映画「親のお金は誰のもの 法定相続人」をシネマート新宿で観ました。
この映画は、日本で初めて「成年後見制度」を正面から扱った映画と言えるでしょう。
題名に「法定相続人」とあるので、相続争いの話かと思ったら、財産の所有者である父親は存命中。
相続争いの前哨戦として「成年後見制度」をテーマにしている映画でした。
この映画を観て感じたのは、
「成年後見の実務に詳しい専門家が監修していないな…」
ということです。
以下、気になった点について書きたいと思います。
以下ネタバレ注意
①審判の告知について
主人公の姉が父の後見開始の申立てをして、自分が成年後見人になろうとしたところ、裁判所が弁護士を選任し、その弁護士がいきなり父宅に現れ、姉が驚くというシーンがあります。
申立人である姉には審判書が特別送達で届いていますので、姉が知らないということはあり得ないでしょう。
ちなみに、父にも通知されます。
仮に、姉が審判書を開封していないとしても、後見人が父宅を訪れた時期が明らかに審判確定前と思われるので、そこも違和感があります。
②成年後見人の選任について
成年後見人に選任された弁護士は東京の法律事務所に所属しているようです。
家庭裁判所が、専門職の後見人を選任する場合、管轄内の専門職団体に候補者の推薦依頼をするか、一本釣りで管轄内の専門職を選任するかのどちらかだと思います。
つまり、津家庭裁判所伊勢支部が、伊勢・志摩に居住している人の成年後見人に東京の弁護士を選任することは考えられません。
ただ、この映画の弁護士は弁護士法人に所属しているようなので、その法人の支店が伊勢・志摩にあれば、法人が選任されることはあるかもしれません。
ただし、その場合でも、東京の事務所にいる弁護士がわざわざ伊勢・志摩に行くことは、事務所経営上あり得ないでしょう。
③記録の閲覧について
被後見人が6億円の真珠を所有していると知った後見人の弁護士が、家庭裁判所で申立時の財産目録を閲覧して、真珠が財産目録に載っていないことを確認するシーンがあります。
しかし、後見人は記録を謄写して手元に持っていますので(そうでないと仕事ができない)、この段階で家庭裁判所に記録の閲覧に行くことは絶対にありません。
④申立時面接について
主人公の姉は、自分が父の成年後見人になれば、父の財産を自由に使えると思っているようですが、後見開始の申立後審判までに家庭裁判所が面接を行って、姉に制度の説明をしているはずですので、その設定は無理があると思いました。
⑤成年後見人の報酬について
成年後見人の報酬が「数時間で年間36万円」というセリフがありましたが、これは、家庭裁判所への報告書の作成にかかる時間と勘違いしているのではないでしょうか。
後見人は1年を通じて様々な業務を行っています。
この映画でも、東京から伊勢・志摩に何度も足を運び、親族と面談し、財産を調査し、被後見人を施設に入所させ…その是非はともあれ、長時間仕事をしていますね…
⑥同居親族への賃料請求
被後見人が施設に入所した後に、後見人が被後見人の自宅を売却し、同居の親族を追い出すシーンがあります。
後見人がその親族に対して、いきなり賃料を何百万円も請求するのですが、賃貸借契約もないのに(使用貸借ですよね)、賃料請求するというのは、違和感を感じました。
⑦財産の処分について
この映画では、後見人が被後見人の財産を処分して付加報酬を得て儲けているということですが、重要な財産を処分するには、処分の必要性・相当性を検討して、裁判所にも相談します。
あたかも後見人が被後見人の財産を自由にできるかのような表現は、観ている人に誤解を与えるのではないでしょうか。
この映画は、出演者の演技も、伊勢・志摩の風景も素晴らしかったです。
そして、「大切なのはお金ではなく、家族のお互いを思いやる気持ちである」というテーマも、ストレートに伝わってきました。
ただ、上記のとおり、成年後見実務に携わる者にとっては、所々に違和感があって(ツッコミを入れるのに忙しくて)、ストーリーに集中できなかったのが残念です。
(東京ジェイ法律事務所 司法書士 野村真美)
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