The Key of Midnight -5ページ目

お世話になった・・・・・・

せっかく勉強のほうが順調になってきたと思ったら、残念なことが。


自分が今までお世話になった方が、引っ越すことになりました。

その人に直接勉強を教えてもらっていたわけではないのですが、受験に当たって重要なことのほとんどはその人に教わってきました。

勉強方だとか、受験科目だとか、現実との折り合いのつけ方だとか。

東大を受験することを決断したのも、その人のおかげですし。

今のままではまずい、ということを教えてくれたのもその人で。

でも、決して部活やサークルは止めろとは言わなかった。

加えて、ともすれば焦燥感にかられて闇雲に走り出してしまいかねなかった自分に、余裕や楽観的な思考を与えてくれたのもその人。受験は辛いものだという先入観も取り除いてくれましたし、周囲に流されず自分のペースを確保できたのもその人のおかげ。


でも、その人は4月からはいなくなってしまうそうで。それを聞いて初めて、どれだけお世話になっていたかに気づかされました。

この人がいなくなっても、自分は目指すものを失わないでいられるのか。


・・・・・・きっとまた迷うことになるんだろうなあ、と自分の弱さも実感しました。

やっぱり、何事もそんなにうまくはいかないものですね。




・・・・・・また少し、思い返して。

その人との関係は、ドライなものだと割り切っていました。

私情は挟まない。ただ、「目指すもののために頼る」「合格させるために教える」という、互いの利害の一致があるだけで。でも、そんなわけがなかった。・・・・・・実は、その人はかなり自分のことを気にかけてくれていたんだなあ、ということ。自分はその人のことを本当に信頼して頼りにしていたのだなあ、ということ。

そして、自分が意外にショックを受けていること。


辛い、ですね。

辻村深月 「スロウハイツの神様」

辻村 深月
スロウハイツの神様(上)
スロウハイツの神様(下)

猟奇的なファンによる小説を模倣した大量殺人事件から10年。筆を折っていたチヨダ・コーキは見事復活し、売れっ子脚本家・赤羽環と、その友人たちとの幸せな共同生活をスタートさせた。しかし謎の少女の出現により…。


 ◆ ◆ ◆


久々に、心から良かったと、そう思える本でした。

クリエイター達が一つ屋根の下に集まって共同生活を始める。映画監督や漫画家を目指す、未熟な彼らの青春小説。

・・・・・・あらすじが、とても説明しづらいですね。

一つ一つのエピソードが積み重なって、ラストへと向かっていく、そんなタイプの話なのですが。

その過程で語られる、登場人物たちの夢だとか、苦悩だとか、希望だとか、そういったものの全てが深く心に染み込んでくる。

特に、創作に対する姿勢。

何度も繰り返されるこのテーマには、創作に向き合うということの意味を考えずに入られません。

”小説のせいで人が死んだ”

でも、

”その小説のおかげで生きている人がいる”

・・・・・・物語の持つ力は、とても大きいもの。

自分もそのことを知っていますし、だからこそ、この話には考えさせられました。それこそ、途中で真剣に向き合うのが辛くなって、思考を停止させてしまいそうになるほどに。

自分も”あの物語があったから”今の自分があるのだ、といつも感じています。物語の影響力は、そんな甘く見ていいものじゃない。だからこそ、創作する側の人間もそれに向き合わなければいけない・・・・・・。

全ての、物語を愛する人に、そして何かを創作する人に、この作品は読んで欲しいと思いました。


下巻の後半で明かされる真相、特に最終章のそれは、予想は出来ても心が動かされずにはいられません。

久々に小説を読んで泣きました。ミステリではないけれど、ミステリの可能性はこんなところにも広がっています。全く予想外のところにも伏線が。全てがつながった瞬間の、驚きよりは優しさやせつなさに似た感情は味わってみないとわかりません。予想を裏切らない真実は、誰も傷つけない。


優しすぎる物語、かもしれません。でも、読者の心に訴えるものを持った物語でもあるのは確かです。

今まで読んだ辻村さんの作品の中では、一番好きかもしれません。辻村作品が初めて、という人にもお勧め。9点

竹内睦泰  「超速! 最新日本史の流れ」

竹内 睦泰
超速!最新日本史の流れ―原始から大政奉還まで、2時間で流れをつかむ!

