本論文は、女性のBMIと年齢と妊娠成績の関係を後方視的に検討したものです。
Hum Reprod 2023; 38: 886(ポルトガル)doi: 10.1093/humrep/dead042
要約:2013〜2018年に、不妊クリニック18施設で、自己卵を用いた初回ART治療(体外受精、顕微授精)を実施した14,213名を対象に、女性のBMIと年齢と妊娠成績の関係を後方視的に検討しました。BMIは、低体重(<18.5)、標準体重(18.5~24.9)、過体重(25.0~29.9)、肥満(≧30.0)の4群に分類しました。累積出産率に対する女性のBMIと年齢の影響を評価するために、2つの多変量回帰モデル(モデル1、2)を用いました。モデル1で1 年間の累積出産率を、モデル2で3か月の累積出産率を推定しました。モデル1の1 年間の累積出産率の結果は下記の通り。
低体重 標準体重 過体重 肥満
BMI <18.5 18.5~24.9 25.0~29.9 ≧30.0
30歳 56.4% 57.7% 54.7% 51.3%
31歳 56.7% 58.0% 55.0% 51.6%
32歳 56.4% 57.7% 54.7% 51.3%
33歳 55.6% 56.8% 53.8% 50.4%
34歳 54.0% 55.3% 52.3% 48.9%
35歳 51.8% 53.1% 50.0% 46.6
36歳 48.7% 50.0% 46.9% 43.6%
37歳 44.8% 46.1% 43.1% 39.7%
38歳 40.1% 41.4% 38.4% 35.2%
39歳 34.7% 35.9% 33.0% 30.1%
40歳 28.7% 29.8% 27.2% 24.5%
41歳 22.6% 23.5% 21.3% 19.0%
42歳 16.7% 17.5% 15.7% 13.9%
43歳 11.5% 12.1% 10.8% 9.5%
モデル1では、1年以内に肥満から過体重へ、過体重から標準体重へBMIが減少すると、35歳までは累積出産率が増加しますが、36~38歳の女性では大幅な減少(肥満から正常BMIへ)のみが有効です。38歳を超えると、かなりの減量を行っても1年間では年齢の影響は相殺されませんでした。一方、モデル2で3ヶ月間の累積出産率を調べたところ、33歳まではBMIが1減少、33~35歳では2減少した場合、累積出産率が有意に増加します。高齢の女性が累積出産率を増加するためにはより多くの減量が必要で、35~37歳ではBMIが3、37~39歳では4、それ以上では5以上の減量が必要です。
解説:BMI増加と女性の高齢はどちらも不妊症患者によくみられますが、減量と不妊治療のどちらを先に始めたらよいのでしょうか。この疑問に対する回答を示した論文は、残念ながら存在しません。本論文は、BMIと年齢と妊娠成績の関係を後方視的に検討したものです。35歳以上の女性では、加齢による累積出産率への悪影響を避けるために、体重減少は大幅に、短期間で行う必要があります。年齢に応じて、体重を減らすためのアプローチを調整することが最善の策かもしれません。なお、本論文は症例数が少ないことが問題点として挙げられますので、今後の大規模な研究が必要です。
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