☆正常胚移植の妊娠成績とBMIの関係 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、正常胚移植の妊娠成績とBMIの関係に関する後方視的検討です。

 

Fertil Steril 2024; 121: 271(米国)oi: 10.1016/j.fertnstert.2023.07.027

要約:2016~2019年の米国ART協会データベースから56,564件初回正常胚移植の妊娠成績とBMIとの関連について後方視的検討を行いました。結果は下記の通り(BMI 18.5〜24.9と比べて有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

<全症例>

BMI    <18.5   18.5〜24.9   25〜29.9   30〜34.9   35〜39.9   40〜44.9   45〜49.9   50<

症例数   1612    31666     13419     5885     2774     893      229     86

臨床妊娠率 63.3% < 65.9%     65.8%  >  63.9%  > 59.7% >  57.2%  >  52.8% > 46.5%

流産率   12.5%   11.4%  <   12.5%  <  14.3%  < 17.6%  < 19.8%     17.4%   20.0%

出産率   55.0% < 58.2%     57.2%  >  54.4% >  48.8% >  45.6%  >  43.7% > 37.2%

 

<PCOS>

BMI    <18.5   18.5〜24.9   25〜29.9   30〜34.9   35〜39.9   40〜44.9   45〜49.9   50<

症例数   114     2273      1040     589      403     149      39     19

臨床妊娠率 66.7%   65.6%     67.9%     66.6%  > 58.1%    56.4%     51.3%   52.6%

流産率   15.8%   13.2%     13.5%     16.6%  <  21.8%    19.0%     20.0%   30.0%

出産率   56.1%   56.7%     58.6%     54.5%  > 44.7%    45.0%     41.0%   36.8%

 

<男性不妊>

BMI    <18.5   18.5〜24.9   25〜29.9   30〜34.9   35〜39.9   40〜44.9   45〜49.9   50<

症例数   263     6047     2743      1114     496     152       31     8

臨床妊娠率 60.8% < 67.4%     67.8%     66.7%    64.3%    57.9%     61.3%   62.5%

流産率   9.4%    10.4%     11.8%     12.5%    14.1%     17.1%     15.8%    0%

出産率   54.8% < 60.2%     59.4%     58.1%    55.0%  > 48.0%     51.6%   62.5%

 

解説:米国では、肥満が著しく増加しています。20~39歳の米国女性の肥満率は、2001~2002年の29.8%から、2017~2018年の39.7%へ増加しました。肥満は妊孕性にマイナスに作用することが知られており、自然妊娠でもART治療(体外受精、顕微授精)でも出産率が低下します。本論文は、このような背景のもとに行われた初回正常胚移植での検討であり、BMIが正常な女性で最も妊娠成績が良く、BMIの増加に伴って徐々に低下することを示しています。なお、PCOSや男性不妊の方では、BMIによるマイナス効果が減弱していますので、BMI単独ではなく、別の何らかの要因がこの根底にある可能性があるかも知れません。5万件超の症例数による検討であり、かなり信頼性の高いデータだと思います。

 

下記の記事を参照してください。

2023.10.3「肥満女性の人工授精では、運動は妊娠率に影響しない

2023.9.29「人工授精ではBMIが高くても出産率は低下しない!?

2023.6.21「☆女性のBMIと年齢と妊娠成績の関係

2023.4.19「☆BMIと妊娠予後

2023.3.29「☆PCOSにおけるBMIと体重減少の効果

2023.3.3「☆母体BMIと周産期予後:自然妊娠 vs. ART妊娠

2023.1.12「ART治療や母親の肥満とお子さんの健康状態の関連

2022.12.14「肥満マウスの食事療法で卵子の質が改善

2022.12.13「肥満で子宮内膜のタンパク質の発現パターンが変化

2022.12.12「肥満で卵胞液中のタンパク質の発現パターンが変化

2022.10.14「☆ライフスタイルによる体重減少の効果:メタアナリシス

2022.4.25「☆女性のBMIは異常胚とは無関係

2021.12.5「BMI増加で胚盤胞発生動態は?

2021.11.21「☆BMI高値で不育症リスクが増加!?

2021.9.28「BMI高値は受精卵の染色体異常とは無関係

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