「箱の中の詩学」展の為に作成された5つの作品の為に用意された文章です。 | マンタムのブログ

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この世にタダ一つしかないカタチを作ろうとしているのですが出来てしまえば異形なものになってしまうようです。 人の顔と名前が覚えられないという奇病に冒されています。一度会ったくらいでは覚えられないので名札推奨なのでございます。

11月26日迄パラボリカで開催されている ボックスアート展 「箱の中の詩学」の為に作った作品の為の文章です。

会場の私の展示作品の前に置いてあるのですが読んでいいかどうかわからなかったので読めなかったという声が多かったのでこちらに記載する事に致しました。

今回私の作品は一階会場とショーウィンドウに展示されております。

ショーウィンドウの作品はショーウィンドウの中に入って直接ご覧頂けますが受付で一言ことわって下さい。

11月15日より作品が2つ追加されていてそれの為の文章を最後に付け加えられています。






5

つの夜の為の夢を箱に詰める

今回の箱を元にした作品は 大阪の月眠ギャラリーで展示されていた 「 馬の左の脳は時を
刻む 」 「 馬の右の脳は昼と夜を刻む 」と今回のパラボリカでの展示の為に作られ外の
ショーウィンドウに飾られた5作品になります。

この小冊子はショーウィンドウに展示された作品の解説になります。

宜しければ手に取りお読み下さいませ。

+ + + + +

今回の箱の為の5つの作品は箱に夢を詰める作業でした。
夢から離れる刹那砕けて分解して行く曖昧さ、空気や匂いの断片のようなものを少しでもつな
ぎ止める為に記憶の糸を辿り記憶を物という記号に替えて貼付けて行く作業でもありました。
一度貼付けた物でもそれは大きさや時間が違っていたりしたので何度も置き換えながら曖昧な
記憶を呼び覚ます作業は意外と楽しいものでもあったのです。

この夢はほぼ見たときの感覚で復元され箱に詰められているのです。

中には5つそれぞれの夢の話がaからfまでの記号で作品と合一するように書かれています。
この小冊子を開いてご覧になり
この文章と併せて見て頂いてもあるいはこの文章を素通りして作品だけを見てもらってもそれ
は構いません。

ご自身で判断されるようお願いします。








         a


「 夜 頼まれていた 荷物を運ぶ 」

私は捜していた家をようやく見つけドアを開けようとした のだがそこのドアノブは握ろうとすると水栓のようなもの に変わってしまいただくるくると回り続けてしまうばかり だった。

そうか 鍵をささなければならないのかと預かっていた鍵 を鍵穴に差し込もうとするのだが今度は鍵がどうしてもう まく入らない。

奇妙に思って鍵穴を覗くとそこには鳥が居て嘴で鍵をつつ き返していたのだ。

これではどうやってもドアを開けられないではないかと徒労感に襲われ諦めてトラックに戻るのだがトラックはいつ の間にか子供の玩具になっていてしかもこわれてしまって いるので最早どうにもならないのだった。

夜空にはさっきまで荒れた道を照らしていた月さえなく私 に出来る事はもうなにもないことを思い知らされるばかり なのだ。






         b

「 脳 貝 」

大きな船が沈みその海底にあった私の観察対象であ る貴重な珊瑚が被害を受けているという連絡で私は 調査に出かけた。

アクアラングを着けその海底を調査しているうちに 見た事もない奇妙な巻貝が群生しているのを発見し た。

その巻貝は人の頭程もあり殻皮がなく真珠層がむき 出しになっていた。

勿論 そんなものは見るのも初めてである。 しかも皆一様に同じような大きさで群生しているの
でそれはまるで子羊の脳を剥く前の頭骨が海底に敷 きつめられているような不気味さであった。

私は砕けた珊瑚と一緒にその内の一個を回収し研究 室に持ち帰りその貝を調べてみたらそれはその遺伝 子から人間の脳が変化した物である事がわかった。

その遺伝子情報は沈んだ船に乗っていた少年の物で ありそれだと海に沈んでから脳が貝のカタチをとっ て生存していたということになる。

ただ構造的な問題からかそう長くは生きられないら しく3日と持たず脳の部分は溶けて貝だけが水槽に 残っていた。 海底の貝も同じで次に調査に入った時には貝殻が転 がっているだけだった。

以来私は脳の研究をしている。

私は貝の研究から脳について新たな発見を多数した がこれは本当に非常に興味深い分野なのである。
        





         c




「 ヴィオリンは木に戻る 」

バイオリンの練習はいつまでたっても好きにはなれ なかった

もともと 母親に強要されいやいややっていただけ だからだ

いつしかバイオリンをみるだけでも心が詰まり吐き 気さえおぼえるようになってしまっていた

私はどうしてもバイオリンから離れたくて学校でわ ざと多くの問題を起こし性格や行動等を矯正させる
ための寄宿舎に収容された その牢獄と変わらない寄宿舎での生活というのは不 自由極まりないものだったがそれでもバイオリンを 弾かなくてすむ事はいくら神さまに感謝してもたり
ないと思えるものだった

