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マンタムのブログ

この世にタダ一つしかないカタチを作ろうとしているのですが出来てしまえば異形なものになってしまうようです。 人の顔と名前が覚えられないという奇病に冒されています。一度会ったくらいでは覚えられないので名札推奨なのでございます。

11月26日迄パラボリカで開催されている ボックスアート展 「箱の中の詩学」の為に作った作品の為の文章です。

会場の私の展示作品の前に置いてあるのですが読んでいいかどうかわからなかったので読めなかったという声が多かったのでこちらに記載する事に致しました。

今回私の作品は一階会場とショーウィンドウに展示されております。

ショーウィンドウの作品はショーウィンドウの中に入って直接ご覧頂けますが受付で一言ことわって下さい。

11月15日より作品が2つ追加されていてそれの為の文章を最後に付け加えられています。






5

つの夜の為の夢を箱に詰める

今回の箱を元にした作品は 大阪の月眠ギャラリーで展示されていた 「 馬の左の脳は時を
刻む 」 「 馬の右の脳は昼と夜を刻む 」と今回のパラボリカでの展示の為に作られ外の
ショーウィンドウに飾られた5作品になります。

この小冊子はショーウィンドウに展示された作品の解説になります。

宜しければ手に取りお読み下さいませ。

+ + + + +

今回の箱の為の5つの作品は箱に夢を詰める作業でした。
夢から離れる刹那砕けて分解して行く曖昧さ、空気や匂いの断片のようなものを少しでもつな
ぎ止める為に記憶の糸を辿り記憶を物という記号に替えて貼付けて行く作業でもありました。
一度貼付けた物でもそれは大きさや時間が違っていたりしたので何度も置き換えながら曖昧な
記憶を呼び覚ます作業は意外と楽しいものでもあったのです。

この夢はほぼ見たときの感覚で復元され箱に詰められているのです。

中には5つそれぞれの夢の話がaからfまでの記号で作品と合一するように書かれています。
この小冊子を開いてご覧になり
この文章と併せて見て頂いてもあるいはこの文章を素通りして作品だけを見てもらってもそれ
は構いません。

ご自身で判断されるようお願いします。








         a


「 夜 頼まれていた 荷物を運ぶ 」

私は捜していた家をようやく見つけドアを開けようとした のだがそこのドアノブは握ろうとすると水栓のようなもの に変わってしまいただくるくると回り続けてしまうばかり だった。

そうか 鍵をささなければならないのかと預かっていた鍵 を鍵穴に差し込もうとするのだが今度は鍵がどうしてもう まく入らない。

奇妙に思って鍵穴を覗くとそこには鳥が居て嘴で鍵をつつ き返していたのだ。

これではどうやってもドアを開けられないではないかと徒労感に襲われ諦めてトラックに戻るのだがトラックはいつ の間にか子供の玩具になっていてしかもこわれてしまって いるので最早どうにもならないのだった。

夜空にはさっきまで荒れた道を照らしていた月さえなく私 に出来る事はもうなにもないことを思い知らされるばかり なのだ。






         b

「 脳 貝 」

大きな船が沈みその海底にあった私の観察対象であ る貴重な珊瑚が被害を受けているという連絡で私は 調査に出かけた。

アクアラングを着けその海底を調査しているうちに 見た事もない奇妙な巻貝が群生しているのを発見し た。

その巻貝は人の頭程もあり殻皮がなく真珠層がむき 出しになっていた。

勿論 そんなものは見るのも初めてである。 しかも皆一様に同じような大きさで群生しているの
でそれはまるで子羊の脳を剥く前の頭骨が海底に敷 きつめられているような不気味さであった。

私は砕けた珊瑚と一緒にその内の一個を回収し研究 室に持ち帰りその貝を調べてみたらそれはその遺伝 子から人間の脳が変化した物である事がわかった。

その遺伝子情報は沈んだ船に乗っていた少年の物で ありそれだと海に沈んでから脳が貝のカタチをとっ て生存していたということになる。

ただ構造的な問題からかそう長くは生きられないら しく3日と持たず脳の部分は溶けて貝だけが水槽に 残っていた。 海底の貝も同じで次に調査に入った時には貝殻が転 がっているだけだった。

以来私は脳の研究をしている。

私は貝の研究から脳について新たな発見を多数した がこれは本当に非常に興味深い分野なのである。
        





         c




「 ヴィオリンは木に戻る 」

バイオリンの練習はいつまでたっても好きにはなれ なかった

もともと 母親に強要されいやいややっていただけ だからだ

いつしかバイオリンをみるだけでも心が詰まり吐き 気さえおぼえるようになってしまっていた

私はどうしてもバイオリンから離れたくて学校でわ ざと多くの問題を起こし性格や行動等を矯正させる
ための寄宿舎に収容された その牢獄と変わらない寄宿舎での生活というのは不 自由極まりないものだったがそれでもバイオリンを 弾かなくてすむ事はいくら神さまに感謝してもたり
ないと思えるものだった

子供の頃からずっと神さまにお願いし続けて15歳に なって寄宿舎に入ってそれでようやく解放されたの


ここには面倒な矯正師やその手先のような上級生が たくさん居てそれはそれで厄介だったがバイオリン の練習をさせられ失敗すると罵られ自由を奪われる 生活よりはまだ余程ましだったのだ

でも 今年の夏こそは家に帰らなければならず母親に課せられた課題曲が弾けなければならないのだが 勿論練習等できている筈もない

やむなくしまい込んでいたバイオリンを引っ張りだ したのだが既にバイオリンはもともとそうであった 木に戻ろうとしているところだった

当然そのままでは弾く事も出来ないわけだが母はこ れをみたら諦めてくれるだろうかと考え だが 練 習していなかったから木に戻ろうとするわけだから 結局激怒することになる母親の事を考えると自分も このバイオリンと同じように原初の存在に戻れば良 いのにと願うのだった