 ◆ ◆ ◆


見た目の通り、参考書です。

小説ではありません。

でも、わざわざ紹介しようと思ったのにはそれだけの理由があります。

理由、といっても至極単純なのですが・・・・・・。

この本、かなり面白いです。

参考書といった側面を抜きにして普通の読み物として読んでも、十分に楽しめます。

はっきりいって、参考書としてみた場合は多少胡散臭さがあるのですが、そういったことをカバーしてしまうくらいに本書は面白い。

自分は元々、日本史は嫌いではないものの取り立てて好きというわけでもありませんでした。

昨年の秋くらいから近代史が面白く感じるようになってきたのですが、それでも江戸以前は大して面白くないなあと思っていたら・・・・・・。

この本を読んで、随分意識が変わりました。

日本史の大体の流れが抑えられるだけでなく、所々に挿入される余談も面白く。圧倒的なドラマを前に、感動することもしばしば。

こう書くと大げさだ、と思われるかもしれませんが・・・・・・。

実際、本書の最後数十ページでは、何度か鳥肌が立ちました。良質の小説を読んだときに感じるものと良く似た感覚。


元々歴史は面白いものなのでしょうが、それをここまで実感させてくれるような熱い本はなかなか無いと思います。

日本史に少しでも興味がある、あるいは日本史に苦手意識をもっている中高生の人は勿論、一般の人にもこれはお勧めできるな、と感じた一冊でした。

現状把握

センター試験が終わりました。

これで、残された時間は1年を切ったことになります。

一旦ここらで自分の現状を把握しておくべきだろう、と入試科目にあわせて考えてみました。


英語はセンターで8割5分、とはいえ二次試験には到底太刀打ちできない。英作文にリスニング、リーディングと等しく今を遥かに越えるレベルで達成する必要あり。先は遠い。

数学は更に劣り、センターすらろくに解けず。何はともあれ問題集を終わらせるところから始める必要が。

国語はセンター基準でも9割程度取れ、悪くは無いものの、現代文は常にフィーリングで高得点を取ってきた為に不安。古文漢文はそもそも文法からやりなおさないと・・・・・・。

倫理、物理は今は放置。

二次で使う日本史は、ようやく流れを抑えた段階。小学校の自分に劣るかもしれない知識量。

世界史に至ってはゼロからのスタートとほぼ同値。先の見通しが全く立たず。流れも掴めず。


・・・・・・このように列挙してみると、

いかに自分が、”理想”からかけ離れているのか思い知らされますね。

受験も甘くない、ということですか。

これくらいのことは覚悟していましたが、実際残り一年という状況に立たされてみると、周囲との比較で焦りが生じてきます。別に周囲との競争ではなく、あくまで自分自身の問題だとわかっているのですが、それでも。特に歴史二科目は絶望的・・・・・・。


でも、いくら理想と現実の間にギャップがあるとはいえ、埋められないようなものでは決してない――はずです。


自分は中学受験をして今の学校に通っていますが、中学受験自体は自分の意思以上に親の意思によって、という側面が強いものでした。ただ両親が選んだ塾に通って、ただ与えられたものを適当にこなしていただけで、そういった意味では、本当の自分自身の受験ではなかったのかもしれません。


しかし今回は、周囲の反対を押し切って、自分の意思で決めた受験です。この程度の壁も乗り越える覚悟が無いのなら、最初から挑戦しようなんて思わない。


だから、あと一年。

適度に勉強を楽しみながら、やっていこう、と。

そう再確認した一日でした。

外海良基 「Doubt 1巻」(漫画)

外海 良基
Doubt 1 (ガンガンコミックス)

密室で目を覚ました男女5人。目の前には天井から吊された死体。体には覚えのないバーコード。犯人はこの中に!?

殺人ゲームが幕を開ける。


 ◆ ◆ ◆ 


以前友人に話を聞き、面白そうだと思っていた漫画です。気がつけば既に単行本が出ており、思わず購入してしまいました。

あらすじを読んでもらえば判るとおり、最近流行りの(でもそれほど数は多くない)ソリッド・シチュエーション・スリラーです。

「SAW2」のような感じをイメージしてもらえば良いでしょうか。

まだ序盤なので何ともいえませんが、個人的には”このジャンル”というだけで注目しても良い作品だと思います。

序盤とはいえ、”最初の被害者”から意表をついてきますし・・・・・・。

連載ものにしては登場人物が少ないのは、長所にも短所にもなりえますが、あまりダラダラと続くことは無さそう・・・・・・という点でよいですね。

人物だけでなくルールも現時点ではかなり少なく、これでこの後一体どう展開させるんだ? という疑問はありますが・・・・・・。まだまだゲームは始まったばかり。謎も適度にばら撒き、導入としては成功しています。

