ホルモン補充周期のE2値は着床の窓に影響しない | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、ホルモン補充周期のE2値は着床の窓に影響しないことを示しています。

 

Hum Reprod 2020; 35: 1637(米国)doi: 10.1093/humrep/deaa135

要約:2015〜2016年に、ホルモン補充周期(リュープリン+E2製剤+P4製剤)により、妊娠歴のある健康な女性10名で子宮内膜を作成し、黄体ホルモン補充の5日目に子宮内膜を採取し、子宮内膜の分泌期(黄体期)に関与する各種遺伝子のDNAメチル化とRNAの変化を人工知能を用いて解析しました。なお、各人でE2値を生理的濃度(180〜300pg/mL)、中等度(600〜800pg/mL)、高濃度(>2000pg/mL)の3つの濃度に設定し、合計30サンプルの子宮内膜を採取しました。結果は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。

 

          生理的濃度   中等度     高濃度

子宮内膜厚      9.7mm    9.7mm    8.8mm

E2          275pg/mL  910pg/mL  2043pg/mL

P4(P製剤開始前)  0.59ng/mL  0.45ng/mL  0.54ng/mL

P4(内膜採取時)   4.17ng/mL  2.69ng/mL  2.63ng/mL

 

なお、子宮内膜の各種遺伝子のDNAメチル化とRNAに有意な変化は認めませんでした。

 

解説:採卵周期では、E2が高くなることによりP4が増加します(例:E2 2000 pg/mL→P4 2.0 ng/mL)。このため、着床の窓がズレてしまうのではないかという懸念がありました。本論文は、ホルモン補充周期により異なるE2値で作成した子宮内膜の遺伝子変化を同一人物で比較検討したものであり、E2値の増減は着床の窓に影響しないことを示しています(E2値 3000 pg/mLまで)。ただし、妊娠歴のある健康な女性での検討ですので、不妊症女性でも同様な事が言えるかどうかは不明です。

 

下記の記事を参照してください。

2012.12.28「採卵前の黄体ホルモン(P)上昇