d



「15歳になる迄解剖絵を見る事が出来なかった」

私は解剖絵が怖くてしかたがなかった。

それは自分が解体され内蔵や骨を剥き出しにされて いるような恐怖を常に憶える物だったからだ。

まだ本当に頃は幼かった頃は本を開き少しでもそういうも のが見えると私は母親の背中に隠れて泣きわめいた ものだ。

中でも脳の絵はひときわ私の恐怖心を煽る物だった。

例えば文章で 頭が割れ柘榴のように脳が飛散した というようなことが書いてあるだけでも一ヶ月はそ の恐怖から逃れる事はできなかった。

これは当時の私の恐怖にカタチを与えたものである。





e



「 魔法瓶から抽出されるもの 」

魔法瓶には真空とそのなかで無限に反射され増大し 続ける光で溢れている。

それは本来途方もない可能性を秘めたエネルギーに 違いない筈なのだ。

私は魔法瓶の中に封印された真空の温度を絶対零度 まで下げその中で何の抵抗もなく無限に反射し続け る光を抽出することに成功した。

その光は魔法瓶の口からもれ徐々にではあるが物質 を形成し始めている。


それがなにでどこからどうやって抽出されるかは今 回の展示で明らかにされるであろう。






f - #1



「 世界樹の枝 」

ある夜酔った父親が持って帰って来たのは何処から 折って来たのかという小さな木の枝だった。

父親は自慢げにこれは世界樹の枝だと言い 馬鹿な魔法使いを騙して手に入れたのだと自慢した。

母親は あぁ そうですか と聞き流し それをそ のままその辺りの瓶にさし 家族の誰もがそんなこ
とを忘れた頃 枝はゆっくりと根をはやしはじめて いたのだ。


それは最初小さなもので良く分からなかったがやが てだんだんと成長しカタチをはっきりと認識出来る ころにはちゃんとした鳥の足になっていた。

それは瓶の淀んだ水の中にいるボウフラみたいな小 さな虫を器用に捕まえるとそれを足の付け根にある 口のようなところにもっていって食べているようだ った。

私は怖くてしかたがなかったがどうしても見たくな って だが 見ると夜が恐ろしくなり朝迄ベッドの 中で怯えているのだった。

ある日母親にそのことを話したのだけれどもうそん
な存在の事さえすっかり忘れていて既に見る事さえ 出来なくなっていた。

父親に話しても彼は夢でもみたのだろうと言うだけ でとりあってもくれなかった。

それならと私は意を決し瓶の中の水を捨て箱に封じ たのだがある日異音がしたのでしまいこんでいた箱 をひっぱりだしてみたら枝は成長して入れてあった 箱を突き破って大きくなっていたのだ。

私はすっかり怯えてしまい以来その瓶のことは出来 る限り思い出さないようにしている。

だが 思い出すと箱はいつの間にか私の手元にあり その成長を見せようとしているようなのだ。




f - #2-a



「 世界樹の枝 」


私はある時どうしても怖くなってその瓶を割り中の水を捨てた。


それでどうにか成長は止まったようなのだが でも時々足がひくっと動く事があるのだ。


いつかこの足が瓶から這い出して来て私の喉を切り裂くのではないかと考え私は今そう寒くなくても喉にマフラーを撒くようにしている。







f - #2-b



「 世界樹の枝 」

中の足も枝も確実に成長している

いつか瓶を破って出てくるのではないかと恐くなり私は瓶を金属線で補強しヒビになっていたところも鉛で接いだりしていた。


だが瓶の中の虫もだんだん少なくなって来たらしく気がついたら足は鳥の頭に変っていてより効率よく虫を捕食していた。


足をどうしたのだろうと更に観察していると足はやがて箱から突き出した枝から生え始めているのだった。


つまり今この鳥は頭を瓶に突っ込んで虫を食べている事になるのだなと理解したが同時にこのまま成長するとやがて枝を付けた鳥になり好きなところに飛んで行ってそこで新たな世界樹となり新しい世界を作るのかもしれないと考えたのだ。


それは良い事か災厄なのかはわからなかったが少なくともこの瓶の中にいる限り何も変わらないということが私を安心させ同時に自身を失望させるのだった。






           end




+  声を奪われてしまった少年の魂を宿したキメラ犬 ヤン の 物語  +






 

その国は決して強い国ではありませんでした。

 

ですから強い国からの侵略に備える為それなりにですが軍隊も作りましたし侵略者達が少しでもその国を壊しづらいようにたくさんの美しい建物を建て彼らをより理解する為に侵略者達の文化や政治の研究もしていました。

 

でも彼らの軍隊は数も少ないし装備もたいしたものではありませんでした。


ですからそれだけで防ぐ事は出来なかったので侵略されないように近隣の国と色々な約束事を作りもましたが実際に戦争がはじまってしまうといとも簡単に反故にされて折角の美しい建物も粉々に壊されてしまったのです。

 

それでも50年程戦いのない平和で静かな時代が続いていたことがあったのですがある時突然侵略を受け王様も彼を支えていた大臣や兵隊達も皆掴まって処刑されその国からやってきた領主という役職の大きな頭のしかめ面な老人と彼に仕えている太った魔法使いが代わってこの国を支配するようになったのです。

 

それでも最初の頃はまだ人々の生活が大きく変化する事はありませんでした。

 

税金だってそんなに変わらなかったし食べるものや生活に必要なものが滞ることもありませんでした。

 

でも その国の歌を歌う代わりに侵略者達の歌を唄わなければいけなくなり食べるものやお酒も侵略者達の好みに合わせて少しずつ変えられていったのです。

 

折角美しく作られた建物も彼らの都合で死んだような色に塗り替えられ通りのあちこちに据え付けられていた彼らを守り和ませていた神様や精霊の彫像も侵略者の英雄達の姿に代わって行きました。

 

そのうち侵略者達は学校を作り自国の言葉や文化をその国の子供達に教え始めました。

 

それからそう経たないうちに彼らの言葉以外は使ってはいけないという法律迄作り何処か遠い国での戦争の為にその国の若くて元気な青年を戦場に連れて行くようになってしまったのです。

 

その少年の父親は青年というにはもう年を取りすぎていましたが屈強で勇敢だったので兵士長に選ばれそれは名誉なことだとされて戦争に行くように命令されました。

 

父親は少年と2人暮らしで自分が戦争に行ってしまうと他に預けられるところもなかったので断りたかったのですがそれはできませんでした。



もし父親が行かないのなら代わりにまだ15歳にもならない少年達迄戦場に連れて行くと言われたからです。

 

父親は他の大勢の村の男達と一緒にくすんだ緑色に塗られたトラックに乗せられ少年は残された犬のヤンと近所の人たちに助けられながらなんとか父親のいない生活を成り立たせていました。

 

少年はちゃんと躾けられていたので近所の人たちの好意にただ甘える事はなくヤンと一緒に荷車を引いたり山羊や牛を追ったりして村人達の暮らしを手伝っておりました。

 

だがある日見回りに来ていた兵士がこの国の自由を取り戻そうとするレジスタンスと戦闘になり戦死した事でそのレジスタンスを引き渡さねば皆殺しにすると領主は村人に宣告したのです。

 

ところが誰もレジスタンスを引き渡すような事をしなかったので村人のなかでも主だった長老達が最初に捕まり見せしめとして処刑されそれでも誰もしゃべらなかったので今度は村そのものが焼かれてしまいました。

 

火を逃れてなんとか逃げ出した少年も村の出口で兵士に捕まりそれを助けようとしたヤンは銃で撃たれてそのまま動かなくなりました。

 

少年はヤンを抱き上げたかったのですがそれすら叶わず他の村人達と領主の前に引き出されそれぞれに審問を受ける事になりました。

 

少年はレジスタンスの事は勿論彼らの知りたい事には何一つ答えず領主に向かって

 

「領主という多くの人たちに責任ある人間が兵士や銃を使ってナイフひとつ持っていない人間を脅して殺して大切な家迄焼いてそれでも恥ずかしくないのか?そんな人間の知りたいことなどなにひとつ答えたくない」

 

と答えたのです。

 

領主は怒り兵士に少年を殺させようとしましたが魔法使いがここで少年を殺せば余計な反感をかうだけだからと止めて代わりにその少年の声を奪いました。

 

そしてそのまま少年は帰されましたが村はもう焼けてなにも残っていませんでした。

 

彼はまずヤンの姿を探しましたが何処にもなく住んでいた家も瓦礫と化していました。

 

村の有様は酷いものでした。

 

立て直すつもりで帰って来た村人達もしばらくすると惨状とそこに残されたあまりにも辛く受け入れがたい記憶に到底暮らす事の出来ない村だと諦めてだんだんと他所へと移って行きました。

 

何度か少年も一緒に行こうと誘われたのですが 少年は父親を待たなければなかったので村に残る事にしたのです。

 