既存の作品とどう変化をつけてくるのか、どこに意外性をしかけてくるのか。主人公の”特殊なポジション”はどうなってくるのか。

そういった諸々のことを含めて、続きが楽しみな作品です。

また、絵もかなり綺麗です。これはあまり期待していなかったのですが、予想以上に良かったのでびっくりしました。雰囲気が出せています。


あまり話題にはなっていませんが、この手の作品が好きな人は買う価値があるはず。

むしろ人気が出ないで中途半端なところで終わってしまうのは残念なので、書店で見かけたら是非手にとって見てください。

・・・・・・といっても、数日前確認したところでは、割と大きい書店を四件回って一冊も置いてなかったのですが。

次の巻が並ぶ頃には、もっと有名になっていることを祈りつつ。

この数日間、ウィルス性の病気にかかって、布団の中で過ごしていました・・・・・・。


寝ている間中、あまりにも辛いので、これはネタになるだろうと無理やりな言い訳をして耐えようとしていたのですが、

・・・・・・そんな甘いものではありませんでした。

昨年末にも酷い病気にかかり、一睡も出来ないような日々を過ごしましたが、

今回は頭痛、腹痛、吐き気、眩暈、関節痛、その他様々な症状が一度にやってきて、いっそより高い熱が出て意識を失ったほうが楽かと思うほどに・・・・・・。

とりあえず、人間は起きていても幻覚が見れるのだということと、二日間くらいは何も食べなくても大して問題ではないことがわかりました。


それにしても、こういう経験をすると、普段健康でいられるのがいかに素晴らしいことなのか、心の底から思い知らされます。何の奇麗事でもなく、本当に。

そういう意味では・・・・・・たまにかかるくらいなら、病気も良いのかもしれませんね。

だからといって二度とこんな経験したくありませんが。

直木賞

桜庭一樹さん、ご受賞おめでとうございます。

いつかは、と思っていましたが、まさかこんなに早いとは。

新作が出るたびに前作を超えていっているので、今後の活躍に一層期待、ですね。

受賞作に関しては、またいつか、何か書きたいと思います(アバウトだ・・・・・・)。

「Myself;Yourself」――OPの意味

OP、といってもゲーム版ではありません。アニメ版のOP。


以前の記事 で、OPに隠された時計のモチーフについて少し触れましたが、ゲーム版を読みきったあとにもう一度見返してみると・・・・・・驚愕です。こういうギミックも仕掛けてあったのですね。


今更書くことでもないかもしれませんが、

時計の描写に関して、気づいたことをまとめておきます。

以下、アニメ版およびゲーム版「Myself;Yourself」のネタバレを含む可能性があるので、白字にします。


佐菜:腕時計

→言わずもがな、アニメ中で何度も登場する”あの”腕時計。もっとも判りやすい伏線ですね。

また、OP中、佐菜だけがデジタル時計というのは、”都会”をイメージさせます。・・・・・・というのはさすがに考えすぎな気もするのですが。


菜々香:日時計

→菜々香が佇んでいるのは日時計。

日時計は、日光が無ければ時計として機能しない。日が当たることによって、初めて”止まっていた時間が、動き出す”。

影の中の日時計に、光が射しこみ、白い羽が舞う――。菜々香にとっての光とは、言うまでもなく。

奇しくも、彼の名前は”日”高佐菜。

・・・・・・今更気づきましたが、若”月”修輔とは対になる名前なんですね。


朱里&修輔&あさみ:柱時計

→これは作中でも登場したので、言うまでもないでしょう。寄り添うように重なる短針と長針、そこに重なろうとしても決してたどり着けない秒針。

時計を比喩として使いながらも、”時間とは結びつかない”のが面白いです。


麻緒衣:砂時計

→砂時計は、”永遠に時を刻まない”時計。時間の経過、残された時間を視覚的に表す装置。

限りある時間――ゲーム版での麻緒衣の象徴、ですね。


雛子:歪んだ時計

→”子供の時間”と”大人の時間”、流れ方が異なる二つの時間。

小学生にして、高校生に混じって生活する雛子の、心の揺らぎを示しているように思えます。

”通常よりも早く回る時計”というのは、大人になりたいと願う心情の表れ・・・・・・なのかも?


