☆着床の窓:スペインから続報 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、着床の窓に関するスペインからの久しぶりの報告です。

 

Fertil Steril 2017; 108: 703(スペイン)doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.07.007

要約:妊娠歴のある79名のドナー卵子提供者(20〜34歳、BMI 19〜25)の方を対象に、LHサージ前、1日後、4日後、7日後、11日後、13日後の子宮内膜を採取し、ERAテストで使用している238個の遺伝子検査を行いました。人工知能(AI)を用いた、K-means法によるクラスター分析を行い、上記の6種の検体がキレイに分類できるような分類方法を見出しました。さらに450名の女性の子宮内膜のデータも追加し、分類が可能なことを確認しました。この新たな分類法を用いて、321名の方について胚移植を実施した結果は下記の通り。

 

        前受容期後期 受容期 受容期後期 受容期後 

LHサージ後    4日後   7日後  11日後  13日後

症例数       79    132   9      8  

妊娠率(%)    65.8   56.8  66.6    37.5

着床率(%)    49.6   47.5  23.1    28.6

妊娠継続率(%)  76.9   80.0  33.3    100  

化学流産率(%)  7.7    6..6  50.0     0 

 

解説:2014.8.7「☆☆着床の窓はいつ開く?」でご紹介した4つの論文以降、ERAに関する論文が途絶えていました。本論文は、子宮内膜の受容期を6つに分類する方法をAIにより見出したものです。ERAテストの結果としては、受容期と受容期後期が「受容期」として報告され、前受容期後期と受容期後は「非受容期」として報告されます。しかし、ここで問題点は、「非受容期」として報告される前受容期後期と受容期後でも妊娠しているという事実、「受容期」として報告される受容期と受容期後期の妊娠率は60%前後しかないという事実です。着床の窓を議論する際には、正常胚での検討が必須ですので、本論文だけで結論づけることはできません。したがって、現段階のERAテストには限界があることを示しています。

 

本論文の著者は、受容期後期で化学流産率が高いのは、子宮内膜の状態により着床の完成度が変化するのではないかと推察しています。子宮内膜の着床能の「研究」に用いるツールとしてERAテストのメリットはあると考えますが、実用的かどうかについては私としてはどうしても疑問が払拭できません。今後の研究に期待したいと思います。

 

下記の記事を参照してください。

2014.12.21「☆ERAテストについて
2014.12.19「子宮内膜の着床能の研究 続報」
2014.11.25「子宮内膜の着床能の研究」
2014.8.7「☆☆着床の窓はいつ開く?」
2014.8.10「「着床の窓」について」
2014.10.6「☆着床の窓がズレている場合」