【お断り】
現在連載しているブログ記事は、コロナ禍のときに業界関係者と一緒に作り上げたベトナム送出し機関の状況についての小冊子から取り上げたものです。かなり良い出来なのですが、あまりにも内情を赤裸々に書いてしまったものですから、業界関係者の立場から公開せずにしておりました。このままお蔵入りしてしまうのももったいないので、私の責任にてブログに公開することにしました。文面は私の方で多少直しながら、連載していきますので、よろしくお願い致します。
第 3 章 協定書締結について
(1)管理費の下限について(介護含む)
介護以外の職種:5,000 円以上
介護:10,000 円以上
裏で、覚書でこれを下回る取り決めをしている場合も多々ありますが、OTIT の監査も厳しくなっている為、やらないことをオススメします。
(2)覚書
送り出し機関業界で一般的に言われる覚書は協定書の内容を修正する為のものです。この覚書自体、本来あってはならないものですが。
よくある内容としては…
〇管理費
(協定書)10,000 円→(覚書)5,000 円
〇航空券
(協定書)往復日本側負担→(覚書)入国時送り出し機関負担(送り出し機関と記載しますが、実際に払うのは実習生です。無駄な負担が増加することになります。)
〇事前講習委託費
(協定書)15,000 円(ベトナムのルールとして、事前講習委託費は 15,000 円/人と定められています。)→(覚書)無料
〇キックバック
(協定書)記載無し→(覚書)1 名入国 1,000USDなど
(キックバックは一律の場合と職種によって異なる場合の 2 種類あります。)
〇渡航費・ホテル代
(協定書)記載無し→(覚書)面接渡航時、監理団体職員分は送り出し機関負担
(OTIT の監査時に渡航時の領収書を確認されることが増えています。渡航後に一切費用がかかっていなければ、当然突っ込まれることになるので注意です。 )
(ホテル代のみ送り出し機関が負担したり、航空券も負担する場合等もあります。採用面接渡航時の領収書もOTIT の監査でチェックされますので、要注意です。)
〇失踪時の賠償
(協定書)記載無し→(覚書)1 名失踪 15万円など
(失踪の賠償金は 3 年間一律の場合と1 年目 20 万円、2 年目 15 万円、3 年目 10 万円のように差をつける場合の 2 種類があります。)
上記は漏れなく全て違法でありますが、非常に多くの送り出し機関・監理団体間で結ばれています。某送り出し機関の社長からの情報によりますと、90%以上の送り出し機関がこの違法な覚書を交わしているとのことです。(2017年現在)
また、全ての安売り・値引きの最終的な負担をするのは実習生であることを肝に銘じるようにお願いします。送り出し機関の社長が身銭を切って、負担することはありえません。監理団体が安く買い叩けば、叩くほど、実習生の負担へと上乗せされていきます。回り回って、失踪等のトラブルに繋がり、自分のクビを絞めることになることにいい加減気づいたほうが良いと思います。
赤信号みんなで渡れば怖くないは通じません。90%がやってるなら自分も…等と愚かなことを考えないようにしてください。決して、送り出し機関が儲かるためではなく、技能実習生への出国費用増大・借金増大のリスク防止のため、且つ、監理団体や実習実施者側のリスク排除のため、そしてお互いに事業を安定的に継続するためにお願いします。
(3)やっていいこと、悪いこと(実例)
《やっていいこと》
やっていいことは法定通り、若しくはそれ以上支払うことです。
〇講習委託費 15,000 円/人→50,000 円/人→但し、機構の監査で指摘を受ける可能性あります。
とにかく、いい人材、日本語のできる人材を求めるが故の対応です。
〇管理費 5,000 円→10,000 円
入国後に月 1 オンラインでメンタルフォローを送り出し機関に依頼する場合など。
《悪いこと》
法定以下の値引き・無料、キックバック、失踪時賠償金等、全て違法です。
● 管理費 5,000 円→3,000 円(愛知県の監理団体)
● キックバック 名目の入国後のレクリエーション費 100,000 円/人(岡山県の監理団体)
● ホテル代 3 名採用時、監理団体 1 名分のホテル代を送り出し機関負担(大阪府の監理団体)
● 航空券片道送り出し機関負担(大阪府/静岡県/東京都の監理団体)
● 失踪賠償金 失踪時一律 15 万円賠償(三重県の監理団体)など
キックバックは監理団体側から持ち掛ける場合と、送り出し機関側から持ち掛ける場合の 2 種類があります。前者の場合は、「面接が欲しけりゃ金を出せ」という強請るもしくは集りです。後者の場合、金をせびる監理団体が多いため、送り出し機関側も、求人は金で買えるという認識をしたが故の話です。送り出し機関の営業には「いくらまでならキックバックしてもいい・持ち掛けてもいい」という営業資料が存在します。危機管理もクソもありません。その資料をそのまま監理団体に送ってくる頭の弱い送り出し機関も存在します。当然ですが、そんなレベルの低い送り出し機関と付き合うことのないようにしてください。そのキックバックの原資がどこから出ているのか少し考えれば猿でも分かります。わざわざ入国後の失踪等のトラブルのリスクを上げにいかないようにしてください。