しかし、これだけ意味がこめられた”時計”を見ると、出番が少ない先生にも時計の演出を用意してほしかったな・・・・・・と思ってしまいますね。

何にしても、良く出来たOPだったなあ、と一人で感心してしまいました。他にも、まだ意味が隠されているかもしれません。こういったギミックは面白いですね。

「Myself;Yourself」(ゲーム)――その2

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Myself;Yourself(初回限定版:「プレミアムサウンドトラックCD」&「成瀬ちさと画絵本」同梱)

「Myself;Yourself」公式サイト


――これは、どこか遠くの町の、
あなたに、とても近い物語。――


 ◆ ◆ ◆


前回感想 の続き。

佐菜―菜々香編の感想、および総括。


まず、「Myself;Yourself」のメインシナリオとなる佐菜―菜々香編

メインなだけあって、ボリュームもあさみ編同様、他のシナリオの2倍くらいあります。

こちらのシナリオは・・・・・・通常の意味での友情、あるいは絆といったものが中心に据えられています。

菜々香を中心に登場人物全員が何らかの形でシナリオに関わってくるので、それまでに他のシナリオを読んでいると、少し嬉しくなりますね。

展開に意外性は無い。でもそれでいい。

予想通りの方向に話が転がっていくのが、逆に良いのです。これまでの話から、確実に王道パターンを貫いてくるだろう・・・・・・ということが確信できるので、予想外の展開等を疑う必要が無く、素直に物語を楽しめる。

端正に組まれたシナリオで、不自然や唐突に感じるような展開も特に無く、期待通りのラストまで引っ張っていってくれます。

奪い去られた夢を、再び取り戻すために。

そんなシンプルなシナリオですが、だからこそ伝わるものもある。

諦めてしまった夢を、もう一度――。

主人公たちと同世代を生きている自分にとって、このテーマがあまりにも身近なものだったので、かなり感情移入してしまい・・・・・・心を動かされました。

ラストに奏でられる曲は、まさに佐菜―菜々香編、更には「Myself;Yourself」という作品の象徴。この曲を聴くことで、「Myself;Yourself」――”自分らしく”生きるというテーマが改めて染み込んでくる。同時に、今までのシナリオは、いくつものテーマを含んでいながらも最終的には「Myself;Yourself」に集約するのだ、ということに気づかされて・・・・・・。

EDは――こんな言い方しかできませんが、感動せずにはいられませんでした。

佐菜―菜々香編のムービーを製作した神月社さんが初めてムービー製作中に感動して泣きそうになったという、中澤工さんがEDに提案した一つのギミック。・・・・・・鳥肌が立ちました。

グランドエンディングに相応しい、素敵な演出でした。


・・・・・・ちなみにこの佐菜―菜々香編。中澤さんも仰っていますが、最初に攻略しようとするのは無謀だと思われるほど難易度が高いです。また、この作品でグランドエンディングが流れるので、順当に読むならラストかな、と。最後に読めば、必ず難易度は下がっていますし。・・・・・・とはいえ、最初から読むことも一応可能なので、結局は自分自信の好きなように読むのがベストだと思います。


しかし、この佐菜―菜々香編を読むと、どうしても気になってくるのは修輔―菜々香編。改めて、あの真相は明かさなくても良かったのでは・・・・・・と思います。別にミステリではありませんが、あのアニメを超えるアンフェアな犯人ですし・・・・・・。現実ならそんなもんだろうな、というリアルさがあるのは否定できませんが。


――さて、これで個別シナリオの感想は一旦終わり(まだまだ書きたいことはありますが)。


ここからはその他の感想を、思うままに書いてみます。


まずは・・・・・・音楽。マイユアは音楽に拘っている作品です。EDが全部で7種類もあることや、BGMのバイオリンも打ち込みでは無く生演奏であること(アイネ・クライネ・ナハトムジークや白鳥など、有名なクラシックも使われています)からそのことが伺えます。

その他のBGMも、物語の雰囲気によくあっていると思います。曲名も凄いですね。日常シーンの曲ですら「仲良キ事ハ良キ事カ」。実際、このタイトルから想起されるようなシーンが作中になるだけに、どことなく不穏な・・・・・・。

