☆ERAテストについて | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

ERAテストについての質問が大変多くなっています(外来、ブログ)。「日本で検査はできないのでしょうか」「日本でも検査できるクリニックがあると聞きました」「費用は?」「検査の信頼性は?」などです。

現在のところ、ERAテストを開発したスペインのグループでしか検査ができないのですが、そのためにいくつか問題点があると考えています。
1 発表されたデータの症例数が少ない(29症例のみ)
2 他のグループでの追試がなされていない(他ではうまくいっていない)
3 検査結果が「受容期」か「非受容期」でしか返ってこない(検査の時期をズラして2~3回の検査が必要)
4 日本で検査を行うと、検体の移送が必要だが、国際移送中の検体のダメージが心配

個々の解説
1 29症例で「着床の窓」を合わせて移植を行ったところ、臨床妊娠率が51.7% 、着床率が33.9%(Fertil Steril 2013; 100: 818)と報告されています。着床の時期を合わせたにしては、妊娠率や着床率が低いように思います。ERAテストが真の「着床の窓」を示しているのか、他の施設を含めた検討が必要だと考えます。もっと多くの症例について実施しているはずですが、正式な報告があまりに少ないことが心配です。
2 STAP細胞もそうですが、研究には再現性が極めて重要です。他のグループでの追試ができていないことは、ERAテストの信頼性を低下させることになります。
3 スペインのグループは世界7カ所に拠点を設け、商業ベースでERAテストの実施を開始しました(IGENOMIX社)。しかし、検査結果が「受容期」か「非受容期」でしか返ってこないため、「着床の窓」を明らかにするには、2~3回の検査が必要になります。1回の検査には1周期を要しますので、「着床の窓」を確定するためには、2~3ヶ月を要することになります。この間は移植ができなくなります。
4 現在、バレンシア(スペイン)、ミラノ(イタリア)、マイアミ(米国)、ロサンジェルス(米国)、サンパウロ(ブラジル)、デリー(インド)、ドバイ(UAE)の7カ所がERAテストの拠点になっていますが、最も近いインドに移送するとしても最短で半日(実際にはおそらく1日)を要します。国際移送中の検体の安全管理は、日本国内の移送と比べ、不安材料が多くなります。正しい検査結果が得られるのか、高額な費用がかかりますので、ぜひ日本にも拠点の設置をお願いしたいものです。

私は、ERAテストに大きな期待を持っています。実際に「着床の窓」がズレている方がおられるからです。私は、このグループの論文をヒントに、何度day 5の胚盤胞移植を行っても妊娠されない方に対して、day 6やday 7の胚盤胞移植を行っていますが、妊娠される方が複数名出ています(ERAテストをせずにETの日をズラしていますが、順番としてはホルモン補充周期、自然周期、不育検査および治療を行っても全く反応が出ない方のみを対象としています)。しかし、上述のようにデータが少なく、他のグループによる追試がありませんので、ERAテストの信頼性について懐疑的な部分もあります。このグループの論文を読むと、着床研究のツールには極めて有用であることがわかり、非常に知的好奇心(研究心)を惹かれます。一方、IGENOMIX社のホームページを見ると、商業主義的な印象が払拭できません。したがって、現在のところ、このERAテストを実施するのは時期尚早ではないかと考えています。

「着床の窓」とERAテストについては、下記の記事を参照してください。
2014.12.19「子宮内膜の着床能の研究 続報」
2014.11.25「子宮内膜の着床能の研究」
2014.8.7「☆☆着床の窓はいつ開く?」
2014.8.10「「着床の窓」について」
2014.10.6「☆着床の窓がズレている場合」

ERAテストについては、北宅医師のブログ「着床不全・着床障害のブログ」も参照してください。