ART治療や母親の肥満とお子さんの健康状態の関連 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、ART治療や母親の肥満とお子さんの健康状態の関連を後方視的に検討したものです。

 

Fertil Steril 2022; 118: 1117(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.09.004

要約:2014〜2021年に、ART治療(体外受精、顕微授精)で出産したお子さん(4〜11歳)の健康状態をチェックし、母親のBMI(24以上、24未満)や移植胚(凍結胚移植、新鮮胚移植)との関連を後方視的に検討しました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

           母親BMI>=24以上    母親BMI<24

           凍結胚  新鮮胚    凍結胚  新鮮胚

BMI zスコア      0.73 > 0.52     0.16 = 0.19

ウエスト/身長比 zスコア 0.76 = 0.69    0.36 = 0.40

収縮期血圧 zスコア   0.44 > 0.25     0.19 = 0.21

空腹時血糖 zスコア   0.04 = 0.00    -0.07 = 0.04

インスリン zスコア   0.41 = 0.31     0.19 = 0.21

中性脂肪 zスコア    0.44 = 0.32     0.17 = 0.19

LDL  zスコア      0.14 = 0.13     0.11 < 0.25

HDL  zスコア      0.05 = 0.02    0.17 = 0.09

MSスコア1*       1.17 > 0.39    -0.45 = -0.34

MSスコア2**      0.76 > 0.23    -0.63 = -0.38

*MSスコア1=BMI+収縮期血圧+インスリン+中性脂肪ーHDL

**MSスコア2=ウエスト/身長比+収縮期血圧+空腹時血糖+中性脂肪ーHDL

 

解説:現在までに900万人以上のお子さんがART治療により誕生しており、凍結胚の方が大きな赤ちゃんが誕生することが知られています。また、肥満の大人が増えており、健康上の大きな問題となっています。本論文は、ART治療や母親の肥満とお子さんの健康状態の関連を後方視的に検討したものであり、母親のBMIが正常な場合にはお子さんへの影響はないこと、母親のBMIが24以上の場合には、お子さんのBMI、収縮期血圧、MSスコア1と2が有意に増加することを示しています。

 

中国では欧米人と異なる基準で肥満を評価しており、BMIが24あるいは23をカットオフ値にしています。日本人も同様の基準で評価すべきと考えています。リプロダクションクリニック(大阪、東京)では、BMI高値(>23.0)の方に「オンラインダイエットプログラム」を開始しました。ご興味のある方は、外来でお問合せください。

 

BMIについては、下記の記事を参照してください。

2022.12.14「肥満マウスの食事療法で卵子の質が改善

2022.12.13「肥満で子宮内膜のタンパク質の発現パターンが変化

2022.12.12「肥満で卵胞液中のタンパク質の発現パターンが変化

2022.10.14「☆ライフスタイルによる体重減少の効果:メタアナリシス

2022.4.25「☆女性のBMIは異常胚とは無関係

2021.12.5「BMI増加で胚盤胞発生動態は?

2021.11.21「☆BMI高値で不育症リスクが増加!?

2021.9.28「BMI高値は受精卵の染色体異常とは無関係

2021.7.21「☆女性の肥満で流産率が増加

2021.5.5「女性のBMIは卵子に影響?着床に影響?