「自分だけの答えを求めて」もタイトル、曲ともになかなか好みです。他には「彷徨」「パーティ×パーティ」などが印象に残りました。BGMは基本的にどれも良かったです。

ED曲はどれも歌詞が物語に合っています。・・・・・・と思ったら、雛子編以外全部同じ人が作詞しているのですね。道理でこれだけ作品のイメージが盛り込めるわけです(ちなみに、雛子編は雛子役の声優さんが作詞・作曲をしています。これには驚きました)。

そして、OP曲。

何といっても「Day-break」は名曲。曲は勿論、歌詞がテーマにぴったり。一番の歌詞は言わずもがなですが、二番の歌詞が・・・・・・。これは是非、ゲームが終わった後に聴いてください。励まされるメッセージのようにも感じました。

同様にこの曲を使用したOPムービーも綺麗です。”とにかく格好良く”というテーマで製作されただけあって、テンポが良く格好良いムービーですね。

絵は物語の雰囲気に完全にマッチした落ち着いたトーンで、この絵でなければこの世界は完成しない、というのも納得できます。モノクロだったり大人しい色が多かったりしますが、地味ではありません。懐かしさを感じさせてくれるような絵でした。

システムも悪くはなかったのですが、セーブ数が少なすぎる、というのはありますね。倍くらいあっても良かったと思います。ヒントモードはかなり助かりました。

シナリオ以外の部分は、こんなところでしょうか。


全体を通しての、物語の感想ですが・・・・・・。

やはり、佐菜―菜々香編とあさみ編が頭一つ抜けていた印象があります。

この二つのシナリオは、期待通り、いや、期待以上と言っても良い出来でした。

特に、あまり期待していなかった分、あさみ編には打ちのめされたような思いでした。

この二つのシナリオのためだけにでも、プレイする価値はあります。それほど、これらは素晴らしいエピソードでした。

ただ、そのほかのシナリオは・・・・・・どれも尺が足りなかったような気がします。改めて一つ一つ書くようなことはしませんが(既に個別感想に書いた通りなので)、何かしらシナリオ的に残念な部分があったのが・・・・・・。個別シナリオがこの2倍(=佐菜―菜々香編やあさみ編と同程度の分量)、それが無理でも少し増量するだけで、かなり受けるイメージは変わっていたと思います。


ただ・・・・・・。エンターテイメントとして、という観点を捨てるならば、その他のシナリオに関してもこれで良かったのではないか、という思いもあります。

というのも、まずテーマが先にあって、それを表現する手段としてゲームという媒体、王道というレールを利用したのだと考えると、妙に納得できてしまって・・・・・・。”テーマのための物語”とは、あまり言いたくないのですが。

登場人物たちが繰り広げる、痛みや苦悩、優しさに満ちたエピソードの数々は、あくまで”彼ら自信”の物語に過ぎないのです。本当に重要なのは、この作品の中ではなく。この作品を外から眺める”自分自身”。

結局、どのシナリオを読もうが、その中で語られるテーマは登場人物たちを飛び越えて物語を眺める”自分自身”に突きつけられる。だから、極論彼らの物語は、どれだけ急展開で決着しようとも、それは”唯一絶対ではない”彼らの導き出した答えとして読者の胸に残るだけであって・・・・・・。本当に重要な答えは、”自分自身”が導かないといけない。

佐菜/修輔と二人の主人公が用意されているのも、一つの理由には、

一人の主人公だけだと、主人公=プレイヤーという錯覚に陥ってしまうので、それを避けるためというのがあるのではないか――と思いました。

佐菜と修輔、二人の価値観は異なっている。二人の視点から物語を読みすすめるプレイヤーは、その価値観の相違に戸惑うことになる。二つの菜々香編を共にプレイしたとき、必ず”どちらのサイドでも100%感情移入することはできない”ように組まれているように。そして、それは、プレイヤーと佐菜、あるいは修輔との価値観の相違にもつながり、ここでようやく、この作品における”Myself;Yourself”の意味が明確になってくる。

――ああ、これは本当に”自分自身”の物語だったんだな、と。


キャッチコピーにある「あなたに、とても近い物語。」とは、結局マイユアのプレイヤーは、ゲームのシナリオを通して知らず知らずのうちに”自分自身”の物語を見ているのに等しい、という意味もこめられているのかな、と。・・・・・・深読みかもしれませんが、ただ一ついえることは。