ところがある日少年は村人達と離れて山羊の群れを追ううちに崖から足を滑らせて深い窪のようなところに落ちてしまったのです。

 

普段なら助けを呼べばいずれは誰か来てくれるような場所だったのですが少年には声がなく結局誰も気がつかないまま少年はそのままそこで死んでしまったのです。

 

少年が発見されたのはいなくなってからちょうど一週間が経った頃でもう少年は固く動かなくなっていました。

 

それでも村人達は動かなくなった少年を村の外れに住んでいる錬金術師のところに連れて行くと彼は少年のなかでまだ助けをもとめている声を見つけてそれを水晶の坩堝で精製して少年の魂を呼び戻す事に成功しました。

 

ただ少年の体はもう冷え過ぎていて使えなかったので魂を彼が作ったキメラに移植したのです。

 

そのキメラの母体は村が焼かれた日に村人達を助けようとして焼けた村で見つけた銃弾を受け動けなくなっていたヤンでした

 

 

 

 

 

 

ヤンは少年の魂を受け入れ少年はヤンの体を手に入れました。

 

錬金術師はレジスタンスの指導者の一人でもありました。

 

侵略者に対しての抵抗運動としてはじめたものですが僅かな敵を倒しただけで村ひとつが焼かれしまいあまりにも多くの犠牲を払う結果になってしまった事を彼は苦悶しそれでキメラで戦う事を考えたのです。

 

ですが合成生物であるキメラは元々複数の魂が混在していて干渉し合うため余程強い魂でないと歩く事さえ叶いませんでした。

 

ですが少年の魂を得たキメラは小さな羽を動かして空を飛ぶ事さえ可能にしたのです。

 

結果として成功したのはこの少年のキメラだけでそれは少年の魂が強い必然によって存在するものだったからでした。

 

錬金術師は彼の計画を諦めレジスタンスとしての活動も破壊工作等ではなく情報の収集等に努めしそこからのプロバガンダを主体としたものに切り替えようと考えるようになりました。

 

キメラとして与えられた特殊な能力があっても最新兵器で装備された軍隊にたった1匹ではどうにもならないでしょうしそもそも折角助けた少年の魂を危険にさらしたくなかったからです。

 

少年の魂はキメラに移植された時点でヤンや他の素体となった生物の魂と融合したため元の記憶を失いもともとそうあった生物として自身を認識するようになっていました。

 

それでも侵略者に対しての怒りや多くの同胞を失った悲しみは理解していたので錬金術師の言う通りに侵略者達の動向を探りレジスタンスの連絡係として働いたのです。

 

少年のキメラはヤンと呼ばれるようになりレジスタンスの希望となりました。

 

そのヤンの働きで知り得た多くの情報でたくさんの命が守られたのです。

 

でもやがてヤンの存在は侵略者達にも知られる事になりかつてヤンの村が焼かれたようにヤンを引き渡さねば古くから大切に守られ残された建築物がある美しい町を爆撃すると通告してきたのです。

 

それでも誰もヤンを侵略者達に売り渡すものはいませんでしたし誰もその町から逃げ出そうともしませんでした。

 

ヤンは戦うつもりでした。

 

もともと戦うために生まれてその為に存在していたのです。

 

錬金術師も同志であるレジスタンス達も誰もヤンを止めることはできませんでした。

 

ヤンは満月の夜 予告通り町の空を埋め尽くした侵略者達の航空兵器にその小さな羽で懸命に立ち向かいました。

 

キメラとして与えられた特殊な力と絶対の意思を持って敵う筈もない圧倒的な兵力と戦いました。

 

美しかった町は炎に包まれ多くの命とその記憶が失われました。

 

それでも多くの人たちがヤンの戦いを見守っていたのです。

 

明け方になってようやく戦闘が終わった時にはもう空を飛んでいるものはなにもありませんでした。

 

 

この後 ヤンを見たものは誰もおりません。

 

それからしばらくして侵略者達はこの国から出て行きました。

 

 

侵略者から兵士として連れて行かれた人たちもようやく帰されて故郷の土を踏む事が出来その中には少年の父親もおりました。


天空に大きな月が昇った頃 父親はようやく懐かしい故郷にたどり着きました。


彼は少年に会えると思っていて嬉しくて家に戻ったのですが 故郷も自分の家もまだ焼け跡のままでそこには見た事もない小さな羽が落ちているだけでした。

 

その羽が何を意味するのか彼にはわかりませんでしたが月の光に照らされたその羽をとても懐かしいものと感じそこで少年の帰りを待つ事にしたのです。

 

空には大きな月が金色に輝き焼けて壊れた世界を照らしていました。


この国も父親も何もかもを失ったけれどでもその金色の光の中には未来への希望があるように思えたのです。






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大阪で初めての個展になる「畜骸曲舞団」明日が最終日となります。

2年前に初めての個展2010年9月17日[金]~9月27日[月]田村秋彦・個展
「畜骸の中のサーカス」もしくは「錬金術師の憂鬱」(http://www.facebook.com/media/set/?set=a.101581776597020.2889.100002355935753&type=3 )をパラボリカ・ビスで開催してから個展と名のつくものはこれで3度目になります。

最初の個展以降兎に角作品を作り続け 作るという事を改めて考え続けなければならない日々を送っています。

元々は大阪で作るということをはじめて だが 色々あって東京に出ざるを得ない状況になり 東京で再度活動を始めたのですが それは大阪で映画等を撮り始めたときからそうだったのですが自分の名前を出す事等に何故か抵抗が有り結果映画の制作集団の名前も劇団の名前も当時の作品も活動履歴のようなものも自分の記憶の中にしか残っておりません。

残されていた作品も 立川で古道具屋店を始めた時に放火されてなにもかもを消失してしまったのでやはりなにも残っていないのです。

火事で当時持っていた物質的なほぼ全てのものをなくし その喪失感は今でも私の中にあるのですが 友人達の協力でどうにか新しい家と生活を手に入れたのです。

それからもう一度自身にまつわるあらゆることを再構築することになったのですがこれは相当にしんどいことでした。

だが その辺りからやはりどうしても止める事が出来なかったモノを作るということを再度はじめることになりそれから5年程試行錯誤しながらなんとなくだがそれなりのスタイルのようなものが見えて来て そこからあることをきっかけに 結果を出すということを初めて考えるようになり それが現在に繋がっているように感じます。

元々のあらゆる出発点であった大阪で個展を行う事は私にとって特別な意味を持つもので感慨深いものです。

当時 そして 東京で 一緒に活動していた仲間達で残っている人間はほんの一握りですし現在彼らと行動をともにすることはありません。

それでも彼らの事を思うたびにやはり言いようのない思いにとらわれるのです。


その個展も明日で終わります。



明日は一日在廊しその思いの中で過ごそうかと思っているのです。

マンタム展『畜骸曲舞団』
日程:2012年09月03日(月)~17日(月・祝)
時間:13時00分~20時00分
入場料:500円

企画:マンタム
共催:パラボリカ・ビス/夜想
会場音楽:松本じろ





http://getsumin-gallery.com/exhibition/2012/0821-243.php

◎月眠ギャラリー
〒540-0031 大阪市中央区北浜東5-3 植田ビル1F
tel:06-6944-9985/mobile:080-3826-0372(担当:北川)
e-mail:info@getsumin-gallery.com
web:http://getsumin-gallery.com/


海底の庭園

 

