「Myself;Yourself」(ゲーム)――その2 | The Key of Midnight

「Myself;Yourself」(ゲーム)――その2

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「Myself;Yourself」公式サイト


――これは、どこか遠くの町の、
あなたに、とても近い物語。――


 ◆ ◆ ◆


前回感想 の続き。

佐菜―菜々香編の感想、および総括。


まず、「Myself;Yourself」のメインシナリオとなる佐菜―菜々香編

メインなだけあって、ボリュームもあさみ編同様、他のシナリオの2倍くらいあります。

こちらのシナリオは・・・・・・通常の意味での友情、あるいは絆といったものが中心に据えられています。

菜々香を中心に登場人物全員が何らかの形でシナリオに関わってくるので、それまでに他のシナリオを読んでいると、少し嬉しくなりますね。

展開に意外性は無い。でもそれでいい。

予想通りの方向に話が転がっていくのが、逆に良いのです。これまでの話から、確実に王道パターンを貫いてくるだろう・・・・・・ということが確信できるので、予想外の展開等を疑う必要が無く、素直に物語を楽しめる。

端正に組まれたシナリオで、不自然や唐突に感じるような展開も特に無く、期待通りのラストまで引っ張っていってくれます。

奪い去られた夢を、再び取り戻すために。

そんなシンプルなシナリオですが、だからこそ伝わるものもある。

諦めてしまった夢を、もう一度――。

主人公たちと同世代を生きている自分にとって、このテーマがあまりにも身近なものだったので、かなり感情移入してしまい・・・・・・心を動かされました。

ラストに奏でられる曲は、まさに佐菜―菜々香編、更には「Myself;Yourself」という作品の象徴。この曲を聴くことで、「Myself;Yourself」――”自分らしく”生きるというテーマが改めて染み込んでくる。同時に、今までのシナリオは、いくつものテーマを含んでいながらも最終的には「Myself;Yourself」に集約するのだ、ということに気づかされて・・・・・・。

EDは――こんな言い方しかできませんが、感動せずにはいられませんでした。

佐菜―菜々香編のムービーを製作した神月社さんが初めてムービー製作中に感動して泣きそうになったという、中澤工さんがEDに提案した一つのギミック。・・・・・・鳥肌が立ちました。

グランドエンディングに相応しい、素敵な演出でした。


・・・・・・ちなみにこの佐菜―菜々香編。中澤さんも仰っていますが、最初に攻略しようとするのは無謀だと思われるほど難易度が高いです。また、この作品でグランドエンディングが流れるので、順当に読むならラストかな、と。最後に読めば、必ず難易度は下がっていますし。・・・・・・とはいえ、最初から読むことも一応可能なので、結局は自分自信の好きなように読むのがベストだと思います。


しかし、この佐菜―菜々香編を読むと、どうしても気になってくるのは修輔―菜々香編。改めて、あの真相は明かさなくても良かったのでは・・・・・・と思います。別にミステリではありませんが、あのアニメを超えるアンフェアな犯人ですし・・・・・・。現実ならそんなもんだろうな、というリアルさがあるのは否定できませんが。


――さて、これで個別シナリオの感想は一旦終わり(まだまだ書きたいことはありますが)。


ここからはその他の感想を、思うままに書いてみます。


まずは・・・・・・音楽。マイユアは音楽に拘っている作品です。EDが全部で7種類もあることや、BGMのバイオリンも打ち込みでは無く生演奏であること(アイネ・クライネ・ナハトムジークや白鳥など、有名なクラシックも使われています)からそのことが伺えます。

その他のBGMも、物語の雰囲気によくあっていると思います。曲名も凄いですね。日常シーンの曲ですら「仲良キ事ハ良キ事カ」。実際、このタイトルから想起されるようなシーンが作中になるだけに、どことなく不穏な・・・・・・。

「自分だけの答えを求めて」もタイトル、曲ともになかなか好みです。他には「彷徨」「パーティ×パーティ」などが印象に残りました。BGMは基本的にどれも良かったです。

ED曲はどれも歌詞が物語に合っています。・・・・・・と思ったら、雛子編以外全部同じ人が作詞しているのですね。道理でこれだけ作品のイメージが盛り込めるわけです(ちなみに、雛子編は雛子役の声優さんが作詞・作曲をしています。これには驚きました)。

そして、OP曲。

何といっても「Day-break」は名曲。曲は勿論、歌詞がテーマにぴったり。一番の歌詞は言わずもがなですが、二番の歌詞が・・・・・・。これは是非、ゲームが終わった後に聴いてください。励まされるメッセージのようにも感じました。

同様にこの曲を使用したOPムービーも綺麗です。”とにかく格好良く”というテーマで製作されただけあって、テンポが良く格好良いムービーですね。

絵は物語の雰囲気に完全にマッチした落ち着いたトーンで、この絵でなければこの世界は完成しない、というのも納得できます。モノクロだったり大人しい色が多かったりしますが、地味ではありません。懐かしさを感じさせてくれるような絵でした。

