黄体ホルモン濃度と着床の窓 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、黄体ホルモン濃度と着床の窓に関する興味深い報告です。

 

Hum Reprod 2021; 36: 2861(スペイン)doi: 10.1093/humrep/deab184

要約:2018〜2019年に、ERA検査で着床の窓を検査する85名の女性に、ERA検査当日の血液中と子宮内膜のホルモン濃度を測定し、ERA検査との関連を前方視的に検討しました。対象は、50歳未満、少なくとも1回の胚移植不成功、子宮筋腫などの子宮病変なし、子宮内膜6.5mm以上とし、E2製剤はメリエストラ6mg/日、P4製剤はウトロゲスタン800mg/日を用いました。なお、血液中はP4(プロゲステロン)値を、子宮内膜はP4、17αヒドロキシプロゲステロン、E2(エストラジオール)、エストロン値を測定しました。79名(平均39.9歳、平均BMI 24.2、平均子宮内膜8.2mm)で全ての検査が完遂され、着床の窓にズレがなかった方は40.5%おられました。血液中のP4濃度は子宮内膜のP4や着床の窓との関連を認めませんでした。着床の窓に関連が見られた項目は、子宮内膜のP4濃度と17αヒドロキシプロゲステロン濃度でした。子宮内膜のP4濃度>40μg/mLで着床の窓が適切であり、17αヒドロキシプロゲステロン濃度<0.35ng/mLで着床の窓が不適切でした。また、子宮内膜のP4濃度と17αヒドロキシプロゲステロン濃度には正の相関を認めました。

 

解説:黄体ホルモンにより着床の窓が制御されており、血液中の黄体ホルモン(P4)濃度と妊娠の関連が報告されています。しかし、血液中のP4と子宮内膜のP4の関連を示す報告はありませんでした。このため、血液中のP4と子宮内膜のP4のどちらがより強く着床の窓に影響するかは不明です。本論文は、血液中と子宮内膜のP4濃度と着床の窓の関連を初めて検討したところ、血液中のP4濃度と着床の窓との関連を認めず子宮内膜のP4濃度(あるいは17αヒドロキシプロゲステロン濃度)と着床の窓に関連が認められたことを示しています。つまり、血液中のP4濃度をいくら測定してもあまり意味がなく、子宮内膜のP4濃度が重要であることになります。

 

問題点は、子宮内膜のP4濃度測定はリアルタイムでは難しく、しかも内膜採取が必要になりますので、移植周期に行うことができません。あくまでも、研究段階のものであるとお考えください。

 

下記の記事を参照してください。

2021.8.19「子宮内の液体を用いて着床の窓の検査が可能!?

2020.8.19「ホルモン補充周期のE2値は着床の窓に影響しない

2012.12.28「採卵前の黄体ホルモン(P)上昇

2019.9.9「☆着床期に内膜は薄くなる方が良い!?

2019.6.29「告知:ERPeak検査導入のお知らせ

2019.4.12「子宮内膜受容能 その1:子宮内膜受容能とは?

2018.4.28「着床障害には、着床の窓のズレと壊れがある!?

2018.3.26「ERAテスト:カナダからの報告

2018.3.14「ER Map®/ER Grade®とは?

2018.1.31「非侵襲的NCS検出法

2017.10.19「☆着床の窓:スペインから続報

2015.9.4「☆黄体ホルモン濃度はいくつあれば良い?

2014.12.21「☆ERAテストについて

2014.12.19「子宮内膜の着床能の研究 続報

2014.11.25「子宮内膜の着床能の研究」
2014.10.6「☆着床の窓がズレている場合」
2014.8.10「「着床の窓」について」

2014.8.7「☆☆着床の窓はいつ開く?」