辻村深月 「スロウハイツの神様」 | The Key of Midnight

辻村深月 「スロウハイツの神様」

辻村 深月
スロウハイツの神様(上)
スロウハイツの神様(下)

猟奇的なファンによる小説を模倣した大量殺人事件から10年。筆を折っていたチヨダ・コーキは見事復活し、売れっ子脚本家・赤羽環と、その友人たちとの幸せな共同生活をスタートさせた。しかし謎の少女の出現により…。


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久々に、心から良かったと、そう思える本でした。

クリエイター達が一つ屋根の下に集まって共同生活を始める。映画監督や漫画家を目指す、未熟な彼らの青春小説。

・・・・・・あらすじが、とても説明しづらいですね。

一つ一つのエピソードが積み重なって、ラストへと向かっていく、そんなタイプの話なのですが。

その過程で語られる、登場人物たちの夢だとか、苦悩だとか、希望だとか、そういったものの全てが深く心に染み込んでくる。

特に、創作に対する姿勢。

何度も繰り返されるこのテーマには、創作に向き合うということの意味を考えずに入られません。

”小説のせいで人が死んだ”

でも、

”その小説のおかげで生きている人がいる”

・・・・・・物語の持つ力は、とても大きいもの。

自分もそのことを知っていますし、だからこそ、この話には考えさせられました。それこそ、途中で真剣に向き合うのが辛くなって、思考を停止させてしまいそうになるほどに。

自分も”あの物語があったから”今の自分があるのだ、といつも感じています。物語の影響力は、そんな甘く見ていいものじゃない。だからこそ、創作する側の人間もそれに向き合わなければいけない・・・・・・。

全ての、物語を愛する人に、そして何かを創作する人に、この作品は読んで欲しいと思いました。


下巻の後半で明かされる真相、特に最終章のそれは、予想は出来ても心が動かされずにはいられません。

久々に小説を読んで泣きました。ミステリではないけれど、ミステリの可能性はこんなところにも広がっています。全く予想外のところにも伏線が。全てがつながった瞬間の、驚きよりは優しさやせつなさに似た感情は味わってみないとわかりません。予想を裏切らない真実は、誰も傷つけない。


優しすぎる物語、かもしれません。でも、読者の心に訴えるものを持った物語でもあるのは確かです。

今まで読んだ辻村さんの作品の中では、一番好きかもしれません。辻村作品が初めて、という人にもお勧め。9点