大池田劇場(小説のブログです) -3ページ目

恋人の秘密(商標権に気を付けろシリーズ最終話)

          恋人の秘密
            1
「いいですか、ここで切符を買って、改札を通っ

て・・・。」
 町に出たことがないというウェパルさんを連れ

て、初めて駅へと来た。
 「うわっ、これが電車なのね。大きいわ。」
変なところで感動して大声を上げるのでちょっ

と恥ずかしい。
 みんながクスクスと笑っている。
「なに?このおいしい食べ物は・・・。」
電車の中でおにぎりを出すとおいしそうに頬張

った。
 「ただのコンビニのおにぎりですよ。」
見るものすべてが目新しくて興味を引くらしい。
 「持って帰って成分を分析しないと・・・。」
魔法で作るときに必要らしい。
 イメージしたものを、すべて完璧に再現できる

わけではないようだ。
道内のいろんな観光地を回ると、子供のように

喜んでくれて可愛かった。
大きな町を見下ろす小高い丘。
 一面が芝生に覆われた美術館の上に私たち

は来ていた。
「可愛いなオブジェね。」
前衛的な作風の彫刻家が作成したものだ。5

メートル位の大きさがあった。
 「これ、こんなところに落ちてるのなら、拾って

持って帰ってもいいかな?」
 「ダメですよ、これは屋外展示で置いてあるだ

けなんですから。」
こんな重たそうなもの、どうやって持って行く気

なのだろう。
 彼女に常識は通用しないのだけれど・・・。
 お昼になったので池の近くで昼食をとる。
 私は、ずっと会社に出て居なくてお金がないの

で、ハンバーガーを買ってきた。
「こんなおいしいもの食べたことない・・・。」
 人間の女の子に、こんなもの御馳走したら怒り

出すかも知れないが、嬉しそうに食べてくれる。
「ただのチーズバーガーです。」
 「持って帰って、コーヒーに入れてもいいかも。」
彼女は、パンはコーヒーに入れて食べるものと

思っている。
 「馬鹿なこと言わないでくださいよ。」
インターネットで調べたところ、中世のヨーロッパ

では、パンはスープや飲み物に入れてふやかして

食べるのが一般的だったらしい。
(雷麦や燕麦で作った当時の黒パンは、長く置く

と固くて食べられなくなった。)
古から生きている魔女には、ごく普通の習慣なの

かも知れない。
二人で食事をしていると、池の方で大きな水音が

した。
「子供が・・・。」
親と離れて一人で遊んでいる女の子が池に落ち

たらしい。
 私はそのまま飛び込んで子供を助けようとした。
 なんとか子供の傍まで行ったが、しがみ付かれ

て泳げない。
 「助けてください。実は私は、あまり泳げない。」
 学生のころは平泳ぎで100メートル位が必死だ

った。
 こんなの泳げるうちに入らない。
 このままでは二人とも溺れてしまいそうだ。
 「世話のやけるやつだ。」
そう言うとウェパルさんは水の中に飛び込み、信

じられないような速度で、私達の方へと突進してき

た。
「あれっ、ゴポっ。」
 沈みかけた私は、池の水の中で、泳いでいる彼

女の姿を見た。
 水中の彼女は、白い大きな尾びれをつけた魚のよ

うに優雅に、しかし敏捷に泳いでる。
 私達二人を見つけると、すぐに抱え込んで水上へ

と向かった。
 「ゲホ、ゲホッ!ウェパルさん、下半身が・・・。」
美しい二本の足が喪失している。
 「遂に私の秘密を見てしまったのだな。」
彼女は岸辺に向かって泳ぎながら悲しそうにそう

言った。
             2
 遠い昔、まだ人類が何の文明も持っていない時代。
 神と悪魔は人間の処遇を巡って、天界を二分する

大きな戦争を起こした。
 やがて敗れた悪魔たちは地に下り、各地に散って

天界に抵抗を繰り返すことになったという。
 「私は神と悪魔、人間は共存できると思っていた。

だから戦いには加わらず中立を保ったのだ。」
ウェパルさんの妥協論は、両方の軍隊に受け入れ

られなかったらしい。
 「どちらの陣営にも属さないということは、どちらか

らも攻撃を受けるということになる。だから山の中に
隠れたんだ。まさか人魚が山の中に居るとは思わな

いだろう。」
 知っているのは親友のグレモリーさんだけだったよ

うである。
 「見るもの、聞くものが水の中の生活と違って目新し

く、私は地上にあるものがなんでも愛しく見えた。」
 それでガラクタを集めていたらしい。
 「ただ、ずっと一人で生きていくのは正直淋しかった

んだ。でも、おまえに私と同じ境遇を強いるのは

・・・。」
不憫だったので言い出せなかったようである。
「いいですよ、私はあなたの使い魔なのだから。」
彼女のように優しくきれいな人と一緒に暮らせるの

なら、こんな幸せなことはない。
 「本当か?一緒に居てくれるのか。」
ウェパルさんの目から一筋の涙が流れ落ちるのが

見えた。
 「だったら、私の使い魔らしくなってくれるか

・・・。」
彼女はにっこり笑ってそう頼んだ。
 「ええっ、ウェパルさんが望むなら・・・。」
ウェパルさんは目をつぶって瞑想すると、何かの呪

文を唱えた。
 やがて私の体が金色の光に包まれていく・・・。
 「どうだ・・・、気分は?」
魔法をかけられた私の体はとんでもないものに変化

していた。
 腰から下が魚の、人魚になっていたのである。
 「どうもこうも・・・、身動きできません。」
足が無くなったので、動こうとしても尾びれがむなし

く宙を切るだけである。
 この体型では、陸の生活は不可能だろう。
 「やはり上半身が男だと気色悪いな。」
 ウェパルさんはそう言うと追加の魔法をかけた。
 「きゃあ、乳房が大きく・・・、乳首も・・・。」
 あれ、なんで「きゃあ。」とか口をついて出たのかな。
 「どう?、身も心も女になった気分は?」
 心まで・・・。
 ううぅ、何かおかしな気分です。
 「あの~っ、一部分が男のままなんですけど・・・。

しかも立派になって・・・。」
下半身には魚にはないものが直立している。
 「ふふっ、私の好みに合わせたのよ。もう我慢できな

い・・・。」
そう言うとウェパルさんは人魚の姿になって、私に体

を寄せてきた。
 「あっ、ちょっと・・・、そんな趣味だったなんで

・・・。だめ、逃げられないわ。いや~ん、せめて先

にお風呂を・・・。」

 この二人、仲がよさそうなのでこの辺でお話を終わり

ますね。


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よろしければご覧になってくださいね。

http://ameblo.jp/m8511030/

(実は一つの話を完結して他の話へ行くという手法

をとっておらず、いくつかのシリーズを並行して書い

ていますので、目次をご覧になった方がわかりやす

いかと思います。きまぐれで他のシリーズへ飛びま

す。)


増刊号の「山池田」です。

現在、なぞの物質・「福田樹脂」載せています
よろしくお願いしますね(。・ω・)ノ゙

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(山池田は登山日記と、自分では今一つと思っている

話を載せています。掲載は不定期です。)

それを見ないで(商標権に気を付けろシリーズ第二話)

            それを見ないで!
                 1
 あれから1ケ月が過ぎた。
 美しい女神、白い恋人に助けられた私は、そのまま彼女の

家に住んでいる。
 不思議なことに彼女の小さな家の裏にはもう一つ、別棟の

大きな建物があった。
 「いいこと、私が家を留守にしているときも、絶対にあの建

物の中を覗かないでね。」
私が、建物に何の気なしに近づこうとすると、温厚な彼女

が急に眉を吊り上げてそうきつく私に注意した。
「わかったよ。」
 ここは彼女の家である。
 見るなと言われたらその命令を聞くしかない。何が入って

いるか見てみたかったが・・・。
 この建物以外でも彼女にはいくつもの秘密があった。
 私は彼女の名前をまだ知らないのである。
白い恋人は私が勝手に彼女につけた名前だった。
 「ねえ、よければ君の名前を教えてくれないか。君とか、

あなたとかでは呼びにくくて・・・。」
 私は思い切ってそう聞いてみることにした。
「私の名前は▽×▲××○よ!」
彼女は掃除しながらめんどくさそうにそう答えた。
「えっ、よく聞き取れなかったのですが・・・。」
どう聞いても日本語ではない。
 知りうる限りの外国語でもこんな発音は聞いたことがなか

った。
「もし、私の本当の名前を言うことができれば、あなたと私

は離れられない関係になってしまうの。」
 何かの昔話でそんなことを聞いたことがある。
 あれ・・・?あれは雷様に名前を付ける話だったかな?
 鬼に橋をかけてもらう話だったのかな?
 よく解らないけど、名前を言うことができたら奥さんになっ

てくれるようである。
                 2
よく解らないことがもう一つ・・・。
 彼女はフェレットを飼っているのだ。
 白くてかわいい生き物である。でもなぜか元気がなかった。
 「これ、死にかけているのでは・・・?」
 どうみても弱弱しくて息も絶え絶えのような状態になって

いた。
 名前はルカというらしい。
 私がエサをやっていたがほとんど食べなかった。
 「いいのよ、これで・・・。」
 飼っている割には関心がないようで、ほとんど放置してい

るようだった。
 魔法とかで治してあげられないものなのだろうか?
 どこへも行くあてのない私は、この小さな生き物、おそらく

フェレットの子供を見て一日を過ごしていた。
 「こんちわ、お邪魔するわね。」
 ある日、すごい美人が訪ねてきた。
 彼女の友達だろうか。あいにくと白い恋人はどこかへ出か

