とうとう出ました。

主流派の新聞に「ピークオイル」という言葉が掲載されました。それも大きな扱いで。

11月4日(土)の日本経済新聞9面です。「キーワード」の一つとして「ピークオイル論」と出ています。

記事本文は石油について調べれば必ずいつか出てくる人物ダニエル・ヤーギン氏のインタビューですが、その記事中にも出てきます。

もちろん、ヤーギン氏は「ピークオイル論」をあっさり否定しています。彼は「ピーク否定派」の先鋒ですからね。

しかし、よくよくこの記事を読んでみると、ヤーギン氏は「在来型石油(註)産出のピーク到来が近い」ことを否定しているとは言えません。技術革新が将来の油(あぶら)の需給緩和に役立つだろう、という方向性で話していますし、特に「クリーン石炭の利用」について強調していますが、それだけだと「在来型石油産出量のピークが来るかどうか」という設問に対しては答えていないことになります。

私の思うに、彼は問題をすり替えていますね。

この記事の編集者は、「クリーン石炭の利用」を「石炭火力発電」に限定して説明していますが、ヤーギン氏の発言を読むと、彼は「クリーン石炭の利用」が「石炭火力発電」に関するものなのか、それとも「石炭液化」なのか、あるいはその両方なのか、といったことについて何も語っていません。

これは私の推測に過ぎませんが、ヤーギン氏はインタビューに応じた際 "oil" という表現を使ったのだと思います。彼の言う "oil" が「石炭を液化して製造した燃料」を含んでいる可能性があります。記事を読む限り、そういう解釈が可能です。

これだと、いわゆる「ピークオイル論」に対する反論にはなっていないことになります。

ヤーギン氏は知っていてわざとそうインタビューに答えたのでしょうか?

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註: 「在来型石油」は英語の "conventional oil" の訳です。普通の油田から普通に産出する、特に採掘のために多量のエネルギー投入を必要とせずにどんどん自噴してくる(或いは水を注入するだけで出てくる)、そういう原油のことです。

深海底油田産の原油や、二酸化炭素や樹脂を地中に注入して初めて採掘できる原油、カナダのオイルサンドなどは、ただ地中から回収して製油所に精製に回せるようにするだけで、膨大なエネルギーを投入する必要があります。こういった原油は「非在来型(unconventional)」と呼ばれています。

石炭を液化して製造する油は、私の知る限り「非在来型石油」にすら含められていません。

ヤーギン氏は、「非在来型石油」と「石炭液化油」とをあわせた液体炭化水素全体の産出が技術革新によって大幅に増える、とインタビュー中で示唆しています。

これに対し、いわゆる「ピークオイル論者」は「在来型石油」の産出量減少を問題にしており、問題にするのは主にそれだけで十分だとしています。

なぜ在来型だけを問題にするので十分なのかというと、

1. 非在来型石油の産出量増加が在来型石油産出量減少を埋め合わせることはあり得えない。(最初に減産を経験したアメリカを含め過去に一度も例が無い)

2. 在来型石油は発見しやすくかつ採掘しやすい。しかも、一つの油層の規模が大きい傾向がある。つまり、人間は見つけやすく掘り易い効率の良い資源から先に使ってしまう。逆に言うと、後に残された資源 - 非在来型石油 - は、先に使った資源より見つけにくく採掘しにくい。つまり、効率が色々な意味で悪い。だから、(例えそこに石油が埋蔵されているとわかっていても)後になればなるほど採掘量が少なくなる傾向がでる。

3. 上記2.の論点としてもっとも重要な点として、「非在来型石油と石炭液化は在来型石油に比べて大幅にエネルギー収支が悪化し、手元にネットで残るエネルギー量は大幅に減少する傾向がでる」ことがある。

という諸点が挙げられます。