この作品は、”自分自身”を真っ直ぐに見つめなおす、良いきっかけになりました。あまりにも多くのことを考えすぎて、途中で頭がパンクしそうにもなりましたが(笑)。

そういう意味では、マイユアはプレイヤー自身を移す鏡のようなものなのかもしれませんね。


元々中澤さんは、常に読者(プレイヤー)のことを考えて作品を創られている方です。その姿勢は、ミステリでもSFでも、このような学園ものでも全く揺らぐことが無いのだと思います。たとえば、「Remember11」とこの「Myself;Yourself」。対極にあるといっても良いほど異なった物語ですが、どちらにも共通しているのは、”何よりもプレイヤーのことを第一に考えていなければ、こんな物語は生まれない”という点。どちらも、読者の存在を何よりも重視していたからこそ出来上がった作品なのは間違いないはずです。そういう意味では、この「Myself;Yourself」、とても中澤さんらしい作品だなと感じました。

少し脱線&私的な話になりますが、

これまでの中澤さんの作品は、麻耶雄嵩さんや西澤保彦さん、森博嗣さんの作品に近い色が強くでていた気がするのですが、マイユアは加納朋子さんの作品に通じるものを感じさせてくれる物語でした。

加納さんの作品に出会い、麻耶さんの作品に衝撃を受け、そして中澤さんの作品に巡り合った自分にとって、なんとも言えず感慨深いものがありました。

”物語を紡ぐ”ということの意味を、今一度考えさせてくれます。


Myself;Yourself――”喪失”と”再生”の物語。

「Myself;Yourself」になる前の、一番最初の仮タイトルは「Hello,Goodbye」だったそうですが、こちらのタイトルから既に”出逢い”と”別れ”、すなわち”喪失”と”再生”のテーマが示されています。キャッチコピーの”なくした ものは なんですか?”にも、やはり”喪失”と”再生”の隠喩からなる幾つかの意味がかけられているとのことで、このテーマが如何に核となっているかが伺い取れますね。

加えて、”肯定”――夢を追うこと、自分らしくあることを肯定してくれる物語であり、同時に”本当の自分自身とは何なのか”という哲学的な問いかけをしてくる作品でもあります。特に、同世代の人には是非ともプレイしてほしいですね。絶対に、得るものはあるはずです。


シナリオ自体は、決して完全だとは言いません。期待が大きかったというのもありますが、全てが期待通りではなかったことも改めて述べておきます。

それでも、そういったことを全て含めて。

”答え”に辿り着く路を照らし出してくれた、この作品と。

同じく、様々なことを教えて頂いた中澤工さんと。

この作品に関わった、全てのスタッフの方に。

心からの感謝を込めて――

ありがとうございました。

「Myself;Yourself」(ゲーム)――その1

ヴューズ
Myself;Yourself(初回限定版:「プレミアムサウンドトラックCD」&「成瀬ちさと画絵本」同梱)

「Myself;Yourself」公式サイト


なくした もの は、なんですか?


 ◆ ◆ ◆


結局、冬休みを全て使ってプレイすることになってしまいました。

待望の、中澤工さんの新作。今までのSFやミステリとは全く違う、王道学園ものです。

相当期待していた作品だけに、普通に感想を書いてしまえば絶賛するほかありません。最初に断言しておきますが、アニメ同様、これが中澤工作品でなければ絶対に異なった印象を受けたと思います。でも、そんな感想ではどうしようもないので(笑)、できるだけ客観的な感想(結局はそれも主観以外の何物でもないのですが)も書いてみます。


長くなりそうなので二回に分けますが、今回は、「佐菜―菜々香編以外」の個別感想です。

ちなみに、プレイ順は麻緒衣→雛子→柚希→あさみ→朱里→修輔―菜々香→佐菜―菜々香。

最初にプレイしたときの印象は、なんと言っても”倫理的(道徳的)”、そして”王道”。

基本的に展開は極めてストレート、かつ、王道パターンをあえて踏襲しているかのように見えます。特に佐菜視点の物語は、近い展開の文学作品をいくつか思い浮かべてしまうほどに王道。そして、語られるテーマもストレートです。