けている。
 「ウェパルは留守しているの?」
お客の美人は彼女のことをウェパルと呼んだ。
 私は、女神に助けられてここに居ることを彼女の友人に告

げた。
 「えっ、ウェパルが女神・・・。」
お客さんはそう言うと、目を丸くして驚いた顔をした。
 私は彼女が名前を教えてくれないこと、教えてくれても、よ

く解らない発音で聞き取れないことを彼女に話した。
 「それはきっと、あたし達の間の言葉だわ。人間の呼び名

では彼女はウェパル。」
親切な彼女はそう説明してくれた。
 名前を言うと、彼女と結ばれることになることも話した。
 「くすくす・・・、そんな話聞いたことないわ。ウェパルにか

らかわれたのよ。」
美しいお客さんは楽しそうに笑いながらも、急に何か思い

ついたような顔をした。
 「あっ、でも、もしかしたら彼女なりの・・・。まっ、いい

か。」
 何が「まあいいか。」なのか気になる。
 「え~とっ、何か意味があるのですか。」
私の質問には答えず、彼女はめざとくフェレットの子供を

見つけると、急にそのゲージの前に駆け寄った。
 「これ、これ・・・、ずっと欲しかったのよ。」
愛しそうに死に掛けのフェレットを見つめる。
 小動物は、今にも死にそうな苦しい息をしていた。
 「さあ、立ちなさい。ルカ!」
彼女はそう動物に命令した。どう考えても無理があるよう

に思えたが・・・。
「わかりました、ご主人様。」
 急にフェレットはそう答えると二本足で立ち上がった。背

中にコウモリのような羽根も生えている。
 「フェレットが・・・。」
 パタパタと小さな羽音をたてて彼女の胸へと飛んでいく。
 「これ、フェレットじゃないわよ。オコジョっていうイタチ

科の動物なの。ずっと欲しかったけど珍しいからなかなか

捕まえられなくて・・・。」
 そう言うと彼女は背中に隠していた大きな羽根を取り出

して、天空へと飛び立った。
 「ウェパルに使い魔ありがとうって言っといてね。」
 そう言い残すと女悪魔は、ハヤブサのような素早い動き

で夜の闇へと消えて行った。
                3
 しばらくすると白い変人は鮫のような大きな魚をズルズ

ルと引きずって帰ってきた。
「どうやってそんな大きな魚取ってきたのですか?ウェパ

ルさん。」
ますますわけわからん人である。
 「泳いで取ってきたに決まっているでしょう・・・。あっ!

なぜ私の名前を・・・。」
私は美しい女性がこの家に遊びに来ていたことを告げ

た。
 「くっ、グレモリーの奴余計なことを・・・。」
女悪魔はグレモリーさんというらしい。
 ウェパルは不満げな顔をした。
 「仕方ない、あなたを使い魔にしてあげるわ。」
 えっ、夫じゃなかったの?
 単なる召使い・・・。
 オコジョと同格・・・?
これでも彼女の中では昇格にあたるのだろうか?
               4
 いろんな謎が解けたのか、かえって深まったのか解ら

ないが、残る疑問は裏の建物だけになった。
昔話の鶴の恩返しでは、開けるなといった戸をあけてし

まったために美しい妻を失うこととなる。
 私は召使かもしれないが、彼女とは別れたくはなかった。
「でも居ないときにこっそり見るだけなら・・・。」
 彼女は一度出ていくと、しばらくは帰らないことはだんだ

んとわかってきた。
 「少しだけならいいだろう。」
 私は彼女が何を隠しているのか、どうしても見てみたか

ったのだ。
 建物に近づいてみる・・・。
 なぜか鍵はかかっていなかった。
 「こっ・・・これは・・・。」
 私は建物の中を見て絶句した。
 自転車の車輪・・・、便所のスリッパ・・・、かまきりの

卵・・・、味付けのりが入っていたであろう瓶、ありとあら

ゆるガラクタが集められていたのである。
 「遂に開けてしまったのだな。」
気が付くと、怒りの目にあふれたウェパルさんが私の

後ろに立っていた。
 「おまえ、この中の宝物を盗む気だったのだろう!」
この建物はウェパルさんの宝箱だったようだ。
私に盗まれると思って警戒していたようである。
 「なんで私がカマキリの卵とか、便所のスリッパとか、

盗まないといけないのですか。」
どうやら彼女は、落ちているものを集めたがる性癖を

持っているようだった。
 雪の中で私を助けたのも、単に落ちている物を拾って

きただけなのかも・・・。


 よい子のみなさまへ
 ワンちゃんみたいな性格だったのですね(。・ω・)ノ゙


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白い恋人

          白い恋人
           1
 「大雪山の麓には白い恋人と言われる妖精が

居るのだ。」
 友達の健作は私にそう話をしたことがある。
 「そんな馬鹿な・・・、白い恋人ってお菓子じゃ

あるまいし。」
 私は友達が冗談を言っているのだと思った。
 「本当だよ。道に迷った時に俺は見たんだ。」
 健作の目は真剣だった。嘘を言っているとは

思えない。
 彼は一度冬山で遭難しかけたことがある。
 きっとそのときに幻覚を見たのだ。
 あまりに疲労が蓄積すると、人は死ぬ間際に

幻を見ることがあるのである。
 おそらく苦痛を和らげようと、死線をさまよった

時に脳がそういった映像を結ばせるのだろう。
 そう何かの本で読んだことがある。
 きっと、その時健作の目には確かに白い恋人

が見えたのだろう。
            2
 「はっ、眠っていたのか・・・。」
 気が付くと雪の中に倒れている。あたりは一面

の銀世界である。
 「そうだ、私は道に迷って・・・。」
 疲労から倒れこんでいたのだ。このままでは死

ぬところだった。
 「どうしてあんな昔のことを・・・。」
 急に思い出したのだろう。白い恋人のことなど

・・・。
 「私もそろそろお迎えが来るということか・・・。」
 大雪山は何度も登っているので油断していた。

まさかベテランの自分が遭難するとは思わなか

った。
 「あの~、起きましたか。」
 急に頭の上で女の声がした。幻覚も進んでく

るとリアルな声が聞こえるのか。
 「起きなさいって、言ってるでしょう。」
 声の主はそう言うと私を蹴とばした。そのまま

ゴロゴロと転がる。
「なんだ、これは。」
 あわてて声の主を見て驚いた。純白のドレスに

包まれた、美しい女性がそこに立っていたのだ。
 もしかして・・・、健作から聞いた白い恋人か?
 間違いない、この世のものとは思えない美しさ

である。女神そのものだ。
 「もう、しょうがないわね。放っておくわけにもい

かないし・・・。」
 そう言うと、白い恋人は私の襟髪をむんずとつ

かみ、ずるずると引きずり始めた。
 顔とは似ても似つかないすごい力である。
 「ちょっと・・・、待って。離して・・・。」
 いくら雪の上だからと言っても痛い。
 「少しぐらい我慢しなさい。」
 彼女はそう言って私の言うことなど聞こうとしな

かった。
 「あれ?よく見ると・・・。」
 なぜか和かんじきをして歩いている。
 ドレスの上にどてらを着て、阪神タイガースの帽

子をかぶっていた。
 「阪神ファンなんですか?」
 到底女神とは思えない恰好なので思わず聞いて

しまった。
 「阪神、なにそれ?」
 不思議そうな返事をするので、帽子のことを話し

た。
 「ああっ、これのことね。山に落ちていたから貰っ

たのよ。」
 拾った帽子をかぶっていたようである・・・。
             3
 「寒かったでしょう?コーヒーを御馳走するわね。」
 そう言うと彼女は中空からコーヒーカップとパンを

取り出して見せた。
 「魔法だ。私は夢を見ているのか。」
 唖然とする私に白い恋人はコーヒーを差し出すと、

パンをちぎって自らのカップの中に入れ始めた。
 「コーヒーはこうやって飲むのがおいしいのよ。」
 そう言って彼女はスプーンを入れたままコーヒー

を飲み始めた。
 スプーン、邪魔じゃないのか?
 「ほら、あなたも食べなさい。」
 そう言って彼女は私のカップにもパンを放り込み

始めた。
 自らはふやかしたパンをつまんで口に入れている。
 「果物が欲しいわね。」
 そう言うと白い恋人は今度は中空からイチゴを取

り出した。
 おいしそうに口に入れている。
 「あの~?へたは取らないのですか。」
 私の質問に彼女は怪訝な顔をした。
 「ここに栄養があるんじゃない(注・ありません)。」
 そう言うと白い恋人は私にもイチゴを丸呑みするよ