子供の頃からずっと神さまにお願いし続けて15歳に なって寄宿舎に入ってそれでようやく解放されたの


ここには面倒な矯正師やその手先のような上級生が たくさん居てそれはそれで厄介だったがバイオリン の練習をさせられ失敗すると罵られ自由を奪われる 生活よりはまだ余程ましだったのだ

でも 今年の夏こそは家に帰らなければならず母親に課せられた課題曲が弾けなければならないのだが 勿論練習等できている筈もない

やむなくしまい込んでいたバイオリンを引っ張りだ したのだが既にバイオリンはもともとそうであった 木に戻ろうとしているところだった

当然そのままでは弾く事も出来ないわけだが母はこ れをみたら諦めてくれるだろうかと考え だが 練 習していなかったから木に戻ろうとするわけだから 結局激怒することになる母親の事を考えると自分も このバイオリンと同じように原初の存在に戻れば良 いのにと願うのだった





d



「15歳になる迄解剖絵を見る事が出来なかった」

私は解剖絵が怖くてしかたがなかった。

それは自分が解体され内蔵や骨を剥き出しにされて いるような恐怖を常に憶える物だったからだ。

まだ本当に頃は幼かった頃は本を開き少しでもそういうも のが見えると私は母親の背中に隠れて泣きわめいた ものだ。

中でも脳の絵はひときわ私の恐怖心を煽る物だった。

例えば文章で 頭が割れ柘榴のように脳が飛散した というようなことが書いてあるだけでも一ヶ月はそ の恐怖から逃れる事はできなかった。

これは当時の私の恐怖にカタチを与えたものである。





e



「 魔法瓶から抽出されるもの 」

魔法瓶には真空とそのなかで無限に反射され増大し 続ける光で溢れている。

それは本来途方もない可能性を秘めたエネルギーに 違いない筈なのだ。

私は魔法瓶の中に封印された真空の温度を絶対零度 まで下げその中で何の抵抗もなく無限に反射し続け る光を抽出することに成功した。

その光は魔法瓶の口からもれ徐々にではあるが物質 を形成し始めている。


それがなにでどこからどうやって抽出されるかは今 回の展示で明らかにされるであろう。






f - #1



「 世界樹の枝 」

ある夜酔った父親が持って帰って来たのは何処から 折って来たのかという小さな木の枝だった。

父親は自慢げにこれは世界樹の枝だと言い 馬鹿な魔法使いを騙して手に入れたのだと自慢した。

母親は あぁ そうですか と聞き流し それをそ のままその辺りの瓶にさし 家族の誰もがそんなこ
とを忘れた頃 枝はゆっくりと根をはやしはじめて いたのだ。


それは最初小さなもので良く分からなかったがやが てだんだんと成長しカタチをはっきりと認識出来る ころにはちゃんとした鳥の足になっていた。

それは瓶の淀んだ水の中にいるボウフラみたいな小 さな虫を器用に捕まえるとそれを足の付け根にある 口のようなところにもっていって食べているようだ った。

私は怖くてしかたがなかったがどうしても見たくな って だが 見ると夜が恐ろしくなり朝迄ベッドの 中で怯えているのだった。

ある日母親にそのことを話したのだけれどもうそん
な存在の事さえすっかり忘れていて既に見る事さえ 出来なくなっていた。

父親に話しても彼は夢でもみたのだろうと言うだけ でとりあってもくれなかった。

それならと私は意を決し瓶の中の水を捨て箱に封じ たのだがある日異音がしたのでしまいこんでいた箱 をひっぱりだしてみたら枝は成長して入れてあった 箱を突き破って大きくなっていたのだ。

私はすっかり怯えてしまい以来その瓶のことは出来 る限り思い出さないようにしている。

だが 思い出すと箱はいつの間にか私の手元にあり その成長を見せようとしているようなのだ。




f - #2-a



「 世界樹の枝 」


私はある時どうしても怖くなってその瓶を割り中の水を捨てた。


それでどうにか成長は止まったようなのだが でも時々足がひくっと動く事があるのだ。


いつかこの足が瓶から這い出して来て私の喉を切り裂くのではないかと考え私は今そう寒くなくても喉にマフラーを撒くようにしている。







f - #2-b



「 世界樹の枝 」

中の足も枝も確実に成長している

いつか瓶を破って出てくるのではないかと恐くなり私は瓶を金属線で補強しヒビになっていたところも鉛で接いだりしていた。


だが瓶の中の虫もだんだん少なくなって来たらしく気がついたら足は鳥の頭に変っていてより効率よく虫を捕食していた。


足をどうしたのだろうと更に観察していると足はやがて箱から突き出した枝から生え始めているのだった。


つまり今この鳥は頭を瓶に突っ込んで虫を食べている事になるのだなと理解したが同時にこのまま成長するとやがて枝を付けた鳥になり好きなところに飛んで行ってそこで新たな世界樹となり新しい世界を作るのかもしれないと考えたのだ。


それは良い事か災厄なのかはわからなかったが少なくともこの瓶の中にいる限り何も変わらないということが私を安心させ同時に自身を失望させるのだった。






           end