以下の画像の1 社目は、現役認定送り出し機関 A の監理団体向けの営業資料であります。実習生 1 人につき150,000 円というキックバックの記載が確認できます。コンプラの欠片も、危機管理の欠片もない内容が並んでいます。
2 社目は既に取り消された送り出し機関。航空券・宿泊代負担、失踪の賠償の記載あります。
3 社目は 1 社目と同じく現役認定送り出し機関 B の失踪の賠償金記載資料です。
こうした話に乗ることのないよう、自制心をしっかり持ち、リスクをきちんと考えるようにしてください。また、自身の監理団体が違法な契約をしていなくても、OTIT からは怪しまれ、監査時に厳しいチェックを受けること間違いありません。OTIT から「新規で受け入れしないように!」なんて注意・指導の可能性もあります。
更に大規模面接を餌に調子に乗って高額なキックバック、管理費の未払い等のわがままを尽くしていた監理団体がありましたが、送り出し機関も腹に据えかね、各種証拠を OTIT に送付したというとんでもない話もあります。送り出し機関との関係性を勘違いすると、痛い目に遭うことを努々忘れないようにしてください。
赤枠:キックバックの記載。当然、違法行為。
OTIT が重点監査する項目のうちの 1 つ。渡航時の費用精算(領収書の有無)
大阪のせこい監理団体は送り出し機関に払ってもいない宿泊代の領収書を切らせていました。
失踪原因は多岐に渡り、日本側にもかなりの原因がある場合も多いです。
送り出し機関が賠償するのは意味不明です。
(4)求人を出すにあたり(給料はなんぼ?人材要件はどこまでできる?)
〇 採用面接希望日・配属希望日から逆算したスケジューリング
人気職種と不人気職種、求人要項次第で募集にかかる期間が大きく変わります。人気職種であれば、採用人数次第ですが、最速 2 週間前でも対応可能です。不人気職種は 1 か月~2 か月、場合によって、不可能な場合もある為、事前に送り出し機関に相談するようにしてください。
〇 給与
前述の通り、高いに超したことはありませんが、手取り 12 万円以上が望ましいです。(2023年現在手取り額はもう少し上がっております。)農業等、月々の収入に波がある場合、年間の収入をきちんと提示することが必要です。残業については、約束できないのであれば、変に記載しないほうが望ましいですが、残業がないと嫌がる実習生も多いです。(基本的には固定給ないし、月額最低手取り額を明示し保証することが必要です。)
〇 年齢
基本的に実習実施者の希望に沿うことになりますが、不人気職種、特に建設・縫製の場合、年齢が高かったり、偏ったりすることがあることを事前に承知しておいてください。不人気職種と言われるものほど、要望は通りにくくなります。但し、それも待遇次第で変わります。
〇 学歴
送り出し機関では基本的に高卒を募集することが多いが、建設・縫製等には学歴を問わない・問えない場合も多いです。反対に、専門卒・短大卒等、高いほうに希望を出すことも可能ですが、3 倍を切ったり、そもそも断られる可能性もある為、要相談です。(2023年現在、募集人員の3倍は集まりません。せいぜい1.5〜2倍程度の人数がやっとです。)
高学歴者を技能実習にて受入したい場合、学歴を消し、その間を対象職種への在籍期間を詐称する場合も多いので、その場合、後に本人が大卒の学歴を利用して技人国などでの再来日を希望する場合は、その選択肢を消してしまうことになりかねないので要注意です。
〇 経験(職歴)
熟練度次第です。かじったことがある、数年程度の経験がある程度であれば、可能ですが、基本的に日本で教えるスタンスで採用にあたるほうがいいと思います。日本語ができれば、入国後に教えた方がよほどいいです。なぜならば、日本の常識(現実)とベトナムの常識(現実)は、驚くほどに違いがありますので、いっそのこと何色にも染ま ってない人材の方が後々良い場合があります。
例えば、ベトナムにおける自動車整備はまだまだこれからで、専門学校・短大等での専攻も決して多くはありません。経験者を希望しても 1 倍集まるかどうかです。バイク修理・機械いじり経験者程度の縛りまでしか対応が難しいです。送り出し機関によっては、自前で自動車整備の訓練をしているところがありますが、他の職種にも言えるように、変な癖がつくより、学習意欲が高ければ、来てから覚えてくれればいいというスタンスのほうが現実的です。
即戦力レベルを求める場合は、そもそも実習生を雇用すること自体が間違っています。技術移転が目的の制度である以上、あくまで「人材育成」が基本であります。わかりやすいところで、1~5 年程度のベトナムでの建設業験従事経験がある人材は割と集まります。
但し、それはベトナムの基準であり、ベトナムのやり方での話であります。裸足にサンダルで現場に出入りし、安全帯も何もない木の足場等、日本ではありえない現場も経験にカウントされます。「外で肉体労働したことがある」程度に下げて判断する必要があります。安全衛生の意識はかなり薄いです。