うに勧める。
 「道に迷って、お腹すいたでしょう?」
 ずっと飲まず食わずだったので当然お腹は空いて

いた。
 「じゃあ、スープをごちそうするわね。」
 彼女はテーブルの上にうまそうなクリームシチュー

とライスを取り出した。
 「あっ、ライスをシチューに入れないで・・・。」
 白い恋人はご飯を皿の上からシチューにかぶせる

と、グチャグチャと掻き混ぜて私に差し出した。
 味の方は申し分なかったのだが・・・。
 「うふふっ、おいしいでしょう。ここが気に入ったのな

らずっと居ていいけど、いくら私が可愛いからって、

エッチなことはしないでね。」
 彼女はそう言ってテーブルの上のフォークをつまみ

上げた。
 「私の腕力は熊の数倍はあるから、おかしなことを

するとあなたの首がもげちゃうわよ。」
 白い恋人が指先でフォークの頭をはじくと、途端に

ちぎれて弾丸のようにコンクリートの壁に突き刺さっ

た。
 「しません、絶対しません!」
 私は背筋を伸ばして校長先生に怒られた生徒のよ

うにそう答えた。
 命を助けてくれた女神に、元々そんな気が起こるは

ずもないのだが・・・。
 「やりたいときは私の方から行くから・・・。」
 彼女はふやかしたパンを食べながらそうポツリとつぶ

やいた。
 「えっ、するのですか・・・?(拒否権はないらしい)。」
 食事が終わると、白い恋人はテレビをつけてNHKの

政治討論を聞き、ゲラゲラと笑っている。
 「あなた、もしかして・・・。」
 私は女神の正体に気付いた。
 どうやら彼女は白い恋人ではなく・・・、白い変人(へん

じん)だったようである。



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見た目で判断しないでよ

         見た目で判断しないでよ
                 1
 千佳大尉とアマンダ少尉は惑星アトランチスに来て

いた。
 「この星の人たちは帝国側から中立の立場へと外

交スタンスの変更を考えているらしいの。」
 二人は大事な外交文書の輸送を任されていた。
 宇宙船は小さな島に着陸した。座標は向こうが指

定してきたものだ。
 「ここから先は一人で来てほしいということだから、

アマンダお願いね。」
 電子地図に場所はマークされている。
 銃の腕はアマンダの能力の方が抜きんでている。

千佳大尉は宇宙船で留守を守ることにした。
 「ちょっと暗くて怖い星ね。」
 日の光があまり差さないらしい。昼間でも暗い星だ

った。
 「こんな星に住む人ってどんな人たちなんだろう。」
 帝国軍側に居た星系の人はグロテスクな姿をした

人が多いのである。
 道がぬかるんでいて気持ちが悪い。湿気の多い星

だった。
 地図に示されたとおりに進むと沼地に出た。白い服

を着た少女が水の中に立っている。
「私はこの星の外交官よ。」
女性はアメルと名乗った。
 体は小さいけどよく張った胸とお尻。これで成人して

いるのだろう。
「私より小さい女性は初めて見るわ。」
 アマンダは彼女を見て驚きの声をあげた。身長は1

メートルを少し超えるくらいだろうか?
 「小さい?私が・・・?身長は5メートルもあるのよ。」
 アメルはそう言って不思議な顔をした。
「・・・。」
アマンダはどう返していいか分からなくなって一瞬言

葉に詰まった。
「あははっ、どう見たって私のほうが大きいよ。」
 彼女は、アメルが冗談を言っているのだと理解した。
「うふふ、どうかしらね。」
とりあえずアマンダは預かってきた文書を預けようと

した。
 これで任務は終了である。
「ごめんなさい、私は水の中から出られないから、あ

なたがこっちへ来てくれないかしら?」
 アメルはそういってアマンダを誘った。
 「水の中に入るの?」
暗くって足元がまるで見えない。入り込むには勇気が

いる。
 それに何かの罠かも知れなかった。アメルはみたと

ころ水生生物とも思える。
 水の中に入っては抵抗ができない。
 「私を騙そうとか・・・、そんな気はないよね?」
水はとても冷たい。寒さに弱いアマンダはブルブルと

震えた。
 ひざ下まで水につかってしまい、服もブーツもびしょ

濡れである。
 「向こうの小さな島までお願いね。岸に小さな机が置

いてあるから、そこでサインするわね。」
アマンダはアメルに導かれるまま、沼の奥へと進んだ。
 「水の底が見えないから怖いでしょうけど、大丈夫。深

くはないわよ。」
言われるように水深は一定しているようだ。
 「あっ!」
 アメルは小さな叫び声をあげてアマンダを見た。 
 腰に差していた細い剣を抜く。
「足元に凶暴な爬虫類が居るわ。じっとしていなさい。」
反射的に銃を構えたアマンダを声で制すると、アメル

は剣を暗い水中に突き刺した。
 30センチほどの小さな生き物が急所を突かれて浮か

び上がった。
 「なんだろう、みたこともない生き物だわ。」
 アメルは不思議そうにその生物を見た。
「ありがとう。よくこんな暗い所で見えたわね。」
アマンダには水の中はまるで見えない。まるで墨汁の

中を歩いているように思える。
 「この星は暗い、闇の星。目はあまり役に立たないか

ら、私たちは視力がよくないの。」
目で見ているわけではないようである。
 「へえ、耳が発達しているのかな?」
水中の音が聞こえるのだろうか?
 「うふふ、違うわ。レーダーみたいなものを体に持って

いるといったほうがいいかな?」
何かの不思議な能力があるらしい・・・。
 やがて岸につき、アマンダは陸に上がって落ち着くこ

とができた。
 服はびしょ濡れで寒い。
「私たちは以前は帝国の主張に賛同していたの。でも

あまりにも彼らは乱暴で・・・。」
アメルはそう言って愚痴を言った。何かひどい仕打ち

を受けたようだ。
 「これが連邦軍大統領の親書よ。」
アマンダは持ってきた書類を差し出した。
 「ありがとう、連邦が守ってくれるのなら、帝国側から

離れることができるわ。私たちは戦闘に参加することは

できないのだけれど・・・。」
味方にはならなくても、中立の立場をとってくれれば

連邦としては大助かりである。
 必要な土地も提供してくれるらしい。
 消極的な同盟である。
「じゃあ、書類にサインを押すから持って帰ってね。」
 この書類にサインをもらうと条約が発令し、連邦軍が

大挙この星を訪れて帝国軍を駆逐するということにな

っている。
 「おい、ちょっと待て!その書類はこちらにもらおう。」
 岩陰から3メートルを超す巨人が現れた。帝国の兵士

である。
 銃を構えている。
「あの小さな爬虫類で私を見張っていたのね。」
 警察犬のように訓練された生き物だったのだろう。
 何らかの手段で連邦軍の接近を知らせていたのだ。
帝国の兵士はアマンダに向かって銃口を向けた。
 「おっと、おかしな真似はやめろよ。連邦のお嬢さんが

早打ちの名人だということは知っているのだからな。」
アマンダは身動きできない。
 「動くと容赦なく撃つよ。」
睨み合う二人の様子を見て、アメルは帝国の兵士に

話しかけた。
「うふふ、実は私も早打ちの名人なのよ。」
そう言ってにっこりと笑った。自分に注意をひきつける

つもりだろうか?
 帝国の兵士も馬鹿ではないので、アマンダから目を離

さない。
 「お前、銃なんか持っていないじゃないか。」
 アメルは右手の人差し指を前に伸ばし、親指を引き金

のように立ててみた。
 「試してみる?もし私に勝てたら、私のこと好きにして

いいのよ。」
帝国軍兵士は彼女が冗談を言っているのかと思った。
 「おまえが俺の相手を?その小さなボディでか?体が

裂けてしまうぞ。」
アメルはミニサイズだったがかなりの美人だった。
 帝国の兵士も興味を持ったようである。
「うふふ、まさか?私は身長が5メートルもあるのよ。あ

なたよりずっと大きいわ。」
そういって左手を自分の頭の後ろに回し、わきを見せて

胸を強調した。挑発的なポーズである。
 「あはは、面白い女だ。よかろう、その挑戦を受けようじ

ゃないか。」
アメルは楽しそうに笑った。
 「そうこなくっちゃ。私はたくましい男の人は大好きなの

。」
 彼女は手で作った銃を帝国軍兵士に向けた。
 「あなたのハートを狙い撃ちとか・・・。」
帝国の兵士はアメルの冗談に笑って見せた。
 「ははっ、もう射抜かれてしまったかな?」
まさか、手から光線が出るわけでもあるまい、そう考え

て油断した。
 「じゃあ、いくわよ。3.・2・1・・・、エイ!」
アメルの掛け声が終わるとともに、帝国軍兵士が悲鳴

を上げる。
 「がぁあああ!」
 もんどりうって兵士はあおむけに倒れた。
 ピクリとも動かない。即死のようである。
 周りの水面には、死んでおなかを見せているたくさん

の魚が浮いている。
 「すごいわ、どうやったの。」
アマンダは本当に手が銃になっているかと思った。
 「あなたが陸に上がっていてよかったわ。水の中に入

っていたら死んでたわよ。」
閉ざされていた厚い雲から、ほのかに太陽の光がさし

たとき、アメルのお尻からは長く伸びた尻尾が見えた。
 太さも胴体と同じくらいの直径を有している。
 「あなた、これって・・・?」
 「驚いた?私が水から出なかったのはこのせいなの。

陸上では重くて動けないのよね。」
彼女はその長い尻尾で水面をパシャリとたたいて見せ

た。
 イルカが跳ねたように大きな水しぶきが立った。
 「この尻尾で叩いたの?」
 「まさか?そんな素早く動けないわ。」
いくら浮力があってもこれだけの大きさのものだ。そう

自由は効かないのだろう。
 「よく見てなさい。」 
 彼女は自分の長い尾っぽを青白くスパークさせて見せ

た。
 雷が落ちたような稲光が水面を横に走る。
 「発電器官なんだ。」
光の速度で水中を走る銃弾と、早打ちをやって勝てる

はずなどない。
 相手は引き金を引く前に瞬殺される結果になる。
 「うふふ、そうなの。私はあなたたちの星の電気ウナギ

に似た生物なのよ。」
 実はアマゾンの電気ウナギも体の4/5が尻尾なので

ある。
 帝国軍の兵士は目を開けたまま、あおむけに水面に

浮かんできた。
「かわいそうに、きっと心臓麻痺で死んだのね。あなた

のハートを狙い撃ちにするって、最初に言ってあげたの

にね・・・。」
彼女は尻尾から微弱な電気を出して、レーダーのよう

に水の中の物を見ていたのである。
 それはもちろん、電気ウナギと同じように、やろうと思

えば攻撃にも使用できたのだ。


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現在、なぞの物質・「福田樹脂」載せています
よろしくお願いしますね(。・ω・)ノ゙

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(山池田は登山日記と、自分では今一つと思っている

話を載せています。掲載は不定期です。)

