着床障害には、着床の窓のズレと壊れがある!? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、着床障害には着床の窓が単にズレている場合と完全に壊れてしまっている場合があることを示しています。極めて難解な論文ですが、概要だけでもお伝えできればと思います。

 

Hum Reprod 2018; 33: 626(スペイン)doi: 10.1093/humrep/dey023

要約:反復胚移植不成功の方43名と対照群72名の子宮内膜組織を採取し(LHサージ+5日目から+8日目に採取)、16論文で取り扱いされた着床の窓の候補遺伝子の組み合わせを調べ(21〜718遺伝子)、それらの関連性を検討しました。なお、反復胚移植不成功とは、4回以上の良好胚移植不成功、あるいは合計10個以上の胚移植不成功としました。着床の窓のズレと壊れについては、人工知能を用いたK-means法とPCA法によって16論文の遺伝子群の特徴を解析しました。着床の窓のズレについては遺伝子数が増加すると的中率も増加しましたが、着床の窓の壊れについては遺伝子数との関連はありませんでした。着床の窓のズレの的中率が良い遺伝子群を示した10論文、着床の窓の壊れの的中率の高い1論文、双方に的中率の高い4論文、双方に的中率の低い1論文の遺伝子群があることが明らかになりました。反復胚移植不成功群と対照群で着床の窓のズレと壊れがどのように分布しているかまとめると下表のようになります。

 

反復胚移植不成功群   着床の窓の壊れ

             あり  なし

着床の窓のズレ あり   23   8

        なし   10   2

 

対照群         着床の窓の壊れ

             あり  なし

着床の窓のズレ あり   8   42

        なし   2   20

 

解説:2002年から着床の窓に関する研究が始まり、様々な候補遺伝子の組み合わせが発表されています。これまでに16論文が発表されており、本論文はその組み合わせを115名の子宮内膜を用い同時に検討し比較したものです。対照群と比べ反復胚移植不成功群で着床の窓のズレと壊れている方が多いことがお分かりいただけるかと思います。「着床の窓のズレ」ている方はどこかで着床の窓が開いていることを意味し、「着床の窓が壊れ」ている方は窓どころか内膜の機能が損なわれた異常な内膜であることを意味しています。つまり、着床の窓のズレと壊れが同時に存在することはないように思うのですが、同時に存在している方が多いことが疑問に残ります。もちろん、本論文は遺伝子群を人工知能で解析しただけですから、実際の内膜がどのようになっているかを知る由もありません。本論文は衝撃的なタイトルで発表されましたが、これから研究が進む上で最初のとっかかりのところに過ぎません。過剰な期待を持つ(あるいは落胆する)のではなく、状況を見極めていきたいと思います。