その魔術師は大切にしまっていた指輪をようやく見せてくれた

 

それは重い木で丹念に作られた机の裏側に隠すように組み込まれた小さな小箱に良く鞣された古い革に包まれていて解かれたその一瞬で私の心を掴んで離さなかった

 

これはもう300年は前になるのだがどんな術を尽くしても結局自分のものにならなかった女性の心なのだと

その魔術師は指輪を古びたランプの光に翳してみせた

 

その海底の中にしつらえた庭園を思わせる不思議な石は揺らぐ光をあびて不安定な影を作っていた

 

これは彼女の心そのものなのだと魔術師は告げ指輪をテーブルの小箱に戻すとそのまま椅子に深々と体を沈め寝入ってしまった

 

実際彼が自身の術でどのくらい生き存えてきたのかはわからないが既に彼の命は尽きかけていて20分も意識を保てれば良い方なのだと手引きをしてくれた彼の弟子が教えてくれていたのだがその通りだった

 

私はその指輪を用意して来た鉛の箔で包むと彼を起こさぬようそっと部屋をでた

 

部屋の出口にはその弟子が待っていて彼が途中で目を覚ますことがないよう更に念入りに呪文を唱えてくれた。

 

それから彼の使い魔達に気取られぬよう足音を殺す為に兎の革で作った靴を履きカケスの血で染めたフード付きのマントを着て銀の帚で自分の足跡を消しながら用意させておいた銀と鉛で窓を封じた馬車に乗ってそれでようやく港に着いたのだ

 

それから一ヶ月程の船旅の間も私は一度も船室から出る事は無く暗い部屋の中で指輪とともに過ごした

 

おおよそ2ヶ月程の旅路を経て屋敷に帰り着いた私に手紙が届いていたが彼はそのまま眠りから目を覚ます事は無く息を引き取っとっていたのだそうだ

 

弟子は彼の後を継いで魔術師となり必要な研究を引き継ぎ枯れ木のようになった彼の躯とそのままあの部屋で暮らしているらしい

 

そうやって考えてみれば彼にとってこのどうしても自分のものにならなかった女性の心こそが消えかけていた彼の命の火の源泉だったのかもしれない

 

私はこうやってようやくこの素晴らしい宝物を手にいれたのだが ひとつだけ 大きな間違いをおかしてしまっていた

 

 

一ヶ月もの間日の差し込まない船室で暮らしていたからか どうしても指につけたくなりある夜その衝動が押さえきれずとうとうその指輪に中指を通してしまったのだ

 

最初はちょっとつけてみるだけで でも その都度石の奥で揺らめく光を見たくて堪らなくなりそれを何度か繰り返すうちその指輪に封じられた いや そのものともいえるその女性の脳髄が私を支配しはじめ私は徐々にだが彼女の言いなりになるしかなくなっていたのだ

 

ただ それでも幸福だと思えたのは彼女が類い稀な同情心と良識を持ち合わせた女性であり彼女自身が決して支配したいとかそういった感情や思念を持っていなかったという事だろう

 

彼女は未だに自分が指輪に封じられているとさえ知らず自らの体を動かすように私を支配しているだけのことなのだ

 

彼女の心に満たされて私はそれを幸福と感じられるし少なくともそれはそれまでの生き方よりは遥かに心地よいものだったからだ。

 

私は魔術師が彼女を支配したいと望み決して叶わなかったその理由をそれでようやく理解したような気がしているのだ。

 

 

9月3日より関西では初めてになるマンタム個展 「畜骸曲舞団」が始まります。

9月3日~17日迄 

3日午後7時よりオープニングパーティ開催 何方でも入場できます。
4日か5日頃迄在廊の予定です。

畜骸曲舞団 

(河原に打ち捨てられた畜骸のなかで繰り広げられるサーカスとそれに加担し放蕩する錬金術師のドラマであること)



それは道路の端の背の高い草に隠れていたり、澱んだ中州だらけの川べりのどこかに打ち捨てられた畜骸だった。
 
 

 
 
 
 
 
 





















































































 
 
 
 
 
 
なんだかお前はすっかり痩せこけちまって、剥き出しのあばらの中はすっからかんでさ、もう蛆がたかることもできないくらいからっぽの抜け殻なんだよ。
 
 

 
 
 
 
 
 
 











l










 
 

 
 
 
 
 
骨をすり潰して白粉にしよう。
 
赤や緑に干涸びた内臓はそのまま泥水で溶いて顔や唇に塗ろう。
 
あばらから糸屑のような神経がはみ出した脊椎にロープを張って色とりどりの万国旗をつるそう。
 
すっからかんの胃袋に水を張って飛び跳ねる羽虫に曲芸を覚えさせよう。
 
其れ故死骸は馬でなければならない。
 
足を折ったまま放置され朽ち果てた荷役のつまらない馬だ。
 
名前すらなかったから誰に呼ばれることもなくそのまま干涸びたのだ。
 
 
 
 
 
長い戦争がやっと終わってくだらない死骸になってはじめて近くの子供達が見つけたのだがつまらなくてもう誰も見向きもしない。
 
月がたまに降りて来てその辺の瓦礫を照らしたがそれでもそのサーカスを見に来たわけではなかった。
 
 

 
 
 
 
 
 









 
 
 
 

 
 
 
サーカスはガラスに熱がこびりつくような夜にたまにはじまるがそれに必要な観客はいつもいなかった。
 
それでもオレは顔を赤や緑に塗りたくって白くだんだらに塗られたステージに立つんだよ。
 
火を吹くような炎天の下で破れた傘を広げてわらわらとステップを踏もう
 
どうでもいいリズムで世界を見限ろう。
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 




































































 
 

 
 
 
 
 
でもなんのことはない
 
それは昨日までのまだ笑う事さえ出来ない自分そのものだな。
 




マンタム 

mantam

大阪出身

1975年に初の映像作品となる 「畜骸曲舞団」を制作。

これが以降の作品制作の原点となる。

大阪芸大を拠点に自主制作自主上映活動、劇団等を結成し78年迄大阪で映画の制作と上映演劇活動を続ける。

79年頃上京

イメージフォーラムで「normal lamp」上映以降

83年頃迄吉祥寺 新宿 高円寺等で 上映 上演活動を行う

この時期より魔術研究に入り劇団活動にその成果を成そうと試み霊的劇団として「脳ト眼球ノ時代」を結成する

同時期暗黒大陸じゃがたらの江戸アケミ 斜眼帯 山本正志等と活動をともにしていたことがある
当時緊縛師としても活動し日活最後のロマンポルノシリーズで緊縛監修等を努め各雑誌に寄稿していた。



あらゆる活動を一旦終了させ84年頃より古道具屋修行に入る


2009年大阪大阪市立自然史博物館 ほねほねサミットに出展

2010年秋 パラボリカ・ビスで初の個展開催

以降パラボリカ・ビスを中心に個展 多くのグループ展に参加

企画展も手掛ける 

パラボリカ・ビスでの展示のほぼ全域にわたる美術空間設計を担当 

チェコ大使館チェコセンターで開催され好評を博したヤン・シュヴァンクマイエル氏への逆襲展を企画主催  

去年夏開催された マックス・エルンスト ヤン・シュヴァンクマイエル 上原木呂 展で美術監督で参加。会場入り口に椅子を天井に貼付けたオブジェを制作。

HYDEの最新PVに特殊美術で参加。作品が多数出演している。(今年のハロインで公開予定)

