☆妊娠前の鎮痛剤使用と妊娠成立の関係 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

誰もが知りたい、極めて重要な情報提供です。本論文は、鎮痛剤の種類と妊孕性を調査したものです。

 

Hum Reprod 2017; 32: 103(北米)

要約:2013〜2015年米国とカナダインターネットにより登録した2573名(21〜45歳)の女性を対象に、前方視的検討を行いました(PRESTOスタディー:PREgnancy STudy Online)。初回登録時と、2ヶ月ごとに質問票に回答いただき、妊娠が成立するまで、あるいは12ヶ月経過するまで、経過観察を行いました。80%以上の方が、初回登録時と最低もう1回の質問票に回答いただきました。質問票では、使用した鎮痛剤の名前と月間使用量、自己妊娠検査結果をお答え頂きました。登録時点ですでに半年以上妊娠をトライしていた方を除外し、1763名の解析を行いました。1279名(73%)の方が何らかの鎮痛剤を使用していました。ナプロキセン(0.78倍)および麻薬性鎮痛薬(0.81倍)の使用者では、妊娠率が有意に低下していました。ナプロキセンでは用量依存性に妊娠率低下(月間1500mg未満で0.85倍、1500mg以上で0.58倍)がみられましたが、麻薬性鎮痛薬では該当者が少ないため用量依存性は確認できませんでした。アセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェン使用では妊娠率低下を認めませんでした。

 

解説:2005年の米国の調査によると、妊娠した女性の60%は妊娠3ヶ月以内に鎮痛剤を服用していました。アセトアミノフェンが48%、イブプロフェンが21%と、この2剤で70%程度に達します。鎮痛剤は排卵や着床に悪影響ではないかとの報告が多数ありますが、これは多くの鎮痛剤が属するNSAIDsは、プロスタグランジン(PG)合成に影響を与えるためです。しかし、これらの研究はいずれも小規模なものであり、一定の結論は得られていません。本論文は、インターネットを用いて集めた対象者に、定期的なアンケート調査を行い、鎮痛剤使用と妊孕性の関連を示したものです。日常的なインターネット利用者は、ドロップアウトが極めて少ないという特徴を活かした本研究のスタイルは、極めて秀逸であり、あらゆる方面の調査に利用できると考えます。本論文では、ナプロキセンと麻薬性鎮痛薬で妊孕性が低下し、アセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェンでは妊孕性の低下を認めていません。麻薬性鎮痛薬は一般には手に入らないものですから心配ありませんが、ナプロキセン(ナイキサン)は関節炎、痛風、術後、生理痛などの鎮痛剤として日本でも使用できますので注意が必要です。一方、アセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェンについては、2013.11.10「☆鎮痛剤を飲んでよい時期と種類は?」の記事で、6、7、2番で紹介しています。6.7はずっと服用していても問題ない薬剤として記載しました。同記事では、「これはあくまでも私の考えている1例であり、証明されていませんので、ご注意ください」と記載しましたが、私の考えが大きく間違っていないことを示していると思います。アセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェンについては、安心して服用していただいて構わないと思います。

 

下記の記事を参照してください。

2013.11.10「☆鎮痛剤を飲んでよい時期と種類は?