映画「パーフェクト・ケア」と成年後見制度の悪用 | 成年後見日記

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話題の映画「パーフェクト・ケア」を新宿ピカデリーで観ました。

 

この映画は、アメリカの成年後見制度を悪用して、高齢者から財産を搾り取る後見人が主人公の映画です。

 

パーフェクト・ケア公式サイト⇒コチラ

 

 

どのように後見制度を悪用するかというと

①医師が虚偽の診断書(認知症の診断)を作成⇒②裁判所で法定後見人が選任される⇒③高級老人ホームに入居させる

という手口です。

 

ここでは、医師と後見人と老人ホームがすべてグルになっています。

 

被後見人が1人亡くなって、老人ホームに空室ができたので、後見人が医師のところに行って、次なるターゲット(身寄りがない資産家の独居老人)を紹介してもらい、後見人に就任したのち、本人を老人ホームに入居させ、自宅や財産を売却してしまいます。

 

ある日突然見知らぬ人が自宅にやってきて、「私があなたの後見人です。さあ老人ホームに行きなさい」と言い、自由を奪われてしまうのです。おそろしいですね…。

 

どうしてそのようなことが起こるのでしょうか。

 

この映画において、成年後見制度の悪用が可能となったポイントは以下の3つです。

 

①申立権者の範囲が広い

②後見開始の手続きに本人が関与していない

③後見人選任後、裁判所が監督機能を果たしていない

 

アメリカは州によって法律がちがいますが、参考にカリフォルニア州の後見制度(⇒コチラ)を見てみると、日本よりも申立権者の範囲がかなり広いようですね。

 

Who can file for conservatorship?
The person who wants to be a conservator can file. Others can file too, like a spouse, a relative, a state or local government agency (like the 
county Public Guardian ), or any other interested person or friend. Even the person who will be the conservatee can file, but that is extremely unusual.

誰が後見を申請できますか? 

後見人になりたい人は申請できます。 配偶者、親戚、州または地方自治体の機関(郡の公後見人など)、またはその他の利害関係者や友人のように、他の人も申請することができます。 被後見人になる人でも申請できますが、それは非常に珍しいことです。

 

おそらくこの映画でも、後見人(主人公)が申立てをしたのでしょう。

申立権者の範囲が広いと、悪用されてしまうリスクもあるんですね…。

 

また、カリフォルニア州では、申立てがあった場合、裁判所の調査官が本人と面談するという手続きがあるようですが、映画の中では、緊急の場合は本人の意見を聴かないと言っていましたので、本人の知らない間に後見人が選任されてしまったようです。

 

What does the court investigator do in conservatorship cases?
The court investigator gives neutral information about your case to the judge. The investigator will call you and set up a visit with you and the proposed conservatee. Sometimes, s/he will meet with you and the proposed conservatee more than once.

裁判所の調査官は、成年後見事件で何をしますか? 

裁判所の調査官は、あなたの事件に関する中立的な情報を裁判官に提供します。調査員があなたに電話し、あなたと申立てられた被後見人との面会を設定します。時々、調査官はあなたと申立てられた被後見人と何度も会うでしょう。

 

日本でも、申立てがあった場合、調査官が本人と面談したり、医師が鑑定をしたりする手続きがありますが、全件について実施されているわけではありません。

日本でも、虚偽の診断書が作成されてしまえば、本人の知らない間に後見人が選任されて、ある日突然審判書が届くなどということもあり得ますね…。

 

カリフォルニア州でも裁判所が後見人を監督する仕組みはあるようです。

 

Does the court investigator stay in touch with the conservatee?
Yes. In a year, the investigator will review your case again to make sure you are fulfilling your responsibilities as conservator and that the conservatee’s rights are being upheld. After the first year visit, the investigator will visit the conservatee every 2 years, or as often as the investigator feels necessary.
If the investigator thinks there may be a problem, s/he will write a report and ask the judge to appoint a lawyer for the conservatee. This starts the legal process to remove you as conservator.
The investigator will also visit the conservatee and make a report if:
The temporary conservator wants to move the proposed conservatee out of his/her residence.
The conservator petitions for exclusive authority to make medical decisions for the conservatee, especially if s/he is asking for special powers to take care of the needs of a demented conservatee.
The conservator wants to sell the conservatee’s home (or former home).
The court investigator will explain the implications of these situations to the conservatee. S/he will then write a report to the Court with his/her recommendations.

裁判所の調査官は被後見人と連絡を取り合いますか? 

はい。 1年以内に、調査官はあなたのケースを再度確認して、あなたが後見人としての責任を果たしていること、および被後見人の権利が守られていることを確認します。最初の1年間の訪問後、調査官は2年ごとに、または調査官が必要と感じる頻度で被後見人を訪問します。調査官が問題があると考えた場合は、報告書を作成し、裁判官に被後見人の弁護士を任命するよう依頼します。これにより、あなたを後見人から外すための法的手続きが開始されます。 調査官はまた、次の場合に被後見人を訪問し、報告を行います。 

・臨時後見人が、被後見人を被後見人の住居から移動させたい場合

・後見人が、被後見人のために医学的決定を下す独占的権限を求める場合、特に、認知症の被後見人のニーズに対応するための特別な権限を求めている場合

・後見人が、被後見人の自宅(または以前の自宅)を売却したい場合

 裁判所の調査官は、これらの状況の影響を被後見人に説明します。その後、調査官は裁判所に提言を添えて報告書を書きます。

 

裁判所が後見人を監督する仕組みはあるようですが、この映画の主人公は、裁判所から絶大な信頼を得ており、裁判官は彼女の言うがままですので、うまく機能していなかったのでしょう。

 

主人公は、後見人の仕事を高齢者から財産を搾り取るビジネスと考えています。

 

成年後見制度が悪用されると、重大な人権侵害をもたらすということがよくわかる映画だと思います。

 

成年後見制度は、悪用されないような制度設計が必要なのはもちろんのこと、制度の担い手の倫理観が問われる制度だと改めて感じました。

 

成年後見制度に関わる方には、ぜひご覧いただきたい映画です。

 

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(東京ジェイ法律事務所 司法書士 野村真美)

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