システムも悪くはなかったのですが、セーブ数が少なすぎる、というのはありますね。倍くらいあっても良かったと思います。ヒントモードはかなり助かりました。

シナリオ以外の部分は、こんなところでしょうか。


全体を通しての、物語の感想ですが・・・・・・。

やはり、佐菜―菜々香編とあさみ編が頭一つ抜けていた印象があります。

この二つのシナリオは、期待通り、いや、期待以上と言っても良い出来でした。

特に、あまり期待していなかった分、あさみ編には打ちのめされたような思いでした。

この二つのシナリオのためだけにでも、プレイする価値はあります。それほど、これらは素晴らしいエピソードでした。

ただ、そのほかのシナリオは・・・・・・どれも尺が足りなかったような気がします。改めて一つ一つ書くようなことはしませんが(既に個別感想に書いた通りなので)、何かしらシナリオ的に残念な部分があったのが・・・・・・。個別シナリオがこの2倍(=佐菜―菜々香編やあさみ編と同程度の分量)、それが無理でも少し増量するだけで、かなり受けるイメージは変わっていたと思います。


ただ・・・・・・。エンターテイメントとして、という観点を捨てるならば、その他のシナリオに関してもこれで良かったのではないか、という思いもあります。

というのも、まずテーマが先にあって、それを表現する手段としてゲームという媒体、王道というレールを利用したのだと考えると、妙に納得できてしまって・・・・・・。”テーマのための物語”とは、あまり言いたくないのですが。

登場人物たちが繰り広げる、痛みや苦悩、優しさに満ちたエピソードの数々は、あくまで”彼ら自信”の物語に過ぎないのです。本当に重要なのは、この作品の中ではなく。この作品を外から眺める”自分自身”。

結局、どのシナリオを読もうが、その中で語られるテーマは登場人物たちを飛び越えて物語を眺める”自分自身”に突きつけられる。だから、極論彼らの物語は、どれだけ急展開で決着しようとも、それは”唯一絶対ではない”彼らの導き出した答えとして読者の胸に残るだけであって・・・・・・。本当に重要な答えは、”自分自身”が導かないといけない。

佐菜/修輔と二人の主人公が用意されているのも、一つの理由には、

一人の主人公だけだと、主人公=プレイヤーという錯覚に陥ってしまうので、それを避けるためというのがあるのではないか――と思いました。

佐菜と修輔、二人の価値観は異なっている。二人の視点から物語を読みすすめるプレイヤーは、その価値観の相違に戸惑うことになる。二つの菜々香編を共にプレイしたとき、必ず”どちらのサイドでも100%感情移入することはできない”ように組まれているように。そして、それは、プレイヤーと佐菜、あるいは修輔との価値観の相違にもつながり、ここでようやく、この作品における”Myself;Yourself”の意味が明確になってくる。

――ああ、これは本当に”自分自身”の物語だったんだな、と。


キャッチコピーにある「あなたに、とても近い物語。」とは、結局マイユアのプレイヤーは、ゲームのシナリオを通して知らず知らずのうちに”自分自身”の物語を見ているのに等しい、という意味もこめられているのかな、と。・・・・・・深読みかもしれませんが、ただ一ついえることは。

この作品は、”自分自身”を真っ直ぐに見つめなおす、良いきっかけになりました。あまりにも多くのことを考えすぎて、途中で頭がパンクしそうにもなりましたが(笑)。

そういう意味では、マイユアはプレイヤー自身を移す鏡のようなものなのかもしれませんね。


元々中澤さんは、常に読者(プレイヤー)のことを考えて作品を創られている方です。その姿勢は、ミステリでもSFでも、このような学園ものでも全く揺らぐことが無いのだと思います。たとえば、「Remember11」とこの「Myself;Yourself」。対極にあるといっても良いほど異なった物語ですが、どちらにも共通しているのは、”何よりもプレイヤーのことを第一に考えていなければ、こんな物語は生まれない”という点。どちらも、読者の存在を何よりも重視していたからこそ出来上がった作品なのは間違いないはずです。そういう意味では、この「Myself;Yourself」、とても中澤さんらしい作品だなと感じました。

少し脱線&私的な話になりますが、

これまでの中澤さんの作品は、麻耶雄嵩さんや西澤保彦さん、森博嗣さんの作品に近い色が強くでていた気がするのですが、マイユアは加納朋子さんの作品に通じるものを感じさせてくれる物語でした。

加納さんの作品に出会い、麻耶さんの作品に衝撃を受け、そして中澤さんの作品に巡り合った自分にとって、なんとも言えず感慨深いものがありました。

”物語を紡ぐ”ということの意味を、今一度考えさせてくれます。


Myself;Yourself――”喪失”と”再生”の物語。

「Myself;Yourself」になる前の、一番最初の仮タイトルは「Hello,Goodbye」だったそうですが、こちらのタイトルから既に”出逢い”と”別れ”、すなわち”喪失”と”再生”のテーマが示されています。キャッチコピーの”なくした ものは なんですか?”にも、やはり”喪失”と”再生”の隠喩からなる幾つかの意味がかけられているとのことで、このテーマが如何に核となっているかが伺い取れますね。

加えて、”肯定”――夢を追うこと、自分らしくあることを肯定してくれる物語であり、同時に”本当の自分自身とは何なのか”という哲学的な問いかけをしてくる作品でもあります。特に、同世代の人には是非ともプレイしてほしいですね。絶対に、得るものはあるはずです。


シナリオ自体は、決して完全だとは言いません。期待が大きかったというのもありますが、全てが期待通りではなかったことも改めて述べておきます。

それでも、そういったことを全て含めて。

”答え”に辿り着く路を照らし出してくれた、この作品と。

同じく、様々なことを教えて頂いた中澤工さんと。

この作品に関わった、全てのスタッフの方に。

心からの感謝を込めて――

ありがとうございました。