背徳の剣士(奥様は女神シリーズ最終話)

             背徳の剣士
                 1
駅前の喫茶店から出ると、真由が入口で立ってい

た。
「私に黙って何をしていたの。」
怒ったように美しい眉を逆立てている。
疑われているようだ。
 先に出て行った女の子も見ているのだろう。
 「ちょっと部下の悩み事を聞いていたんだ。」
私はちょっと焦った感じでそう答えた。
 やましいことはしていないのだが・・・。
 「ふ~ん、ずいぶん親しそうだったわね。」
窓の外からずっと見ていたようだ。
 「そんなことはないさ。」
そう答えたが、真由の疑いは晴れないようだ。
 「神を騙すとただでは済まないわよ。神の力でチェ

ックするからね。」
神の力?
 どんなことをされるのだろう。
 「くんくん、くんくん。」
真由は私の体をくんくんと嗅ぎまわった。
 「大丈夫みたいね。」
そんなことで解るのだろうか?
 「犬かよ、おまえは。」
疑いは晴れたようだ。
 「それで、どんな悩みがあるというの。」
真由は彼女の悩みに興味を持ったようだ。
「彼女、不倫をしてしまいそうだと言うんだ。」
その相談を受けていたのである。
 彼女は1年前に職場結婚したばかりである。
「なぜかとても魅力的な男性で、抗いきれないらし

い。」
 夫婦仲が悪いというわけでもないらしい。
 「確かに・・・、変な話だわね。」
 なぜ浮気など考える必要があるのだろう。
 「それで、ちょっと相手がどんな人か確かめて見よ

うと思ったんだ。どうも謎めいた人らしい。」
真由は少し変な顔をした。
 何か、妙な勘が働いたのかもしれない。
               2
次の日私たち夫婦は、部下の相手となっている男

性を見に行くことにした。
 駅前の喫茶店に、部下の女性社員がその男を呼

び出したのである。
「じゃあ、さようなら。」
 そう言って出てきた男は、彫りの深い顔立ちの美

男子だった。
 体格もいい。
 映画俳優のようだった。
 私はこの男の後をつけて、身元を確認するつもり

だった。
 「こいつは・・・。」
 その顔を見て、真由の顔がこわばった。
 「ちょっと、待ちなさい!」
 真由が飛び出して、大声でその男を呼び止めた。
 こんな大げさなことをするつもりはなかったのだが

・・・。
 「なんだ、おまえ?アホ女神のローレライじゃないか

。」
 男は真由の素性を知っていたようである。
 「見つけたわ、悪魔ゼパール。人を浮気に誘う悪魔

。」
 ゼバールは正体を知られても全然動じなかった。
 「ふふっ、それがどうした。私は人の心の奥底にある

本心を引き出しただけだ。」
 誰でもパートナーに多少の不満はあるものであろう。
ゼパールは人を不貞に走らせる魔力を持っているの

である。
 「あの女の子から手を引きなさい。彼女は人妻なの

よ。」
 ゼパールは口元を歪めてニタリと笑った。
 「嫌だね、なぜおまえの言うことを聞く必要がある。」
 そう言ってゼパールは真由に後ろを向けると、その

ままどこかへ行こうとした。
 「待ちなさい、まだ話はおわっていないわ。」
真由は近くにあった花壇からブロックを引き抜くと、

男の脳天向かって投げた。
 「ぐわーん。」
 大きな音がした。普通なら即死だろう。
 「やったな!ローレライ。」
男の姿は、いつのまにか西洋式の甲冑姿になって

いる。
 甲冑は、血のような赤い色をしていた。
 真由がなげた石が当たったためか、兜が足元に転

がっている。
 「今はまゆって名前なの!やったが、どうした!」
男の形相は恐ろしいほどの怒りに満ちている。
 「剣を取っては魔界一と言われた、このゼパールに

逆らうのか。」
ゼパールは剣を抜くと、猛然とこちらへ向かって駆

けてきた。
 「あぶない、まゆ!」
私は真由の前に立ちはだかった。
ゼパールは剣を大きく上段に構えると、私の肩口に

向かって振り下ろした。
激痛が肩から胸にかけて走る。
 そのまま倒れこんだ。
「ゼパール、よくも私の大事な人を・・・。」
 真由はまた新しい石を掴んで放り投げようとする。
「これでも喰らえ!」
戦いに慣れたゼパールは低い体勢から剣を横に振

い、真由のお腹を切り裂いた。
 「きゃああ。」
 悲鳴をあげて彼女が倒れこむ。
 「ふん、すぐに楽にしてあげよう。」
 ゼパールはそう言ってとどめを刺そうと、剣を頭の上

に振り上げた。
 「やめろ!」
 私は傷を押さえてそう叫ぶのがやっとだった。近づく

ことさえできない。
 「うわっ、何をする。」
 ゼパールがなぜかそう叫んだ。
 いつまでたっても剣は振り下ろされず、いつのまにか

悪魔の姿は消えていた。
                 3
「なんだ、おまえは?」
ゼパールはなぜか中空にいた。
 何者かに両手を掴まれて空を飛んでいる。
 「とおりすがりの黒バエだ!」
ゼパールの頭の上で、しわがれた老人の声がした。
「こんなでっかいハエが居るか!ベルゼバブ。」
ゼパールは両手を激しく動かして、ハエの手足から

逃れようとする。
「黒バエだと言っているだろうが!」
ベルゼバブはあくまでそう言い張った。
「こんなことをしてただで済むと思うなよ、ベルゼバ

ブ!」
抵抗する手段がないと分かったゼパールは、そう叫

んでベルゼバブを脅した。
 「必ずサタン様に報告するからな。」
悪魔の当主に訴えるつもりである。
 「フッ、人に言いつけることしかできないのか、お前

は!」
ベルゼバブは軽蔑したように笑った。
 サタンなど怖くないようである。
 「やかましい、離せ!」
いつの間にか二人は、どこか遠くの山岳地帯まで来

ているようであった。
 遥か下方に火山が見える。
 「お望みとあらば離してあげよう。」
 ベルゼバブは火口の上まで来ると、ゼパールを抱え

ている両手を離し、彼を溶岩の中へと突き落とした。
                 4
「もう、私たち駄目かも・・・。」
 二人とも大量に出血していた。このままでは確実に

死ぬ。
 「まだ諦めるな、真由。そうだ、いつかの歌を唄ってく

れ。

ほら、庭の椿が・・・。」
 私は、真由の魔法を思い出した。
「『庭の椿に花が咲いた~♪。
  大輪のきれいな花~♪。
  ある日ポロリと落っこちた~♪。
  愛の終わりは首がもげるのね~♪。』

 これでいいの・・・。」
 私は自分の傷がみるみる治っていくのを感じた。
 「いいぞ、続けるんだ。きっと助かる・・・。」
 『庭の椿に花が咲いた~♪』
真由は苦しそうな息の元、必死の形相で歌い続け

る・・・。
 「やった!真由、なおったよ。」
 私の傷は真由の歌声で見る見るうちに癒えていっ

た。
 でも、真由は相変わらず息も絶え絶えである。
 「おまえ、もしかして・・・。人は助けられても、自分

は助けられないのじゃないか?」
彼女は苦しみながらも、私の顔を見て二コリと笑い

かけた。
 「うふふ、そうみたいね。あなたとも、お別れだわ

・・・。」
なんということだ。
 私だけ助かってどうする。
「真由、死ぬな。今、救急車を呼んでやる。」
 「ダメよ、もう遅いわ。ずっと傍にいて・・・。」
 そう言って彼女は私の両手を強く握りしめた。
 「おおっ、神よ。居るなら彼女を助けて・・・。」
真由は意識が遠のいたのか目をつぶった。
 「死ぬな、真由!」
 私はそう言って力がなくなった彼女の体を揺り動か

した・・・。
 『墓地でヒガンバナが咲いていた~♪』
どこからから変な歌声がする・・・。
 段々とその声は大きくなっていく。
 おかしな歌詞の歌である。
 『墓地でヒガンバナが咲いていた~♪
  赤くて奇麗な愛の花~♪
  球根でしか増えないのに・・~♪
  だれが墓場に植えるのだろう~♪』
「まゆの歌だ。誰だ、歌っているのは?」
真由の傷はみるみる塞がっていき、彼女は元気を

取り戻していった。
 「・・・・これで良かったのかな?ローレライ。」
いつの間にか、真由の横に美しい女神が立ってい

た。
 真由の魔法を・・・、真似してかけてくれたのだ。
 「女神アフロディテ様・・・。来てくれたのですね。」
女神は真由の顔を見てニッコリとほほ笑んだ。
 「あなたを人間界に向かわせたのは大成功でした。

自分を犠牲にしても人を助けるという、真実の愛を手

に入れましたね。」
女神は真由の右手を取った。
 「もうここでの修業は終わりにしましょう。あなたが学

ぶべきことはなくなったわ。私と一緒に天界へ帰るの

です。」
アフロディテは背中に生えた白鳥のような翼をいっぱ

いに伸ばし、飛び上がろうとした。
 いつの間にか、真由の背中にも白い羽根が生えてい

る。
 「どうしたのです、ローレライ。」
女神は真由が飛び立とうとしないので、不思議に思

ってそう尋ねた。
 「私、やっぱりここに残るわ。この人を置いていけない

もの。」
真由は私の顔を見つめると、そう言って女神の要求

を拒否した。
 「まゆ、俺のことはいいんだよ。」
自分が彼女の足かせになりたいとは思わない。
「いえ、今決めました。あなたと子供を置いていくわけ

にはいきません。」
真由はきっぱりとそう答えた。
 「そう・・・、決心が固いようね。仕方ないわ。でもあな

たのことだから、余計なことに首を突っ込んで人の世界

を混乱させてはいけないから、神の力は封じるわよ。」
 女神アフロディテは呆れたようにそう言った。
 真由の頑固さは知っているのだろう。
 「人としての人生を全うしなさい。」
アフロディテはそう言って、フワリと一人で中空へと舞

