携帯電話による男性の妊孕性への影響 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、携帯電話による男性の妊孕性への影響についての二つの前方視的検討をまとめたものです。

 

Hum Reprod 2021; 36: 1395(米国)doi: 10.1093/humrep/deab001

要約:2012〜2019年デンマークで実施されたSFスタディ(Snart Foraeldre)と、2013〜2020年米国で実施されたPRESTOスタディ(PREgnancy STudy Online)の参加者を対象に、携帯電話による男性の妊孕性への影響について検討しました(それぞれ、751名と2349名)。携帯電話を身体に装着していない方と比較した妊孕性(それぞれのパートナーの妊娠)の結果は下記の通り(全ての項目で有意差なし)。

 

           SFスタディ   PRESTOスタディ   全症例

ズボンの前ポケット   0.96        0.93      0.94

ズボンの後ポケット   1.29        1.05      1.06

ズボンの横ポケット   0.97        0.93      0.94

ベルトに装着      NA*        1.11       NA*

シャツのポケット    1.14        0.93      0.97

*NA=該当なし

 

ズボンの前ポケット  SFスタディ   PRESTOスタディ   全症例

暴露なし         〜         〜       〜

2時間以下        0.90        0.89      0.89

3〜7時間        0.91        1.02      1.00

8時間以上        1.01        0.90      0.92

「〜」=対照群

 

また、BMI>=25の男性では、妊孕性の有意な低下は認められませんでしたが、BMI<25の男性では、妊孕性が0.72倍に有意に低下しました。

 

解説:携帯電話は今やなくてはならない電子機器です。携帯電話の精子への影響について、動物では、精巣のLeydig細胞増殖抑制、テストステロン産生低下、精子数減少、精子運動率低下が報告されています。ヒトでも精液所見の低下が報告されていますが、妊孕性(それぞれのパートナーの妊娠)に関する検討はこれまでありませんでした。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、携帯電話による男性の妊孕性への影響はほとんどないことを示しています。ただし、痩せた男性では妊孕性が有意に低下します。これは、痩せている方が電磁波の影響を受けやすいものと推察されます。

 

下記の記事を参照してください。

2020.2.17「Q&A2477 ☆電気毛布による電磁波の影響は?

2013.1.25「☆電磁波の影響

2012.10.6「男性は携帯電話をズボンのポケットに入れないで!」

 

SFスタディ/PRESTOスタディーについては、下記の記事を参照してください。

2020.6.21「☆男性のアルコール摂取は妊孕性とは無関係?

2020.5.14「☆秋から冬が最も妊娠しやすい!?

2019.11.28「☆通院前の妊活に有効な排卵日推定法は?

2019.6.25「不眠と不妊:女性の睡眠障害は良くない

2018.4.12「男性は毎日8時間睡眠がお勧め

2017.1.12「☆妊娠前の鎮痛剤使用と妊娠成立の関係