説話や物語ではなく、リアルな歴史の記録の中に安倍晴明の名前が出てくるのは、天徳4年(960年)からとされています(ちなみに生まれたのは921年です)。
記録によれば、そのときの官職は、陰陽寮の天文得業生(てんもんとくぎょうしょう)。
これは成績優秀生、もしくは特待生というような身分です。
のちに晴明もその地位につく天文博士について、天文道を学ぶ学生です。
天文の観測を行い博士に報告を行う学生でした。
安倍晴明というと若い天才が思い浮かびます。
岡野玲子さんの静謐な筆によって描かれる魔術師版光源氏のような姿が浮かびます。
*夢枕獏さんの原作を岡野玲子さんが漫画化し、野村萬斎さん主演で映画化されています。
この若き安倍晴明の印象は強いと思います。
しかし、実際に活躍したのは我々の感覚でも老後と言える年齢からです(面白いことに晴明自身も「老後」と言っていますw)。
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この天文得業生(てんもんとくぎょうしょう)のときにはすでに40歳です。
少年老い易く学成り難しとは言っても、今でも当時でも十分に老いています。
そこから10年あまりで天文博士となり(971−974)、979年に59歳のとき「占事略决」(せんじりゃっけつ)という六壬式占(りくじんしきせん)の著作を書いています。
59歳で総集編的に著作を書いたのではなく、活躍のスタートとして書いています。活動のピークはその後の60代以降で、それが逝去の85歳の直前まで続きます。
繰り返しますが、60歳以降が活躍のピークです。
40歳ではまだ学生、50代前半で天文博士となり(ちなみにこれも1期4年で解任971−974)、60代から死ぬまでの全盛期を迎えます。
ちなみに59歳のときに六壬式占の著作である『占事略决』を記したと述べましたが、この2年前に師匠である賀茂保憲が死んでいます。
晴明は賀茂氏の忠行、保憲の門下生です。
ちなみに今昔物語では忠行が出ていましたね。
晴明これを見て、驚きて車の後に走り寄りて、忠行を起して告げければ、その時にぞ忠行驚きて覚めて、鬼の来たるを見て、術法を以てたちまちに我が身をも恐なく、共の者どもをも隠し、平かに過ぎにける。(今昔物語)
師匠という重石(おもし)が無くなり、のびのびとしはじめたときに書き始めたのが『占事略决』ということです。
しかし、その末尾には魔術師晴明らしからぬ弱気なこんな発言が書かれています。
占いは難しい。
ものすごく難しい。
精緻をきわめている。
ほんのちょっとでも間違えると、全然違ってしまう。
そもそも式盤を使う占いは全然得意じゃないんだけど、老いたら少しは核心に迫れるかなーと思ったけど、そうでもない。
仕方ないから、とりあえずわかったことを、ざっくりとまとめておきます!!
ということが最後にかかれています。
驚きの弱音であり、驚きの本音です!
本文の現代語訳です。
それ占事の趣、精微(せいび)を窮(きわ)むべし。これを毫毛(ごうもう)に失すれば、実に千里を差(たが)ふ。晴明、楓萊(ふうらい)の枝疎(うと)くして、老後において核実に攀(よ)じるといへども、吉凶の道異、将来においてもい聖跡を遂(お)ひがたし。ただ一端の詞を挙げて、六壬の意を粗抽(そちゅう)するのみ。
ざっくりと訳すとこんな感じです。
占いの理論というのは、精密をきわめたものであり、最初のわずかな間違いが千里もの大きな間違いにつながる。私は「楓萊(ふうらい)の枝」(六壬式盤、天盤が楓、地盤が棗(なつめ)で創られる)に疎いので、老後になって、その核心ににじり寄りたいと思ったが、いまも無理だし、将来においても到底かないそうになり。なので、とりあえず知っていることの一部だけを抜き出してまとめてみました。
ちなみにこれは本当に占事略决のラストに書かれています。
(占事略决は晴明が書いた唯一の書籍です。写本のみが残っています)
非常に弱気な発言とも言えますが、これは日本人的な謙譲の精神なのか、それとも晴明の本音なのか、、、。
しかしその後の八面六臂な活躍を考えるときに、このスタート地点は良い躓きの石だと思います。
もし晴明が完全に習熟していたなら、自在に陰陽道を再発明することはできなかったでしょう。
面白いことに、陰陽道を考えると天才空海が出てきます。
空海もまた大きな役割を果たしています。
陰陽道に大きな影響を与えたホロスコープ本を書いた(訳した)のは不空金剛です。不空とは、、、懐かしい名前ですね。そう、空海の先生の恵果(けいか)、その恵果の先生です。
空海の師匠の師匠です。
その空海の師匠の師匠である不空金剛が訳した「宿曜経」は空海たちが中国から持ち帰ります。
これはインド系の占星術書と言えるものです。
しかし、宿曜経はこれだけでは不完全で「符天暦」がないと起動しないシステムでした。
そこで晴明の師匠である保憲は朝廷に働きかけて、天台僧の日延にその符天暦を呉越国から請来させます。このころに天文を学んでいたのが晴明です。
宿曜経と符天暦を使ったインド系占星術を担うのが、宿曜師と呼ばれる僧侶たちで皮肉にもその後に加茂家暦道とつねに競合するようになります(賀茂家のはからいで手に入れた符天暦が加茂家の暦道をおびやかすとはあまりに皮肉です)。
この宿曜師は仏典中の占星書としては画期的なものと言われて尊重されていました。この仏典はインド系だけではなくイラン系の占星術を含み、そして摩尼教(マニ教)で使われたソクド語の「ミール」の音訳「密(蜜)」が暦注に書き込まれているというワールドワイドな内容でした。
ちなみに当時の中国は西方・ギリシャの天文学・占星術の翻訳書もあり、その中にはプトレマイオスの翻訳書もあったとか。
*ラファエルの「アテナイの学堂」にもクラウディオス・プトレマイオスの姿が見えます。
そして、これらのインド、ギリシャ系天文学の根底にあったのが、紀元前2000年あたりの古代メソポタミアの天文学(特に紀元前600年ごろのカルデア王国)で、それゆえにギリシャでは天文学はカルデアの学と呼ばれます。
そう考えてみると、風水の太祖山中の太祖山が須弥山がSumer(シュメール)であるというのも納得です。
そしてこの最先端の天文学を貪欲に学んだのが空海や晴明たちでした。
巨大な絵の中で陰陽道、占星術、天文、暦、風水、魔術などを考えるとすべてがつながってきます。
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