い上がった。
 「そうします、アフロディテ様。わがままをお許しくださ

い」
アフロディテは手を振ってゆっくりと上空へと舞い上が

っていった。
 「でも・・・、できるだけ早く私の元へ帰ってきてね。」
見る見るうちにその姿は見えなくなっていく・・・。
 「待ってるわよ・・・。」
その言葉を残して、アフロディテは姿を消し、二度と私

たちの前に現れることはなかった・・・。
                 5
 「早く来なさいよ・・・。」
 妻とジョギングをするといつも置いて行かれる。
 とんでもない早さである。
 「ふふふっ・・・、神の力の前には人間は無力よね・・・

。」
振り返ると、彼女はそう言って笑った。
 「それ、絶対、神の力とかじゃないから・・・。」
 彼女の馬鹿力は今も健在である・・・。



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をとっておらず、いくつかのシリーズを並行して書い

ていますので、目次をご覧になった方がわかりやす

いかと思います。きまぐれで他のシリーズへ飛びま

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神の歌(奥様は女神シリーズ第5話)

               神の歌
                 1
「これ貰ったのよ。」
 会社から帰ると真由が立派なマイクを持って嬉しそ

うにしていた。
 真由は神の世界から本当の愛を知るために派遣さ

れてきた女神である。
 なぜか私の奥さんになっている。
 「どうしたんだ?そんな高そうなマイク。」
 なんでこんなカラオケ屋にもありそうもないものを手

に入れたのだろう。
 「ネットで貰ったのよ。ネットカラオケの大会のような

ものがあって・・・。」
 それで入選したようだ。
 「本当はこんなことをしてはいけないけど、あなたの

稼ぎだとなかなか買えないし・・。」
 悪かったな。稼ぎ悪くて・・。
 「人間ごときが私に挑戦しようなんて、百万光年早か

ったみたいだわね。」
 ごときって言うなよ。
 あと光年は距離の単位です。
 「歌、好きだったんだな。」
 妻の趣味を初めて知った。
 「そうなの。私は元は歌の女神だったのよ。神の世界

でも有名だったんだから・・。」
なぜ今まで歌ってくれなかったのだろうか。
 晩酌していると妻が歌謡曲を歌ってくれた。
 マイクを手に入れてご機嫌だったんだろう。
 確かにうまい。
 人間離れしていた。
 「うれしいよ。こんな特技があったんだね。」
 初めてうちの妻が本当の女神のように思えた。
 「ありがとう。これからはいろいろと歌わせて貰うわね。

私、実は作曲とかもできるの。」
 これだけ上手なんだからきっと作曲とかもすごい曲が

できるに違いない。
 もしかして神の歌を売ったら億万長者になれるのじゃ

ないか。
 ビールを飲みながら私はそんなことを考えていた。
                 2
 「新しい歌ができたの。聞いてね。」
 朝起きると妻がマイクを持って嬉しそうに台所に立って

いた。
 「どんな歌なんだい?聞かせてよ。」
 妻の素晴らしい歌声を聞きながら朝食を食べることが

できるなんて、何て自分は幸せなんだろう。
 「じゃあ、いくわね。よく聞いてね。」
 妻がマイクを持って踊り始めた。


 『きょうも私は鯖を買う。
  あなたの稼ぎが悪いから。
  鯖は切り身で200円。
  鯖の種類はわからない・・。
  マ鯖、ゴマ鯖、しめ鯖・・・。
  しめ鯖は種類じゃなかったわね。』


 なんだよ、その嫌味な歌は?
 ひどい歌詞だな。
二番はサンマで、三番はイワシの缶詰だった。
「気に入らなかった?じゃあ、次の歌を唄うわね。」
他にも作っていたのか・・・。

『今日は庭に猫の糞があった。

  私はそれを踏んだ。
  踏むからふんなのか?
  猫の糞はとても臭い。』


だから何でそんなことを歌にする必要があるんだよ。
 妻は次々と自分で作曲した歌を歌い続ける。


『庭の椿に花が咲いた。
  大輪のきれいな花。
  ある日ポロリと落っこちた。
  愛の終わりは首がもげるのね。』


 もげねーよ。
妻が歌っていて何の気なしにテーブルを見てとんでも

無いことに気付いた。
「おい、大変だよ。枯れかけた花が・・。」
 みるみる生き返ってきたのだ。
女神の歌にはこんな効力があったのか・・。
今までカラオケでいろんな人の歌を歌っていた時はこ

んなことはなかった。
 どうも自分で作った曲でないと効果がないらしい。
真由は調子に乗って歌い続ける。


『ラララ、となりの奥さんは奇麗でいいひと。
  だけど声が低いの。
  ウシガエルと区別がつかないわ、ラララ』

 そんなこと歌にするなよ、聞いてたらどうすんだよ。
 真由は私に構わず、次の曲を歌い始める。 

『墓地でヒガンバナが咲いていた。
  赤くて奇麗な愛の花。
  球根でしか増えないのに・・。
  だれが墓場に植えるのだろう。』


こええよ。
 それ愛の花と絶対違うし・・・。
 なんだろ、歌声は素晴らしくて音程も完璧なのに、聞い

ていると不快感を覚えるな。
 こんな感覚、何かであったような。
すぐに思い出せないのでなんか気持ち悪い。
「あいててて、こんなことやっている場合じゃない。お腹

痛くて・・・。」
 妻の歌を聴いていたらお腹が痛くなってきた。
 私は神経的な下痢によくかかるのだ。
 トイレにいってから下痢止めを飲んだ。
 「わかった、真由の歌はこれと同じなんだ。」
 私は正露丸の瓶を見つめて、やっと合点がいった。
 病気とかは治せるけど、美味しい物ではないようである。
 「ちょっと、何よそれ。失礼ね。いいわ、下痢とめの歌を

作るから・・。」
 いえ、いいです。歌はもうたくさんです。
 松田聖子でも歌ってください。
 残念ながら、売り物にするには無理がありそうである。


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どんだけのもん(奥様は女神シリーズ第4話)

              どんだけのもん
                  1
駅前の公園を通りかかった真由は、ポプラの木の下で佇

んでいる少女が目に入った。
 真由は天界にいるときは女神ローレライと呼ばれていた

が、今はサラリーマンの夫を持つ、一人の主婦として生活

している。
「どうしたの、こんな遅くに一人で・・・。早く帰らないとお母

さんが心配するわよ。」
 こんな寂しいところで一人で居たら、どんな事件に巻き込

まれるかわからない。
 「帰りたくないの・・・。テストの成績が悪かったから。」
 栗色の髪をした少女の名前は、百合というらしい。
 両親の躾が厳しい家のようである。悪い点数の答案を持

って帰ると厳しく叱られるようだ。
 「でも夜は冷えるわ・・・、私が付いて行ってあげるから一

緒に帰ろう。」
 そう言うと少女は、素直に真由の後ろについてきた。
「お姉ちゃん・・・、テストなんかなければいいのにね。そう

すればお母さんに怒られなくて済むし・・・。」
普段は優しい母親のようである。
 「ドラえもんが本当にいて、便利な道具で助けてくれれば

いいのに・・・。」
 真由は少し考え込んだ。
 「ドラえもん?何かの神様の名前かしら・・・。いいわ、お姉

さんが何とかしてあげる。」
 真由はそう言って、次の日にまた公園で少女と再開するよ

う、指切りをした。
                   2
 「あなた、ドラえもんっていったい誰よ。」
 家に帰ると妻の真由がおかしなことを言っていた。
 彼女はあまりテレビとか見ない女性である。
 「どんな神様なの?」
 どうやら真由はドラえもんを神様の一種だと思っているよう

である。
 「神様人名録を見ても載っていないのよね・・・。」
 どっからこんな辞典を持ってきたのだろうか。
 「おまえ、ドラえもんは神様じゃないよ。」
 私はパソコンからドラえもんの画像を引き出し、説明して見

せた。
 「未来の世界から来た、猫型ロボットなんだ・・・。」
 真由は不思議そうな顔をしてそのプリントした絵を眺めた。
 「えっ、これが猫なの?耳も尻尾もないじゃない。」
 正確には短い尻尾があるらしいが・・・。
 「いいわ分かった。女神アフロディーテさまに相談して、同じ

ようなものを送ってもらうわ。」
そう言って彼女はどこかへ携帯で電話していた。
 こんな絵と、いい加減な説明で、どこまで理解したのか疑問

だったが・・・。
                     3
 次の日、百合が公園へ行くと、真由と一人の青年が待ってい

た。
 「こんにちわ、お嬢ちゃん。私は大天使長ミカエルだよ。」
 このごろ駅前で悪魔ベルゼバブがインチキ商品を売っている

というので、ミカエルが対抗して直々にやってきたらしい。
 非常に名誉なことだったが、少女はこの天使のことなどもちろ

ん知らない。
「ほら、君のために猫を作ってきたよ。」
ミカエルはそう言って、一匹の小さなトラ猫を差し出した。
 「『どんだけのもん』というんだ。」
猫は三日月形をした三角の瞳で、百合をギラリと睨んだ。
 「ずいぶんと目つきの悪い猫ね。これが神の使いなの?」
真由は少し心配そうな顔をしてこの猫を見た。
 ミカエルは少しムッとしたような顔をした。
 「当たり前だ。私が直々にこしらえた優秀なしもべだよ。」
 真由の贈った絵をみて作ったようである。ずいぶん違うような