 
現在に至る
++++++骨のナカの悪魔++++++

 

 

時間はガラスのナカで作られている。

それはもうヒトが生まれる前のはるか古(いにしえ)から。

ガラスは本来固体ではなくてむしろ液体のようなものなのだ。

ただ、時間の流れが他のものと違うから固体のように見えるのにすぎない。

それはガラスのなかで時間が作られているからでそのためにズレがどうしてもできてしまうからだ。

ガラスのなかで時間を紡ぐのは<骨のナカの悪魔>にあたえられた仕事だが彼等も万能ではないということだ。

 

古代において時間の流れがゆるやかだったのは当時なにかしらの偶然によってでしか作られなかったガラスがあまりにも少なかったからだ。

だからそんなにたくさんの時間を作ることができなかったので時間はあまり多くなく、そのため今のように早く流れることができなかったのだ。

 

ガラスのナカにはタクサンの白く乾涸びた骨が転がっている。

それは悪魔や神に言葉巧みに惑わされガラスに引き込まれてしまった人間達の哀れな骸だ。

その骨のなかに悪魔は住み着いていてガラスのなかに引き込まれた哀れな人間を使って時間を紡がせている。

ガラスのなかはいつも夜で足下をとても冷たい水が流れている。

たまに差し込む光は月光のようであり、無惨に積み上げられた骨が森林の木立のようにみえる。

 

そのなかで捕らえられた人間は足下から水を体内に吸い上げ時間へと変える。

その課程で水と同化し時間へと変換されてしまう体内の水分のせいでその人間はどんどん乾涸びていき、やがてはささくれた骨になってしまう。

そうすると<骨のナカの悪魔>は時間を紡ぐことができなくなるのでまた哀れな犠牲者を得るために眷属である神や悪魔に依頼して次の犠牲者を自らのガラスへと封じ込めるのだ。

 

しかしそこから逃げる手立てがないわけではない。

吸い上げた水をつかって時間以外のものになればいいのだ。

それはそれはいろいろなものになれるだろう。

なにになってもいいし、なににでもなれるだろうがそれが自らを封じ込めているガラスを割れなければ意味がないということを覚えておかなければならない。

 

なににでもなれるがなれるのは一度きりだ。

なにしろなりたいものを一念に思い続けそれに変化していくのは大変なことなのだ。

失敗は許されない。

 

ガラスを撃ち破り外に飛び出すためのなにかだ。

試したことはないが別に生き物でなくても良かったのかもしれない。

そう、兎に角強くて固いなにか、それがあのいまいましいガラスを撃ち破るのだ。

 

<骨のナカの悪魔>のことはそんなに気にしなくてもよい。

あれは観察者のようなものでただそこにいるだけの存在だからだ。

 

問題はガラスを割って呪縛から逃れたアトのコトだ。

なにしろガラスに入れられた段階で肉体はそれまでのもとは全く違うものに原子単位で変質させられているのだ。

しかもそのガラスのなかでガラスのなかを流れる水を使って違うモノに自らの意志で変化してしまった以上、外の世界では存在のしようがないということにもなる。

多分これはガラスのなかにいた時間なども大きく影響するのだろうが残念ながら詳しいことはわからない。

ただ具体的にいうならなんとかガラスをうちわって呪縛を逃れたのだが、今の自分は霊魂のある小石のようなものにすぎないということである。

なにしろ神との約束をもたがえたことになっているのか救済さえもないので死ぬことさえもままならないのだ。

 

だが、いずれはなんとかなるのではないかと考えてはいる。

少なくともある程度の人間には一方的だがこうやって思念を送りつけることができるからである。

つまりこれは警告でもあるが救済を乞う要請でもあるのだ。

 

だれか、だれでもいい。とにかく助けてくれ。

俺はすぐそこにいる。

だが、見えるのだろうか?

もし、みえなければ硫黄を焚いてくれ、そうすれば苦しくて俺は咳き込むだろう。

おまえが見える範囲でおかしな動き方をする地虫や土塊のようなものがあれば間違い無くそれが俺だ。

もし、見つけることができたら必ず迷わず踏みつぶしてくれ!

気にしなくいい。

とにかく俺はその方法でしか自由にはなれないんだから。

救済とはつまりそういうことなのだ。

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その鮫のような小さな生き物は硫黄の煙のなかから沸きでてきたようにさえ見えたのですぐそれとわかった。

それは硫黄の煙の中でみるみる干涸びて行った。


私は身体にスイッチをいれるのには苦労したが何の躊躇もなくそれを踏みつぶしたのだ。

鮫の首は外れ背骨を引きずりながらそれでも生きようともがいていたが私はもう一度念入りに踏みつぶした。

靴のそこに奇妙な柔らかさの感触を楽しみながら足下にひろがる紫色の染みを眺めているうちに気付けば私は取り込まれガラスのなかで悪魔に飼われていた。

救済の意味を漸く理解し、悪魔に飼われたモノもまたその眷属になることがわかったのは暫くして自分もその眷属の一部になってからのことだった。

別にでもそれはあまりたいしたことに思えなかった。

これはわからないがヤツのいう救済が死を意味したものならそれはどうでもいいことだったし、もし私になりかわっているとすればそれはそれで多大な苦痛をなめているにちがいないからだ。

私はその苦痛から逃れようにもいろいろな人間の思惑に縛られて死を選ぶことさえできない状態だったからだ。

だから今のこの環境は快適とはいえないまでも苦痛や様々な思惑から解放されただけでも随分ラクなものだった。

当分はここにいるつもりだ。

彼等の眷属としてここで過ごそうとおもう。

踝を洗う水は冷たく鮮烈で時折差し込む光は月光のようだ。

青白くひかる骨は森林の木立のようであり、ここではだれも私の思索を邪魔するものはいない。

冷えきった空気を吸い込みながら私は私の思念のなかに生きている。

もう、生まれてからこのかたずっと私をしばり続け歪んでまともに動こうとさえしない身体もそれにまつわる煩わしい家族のことも嘲るような同情に満ちた他人の目もなにもかもが意味を失ったのだ。

ここは私のような人間に用意された理想郷だといえるものなのかもしれない。

 

 

         「 夜 歩く 犬 」

 





その犬は 夜を食べる

 

とても

 

長い時間をかけ

 

踞ったままである

 

私の廻りを徘徊して夜を食べ尽くしたので

 

それでようやく

 

朝が来たのだが

 

唯一

 

手の中に

 

残されていたものは

 

大切な人間の残骸であった。





+  +  +  +  +  +  +  +  +  +  +  +  +  +

 


もともとこの研究の依頼は先代である彼の父親が中国の貴人から依頼されたものだ。

 

それは不死の方法を開発する事

 

彼の家が16世紀初頭から延々と受け継がれて来た錬金術師の家系であって一部ではあるが豚の肉体を不死状態にしたという先人達の成果によるものである。

 

約束の期間は100年 そのために必要とされる資金の提供を受け彼の父親が始めた研究だった。

 

 

 

 
 + 研究を始めた先代にあたる彼の父親の研究に関しての風聞を元にした記事 + + 

 

 

 

20世紀にもなって未だに鍊金術師と名乗り先祖から受け継いだ怪しげな薬を作り動物と機械を組み合わせるような奇妙なオートマタを作っていた男の元に中国の貴人から不死薬の依頼を受けた事からこの物語は始まる。

