不眠と不妊:女性の睡眠障害は良くない | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、2018.4.12「男性は毎日8時間睡眠がお勧め」でご紹介したPRESTOスタディーの女性編をご紹介します。

 

Fertil Steril 2019; 111: 1201(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.01.037

Fertil Steril 2019; 111: 1122(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.02.125

要約:2013〜2018年に米国とカナダの夫婦を対象にオンラインでのコホート研究(PRegnancy STudy Online=PRESTOスタディー)を実施しました。不妊治療やピルを使用していない女性(21〜45歳)で妊活期間6ヶ月以下の方を対象に、睡眠に関する質問票調査を行いました(6873名)。8週間毎に女性へ妊娠の有無を調査し、妊娠成立か最大12ヶ月まで経過観察を実施しました。なお、質問票の不備、妊娠された方、かつて不妊治療を行なっていた方などを除外しました。

 

8時間の睡眠時間の妊娠率を1.0とした場合の睡眠時間による妊娠率は下記の通り、有意差を認めませんでした。

 

睡眠時間  <6時間  6〜7時間 7〜8時間 8〜9時間 9時間以上 

妊娠率    0.89  0.95    0.99   1.00   0.96 

 

しかし、睡眠障害の程度による妊娠率は下記の通り、有意差を認めました(赤字表示)。

 

睡眠障害   なし   睡眠の50%未満    睡眠の50%以上

妊娠率    1.00     0.93         0.87*

*有意差あり

 

なお、シフト制勤務(夜勤)の有無による違いはありませんでしたが、不安と抑うつが強い方の妊娠率低下がより顕著にみられました。

 

解説:米国では5000〜7000万人の方が睡眠障害に悩まされているとの報告があり、世界的に睡眠障害の方が増えているようです。睡眠時間と心血管疾患、肥満、糖尿病、全ての死因との関連はU字型を示し、睡眠時間が短くても長くても良くありません。現在のコンセンサスでは、睡眠時間が7〜9時間が最適とされ、6〜7時間はやや不十分、6時間未満は不十分としています。なお、9時間以上の睡眠時間に関するコンセンサスは得られていません。これまでに、睡眠障害の男性では精子数の減少やテストステロン低下を認めるとの報告がありますが、いずれも疫学調査(統計)や横断研究であり、前方視的検討はされていませんでした。2018.4.12「男性は毎日8時間睡眠がお勧め」の記事では、妊娠を目指す男性は6時間未満の睡眠は少ないため6〜9時間睡眠を心がけることという結論でした。本論文は、妊娠を目指す女性睡眠障害がないようにするのがお勧めであることを示しています。コメントでは、質問票調査による睡眠評価は信頼性が乏しいので客観的な他の評価法(General Sleep Disturbances Questionnaire、Pittsburgh Sleep Quality Index、Insomnia Severity Indexなど)を用いるべきであるとしています。

 

下記の記事を参照してください。

2018.4.12「男性は毎日8時間睡眠がお勧め

2014.3.7「☆親の睡眠障害による子どもの性機能への影響