気がするが・・・。
 「この猫はとても賢く、人間の言葉をしゃべるんだ。きっと役に

立つはずだ。」
ミカエルはそう言って猫を手渡すと、電光のように光り輝き、そ

の場から消え去った。
 「よろしくね、『どんだけのもん』。」
 百合が話しかけたが、猫は難しい顔をして返事すらしようとしな

かった。
                     4
「おきろ、百合!」
 百合がスヤスヤと眠っていると、『どんだけのもん』が耳元で大

声を出した。
 「うん?まだ夜中の一時よ。」
 当然のことながらあたりは真っ暗である。
「今から朝まで勉強するのだ。」
 『どんだけのもん』は机に教科書と問題集を並べている。
 「えっ?無理よ。眠いわ。」
そういうと、『どんだけのもん』は大きな口を開けて、「シャー!」

と威嚇した。
「おまえのような頭の悪い奴が一流の大学へ行こうというのだか

ら、これくらいの努力は必要だ。」
毛を逆立てて今にも襲ってきそうである。
 「人が寝てる間に努力しろ。」
百合は怖くて泣き出してしまった。
 「泣くな!時間の無駄だ!」
 泣くと『どんだけのもん』は更に怒りだした。
「おいらは神の使いだ。反抗は許さない。」
そういうと、『どんだけのもん』の体はどんどんと大きくなってい

く。
 どう見てもトラ猫ではなく、虎そのものである。
 「神の言うことを聞けない奴は、おいらが食ってやるからな!」
 大きな口を開けて百合の頭を一飲みにしようとする。
 「わかりました、やります。助けてください。」
 両親を呼ぼうにも、食われてしまいそうで怖くて呼べなかった。
 彼女は泣きながら、わからない問題集と朝まで睨めっこを続け

た。
                     5
「助けて真由さん、殺される。」
次の日、百合は公園で真由を見つけると、あわてて抱きついて

きた。
 百合は昨日の出来事を真由に報告した。
 「何て事を・・・、もういいわ。あなた神の国へ帰りなさい!」
猫は知らん顔をして後ろ足で自分の首を掻いた。
 「嫌だね・・・。」
ふてぶてしい顔をして真由の顔をにらむ。
「この、女神ローレライのいうことが聞けないの?」
猫は真由のことを舐めきっているように見えた。
「おいらは大天使ミカエル様から直接命令を受けている。お前

の言うことなど知ったことか・・・。」
そう言って横を向いてしまった。
 「あんた、本当にどんだけのもんなの?」
どうしてやろうかと彼女は思ったが、ほとんど魔法が使えない

彼女にはなす術もなかった。
 猫はおまけにミカエルの術で守られている。
 誰も手を出すことなどできないのである。
「何をやっているのだ。お前らは・・。」
猫と睨み合っている真由を不思議に思ったのか、黒背広を着

た老紳士が声をかけてきた。
 「あっ、悪魔ベルゼバブ!」
前にひどい目にあわされた悪魔である。
 「ほっといてよ、あんたには関係ないわ。」
真由はそう言ったが、百合は親切そうなこの老人に助けを求

めた。
 「神でも悪魔でもいいから、私を救ってください。」
百合はそう言って、今までの状況をベルゼバブに説明した。
 ベルゼバブは、難しい顔をしてしばらく考え込んでから、返事

をした。
「うむ、残念ながら私でも奴のかけた魔法を解くことはできない。

それは魔法の性質が違うからだ。」
百合はその言葉を聞いてがっくりとうなだれた。
 このままでは『どんだけのもん』に食べられそうである。
 ベルゼバブは百合の頭をなでながら、「心配はいらない。」と言

って話を続ける
 「なあに、大したことではない。律儀なやつのことだ。ドラえもん

をモデルにしているのなら、当然その弱点をもコピーしているこ

とだろう。」
 ベルゼバブはミカエルの性格を知り抜いているようである。
 彼とは旧知の間柄のようだ。
「あっ!」と小さな声を出して、真由は夫の言っていた言葉を思

い出した。
 耳のない猫・・・。
 ネズミに耳をかじられたドラえもんはネズミが怖いのだ。
 「えい!ネズミになれ!」
 そう言って、真由は百合をヌートリアに変身させる。
「ぎゃあ!ネズミだ。」
 ネズミになった百合を見ると、『どんだけのもん』はあわてて逃

げ出した。
 これまでの復讐だと、百合がその後を追いかける。
「ちくしょう!のび太のくせに!」
 いえ、のび太じゃないですが・・・。
 隣のビルの壁に追い詰められた『どんだけのもん』は、そう言っ

て中空へと姿を消した。
 きっと神の国へと帰ったのだろう。
                      6
「ミカエルのインチキな商品より私の道具を貸してやろうか。悪

魔のシャープペンシルだ。」
 ベルゼバブは大きなしゃれこうべの付いたシャープペンシルを

取り出し、百合に見せた。
 どんな問題でもシャーペンが考えて問題を解いてくれるようだ。
 「ただし、一度使うと命が100日縮まるけどな・・・。」
シャーペンのしゃれこうべはそう言ってケタケタと笑った
「目標を達成するためにはそれぐらいの犠牲は仕方なかろう。」
 ベルゼバブはそう言って、笑いながらシャーペンを百合の前に

差し出した。
ヌートリアになった百合はブルブルと首を横に振って、受け取り

を拒絶する。
「ふっふふ、悪魔の道具でも、天使の道具でも、楽して成果を得

ることはできないもののようだな。」
そう言い残すと、ベルゼバブはハエになってどこかへ飛んで行っ

てしまった。
 「まあ、それが分かっただけも、良しとするべきなのかしら・・・。」
真由はそう納得すると、夫の待っている我が家へと、自転車を漕

いでそそくさと帰っていた・・・。
 (注・百合を人間に戻すのを忘れています・・・。)



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神の大型免許(奥様は女神シリーズ第3話)

            神の大型免許
                1
 「あたしの神の免許は実は小型免許なの。小型免許

だと使える魔法は限られるのよ。」
 うちの妻はなぜか女神である。本当の愛を勉強する

ため下界に使わされているそうである。
 神の免許も自動二輪のように小型・中型・大型免許

とかあるのだろうか。
 「小型免許は○×式でペーパーテストだけで貰える

のよ。」
 原付免許か、それは?なんか値打ちなさそうである。
 「それで新聞の広告を見ていたら、面白い記事を見

つけたのよ。」
 妻の真由は女神新聞と書かれた新聞を持ってきた。
 いつの間にこんな新聞を取っていたのだろう?
 「あなたも大型免許が取れます!」と書いてある。
 通信教育のパンフレッドのような感じである。
 「私も自己啓発のため、資格ぐらいは取っておきた

いじゃない・・。」
 それで神の世界の通信教育を受ける気になったよ

うである。
 「おいおい、でもこの資格、ちょっと怪しくないか。」
 よく見ると大型免許じゃなく、大型検定資格合格と

か書いてある。
 「免許と検定は違うのじゃないか?」
 神の世界の資格などまるで解らないが・・・。
 「大型なんだから同じようなものでしょう。」
 妻は物をネズミに変える魔法しか使えない。
 最近ネズミになったものを元に戻す魔法もやっと覚

えたようであるが・・・。
 いずれにしても日常生活に全く役に立たない魔法で

ある。
 「もしかして神の世界でも資格商法とかあるのじゃな

いか・・。」
 多少不安は覚えたが、本人は大いにやる気になって

いるようなので、これ以上口を出すのは控えた。
               2
 最近助けた赤ちゃんの里親になったため(「本当の

愛」の巻参照)、妻は毎日忙しそうであったが、寝る間

を惜しんで神の大型免許の資格を取ろうと頑張ってい

る様子であった。
 彼女の魔法はネズミから少しも進んでいない。
 夫の立場としてはそんなもの使えなくてもいいと思う

のだが・・・。
但し、資格の勉強をするようになってからも、彼女は

一向に進歩しているようには見えなかった。
 「犬になれ!」
 「猫になれ!」
 一生懸命魔法を唱えているようであるが何も変化は

なかった。
 「まあ、いいか。効果がないと思えば諦めるだろう。」
 本人に才能がないのなら無理をしても仕方ないだろ

う。
 体さえ壊さなければいいのだが・・・。
 しばらくの間、夢を見させるのも良いと思って暖かく

見守っていた。
 「あなた合格したわ。大型免許よ!」
 妻は嬉しそうに修了証書を持っていた。
 実力の方は全然変わらないようだったが・・・。
 「やっぱり資格商法だったみたいだな。」
 何の意味もないペーパー資格を取らせる商法だった

ようである。
 本人は喜んでいる様子なので黙っていることにした。
 不思議なことに、あまりお金を取られたような形跡も

ないようである。
 「神の世界でもあくどいことをする奴はいるものなの

だな。」
 悪質ではないにしても、彼女の無邪気に喜ぶ顔を見

ていると許せない思いがわき出てくる。
               3
 その日私達は子供を連れて池のある公園に来ていた。
 最近は育児にも随分なれてきた。

 時々は不幸なこの子の両親にために時々花を捧げ

るのである。
 この子の親は多額の借金を抱えその命を絶った。
 「あなた、あのお婆さん危ないわ。」
 かなり高齢の方がフラフラと公園横の国道を歩いて

いたが、そのまま倒れようとしていた。
 どうも立ちくらみのようなものを起こしたようである。
 このままでは車道の方へ倒れ込む形になる。
 妻はいつものように高速で走って近づくと、お婆さん

を抱き起こそうとしていた。
 「待って、俺も手伝うよ。」
 私は子供を置いて妻の方へ走っていった。
 一人では辛そうだったからである。
 それがとんでも無いことになるとは、その時は気付