余談ながら、ベトナムでは熱中症がありません。どうしてかというと、暑ければ休むからです。作業着を脱いで作業をしますし、日本のように無理はしません。東南アジアは変にトロピカルなイメージが先行し、暑さに強いと思われていますが、その逆で暑いときは休んでいますので、日本の建設現場のような環境はあり得ません。(その為、屋外作業時は体調管理に注意することが必要です。)
経験者=日本で使える経験者とは違います。なまじ経験があると、自己流でやられる可能性もあります。自動車整備の場合、ベトナムでの整備技術では日本の車検は通りません。入国までに専門用語をきちんと日本語で覚えてもらう方がいいと思います。
〇 利き手
指定可能です。求人を出す前に実習実施者に利き手の希望を必ず確認することです。利き手については幼児期に直されることもあるので、箸は左、通常は右という候補者もいるため、面接で詳しく確認した方がいいと思います。
〇 視力・色盲・体臭
ある程度の指定は可能です。最近の若いベトナム人は視力が低いことがままあります(1.0 以下)。視力に対するこだわりの有無、眼鏡着用の可否、コンタクト使用の可否、又、色盲の可否を確認することが必要です。面接時に検査をするのが望ましいです。但し、色盲については日本では差別にあたるため、検査には十分注意が必要であります。
又、合格から入国までの間に視力が落ちることも割とありますので、送り出し機関が実施する在留資格認定証明書交付後の健康診断の結果には目を通しておくほうが良いと思います。
送り出し機関から自発的に申告があるのは B 型肝炎等の大きな問題のみで、視力はスルーされることが多いです。
とび職等、高所作業につき、視力にこだわりがある実習実施者も存在する為、入国前の健康診断の結果を日本側から見せるように積極的に要望することをオススメします。
また共同生活等があるため、体臭持ちは後々のことを考えて考慮する必要があります。もし体臭持ちの子が送り出し機関にいるのが確認出来た場合、事前にワキガの手術を勧めて、面接時に不利にならないようにした方が良いと思います。
入国後、健康面でトラブルになると、途中帰国云々に繋がり、非常に問題が複雑化するので、要注意です。
〇 試験
実技試験の指定も可能です。但し、実技試験を希望する場合、求人を出す時点で送り出し機関と相談してください。実技試験の内容によっては、ベトナムでは準備できない、仮にできても、非常に費用がかかる場合があるためです。基本的に大抵の場合は送り出し機関が実技試験にかかる費用は負担しますが、それも常識の範囲内に限ります。高すぎる費用はそのまま実習生に転嫁される可能性もあるため、折半など負担を分けるほうがいいと思います。
また、専門的な素材などの場合、可能であれば、日本から持ち込むことが望ましいです。体力試験も可能ですが、正直、同世代の日本人よりも間違いなく体力はあります(笑)
〇 タトゥー・刺青
送り出し機関はそもそもタトゥーのある人材を入校させることはあまりなく、面接前に素っ裸にして確認しているところもあります。あまりにも募集が厳しい場合のみ、監理団体に相談することはありますが、タトゥーがある人材が面接が参加することはほぼないです。(2023年現在、求人がかなり厳しい状況となっていますので、不人気職種ほどタトゥーの入っている子がいるようになりました。)
タトゥーが入っている人材は、クラブなどに出入りしていることも多く、クスリをやっているケースが多いです。基本採用してはならず、面接にも入れないほうが無難です。
監理団体が最も注意すべきこととは、求人の要項をコロコロ変更したり、追加したりしないことです。ドタキャンも含みます。
何故なら、募集は送り出し機関の信用に直結するからです。送り出し機関は監理団体の求人を受け取ったあと、募集を始め、面接に参加すべく、徐々に候補者がド田舎から送り出し機関に集まってきます。 にも関わらず、集まった後に、「〇〇歳は、やっぱりダメ」「左利きはダメ」「視力低いのはダメ」等と二転三転したらどうなりますか?候補者の中で、不信感が芽生え、特定の送り出し機関に不信を抱けば、二度とそこで面接に参加しなくなる可能性もあります。
また、日本以上に SNS 社会であるため、情報の拡散は驚くほど速いです。期せずして悪評が広まってしまった場合、会社として立ち行かなくなってしまうほどであります。ベトナムだからではなく、ビジネスのマナーであり、常識であります。後出しジャンケンほど、迷惑なものはありません。
監理団体にしても、求人内容や条件がコロコロ変わる実習実施者を信用などできるわけがないのではありませんか?送り出し機関にとってもまるっきり同じことが言えます。
なお、求人の段階からミスマッチを防ぐため、監理団体でヒアリングシートを用意する場合があります。そのヒアリングシートは給料条件や面接内容、その他人物要望などを記載して、事前に送り出し機関に送り、求人をかけます。 このように求人条件をきちんとしているところは、良い人材を集めることができます。
⇒ 第4章 採用面接について へ続く