☆着床期に内膜は薄くなる方が良い!? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、着床期に内膜は薄くなる方が良いことを示しています。

 

Fertil Steril 2019; 112: 503(カナダ)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.05.001

Fertil Steril 2019; 112: 469(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.05.037

要約:2017〜2018年ホルモン補充周期で凍結胚盤胞移植を実施した274周期を対象に、E2補充最終日と移植日の子宮内膜の厚さを測定し、後方視的に検討しました。結果は下記の通り。

 

移植日内膜/E2補充最終日内膜   臨床妊娠率

0.95以上              23.1%

0.95未満              45.2%

0.90未満              51.8%

0.85未満              58.9%

 

E2補充最終日内膜より、移植日内膜が薄い方が臨床妊娠率が有意に増加し、この変化は薄さ依存性でした。ROCカーブから、移植日内膜/E2補充最終日内膜0.90をカットオフとした時(10%内膜厚減少)に感度と特異度が最大になりました。E2補充最終日内膜が8mm以上の場合には、10%内膜厚減少群の臨床妊娠率は54.1%であり、内膜厚非減少群の21.8%と比べ有意に高い結果でした。同様に、E2補充最終日内膜が11mm以上の場合には、10%内膜厚減少群の臨床妊娠率は62.5%であり、内膜厚非減少群の18.5%と比べ有意に高い結果になっていました。

 

解説:これまでの子宮内膜厚と妊娠率の関係は、トリガー日あるいはE2補充最終日の子宮内膜厚によるものでした。しかし、増殖期(子宮内膜が厚くなる時期=卵胞発育時あるいはE2補充時)と分泌期(子宮内膜脱落膜化が生じる時期=排卵後あるいは黄体ホルモン補充後)の子宮内膜の構造には変化があるため、両者の内膜の厚さには変化がある(薄くなる)のではないかと考え、本論文の研究が行われました。本論文は、かつての常識を覆し、着床期に内膜はむしろ薄くなる方が良いことを示しています。

 

その理由として、黄体ホルモン抵抗性(P4に反応しない)とE2/P4比高値の関与を推察しています。すなわち、黄体ホルモン抵抗性がある場合には、黄体ホルモンを投与しても黄体ホルモンに反応しないため、E2のみに暴露された状態になるため、内膜が厚くなる一方の状態です。E2/P4高値も同様な状態が生じ得ます。もちろん前方視的検討が必要であり、後方視的な本研究だけでは結論付けられませんし、理由に関しても推測の域を出ませんが、もし真実であるならば、移植時の内膜を観察するポイントが大きく変わります。このような大きなパラダイムシフトが本当に起きるのかどうか、慎重に見極める必要があります。コメントでは、内膜が厚くなる一方の方が黄体ホルモンに反応しないのであれば、着床の窓の検査で前受容期である可能性があり、検討の余地があるとしています。