かなかった。
 「あなた赤ちゃんが・・、赤ちゃんが・・・。」
 振り向くと、ベビーカーがゆっくりと池に向かって落

ちていくのが見えた。
 「池に、池に落ちるわ。」
 背筋が寒くなったが、もうどうにもならない間に合わ

ない。
 「ブレーキを、ブレーキをかけ忘れたんだ。」
 お婆さんに気を取られて、ベビーカーのブレーキを止

めるのを忘れたのだ。
 ぼちゃんという音と泣き叫ぶ我が子の声が聞こえた。
 「魚になれ、水鳥になれ!」
 彼女は腰を抜かして魔法を唱え続けた、
 もちろん子供には何の変化もない。
 「なぜならないの?通信教育の嘘つき!」
 妻は泣きながら唯一使える魔法を唱えた。
 「ネズミになれ。」
 赤ちゃんの泣き声は止んだが、そのままベビーカー

は沈んでしまった。
 「遅かったか!」

 あわてて池に飛び込んだが、赤ちゃんはもう見えなく

なってしまっている。
 真由は池の端で泣きじゃくった。
 この池は深くて一度沈むと助からないのである。
 「エーい、一か八かだ!」
 私が潜ろうとしたら、なぜか彼女が腕を引いて止めた。
 なぜ止めるのかと後ろを振り向くと、彼女は水面を指

さしている。
 「あれを!」 

 一匹のヌートリアがこっちに向かって泳いできている。
 「ヌートリアだ!」
 もしかして・・・。
 ご存じの方も居るかと思うが、齧歯目(ネズミ目)最大

級のこのネズミは、生まれてすぐから泳ぐことができる。
「無事だったのね、私の赤ちゃん。」
 妻がヌートリアを抱きかかえ、解除の呪文を唱えると

元の私達の赤ちゃんに戻った。
 「もしかして大型検定って・・・。」
 通信教育の成果は出ていたのだ。
 この検定は魔法の範囲を広げる検定ではなく、自分

の持っている魔法の成果品を、単純に大型化する検定

だったのである。
 それにしても誰がこの検定を妻に受けさせるようにし

向けたのだろう。
 私は家に帰ってから妻が使っていた教科書を見てみ

た。
 「おい、このベルゼバブ商会って、もしかしてあのベブ

ゼバブじゃ?」
 テキストに書かれた発行元には確かにその名前があ

った。
 「まさか、単なる偶然でしょ。悪魔が神を助けるはずが

ないじゃない。」
 彼女は無邪気に笑ってそう答えた。



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過去作品へ簡単に行けるブログ「豆池田」

です。(目次のブログです)

よろしければご覧になってくださいね。

http://ameblo.jp/m8511030/

(実は一つの話を完結して他の話へ行くという手法

をとっておらず、いくつかのシリーズを並行して書い

ていますので、目次をご覧になった方がわかりやす

いかと思います。きまぐれで他のシリーズへ飛びま

す。)


増刊号の「山池田」です。

現在、なぞの物質・「福田樹脂」載せています
よろしくお願いしますね(。・ω・)ノ゙

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(山池田は登山日記と、自分では今一つと思っている

話を載せています。掲載は不定期です。)

本当の愛(奥様は女神第2話)

         「本当の愛」
             1
「あなた、私ついに魔法が使えるようになっ

たのよ。」
ある日会社から帰ると、妻が上気した顔を

してそう言った。
 「見ていて・・。」
 彼女はそう言うと、醤油の瓶になにがしか

の呪文を唱えた。
 「ネズミになれ。」
彼女の両手にかすかな光が見えたかと思

うと、醤油瓶は白いネズミに変身した。
「マジかよ。」
 手品かと思ったがたしかに本物のネズミで

ある。
 辺りを見回すと部屋の隅々に白いネズミが

ゴソゴソと動いている。
「どうすんだよ、家の中こんなにネズミだら

けにして・・・。」
早く元に戻すように言った。
 逃げ出したら大変なことになる。
 妻はエヘヘと頭を掻いた。
「元に戻す魔法を知らないのよね。」
確かにすごいことはすごいが、これが何の

役にたつ魔法なのだろうか・・・?
 「この力を使って悪魔を退治するの。」
そう言いながら、彼女は私の手を引っ張っ

て外へ出た。
 町で悪魔を見つけたというのだ。
 すごく興奮している。
 妻は本当に女神だったようだ。
 「見て、駅前で何か売っている変な男、あれ

が悪魔よ。」
黒背広姿の初老の男がパイプ椅子に座っ

て何か売っているようだった。
 どう見ても異様で、立ち止まる人も居ない

が・・・。
 妻は花壇の中から煉瓦のような角張った石

を取りだしてきた。
 「見てて、私があいつをこらしめてやる。」
 ここからは百メートル以上はあるように見えた。
 「おい、そんな大きな石、あんなところまで届く

わけがないだろう。」
プロ野球選手でも無理だろう。
 妻は平然とした顔で、ブーンと腕を鳴らして野

球のボールのように石を投げた。
 「本当に人間か?おまえ。」
私は自分の女房が恐ろしくなった。
 これだけの距離があるのに、石は正確に男の

頭を射抜くように飛んでいく。
 「当たる!」
 目を伏せるような惨劇が起こるかと思ったが、

なぜか男は当たる瞬間にすっと居なくなってしま

った。
「あれっ?確かに当たったはずなのに・・。」
妻が不思議そうな声をあげた。
 どう見ても男が消えたように見えた。
 二人で不思議そうに男の居場所を目で追って

いると、急に後ろから声を掛けられた。
「私の名はベルゼバブ。魔界ではサタンに次ぐ

実力者と言われている者だ。」
振り向くと、黒背広を着た初老の男が、妻が投

げた石を持って立っていた。
 ひどく怒っているように見えた。
 「いくら悪魔でも、いきなり石をぶつけておいて、

それで済む道理があるか。」
 ごもっともなご意見です。
ベルゼバブは軽蔑したように妻を見た。
「おまえ、アホ女神のローレライだな。アフロデ

ィーテから話は聞いている。」
 悪魔の世界にも名前が通る程の落ちこぼれだ

ったのか。
 「今は真由という名前なの。」
「ふん、おおかた厄介払いされて人間に落とさ

れたのだろう。」
そう言われて妻はむっとした顔をした。
 「そんなことないわ、アフロディーテ様は私に本

当の愛を学習するようにと、人の世界に下された

のよ。」
私達は週二回は愛し合っている。
 「ふん、そうやって騙されたのだ!」
妻は憤慨すると、手を十字に切って構えた。
「もう、怒ったわ!許さないから・・・。ネズミにな

れ。」
妻が魔法を掛けたが、ベルゼバブは平然と立

っている。
 「おまえがなれ。」
ベルゼバブが手をかざすと、妻は大きなネズ

ミになってしまった。
「何これ、ひどい。」
 彼女は自分の手足を見て驚愕した。
 ベルゼバブはふふっと不敵に笑う。
 「人をネズミになどしようとするから、そんな目

に遭うのだ。」
 たしかにごもっともな意見である。
「すみません、許してください。こんな子でも私

の妻です。命ばかりはお助けください。」
私は地面に這い蹲って許しを請うた。
 そうしなければ妻がどんな目に遭わされるか

解らない。
「いいだろう、おまえの顔に免じて許してやろう。

その姿のままでしばらく頭を冷やすがよい。」
私はおそるおそるベルゼバブに尋ねた。
 「あの~、元に戻るのはどうやったら・・・。」
 ベルゼバブはその質問には答えず、忽然と姿

を消してしまった。
 自分で考えろということだろう。
              2
 「今日の夕飯はキャベツなの。」
会社が終わって帰ると、真由がネズミの姿のま

ま、エプロンをして立っていた。
 なんかムーミンママみたいである。
 食卓には生のキャベツが丸ごと並べてある。
「ネズミになってから食費がかからなくて助かる

わ。」
 妻はキャベツを掴むとシャリシャリと美味しそう

に食べた。
 「おまえは良くても俺は困るんだよ。生のキャベ

ツ1個なんて食えるか。」
 ずっとこの調子で、なぜか生野菜ばかり食べて

いる。
 それになぜか、妻は暇があればお風呂の水に

浸かっている。
 ドブネズミだったのだろうか?
 そうやって数日が過ぎたが、ある日警官が尋ね

てきた。
「桃葉さんですね。」
警官は疑わしそうな目線で自分を見つめる。
「ご近所から奥さんが行方不明になっているとか、

大きなネズミを飼っているとか連絡があったのです

。」
 それで心配して見に来たようである。
 「妻は実家に帰っていまして・・・。」
 「そうですか。あと、ペットによっては県知事の許

可がいる動物が居るので・・。近頃は変なものを飼

う人がいるので困りますね。」
 そうして胡散臭そうに自分の家の中を見渡した。
 「どうしよう、誰か通報したみたいだ。」
しゃべるネズミが居ることを知ったら大騒ぎにな

るのに違いない。
 「とりあえずどこかへ逃げましょう。いろいろ調

べられたら厄介だわ。」
 一旦身を隠すことにした。
「ついでに家のネズミもどこかへ捨ててきましょう

。」
 妻が練習台に使ったネズミが、まだたくさん部屋

にいた。
 二人で考えた結果、ネズミは近くの公園に捨て

ることにした。
 本当はこんなことはしてはいけないのだが・・・。
 運が良ければネズミ達は生き残るだろう。 
 ネズミを捨てにこっそりと、人気のない早朝の公

園に来た時、池の対岸に赤い軽自動車が見えた。
 ゆっくりと池に向かって真っ直ぐ進んでいる。
 「おい、あの車。池に落ちるのでは・・・?」
行っている間に凄まじい水音をさせて、軽自動車