ここまで王道を貫くと普通ギャグにしかならないような気がするのですが、それが極めて真面目に、シリアスに、重みを持って描かれるのがこの「マイユア」の凄いところ。

たとえば、麻緒衣編。・・・・・・終盤の展開が、ご都合主義的と考える人は多いでしょう。実際、最初に読んだときには、自分もラストに多少呆然としました。

でも、雛子編を読み終わって、「これがマイユアなのか」とようやく理解しました。

つまり、この展開は全て計算通りなのだな、と。・・・・・・確かに、余計なものをできるだけなくしてシンプルにした”王道”に込められたテーマは、心にダイレクトに伝わってきます。「思わず自分自身を省みてしまう」、小さな、けれども鋭い痛みを伴って。


麻緒衣編は、「幸せの青い鳥」を下敷きにして、当たり前のようでいて気づかない、言われればわかるといいつつも普段は意識しない、そんなモノを改めて思い出させてくれるストーリーです。この話のテーマは、シナリオと同じくらい絵本にも込められているので、(作中でも読むことができますが)できれば初回限定版のほうをお勧めしたいところです。個人的に、ストーリーとしては序盤が非常に好みでした。「自分には何の才能があるのだろう」という問いかけ、苦悩、重圧。そこから話はまた別の方向に転がっていくのですが・・・・・・。

よく見るような王道パターンを使っていますが、終盤の奇跡を見ると、それは形式を借りただけに過ぎないような気もします。はっきり言ってしまえば安易な手法なので、これをわざわざ使ったというのは、物語以上にテーマを重視しているのかな、と。どうなのでしょう。伝えたいテーマが純粋だからこそ、そちらを洗練するためにわかりやすい展開にしたのでは・・・・・・・。

そういえば、実はこの麻緒衣編は、全部のシナリオの中でも、最も悪意の介入が無い話のように思えます。


雛子編は、また別の意味で青春の王道(?)。いや流石に無理があるような、一体いつの話だ・・・・・・というのはさておき、小学生をヒロインに据えたならもう少し他の展開が出来たんじゃないか、というのが素直な感想ですが・・・・・・。どうやら初期プロットから変更があるらしく、色々と難しいんだなあ、と(元のプロットだと最後は本来、雛子が標的の事件だったようです)。

また、このシナリオ、終盤の展開は(王道と踏まえた上で)好きなのですが、一つ残念なのはBGMです。音楽に拘ってつくられた作品だけに基本的にBGMはとても良いのですが、倉庫の場面に「迫り来る危機」は盛り上がらないなあ、と思ってしまいました。緊迫感のある曲ですが、イコール熱い曲というわけではないので・・・・・・。

このシナリオに限らず、「迫り来る危機」以外にもう一つ、盛り上がる&緊迫感のある曲を用意しておけば良かったのではないか、と思ったことは何度か。この辺は好みだと思いますが。


柚希編。こちらは先生という立場が物語に直結しています。素直なストーリーで好みでした。「クオリア」が一つのモチーフになっているのが、また中澤さんらしいですね。R11などでもクオリアはどうなるんだろうな、と色々考えたものですが、マイユアでクオリアという単語が出てきたのはびっくりしました。でも、よく考えればテーマに完全に直結するものですよね。「Myself;Yourself」を映し出していると思います。

でも、一番良いのは先生のキャラクターですね。個別ルートのほかでも、心に響く台詞が多かったです。学ぶことの楽しさ、本質。勉強とは何か。もしこんな先生が実際にいたら・・・・・・。本当に、勉強が楽しくなるでしょう。一つ一つの台詞を聞いているだけでも、「学ぶことは素晴らしいことだ」と、心の底から思えてくるのですから。

・・・・・・ちなみに、先生も本来のプロットは別物だったそうですが、倫理的な問題で全部作り直したとのこと。元のプロットには不穏な空気(マザーグース? リリー・ボーデン? バラバラ殺人?)が・・・・・。こちらのパターンも是非読んでみたかったですね。

しかし、雛子編といい柚希編といい、これらのプロット変更は、以前「I/O」のインタビューで中澤さんが仰っていた「コンシューマを作っていると倫理規定のグレーゾーンに触れたくなる」という言葉を思い出させますね。


朱里編は、そんなグレーゾーンに触れかかっているシナリオだと思います。やはり王道で、まさしく「友情」なテーマの話。でも現代風。一見、こういうストーリーが核になって進んでいくんだろうな、と思わせて途中から・・・・・・。

序盤で予想がつく人もいるとは思いますが、ここまでエスカレートするか、と恐ろしいものを感じました。あさみ編の後にプレイしたので少し戸惑いを感じたのですが、人間の心ってこういうものだよな、と何故か納得。これは、(ほんの少し)近い経験をしたことがあるだけに、「わかるわかる」と思いながら読んでいました。

