☆正常胚移植の妊娠成績とBMIの関係 その2 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、正常胚移植の妊娠成績とBMIの関係に関する後方視的検討です。

 

Fertil Steril 2024; 121: 291(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.11.005

Fertil Steril 2024; 121: 248(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.11.038

要約:2014〜2017年に米国ART協会データベースに登録された55,888名77,018個(自己卵子70,752個、ドナー卵子6,266個)のPGT-A正常胚を対象に、妊娠成績とBMIとの関連について後方視的に検討しました。自己卵子およびドナー卵子の臨床妊娠率はそれぞれ61.7%と57.3%、出産率は52.5%と47.1%でした。BMI別の妊娠成績は下記の通り(BMI 23〜24.9と比べたオッズ比で表示、有意差のみられた項目を赤字表示)。なお、自己卵子、ドナー卵子ともに同様でした。

 

BMI    <18.5  18.5〜19.9  20〜22.9  23〜24.9  25〜26.9  27〜29.9  30〜34.9  35〜39.9  40<

臨床妊娠率 0.92    0.96     0.99    〜     0.97    0.99     0.97     0.94   0.82

出産率   0.89    0.93     0.98    〜     0.96    0.96     0.91     0.85   0.73

 

解説:米国では、成人の42.4%が肥満(BMI>30)であり、生殖年齢の女性では40%になります。肥満女性は、妊娠までの期間が長くなり、不妊症が増加することが知られており、排卵障害、卵子の質の低下、子宮内膜受容能異常が原因であると考えられています。また、妊娠中の肥満は、流産、心機能低下、妊娠糖尿病、妊娠高血圧、死産のリスク増加と関連が報告されています。本論文は、このような背景の元に行われた検討であり、BMIが23~24.9で正常胚の妊娠成績が最も良いことを示しています。また、自己卵子、ドナー卵子ともに同様であるため、臨床妊娠率や出産率の低下は卵子側の要因ではなく子宮側の要因であることが示唆されます。5万件超の症例数による検討であり、かなり信頼性の高いデータだと思います。

 

コメント:今月のFertil Steril誌では、ART治療(体外受精、顕微授精)の妊娠成績とBMIとの関連に関する3つの大規模な研究を紹介しています。それぞれ、母集団、BMI基準、統計分析方法が異なるにもかかわらず、3つとも最終的に同じ結論に達しています。すなわち、BMI増加は、出産率の低下と関連しています。3つの論文ともに症例数が多いこと、アウトカムを出産としていることが、大きなメリットですが、後方視的検討であるため、結論を導くためには前方視的検討が必要です。また、最終的な目標は出産ではなく、元気な赤ちゃんと元気な母親ですので、そのような観点からの検討も必要です。

 

下記の記事を参照してください。

2024.3.18「☆正常胚移植の妊娠成績とBMIの関係

2024.3.17「ドナーとレシピエントの理想的なBMIは?

2023.10.3「肥満女性の人工授精では、運動は妊娠率に影響しない

2023.9.29「人工授精ではBMIが高くても出産率は低下しない!?

2023.6.21「☆女性のBMIと年齢と妊娠成績の関係

2023.4.19「☆BMIと妊娠予後

2023.3.29「☆PCOSにおけるBMIと体重減少の効果

2023.3.3「☆母体BMIと周産期予後:自然妊娠 vs. ART妊娠

2023.1.12「ART治療や母親の肥満とお子さんの健康状態の関連

2022.12.14「肥満マウスの食事療法で卵子の質が改善

2022.12.13「肥満で子宮内膜のタンパク質の発現パターンが変化

2022.12.12「肥満で卵胞液中のタンパク質の発現パターンが変化

2022.10.14「☆ライフスタイルによる体重減少の効果:メタアナリシス

2022.4.25「☆女性のBMIは異常胚とは無関係

2021.12.5「BMI増加で胚盤胞発生動態は?

2021.11.21「☆BMI高値で不育症リスクが増加!?

2021.9.28「BMI高値は受精卵の染色体異常とは無関係

2021.7.21「☆女性の肥満で流産率が増加

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