与えられた期間は100年。

費用はその期間を研究に費やすのに充分な額を約束された。

それは彼の家が先祖代々鍊金術という名の下に継がれて来た家系であり元々血統等を大切にする中国人の依頼者に好ましく思われたからだろう

勿論その時代になお鍊金術の看板を掲げ研究を続けているもの等少なくともプラハ近郊では数える程でありしかも殆どが好奇心から来るような資料的な研究であったから中国人が彼を選んだのは他に取るべき選択肢もなかったからだとも言えるのだが。



本来的な鍊金術の手法では未だ不死に至る行程は発見されていなかったために彼はそれまでの生命のエリクシールを抽出する等と言う古典的な方法から離れ 先ずは死をより理解する為により死に近しい状態に自分を置いてそれにより生であることとどの一点から死に至るのかを理解する事で研究の糸口をみつけることに した。


 なにしろ100年と言う時間である。

自分の代でまず死を理解出来れば後の事は子孫達がやり遂げるだろう。

幸いと言うべきかどうかは微妙だが命を作り出す事を考えれば奪っていくことは比較的簡単だ。


しかもそういうことになら使えそうなものは先祖から受け継いで来た研究に残されていた。

それは飲む事で体内を構成する生命に関わる成分を分解し結果涙腺から液状化した生命という成分が抽出出来るという薬だったが偶然の産物のような代物でもあり実際の生命との起因も解明できなかった為に当時誰にも語られる事無く研究室の奥の保管庫に仕舞われたものである。

 
探してみると当時の記録とそれに付随する奇妙な首飾りのようなものが出て来た。


当時の資料によるとその生命成分を蒸着させたものと記してあった。

 
彼はその後の研究を継ぐ事になる息子に見守られながらその後23年と3ヶ月を彼が死している状態と信じて疑わなかった少なからぬ苦痛を伴う半死半生のような状態で過ごし彼自身の口述と息子による膨大な記録とその奇妙な首飾りに沢山の涙のような生命成分と残しこの世を去った。


その後研究は息子に引き継がれたが満足な結果を出す前に仕事を依頼して来た中国人の国は体制を変えて消失しその貴人も行方がわからなくなったことで研究は中座したままである

 

その後この話しが一部の知識人の間で知られる事になり「緩慢なる死」と名付けられ彼の涙を固着させたかのように見える奇妙な首飾りは珍品としてオークションで値を吊上げたという。

 

 

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その息子である彼が選んだ研究は生を物質的に分析理解することであった。

 

彼は被験者となった自身の妻と娘に危篤状態になる寸前迄の毒物を服用させそこから治療を行いその死の淵から生還していく状態を綿密に観察する事で生というものの物理的な側面を見いだそうとしたのだ。

 

生が物質として捉えられればその複製は可能なものになると彼は考えたのだ。

 

この実験は非常な熱意と慎重さをもって幾度も繰り返されたが望んだ結果は出せず彼の娘が繰り返された臨死体験によって自身に特殊な能力が身に付き神に近づいたと過信させる過度な思い込みを生む結果になっていた。

 

彼の娘は当時9才だったが実験を始めた5歳の頃から臨死体験によるものなのか他者の死を予見出来るようになりそれが王室関係者の死を予言したこと等によって一部の人間の耳目を集めるようになってしまったのだ。

 

この事は彼女とその母親である妻を増長させ徐々に研究への障害にさえなり始めていた。

 

ある時 より制御し易く扱い易い毒物とその手法を求めて中国西方に彼が旅をしている間に妻と娘は顧客でもある男爵家の依頼を受けある人物の死を予見するために臨死体験をするべく研究室にあった毒物を接種しそのまま昏睡してしまっていたのだ。

 

彼が帰り着き昏睡状態に陥っていた妻と娘を発見した時には既に手遅れであり危篤状態に陥っていた。

 

彼は混乱し悲しんだがなす術は無く2人の死は目前だった。

 

だが その現実は受け入れがたいものであり彼はどうしてもこの眼前の現実を認める事が出来なかった。

 

彼は本来試すべきではない方法だがそれによってこの認めがたい現実から回避しようと考えた。

 

その方法こそが結果としてだが豚の一部を不死にした術であり彼の家が未だ錬金術師として成立させ得ているものでもあった。

 

それは生物の時間を止めるという方法であり死なないというだけの不死術である。

 

そもそも成功例も少なくその結果はみな芳しいものと言えるようなものではなかったので長く封印されてきたものなのだ。

 

それでも それがどういう結果をもたらそうとも彼はどうしても二人とそれに依る自分を失いたくなかったのだ。

 

それから 言葉にもできないとても長い時間を娘と妻と彼は世界から隔絶され暮らす事になった。

 

生命として停まった時間の中でそのまま 横たわったまま 小さく呼吸する事しか出来なくなった妻と娘とその閉鎖された時間と空間のなかでいつ終わるとも知れない果てのない夜を過ごすのだ。

 

だが

 

そうやって 終わりの無い夜のなかに暮らしていたあるとき 「夜 歩く 犬」 が現れた。

 

それは 彼を包む夜を食い そこから夜が少しずつ消えていったのだ。

 

この犬が何者なのか彼は知らなかったこの犬が何者なのか彼は知らなかったがそれは本質において実験者の心の中にある未来への渇望でありそれが生み出した安全装置のようなものでもあった。

この不死術は時間を停止した状態を維持するだけど言うならそれはまだ未完成であり完成というにはその結果に向けて再度時間を進める必要があったからだ。

だがそれは見るべきではない結果を見る事にもつながることを彼はうすぼんやりと理解しはじめていたが

でも決して嫌なものではない。

そうやってゆっくり夜が明けて行く事は少なくとも恐怖ではなかったのだ。

やがて全ての夜を食いつくし 「夜 歩く 犬」 は闇と共に消えてしまい彼は未知の朝に取り残されてしまったがその手の中には娘のものか妻のかそれさえも判別のつかない不死状態になった頬だけが残されていた。


彼はそれを眺めてただただ涙を流すだけだった。

だが それは少なくともその時点において堪え難い苦痛ではなくなっていたのだ。


 


 

 

 

 

 

Po. noc





彼女は生まれた時から抜け殻でガランドウな存在だったがそれは彼女のせいではなかった。

彼女自身自分がいつ生まれたのか知らなかったしいつから今あるようにここにいるのかも理解出来ていなかった。

でも気がついたときには所々漆喰が剥がれ落ち古い木地がのぞいているロココ調の広間に家具や複雑なカタチをした自動演奏機械に埋もれるように置か れていたのだ。

彼女は豚の頭部に漆喰で塗られたガランドウのカラダを持つだけの存在だったがそれでも誰よりも美しい声で唄い他者の悲しみを理解する心を持ってい たのでこの家を訪れる多くの客に好かれていた。