しかし、少しやりすぎた感も・・・・・・。衝撃が少なくなっても、もう少し控えめにしたほうが、自然なラストになったと思います。あるいは、修復不能なまでに突き抜けて終わるか。

エンディングは少しあっさりしすぎていた気がしますが、このシナリオも好みです。

ただ・・・・・・。あくまで個人的な感想ですが、このシナリオであるキャラクターの印象がかなり変わる(終盤で元の印象を取り戻そうとしてはいますが、完全にリカバリーできているとは思いません)ので、どこでプレイするかが重要になってくるでしょう。一応、一度は修輔サイドをプレイしてから朱里編に入ることをお勧めします。


あさみ編は、傑作です。

実は一番期待していなかったシナリオなのですが、プレイしてみたらびっくり。確かにエゴが前面に押し出された重い物語ですが、予想以上に引き込まれます。製作者さんも力を入れているのか、シナリオも長め(佐菜―菜々香編以外の個別シナリオの、二倍近く)。

実はあさみは、当初は予定外だった、最後に考えられたヒロインだったらしいのですが・・・・・・。このシナリオのおかげでマイユア全体が引き締まっているように感じました。あさみ編があるからこそ、全てのシナリオが奇麗事に収まらないようになっている、といえばよいでしょうか。異彩を放つシナリオでありながら、テーマは他のシナリオとも共通するものがあるというのが素晴らしいですね。

ある意味、一番恋愛要素が重視されているとも言えそうな話です。恋愛、というよりも愛、といったほうが正確ですが。

グッドエンドでは思わず泣いてしまいましたし(やはり、中澤さんの作品でよく見られる名前ネタは素敵です)、更にバッドエンドも・・・・・・。心の底から戦慄しました。他のシナリオのバッドエンドとは比較にならないほどの衝撃。R11で感じた恐怖のようなものを、より感情的に突きつけられたような・・・・・・。

王道≠普通を確信するのに十分なシナリオ。グッドエンドにしてもバッドエンドにしても、心に残ります。中澤さんご自身が、あさみは「最も人間味のあるキャラクター」と語っているだけあって、リアリティも十分。だからこそ好き嫌いが分かれるシナリオなのは間違いありませんが、何となく、これまでの中澤作品が好きな人ならこれはかなり楽しめるんじゃないか・・・・・・と思います。

シーンタイトルの統一も、特に美しいかと。繰り返すようですが、グッドエンドのアレにシーンタイトルの縛りを合わせてきたのやら、バッドエンドのシーンタイトルやら・・・・・・。

ここに来て、改めてマイユアは傑作だと確信した、とても大好きなシナリオです。

表の代表が佐菜―菜々香編だとしたら、裏の代表はあさみ編でしょう。


そして、佐菜―菜々香編に入るための足がかりともなる、修輔―菜々香編

意外なことに、実は一番ボリュームが少ないのではないかと思うほど短めのシナリオ。

朱里編の後にプレイしたため、正直それほど感情移入はできなかったのですが・・・・・・。朱里編とかさね合わせることで、修輔の心理に一貫性が見えてきます。「いくつかの平行世界をプレイヤーのみは知ることができる」というのが、小説とゲームの違う点ですが、このシナリオはそれを改めて思い起こさせてくれます。

一応、この話で菜々香の過去が明らかになるのですが・・・・・・。アニメ版を見たあとだと「この程度か」と思ってしまうのは仕方が無いですね。陰惨さはかなり軽減されています。・・・・・・それだけアニメ版の真相はとんでもなかったわけですが。

全体的に見て、この修輔―菜々香編は、どうしても佐菜―菜々香編へのつなぎ、あるいは語られなかった真相のカバー、という印象が強いのですが・・・・・・。エピローグもあえてあっさり書いている気がしますし。

その分、佐菜―菜々香編には力が入っているので良いのですが。

でも、何にしたって修輔が不遇すぎます・・・・・・。


佐菜―菜々香編は別格なので置いておいて、他のシナリオで比較すると、個人的な好みでは、

あさみ編>修輔―菜々香編>朱里編>柚希編>麻緒衣編>雛子編

でした。


さて、残す佐菜―菜々香編はマイユアの中核と呼べるシナリオ。

全体の総括も含めて、次は佐菜―菜々香編の感想を書きます。