は池に突っ込んだ。入水自殺を図ったようだ。
 「あぶない!」
 妻は四本足で、ものすごい速さで突っ走ると、そ

のまま水の中に入った。
 「真由、そんな体で何する気だ。戻ってこい。」
 妻はついーっと、水の中を器用に泳ぐとすぐに潜

水した。
 「おい、戻ってこい!」
 そのまま数分が経過した。
 「おい、真由。」
 いつまで経っても浮かんでこない。
 いくら何でも長すぎる。
 「馬鹿!助けようとしておまえが死んだら・・・。」
 俺はどうしたらいいのだ。
 池の端で膝をついて呆然と水面を見ていると、急

に池がざわめきたち彼女が姿を現した。
 元の人間の姿に戻っており、胸に赤ん坊を抱いて

いる。
 「私、ネズミじゃなくてヌートリアだったみたいね。」 
 水辺に棲むヌートリアは泳ぎが得意な動物である。
 それでなかなか浮かんでこなかったのだ。ヌートリ

アは5分近くも潜水できるらしい。
 「おまえ、人間に戻ったんだな。」
 車のドアに手を掛けたら人間に戻ったらしい。
 ヌートリアのままだったらドアは開けられなかった。
「良いことをすれば魔法が解けるのだわ。」
 真由は赤ちゃんの親を助けようともう一度池に潜っ

た。
 「大丈夫か?真由。」
 しばらくすると彼女一人が水面に上がってきた。
 「駄目だわ、人間に戻ったら息が続かない。親は助

けられない。」
 池は結構深いようである。
「もう無理するな。この人達はこういう運命だったん

だ。諦めよう。」
魔法が解けた真由は裸になっていたので上着を着

せてやる。
 「この子だけでも、私達の手で助けてあげましょう。」
 「どうやって助けるんだ?」
 彼女は泣いている赤ちゃんを抱き上げて頬ずりをし

た。
 「私達の手で育ててあげるの。」
彼女の話では女神と人間の間には子供はできない

そうである。
 それで私達にはずっと子供がなかったのだ。
 「もしかして、ベルゼバブはこうなることを知っていて、

おまえをヌートリアにしたのでは・・。」
妻は怪訝な顔をした。
 「まさか?相手は悪魔よ。人助けするはずないでしょ

う。」
 そうなのだろうか?
 遠くでパトカーのサイレンがする。
 携帯で110番したので駆けつけてきたのだろう。
 赤ちゃんを愛しそうに見つめる妻の顔は、どんな絵画

に描かれた女神よりも美しく見えた。
 妻と私は、これから本当の愛を勉強することになるよう

な気がする。



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神の力(奥様は女神?シリーズ)

                  神の力
                   1
「あたし、実は女神様の免許をもっているのよ。」
部屋でプラモデルを作っていたら妻が急に変なことを言い始

めた。
「あんた、結婚する前はハンバーガー売ってたじゃないの。」
 なぜ女神様と繋がるのかさっぱり判らない。
 「確かに結婚前はハンバーガー屋でバイトしてたけど、それ

は世を忍ぶ仮の姿なの・・。」
 そうなのですか?
 何か悪いものでも食ったのではないだろうか。
「女神学校で私の成績はあまり良くなかったのよ。それで先

生に呼び出されて・・。」
注意を受けたそうである。
 ゼミの先生みたいだな。
「このままじゃとても単位をあげられないから・・。」
随分、説得されたそうだ。
「女神アフロディテ様が哀れな男に愛を与えるようにと・・。」
 天界から下されたらしい。
それが私だったのか?ひどく失礼な話しだな。
どう考えても信用できない。いや信用せよと言う方に無理が

あるだろう。
「いいわ、証拠を見せてあげる。」
妻はマッチ箱を取り出してテーブルの上に並べた。
「このマッチを手を使わずに動かしてみせます。」
 そう言って妻はおかしな呪文を唱え始めた。
 何かの精神疾患でも発病したのだろうか。
 もちろんマッチは一センチも動くはずはなかった。
 あまりに馬鹿馬鹿しいので、放っておいて制作中のプラモ

デルを作り始める。
 それから約2時間後・・・。
「ほら、あなた!マッチの棒が動いたでしょう。」
 急に妻が大声を上げたので、びっくりしてテーブルの方へ

行ってみる。
 数センチ動いたと言うが、元の位置を覚えていないので判

らなかった。
 「お前の息で動いたのじゃないのか。」
私が信用しないので妻は少しむくれていた。
 「もし女神様だとして、なぜこの家に来たんだ?」
なにも人間と結婚する必然性はあるまい。
 「それは・・・、魔法の修行にもなるからって・・。」
 それって単に学校を追い出されただけじゃないのか?
それでずっと普通の人間生活を送ってきたのか。
「でも、このままじゃいけないと思って・・、だって私のやって

いることって、あなたの食事と洗濯、後はたまに夜のお相手

をするだけでしょう?」
 急に自己啓発の精神が芽生えたのだな。
 「女神は女神として生きるべきなのよ。普通の人間のよう

に過ごしてはいけない。これからは私は人間界に降臨した

女神として活動していくから覚えておいて・・。」
 具体的に何をするのか判らないが、あまり逆らうと食事を

作ってくれそうにないから、「ハイハイ。」と答えておいてプラ

モデル作りを再開した。
                  2
それからしばらくは何もなく過ごした。
 妻は暇があるとマッチの棒を並べて遊んでいる。
 ちょっとおかしなところはあるが、日常生活にそう支障はな

いようである。
 このまま女神ごっこは終わるのかと思ったのだが・・・。
ある日家に帰ると妻は台所でゴキブリとにらめっこしてい

た。
 真剣な眼差しでゴキブリを睨み付け、何かの呪文を唱え

ている。
 「おまえ、何して居るんだ。」
話しかけてもこちらを見ようともしない。
 「ちょと待ってて、今このゴキブリをネズミに変えるところ

なんだから。」
 そんなことしたら余計厄介になるだろうが・・・。
 私はハエ叩きでゴキブリを潰した。
 「何てことするの。昼からずっとやっていたのに。」
 もう5時じゃないか。ずっと遊んでいたのか。
それから何日もずっと妻は何かを変身させる魔法を練習

しているようだったが、もちろん成功するはずもない。
 あまり度が過ぎてきたら病院へ連れて行こうと思っていた

のだが、人様に迷惑をかける風でもないのでそのまま放置

していた。
 そして遂に事件は起こった。
 その日私達は近くのスーパーまで買い物に行っていた。
 実は私は買い物は好きではないのだが、荷物持ちとして

家にいると必ず動員されることになる。
 嫌々2時間も付き合わされた帰り道、公園の近くの道路

で三歳くらいの子がヨチヨチと横断しようとしているのを見

た。
 「危ないな、親は居ないのかな?」
そう思っていると向こうからトラックが来ているのが見えた。
 結構なスピードが出ている。
 幼児に気付かないのかと運転席を見たら、ドライバーは

携帯電話をかけているようで、前を向いていない様子であ

る。
 完全な脇見運転である。止まる気配などない。
 「危ない!このままでは轢かれる。」
 そうは思ったが咄嗟のことで足がすくんで動けるものでは

なかった。
「えいっ、神の疾走!」
 急に妻がおかしな呪文を唱えた。
すごいスピードで道路を横断し、小さな子供を拾い上げる。
 「どう?私の魔法もなかなかのものでしょう。」
間一髪で幼児を拾い上げ、道路向こうの歩道へと滑り込

んだ。
 「なんて無茶なことをするんだ!」
 私は駆け寄って彼女を抱き上げた。
 「約束してくれ、もう二度とこんな真似をしないと。」
妻はキョトンとした顔をしていた。
 「大丈夫、私は女神だから・・。たとえ死んでもちゃんと転

生するのよ。」
まだそんなことを言っているのか。
 「どっちにしても私とはお別れじゃないか。私を一人にしな

いでくれ・・・。」
彼女の肩を抱いて強く揺さぶった。
 私の剣幕に驚いたのか彼女は小さな声でつぶやいた。
 「解ったわ、もう二度と女神の力は使わない。うふっ、あな

たやっぱり私のことを愛していたのね。」
なんか嬉しそうである。
 「当たり前だろう、何を馬鹿なことを言っている。」
 幼児のお母さんが泣き声を聞いて公園から駆けてくるの

が見えた。
 ベンチで眠ってしまったのだろう。
                   3
 公園の事件から数ヶ月がたった。
 近頃は妻も魔法を使わなくなったようだ。
 最近私はお腹が出てきたため、ジョギングを始めることと

した。
 妻は痩身体で必要はないのだが、私のダイエットに付き

合って一緒に走ってくれることになった。
 二人でやった方が長続きしそうだからである。
 一緒に走り始めて驚いた。
 「すごく早い、追いつけない。」
 思った以上に彼女はスイスイと軽快に走っていく。
 「これはもしかして・・。」
 私は妻を呼び止めた。
 「いいか、あの向こうの電柱まで競争だ。全力疾走だぞ。」
妻の走りは人間離れした速さだった。
 私を置いてすごい勢いで駆け抜けていく・・・。
 「おまえ、100メートルを何秒で走れる?」
 「8.2秒くらいかな(*注1)。学生の時はわざと手を抜い

ていたいのよ。あまり目立ってはいけないと愛の女神に言

われていたから・・。」
 オリンピック選手か?おまえは・・。
 魔法の正体がやっとわかった。単なる運動神経だったの

だ。
妻が本当に女神なのか未だに判らない。
 しかしなぜか、不思議に年を取らない人ではある・・・。

(*注1・男子の世界記録を1秒以上、上回ります。)


良いこのみなさまへ.
奥さんは本当に女神なのでしょうか?

次回に続きますね(。・ω・)ノ゙。


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