家族は父親だけで彼はその古い格式張った家の主でもあったが誰でも受け入れ身分を問わずに相談に乗り悩みを聞いてやっていたので客足が絶えること はなかった。

元々人が絶えることがなく集められたオルゴールや自動演奏機械のおかげで賑やかだった広間は彼女の唄が加わることで更に華やかさを増していた。

天空に月が輝く良く晴れた夜には手入れの行き届いた中庭で彼女を囲んで唄を聞く事が集まった村人達の一番の楽しみになっていた。

やがて彼女の唄と存在は中央の貴族達の知るところとなり秋から次の春にかけての期間は父親につれられて特別仕立ての馬車で外国まで遠征するように なったのだ。

彼女は請われればどんな唄でも唄った。



当時高名だったあらゆる演奏家達と競演の機会を得て時代の寵児のように扱われたがそれでも慢心することは無く誰の要求であろうと応えあらゆる楽曲 を唄った。

彼女は一躍人気者となりサロンの寵児となったがそれを良く思わぬものも少なからず存在した。

それは彼女によって唄う場を奪われた歌い手やその関係者たちであり同時に異形のものを受け入れることのできない悲しい人間達だった。

彼らは彼女に恥をかかせようと現在の人間では唄いこなせないカストラート用に作られた楽曲を持ち込んだりしたがそれさえ彼女が苦もなく唄いこなし たので彼らの目論みは失敗に終わり逆に彼女の名声を高める結果に終わってしまった。

演奏を妨害したり客席から野次を飛ばしてみたりしたがたいした効果はなくむしろ顰蹙をかったのは彼らのほうだった。

彼らの多くは本来あるべき努力や持つべき誠意を持たず人間関係を利用する事で自分にとって都合の良い状態を得ようと考え行動する傾向にとらわれて いた。

それだけに彼女の有り様は本来あるものよりも更に強大に感じられ彼らの憎しみと敵意を日々増大させていた。

そもそも彼女は人でさえないのだ。

言わば便利な自動演奏機械のようなものでそんなものが自分たちの大切な仕事を奪って行くのを許すべきではないと考えるようになったのだ。

彼女を殺すのではない。

余計な機械を壊すだけだ。

新大陸で自動的に鉄道の線路の釘を打つ機械が発明され多くの黒人の仕事を奪おうとした時それと闘って機械を廃棄させた黒人のように我々は我々の権 利を守るのだ

そのすり替えられた思考は談合するたびに歪み徐々に具体的な計画となりある冬の夜それは実行された。

演奏会の帰りにたまたま父親が別件で人に会う為に彼女をその屋敷の召使いに任せたのだ。

だがその召使いは幾ばくかの金を握らされて彼らを招き入れてしまったのだ。

殺しはしない 

それは酷いことだから 

我々は貴女を唄えなくするだけだ 

そうしないと我々が生きて行ける場所がなくなるからだ 

貴女は食べなくても生きて行ける体と環境があるが我々には日々のパンが必要なのだ 

惨い事だとは思うが理解してもらいたい 

出来るだけ手早く済ますつもりだ 

ゆるして欲しい

彼女は抗弁したかったがそれさえ許されなかった

彼女が助けを呼ばないように用意してあった口かせを閉め込まれていたからだ

彼らは用意してきた解剖刀で彼女の顎の下を切り開くと金属の口かせで押し込められ小さくなっている舌を根元から切り取り咽頭を砕いた。

それから切り開いた顎を縫い合わせると口を開く事が出来ないように金属製の固定具で下顎を固定した。

彼らは切り取った彼女の舌を切り刻むとそれを皆で食べてしまった。

彼女の舌には霊力がありそれを食すれば美声が出せると口かせを作った魔導師がそう彼らにふきこんだからだ。

でも もう彼女がそれを悲しんでいるかどうかさえ誰にもわからなかった。

舌がある事で唄って会話が出来たからでその舌を失ってはただの置物と変わらないからだ。

次の日の朝になって彼女の異変は帰って来た父親によって発見されたがもはや手の施し用はなかった。

多くの彼女の信奉者達が嘆き悲しんだがもうその時点では彼女が生きているかどうかさえわからなかったのだ。

やがて彼女は馬車に乗せられて家に帰って行った長い家路についた。

彼女が唄えなくなった事でそれまで湯水のように資金を出してくれていたパトロン達の支援が潰えたからだ。

父親は彼女のおかげで多くの人に囲まれ贅沢な暮らしが出来ていたわけだがこれからは節約して慎ましく暮らして行かねばならないだろう。

長い冬がようやく終わりを告げ解けた氷が道をぬかるませていた。

父親はあの夜彼女の元を離れた事を後悔していたがそれでも彼女を厳重に梱包した羅紗から解こうとはせず馬車の荷台に積んだままにしていた。

家を出るときにはずっと一緒に馬車に乗り歌を歌わせていたのにというのにだ。

家につくと大勢の彼女の崇拝者たちが悲報を聞いて駆けつけた。

彼女はようやく厳重な梱包から解かれいつもの場所に据えられたが会話する事も唄う事も出来ない状態では只の置物に過ぎずあらためて良く見ればそれ は奇怪で異様な存在でしかなかった。

それでも初めの半年ほどは時々様子を見に来たり見舞いにくる客もいたが一年が過ぎる頃には誰一人屋敷を訪れるものはいなくなり屋敷はだんだん荒れ 果てて行った。

それでも最初の5年程は彼女のおかげで蓄えた財産があったのでまだ暮らして行けたがそれも乏しくなりやがて借金を重ねるようになっていた。

ちょうどその頃ある友人が父親を元気づけようと手に入れたばかりの蓄音器という機械を見せに屋敷を訪れた。

その機械でよく彼女が歌っていた楽曲を友人に訊かせてもらううちに父親は彼に懇願しその蓄音器を譲ってもらっていた。

それをもう誰も見向きをすることもなく居間の隅で埃をかぶっていた彼女に組み込んだのだ。

ガランドウのカラダを切り開き蓄音器の機械を中に組み込み大きなラッパを頭に取り付けた。

そうやってレコードをかけてみるとまるで彼女が唄っていた幸福なあの日のような気分に浸れるのだった。

それではじめて父親は彼女の事を深く愛していた事を理解したが同時にそうやって音を出す事しかできない彼女の存在がたまらなく辛くも感じるのだっ た。

それでも父親は暫くのあいだ彼女と暮らしていたがある日忽然と姿を消してしまった。

付き合いは広かったが特に親しくしていた人間もいなかったので行方の探し用も無く親戚縁者などというものも現れなかった。

暫くして事件の可能性もあるとして警察が入ったことによってようやく彼女と父親の実像というものがつまびらかにされたのだ。

父親は鍊金術師の家系にあったがそれほどの才能はなく先人達の研究成果を切り売りするようにしながら収入を得ていた事。

あるとき先代からの顧客からの依頼で降霊を頼まれシャーマンを雇って研究するうち偶然降霊した霊を入れる器として彼女を使った事。

その器にされたものが彼女で 元は先代が当時の中国の貴人からの依頼で不死薬の研究中に投薬実験の副産物として生まれた舌と咽頭だけが不死となっ た豚の頭部を切り離したものでありそれに霊を縛るために高僧の骨から作った漆喰で塗り固めた身体と組み合わせたものである。

それは死を認識出来ない存在であり故に不死である為それは死者にとって自身を認知されない牢獄のようなものだった。

だが降霊された霊はその器を嫌わず共生しやがて自身の身体としてそれに合わせた新しい人格と記憶を紡ぎあげて行ったのだ。

元がどういう霊だったのかはもはや知る由もないし未だに彼女の中に存在するかどうかさえ定かではなかった。

やがて屋敷は借財者達によって競売にかけられ中にあった雑多な家具や自動演奏機械や先祖から受けついできた膨大な鍊金術の資料や薬なども皆二束三 文で売り払われた。
彼女はもともと彼女の事も父親の事も良く知っていた骨董商に引き取られたようだがその後を知るものはいない。

