが、航空機はそうはいきません。
空中には給油所がありませんからね。次の空港まで意地でもたどり着かないといけません。燃料タンクを大きくすると機体が大きくなりますから、新しく機体を開発しないといけません。燃料搭載量が増え機体が大きくなれば機体重量と空気抵抗が増えます。思い通りに航続距離が伸びなくなるでしょうね。
そうすると、エネルギー密度の高い燃料が要るわけです。
ブタノールのエネルギー密度は、#21で引用した Forbes.com の記事によると、エタノールより30%高いそうです。
そうしますと、
60% × (100%+30%) = 78%
となり、ブタノールのエネルギー密度はジェット燃料の8割弱、と推定できます。
まだちょっと低いですが、それでもエタノールよりはずっと良いですね。石油や石炭から製造したジェット燃料と混合すれば、もっとエネルギー密度が上がるでしょう。例えば50%混合すれば、100%濃度のジェット燃料に対して9割弱のエネルギー密度となります。
#21によると、「ガソリンといかなる割合でも混ぜられる」そうです。ジェット燃料と自在に混合できれば、上の推論の通りとなるわけですが...
それはそれとして、これから航空会社は大変でしょうね。航空輸送に依存している産業も、大変なことになるでしょう。生活面では、少なくとも、輸入生鮮食品を安く買える楽しみはこれから危うくなるかもしれませんね。
9月22日付日経産業新聞8面、同日の日経朝刊15面に面白い記事が載っています。
日経産業新聞の方の概略です。
(1) 理化学研究所と東北大学が塩分濃度の高い水田で育つイネを開発
(2) 炭素重イオンビームを照射して品種改良
(3) 海水の4分の1程度、通常の水田の20倍以上の塩分濃度の水田で育つ2つの系統を発見
(4) 塩害に見舞われた水田でも100%の確率で結実することを確認
単にふと思いついたに過ぎませんが、この調子で品種改良できれば、ひょっとして海を水田に出来るのでしょうか?
題名が示している通り、このブログはバイオ燃料について書くために始めました。
調べていくうちに「液体燃料の原料としてのみバイオマスを考えるのはもったいない」と私が思うようになったことは以前述べました。
今後は、化学工業についても書いて行こうと思います。また、農業/食料生産に関連することも書いていくつもりです。これらも、広く見るとバイオ燃料と関連あることです。
インドネシアの続報です。
ナツナ・天然ガスプロジェクトを ExxonMobil が実行しようとしない理由がはっきりしました。二酸化炭素含有量の問題は本当でした。
JOGMECの報告書が公開されています。
(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構ウェブサイトより: 10月18日付報告書
http://oilresearch.jogmec.go.jp/enq/frame.php?lurl=/information/pdf/2006/0610_out_m_new_lng_projects.pdf
埋蔵されている気体に占める二酸化炭素比率は71%だそうです。
炭化水素量が多くても、これでは効率悪いですね。
まず二酸化炭素とメタンを分離しないと、産出したガスがそのままでは使い物になりません。
分離した二酸化炭素を大気中に排出するわけにもいかないので、報告書にあるように、例えば近場の枯渇した油田・ガス田に注入するなどする必要があります。
そうしますと、
(1) そもそも海底ガス田なので、船を用意したり、海工事をしたり、海底パイプラインを陸地まで引いたりして、地上のガス田より余計にエネルギーを投入しなければならないのは所与の前提。
(2) 二酸化炭素を分離するのに、通常のガス田よりはるかに多くのエネルギーを投入しなければならない。
(3) 分離した二酸化炭素を地中に再注入するためだけにエネルギーを投入しなければならない。おまけに、この地中への二酸化炭素注入が、枯渇した油田・ガス田の復活につながるかどうかはわからない。
いやいや、これは大変ですよ。そう簡単には開発しないでしょう。きっと、天然ガス価格が今の数倍になってから始まりますよ。
International Energy Agency が裏付けがあると発表しました。
Biopact 10月8日 "Brazilian ethanol is sustainable and has a very positive energy balance - IEA report"
http://biopact.com/2006/10/brazilian-ethanol-is-sustainable-and.html
この記事にもエネルギー収支の前提条件は書いてませんが、投入エネルギー1に対して平均8.3のエネルギー生産ができる、とあります。
記事によると、コロンビアではさとうきびとキャッサバが重要な燃料作物だとのことです。「キャッサバ革命」とまで書いています。現状ではさとうきびが燃料の原料として最大の生産量を誇っているようです。年産100万リットルのエタノール生産と書かれています。
で、同国の石油会社は5年以内にキャッサバからの生産量を年産100万リットルまで引き上げたい、とのこと。
キャッサバの何がそんなに良いんでしょうね。よくよく読んでみると...
・南米北部の先住民社会で栽培されているキャッサバの品種がある
・その品種は、採れるデンプンの分子(高分子)が小さい
・分子が小さいと、発酵させやすい
なるほどね。
すでに、「優れた品種を求めて競争が始まっているようです。