人々は時々彼女を思い出しそのうちの誰かがPo. Noc(月夜)と名付けた彼女の小さな墓を作った。

それは共同墓地の隅に作られた小さななにも埋まっていない墓だったが人々は彼女を思い出すとそこでもうすっかり遠くなってしまった日々に思いを馳 せるのだった。



今年の春にチェコセンターで開催された「ヤン・シュヴァンクマイエル氏への逆襲」展はおかげさまで好評のうちに幕を閉じました。

遠方からの来場者も多く在日チェコ大使にもお褒めの言葉を頂き感謝しております。

ですが チェコセンターがチェコ共和国大使館の内部施設であり大使館の営業時間内に限られた展示であったため見にいきたかったけど仕事や学校の都合で行けませんでした という声も多く改めて出展メンバーも入れ替え規模を拡大して再度展示を行うことになりました。



期間は 2011年10月28日から11月14日迄 会場 夜想 浅草橋 パラボリカ・ビス (現在迄に出品が決まっている作家さんです。)

衣倆 http://melsine.com/index.html
有賀真澄http://photozou.jp/photo/list/252829/906486
三浦悦子http://dolly.vivian.jp/gsn_doll/
neqro http://neqro.web.fc2.com/
マンタムhttp//mantam.web.fc2.com
mican http://www.mican-doll.com/
児嶋都 http://cojimamiyako.cocolog-nifty.com/
菊地拓史
森馨   
林美登利 http://www2s.biglobe.ne.jp/~midoti/
渡邊光也 http://www.galleryartcomposition.com/japanese/artist/watanabe_m.html

難波研(会場音楽)http://profile.ameba.jp/ken-namba/

>寺嶋真理(BGM映像)http://honey-terashima.net/
何卒よろしくお願いします。



マンタムのブログ

人は死ぬと世界の果てで鳥になる。
生きていたときの全ての記憶を持ったままで世界の果ての空を舞うのだ。
だが その鳥には足が無い。
だからいつまでたっても地上に降りて休む事が出来ないのだ。
その空には今迄の全ての死人が鳥になって空を埋め尽くすように飛んでいるのだ。

その世界の地表は全て砂漠であり永遠に夜が訪れる事は無い。

砂漠の真ん中には大きな穴があいているがその先には闇が見えるだけである。

その世界に自らの意思で転生することができればどんなものにでも生まれ変わる事ができる。

これは全ての事が叶うという事と同義である。

だがそれには条件があって一番大切なものを犠牲にする事と全ての記憶を奪われることである。

記憶は忘虫というものが食いつくしこの世界に入る時に鳴る忘鐘によって全ての記憶を喪失する事になる。

つまり多大な努力と犠牲を払ってこの世界に転生出来たとしても願望も目的すらも思い出す事ができないのだ。




 世界の果ての話

 

そこにはとても沢山の鳥がいて俺はそれを食べる大きな蟻喰いだった。

いつからそこでそうしているのかはどうしても憶いだせなかったが鳥は充分に空腹を満たしてくれたので俺はそのことについて あまり考えることはしなかった

その世界の中央にはとても大きな穴が開いていたが大蟻喰いにすぎない俺ではその穴を覗くこともおりることもできなかった。

たまにそばまでいって覗き込もうとはしたのだが俺の半円形にまがった鈎爪と不格好な4ツ足ではあまり踏ん張がきかずすぐに 滑りそうになるので穴の中がどうなっているかなんて皆目見当もつかないままだった。

周りは砂で埋め尽くされていてどこをみても同じ風景がただ延々と続いているだけだった。

俺はいつも穴の周囲をぐるぐる周りながら鳥を食い腹がくちくなるとそのままごろんと横になって眠った。

でも夜はやってこなかったので目が覚めてもどのくらい時間がたったものか見当もつかなかった。

そうやってまた長い時間がたったころ俺は脱皮して山羊に姿を変えていた。

前の身体の倍位もあるおおきな黒い山羊だった。

踵に不釣り合いにとがった蹄がありそれを砂にくいこませれば少しは立つことも出来た。

でもやることは変わらなかった。

腹が減れば鳥を食べてくちくなれば横になって眠った。

それでも体が大きくなったので前よりもっと穴が覗けるようになった。

踵に大きな蹄がありそれが以外とうまく砂にくいこんで上半身を支えてくれた。

俺はそれではじめて穴のなかを覗き込むことができたのだ。

穴はとんでもなく深くどこまでも続いているようだった。

ためしに砂を穴のなかに流してみたが砂はどこまでもただ零れていくだけだった。

この世界に終わりがないようにこの穴にも終わりがないのかもしれなかった。

俺はそれからたまに穴をノゾキにいくようになった。

降りてみたいという衝動にかられることもあったが流石にそれはできそうもなかった。

それにたいしたことじゃないが他に気になることもあったからだ。

俺は腹が減れば鳥を食べる、でもこいつらはなにを食べているんだ?

それにどうして減らないんだ?

俺の前の身体はどこへ消えてしまったんだ?

寝ているあいだになにかが起こっているのかも知れないとおもって眠らずにいたり寝たフリをしてみたりしたが別に変わった様 子はなにもなかった。

一度は砂の中に埋もれて姿を隠してもみたがやはりなにも起こらなかった。

でも俺はすぐにそういったコトにも飽きて穴も覗かなくなってしまった。

世界は何も変わらず俺は鳥を食い鳥は俺に食われ穴はどこまでも続いているだけだった。

そうやってまた長い時間を過ごして目覚めてみると俺はまた脱皮して今度はヘビになっていた。

前の身体が気にいっていたので少しがっかりしたが結局この新しいカラダに慣れるしかなかった。

新しい身体はおそろしく長かった。

鎌首をもたげて尻尾のほうを見ようとしても蜃気楼のようでそれがどこにあるのかわからないのだ。

でもこの身体でやることは決まっていた。

新しい身体に充分に慣れたころどこまでも伸びた身体中腹一杯鳥を食べ俺は穴の中に体を滑らせていった。

穴はどこまでも終わりが無かったが俺の身体にも終わりはない。

ただただ果てがないだけであまりにも同じ穴をただ落ちていくだけなので感覚はどんどんあやふやになり落ちているのか、上っ ているのか、それともただ真横に移動しているのかさえわからないしまつだった。

何度も眠りながら落ち続けそうやってかなりの時間が経過したころからアナの径はせまくなりはじめウロコがバリバリと岩肌を こすりキナ臭い匂いが鼻をついた。

更に厄介なことにこんなところまできて今さらハラが減ってきたのだ。

もう引き返すことなどできるハズもない。

アナはちょうどオレの胴とほぼ同じ径にまでせまくなっていてウロコをひっかけながらようやく前に進んでいるような状態だっ たからだ。

今さらウロコを岩壁から引き剥がして戻るコトなどできるわけがなかった。

いやでももう前に進むしかない。

鳥をハラいっぱい食いたいがここにはクチにいれられるようなものはなにもなかった。

このままいつか動けなくなってここでひからびるのかと思うと情けないものなのだろうがそれよりもなによりもハラが減って目 から火花が飛びそうだった。

なにか食えなくてもいいから口にいれられそうなものはないかと見渡していたら遥かに遠い暗がりの向こうで少女の首が道をふ さいでいるのがみえた。